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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第一章

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18/212

お金を稼ぐのって大変です

 今日も今日とて晩御飯に呼ばれた宴会場でこれからどうしようかと考えていたら「何難しい顔してんだ、子供は黙って飯を食え」とアランに背中を叩かれた。陽気なアランは今日も酔っ払いだ。ってか、ここの人達本気で毎日宴会してる……


「そうは言っても今後の稼ぎの事を考えるとそんなに笑ってられないです。現状宿泊費も食費もおんぶに抱っこで、それは追々返していくとしても、装備を整えるために貯金もしなきゃだし、この稼ぎじゃ毎日食べてくだけで精一杯……」

「いや、冒険者なんてそんなもんだろ? 今日飯にありつけた、お前の年齢ならそれだけで充分!」


 ええええ……


「まぁ、わりと冒険者ってそうですよね。きっちり生活を考え始めるのは家族を持つ年齢になってからの方が多いんじゃないですかね?」


 今日のルーファウスは僕の横で僕と一緒に果実を絞ったジュースを飲んでいる。当分酒はやめると心に決めたらしい。


「それに真面目に依頼をこなしていればDランクに上がった頃には家を建てられる程度には稼ぐことができるようになってる。俺にはタケルの年齢で焦る理由がさっぱり分からん」

「Dランクで家、ですか……」


 通常何年くらいかけたらDランクになれるのだろう? それまではこんなその日暮らしでいいのか? 「宵越しの金は持たねぇぜ!」って、江戸っ子気質の人はいいかもしれないけど、僕は性格的に無理! ある程度不測の事態に対応できる貯金がないと安心して生活できないよ!


「ポポン草の炒め物、お待たせ!」


 今日はラナさんが僕の近くまで寄って来てくれる。昨日彼女たちが僕の近くに来なかったのは酒を飲んでいたルーファウスを警戒しての事だったんだな。ってか、分かってたなら言ってよ……

 僕が採取してきたポポン草の花はほかほかの湯気を立てて炒め物になった。食べてみたら普通に美味しい、これからもポポン草は積極的に採取しよう。


「そういえば、ここのキッチンって誰でも使っていいんですよね?」

「ああ、食材も所有者名が書いてなかったら自由に使っていい、魔物討伐のついでに食べられそうな物を持って帰って来る奴がいるから、食材はいつでもわりと豊富にあるぞ」


 あ、そういう感じなんだ? いつも食材は何処から出てくるんだろう? って思ってたんだよね。朝食はパンと果物メインで料理らしい料理は出ないけどここに来れば食べられる。晩御飯の宴会料理は皆好き好きにしていて代金の請求をされた事もない。アランとルーファウスに奢られているのかと思っていたけど、そればかりでもなかったらしい。


「あ、じゃあ僕が作っても問題ないですね、ちょっと見てきてもいいですか?」

「いいけど、タケルは料理ができるの?」

「多少ですけど、作るのは好きですよ」


 自炊を始めた当初はただひたすらに面倒くさかったのだが、一度始めてしまったら色々と新しい料理にチャレンジしたりアレンジを考えるのが楽しくなってしまい、休みの日はよく作り置きなどを作って一日過ごしていた。

 趣味らしい趣味はなく友人も少ないから休みの日をどう過ごすかと考えた時に残ったのは家事と読書、あとはスマホゲームくらいのものだった。

 家事はとても面倒くさいが、それを趣味にしてしまえば意外とそれは向いていたようで家の中が僕好みに変わっていくのが嬉しくて料理だけでなく片付けや掃除もよくしていた。洗濯だけは唯一あまり好きではなかったけれど、向こうでは洗濯機がボタン一つで乾燥までしてくれたからな。

 ああ、でもこっちではそれが魔法の「洗浄クリーン」で一発なんだから、向こう以上に楽だな。洗浄魔法さっさと覚えないと。

 キッチンを覗き込むと、忙しそうにラナさんが料理を作っていた。先程のポポン草の炒め物もそうだったが、ラナさんは昨日も一昨日も料理をしていた気がする。


「ラナさん、僕も手伝いましょうか?」

「え? ホント? ありがと~」


 今日も今日とてホールは宴会場になっている、冒険者たちが各自料理の持ち寄りもしているけれど、酒の肴としては足りていないのを恐らくラナさんがフォローしているのだ。


「ラナさん、いつも一人で料理してるんですか?」

「少しだけね。メインの肉は各自テーブルで焼いて食べてるし、ちょっとしたおつまみだけ。元々実家が居酒屋だったから、こういうの見るとつい働いちゃうのよねぇ」


 なんて、ラナさんは笑っていた。


「でも一人じゃ大変じゃないですか? 皆さん毎日宴会してるし」

「ふふふ、本当よね。タケル君が来てからは毎日宴会だものね、だけど無理強いされてる訳じゃないから大丈夫よ。それに皆がお駄賃くれるから良い小遣い稼ぎにもなってるのよ」


 そっか、ならいいか……って、今、ラナさん何て言った? 小遣い稼ぎ? お駄賃? お金!


「ここで料理を振舞ったらお駄賃貰えるんですか!?」

「貰えるわよ~お酒の入った冒険者たちは気前がいいもの」


 食材はこのキッチンに置いてあるものは自由に使っていいと言っていた、だとすると提供するのは料理の腕と時間だけ、リスクはほぼない!


