召喚勇者は14歳
リブル湖の湖畔、リブルの街はもうすぐそこなのだが、今日はもう先を急ぐのは諦めて僕達は湖畔で一夜を過ごす事に決めた。それというのも、今現在ロイドの腰に収まったまま微動だにしない呪いの剣が安全な代物であるのかの確認ができなかったからだ。
うっかり街に入って何かしらの呪いが発動したら、その責任は僕達が負わなければいけなくなる。さすがにそれはどうかという話になり、とりあえずこの剣の元の持ち主である少年の事情聴取を優先する事になったのだ。
「まずは君の名前を聞かせてもらえるかな?」
僕が少年に名前を問うと、彼は少し思案するようにもじもじした後「えっと……名前は……ロウ、です」と、消え入りそうな声で言った。
「ん? よく聞こえなかったな、もう一度」
アランが少年の顔を覗き込むと彼はビクッと身を竦ませ「こっ、こたろうって言います!」と勢いよく言い切った。
「え? こたろう?」
「小さいに太郎って書いて小太郎です、って、そんな事言われても分からないですよね、すみません! ごめんなさい!」
「え、嘘、もしかして君、日本人?」
「え?」
僕と小太郎と名乗った少年は顔を見合わせる。そして彼は目を見開くと僕の肩をがしっと掴んで「に、日本人です! ボク、日本人です! と、突然こんな変な世界に飛ばされちゃって、困ってて、ここ何処ですか!? どこかに僕と同じ日本の人が居るんですか!?」と、矢継ぎ早に問いかけてくる。
そんな矢継ぎ早な小太郎の質問に僕はどう返事をしたものかと困惑しながらも頭は妙に冷静だ。確かに彼の見た目は僕が懐かしいなと思った程度に日本人顔だったけれど、まさかの本当に日本人だったなんてな。
でも、よくよく見てみれば彼の着ている服、学ランだ。明らかに学生服。
「小太郎君、ちょっと落ち着いて。はい、深呼吸」
僕が興奮する彼を宥めるようにそう言うと、彼は僕の指示通りに深く深呼吸をした。素直だな。
「あのね、最初に言っておくと、僕は君と同じ日本人だよ。名前は鈴木武流」
「え……え?」
なんか小太郎君に二度見された。まぁね、確かに今の僕のビジュアルは完全に日本人離れしている上に、超絶美少年だからね。
「僕は神様に福引の当選みたいな感じでこっちの世界に飛ばされて来たんだけど、小太郎君は違うのかな?」
「え……あ、ボ、ボクはたぶん巻き込まれただけだと思うんです!」
そう言って小太郎の語った話はこうだ。
ある日学校の教室で補習を受けていたら、突然床が光り出して、気が付いたら一緒に補習を受けていたクラスの女子と共にこちらの世界へと飛ばされていたのだそうだ。目の前には変な格好をしたおじさん達がこちらを見ていて、そのおじさんの一人にその呪われた剣を押し付けられたのだとか。
「ボ、ボク、もう何が何だか分からなくて! その剣、僕が持ったら何故かナイフに形が変わるし、驚いて放り投げても戻ってくるし、しまいには『力が欲しいか?』なんて、どっかのラノベみたいな台詞で話しかけてくるしで、もうパニくっちゃって、とりあえず逃げたいって願ったら、何故か外に居て。そこからもずっと散々で……」
最後には涙声になってしまった小太郎は声を詰まらせる。言葉が嗚咽に変わってしまう彼の背を撫でながらゆっくり言葉を促すと、ぽつりぽつりと彼は続きを語ってくれた。
「そ、そのナイフ、勝手に戦ってくれるんで、そこはとてもありがたかったです。けど、なんか、そいつを狙ってボクも襲われるんですよ。本当は手放したいんですけど、手放すのも怖くて、ずっと放浪してて、でも最近襲われる事増えてきたから、やっぱり捨てようって思ってここへ来たらこんな事に……」
なるほど、大方の話は理解した。いや、でもそうか……
「もしかして、君と一緒に連れて来られたって女の子の名前ハヤシダ・マツリさん?」
「え? なんでそれを!?」
「おい、タケル、それって……」
「そうだね、彼が勇者召喚で呼び出されて出奔したって言われていた勇者様なんじゃないかな」
目の前で小さく小動物のように震えている彼が勇者であるとは、少しばかり信じ難いけれど、状況的にはたぶん間違いない。一緒にやって来たのが、件の聖女様であるハヤシダさんだと言うのだから、これはもう覆しようのない事実なのだろう。
「勇者召喚って何なんですか!? なんか、あの時も怖い顔のおじさん連中がそんな事を言ってた気がしますけど、ボクが勇者なんてあり得ないですから!」
ああ、彼の気持ちが痛い程よく分かる。突然変な場所に連れて来られたあげく「君は勇者だ!」とか言われてもそんなの怖いに決まってる。そこで、ノリよく「そうか勇者か! じゃあ頑張って悪を倒そう」なんて簡単に気持ちを持っていける人間の方が絶対少数派だと僕も思うよ!