「僕も料理作ります!」


 はい! と挙手をして宣言すると、ラナさんは「そこに在る物は適当に使っていいよ」と、キッチンの端に置いてある籠を指差した。

 籠の中には見た事のあるような野菜と、見た事のない野菜、それに多少の魚や肉も乱雑に放り込まれていた。生ものをこんな無造作に常温保管していて大丈夫なのかと少し不安になったのだが、何のことはない、籠に魔術がかけられていてきっちり鮮度は保たれているらしい。やっぱり魔法って便利だな。

 僕はひとつひとつの食材の傷み具合を確認しつつ、それがどんな食材であるのかをラナさんに教わっていく。見た事のあるような野菜は僕の知っている名前とは違っているものの概ね自分の知っているものと変わりなく、見た事のない野菜もその味や調理方法を聞けば、大体どんなものかは想像できた。

 これならイケる、と僕は確信する。

 けれどひとつ困った事にキッチンにあった調味料がとても少ない。塩と酢と胡椒はあるけど砂糖がない。ラナさんに聞いたら甘味は蜂に似た魔物が採取する蜜で出すのだそうだ。

 醤油や味噌のようなものはないのかと尋ねたら、存在はしているらしいのだがここにはないと言われてしまった。どうやらそれらはこの辺りの土地ではあまり浸透していない調味料のようで、使い方が分からないからとラナさんは言った。料理の幅が広がるのにもったいない。

 だけど、知らない調味料なんて手を出すのには勇気がいるよな。その気持ちは分かるよ。買ってみて使えなかったらがっかりするもんな。

 僕はとりあえず魚と肉を薄切りにしてお酢とオリーブオイルのような料理用の油でソースを作りカルパッチョを作ってみた。彩りに野菜を添えればそれなりに美味しそうに見える。

 ラナさんに生の魚や肉は腹を壊すと注意されたから、さっと湯通しだけはしておいた。だけど、魔法で鮮度が保たれてるから生でも全然イケそうな気がするんだけどな。

 他にも簡単に塩コショウで味付けした野菜炒めなど数品作って、僕はアランとルーファウスの元へと戻る。とりあえずは僕の味付けがこの世界に通用するのか試してみないとだからね。

 僕が二人の前に皿を並べると、他の冒険者達もこちらのテーブルを覗き込んでくる。野菜炒めはともかく、カルパッチョは珍しいみたいだ。


「僕が作った料理、食べてみてくれますか?」

「それはもちろん、どれも美味しそうだ」


 ルーファウスとアランはそう言って、僕の料理を口へと運ぶ。一口目、固唾を飲んでその光景を眺めていたら「そんなに見られていたら食べにくいよ」と笑われてしまった。


「お、これ滅茶苦茶うまいな、初めて食ったけど、酒に合う」


 カルパッチョを一口食べてのアランの言葉に僕はホッと胸を撫でおろす。


「こちらの野菜炒めも美味しいですね、タケルは料理が上手なんだね」

「本当に美味しいですか? お世辞とかは抜きで!」

「美味しいよ、なんで?」

「ここで料理を振舞うとお駄賃をいただけると聞きまして! どうせ作るのなら皆さんが美味しいと思うものをお出しできればと思ったんですけど」


 僕のそんな言葉にルーファウスは「まさかここで商売でも始める気?」と苦笑した。


「商売って程ではないですけど、料理をするのはそれほど苦ではないので少しでも貯金ができればと思いまして、駄目ですかね?」

「いいんじゃないか。これ本当に美味いしな。ほれ、タケルお駄賃だ」


 そう言ってアランは数枚の小銅貨を僕の掌に乗せてくれた。

 おおお、やったぁ!


「タケル、何もそんなに焦ってお金を稼ぐ必要はないでしょう? 衣食住で困るようでしたら私やアランが援助する事もできますし……」

「でも、それって借金ですよね? 僕、そういうのあまり好きじゃないんです。お二人に頼りすぎるのもご迷惑になりますので、一日でも早く自立できるように頑張りたいんです!」


 僕のそんな言葉にルーファウスは少し複雑そうな表情を見せる傍ら、周りの冒険者さん達は「お、坊主はしっかりしてんな、そういう事なら俺も駄賃をやるから何か作ってくれよと」とそう言ってくれた。

 やった! さっそくお客さんゲットだぜ!

 そんなこんなで料理を作って振舞って、元手は0円なのに幾らかのお駄賃を手に入れた僕はホクホク顔だ。依頼をこなす事で一日の最低ラインの生活はできるが、やはり貯金は大事だと僕は思うんだよね。

 キッチンに置かれていた籠の中の食材はほぼ端材と言って差し障りのないものばかりだったのだけど、一時節約料理にはまった時に大根の葉や果物の皮を使ったレシピを覚えていた事もあって僕はその端材で幾つのかの料理を作り冒険者の皆さんに食べてもらう事に成功した。

 貰えるお駄賃はチップみたいなもので、小銅貨を数枚握らせてもらっただけだけど、それでもこれだって労働の対価だ、嬉しい。

 この世界に紙幣はなく、お金と言えば硬貨、そのせいか大量に持ち歩くには重い少額の硬貨を彼等は気前よくチップとして渡してくれるのだ。これは本当にいい小遣い稼ぎになりそうだ。





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