「小太郎君、大変だったね。だけど、よくそんな状態で三年も耐えられたね」
「え?」
またしても、驚いた様子の小太郎が「三年って……?」と首を傾げた。
「え? だから、こっちに呼び出されてから三年間、大変だったねって話だけど」
「ボク、こっちの世界に来てからまだ二週間くらいのはずですよ?」
「え?」
僕達はまたしても顔を見合わせる。どういう事だ? 聖女様は確かに彼等がこっちの世界にやって来たのは僕がこちらへやって来たのと同じ頃だと言っていた。
それにルーファウスがドラゴン退治に駆り出され、第一王子がとんでも聖女様を同伴させていたのだって三年前。だとしたら彼がこちらの世界へとやって来たのも間違いなく三年前であると思う。だが彼はこちらへ来てまだ二週間だというのだ、これは気のせいで済ませられるレベルの齟齬ではない。
「あの、ボク、これからどうなっちゃうんでしょうか? ラノベやゲームなんかで定番の魔王を倒さないと元の世界に帰れないんですか? ボク、ゲームをするのは好きですけど、自分で魔王を倒すとか絶対無理です!」
「あ~……」
これは何と言って慰めたら良いのだろう。僕だって元の世界への戻り方なんて知らないよ。そもそも僕の元の身体は心筋梗塞でお亡くなりになってるそうだから今更戻る事も出来ないしな。
「なぁ、タケル、こいつタケルの同郷なのか?」
「うん、そうみたい」
「随分なよなよしてんな、ホントに男?」
「ロイド君、そういう事言わない!」
まぁ、確かに彼の言動は幼げだし弱々しい。いわゆる草食系男子とでも言うのだろうか。でもハヤシダさんと同い年だとすれば彼は14歳の少年だ、こんな未成年の少年が見知らぬ異世界で誰にも頼らず一人で生き延びてきたのだから、それだけでも彼の頑張りを褒めてあげるべきだと僕は思う。
なにせ僕なんて転生初日に保護者ができて、その後は色々あったものの楽々お気楽異世界生活でやってきたのだ、それを思えば彼の生活は初っ端からハードモード、僕だってそんな生活だったら耐えられたかどうか分からない。
「君は僕より年下に見えるけど、こんな異世界に来ちゃって怖くないの? 帰りたいと思わないの? 家族だって絶対心配してるはず!」
「あ~……僕にはもう待ってる身内が誰も居ないからなぁ」
こんな異世界にやって来て、僕は心細いと思った事はあっても帰りたいと思った事は一度もない。言われてみれば普通は元の世界に帰りたいと思うものなんだな、こっちの世界に順応しすぎてそんな事一度も考えなかったや。
「あ、ごめん、もしかして孤児とかそんな……?」
「ううん、中身が中年のおじさんなだけ。結婚もできなかったから家族が誰もいなくてね、はは」
言っててちょっと自分で凹んだ。まぁ、その辺は今生で頑張るけど!
「中身が、おじさん……?」
「そうそう。神様が若返らせてくれた上に、美形にしてもらえたし、ゆっくり新しい人生楽しんでね、って……」
「ズルい! 何それ、チーターじゃん! ボクなんてこっちの世界に来てからずっと散々なのに!!!」
小太郎が涙目のまま不貞腐れる。
「確かに僕がチートじゃないと言ったら嘘になるな。神様に色々オプションも付けてもらってるし。でも、君だってそういうのあるんじゃないの? ハヤシダさんは聖女としての資質があったそうだし、君だって勇者として召喚されてるんだから何かしらの加護は貰っていると思うんだけど」
僕の言葉に小太郎はきょとんと首を傾げ「……加護って何ですか?」と問うてくる。
「え? ステータスの称号のとこに書かれてるよね? もしかして無かった?」
「ちょっと待ってください、ステータスって何ですかぁぁぁ!?」
えええええ!! まさかのそこから!?
「ちなみに小太郎君、教会に行った事は?」
「ボク、ずっと誰かに追われてたんですよ!? 町や村みたいな誰に襲われるかも分からないような場所になんて怖くて行けませんでしたよ!」
おおう、ガチのサバイバーだ。彼は一体今までどうやって生活してきたんだろう?
「君、よく今まで生きてこられたね」
「とりあえず、その呪われたナイフが僕の身だけは護ってくれたんで!」
なるほど、でもだったらそのナイフを手放しちゃったらこの子、死活問題にならないのかな? 襲われる理由がこのナイフ(現在は普通の剣だけど)なのだとしたら、これを手放して普通の生活が送れるのだろうか?
「あのさ、ひとつ質問なんだけど、君、これから生活していく当てはあるのかな?」
「……へ?」
「これさ、ロイド君に呪いが移ったみたいだけど、これ手放して君、一人で生きていける?」
しばらくの沈黙、その後小太郎は絶望したような表情で、がくりと項垂れた。ああ、やっぱり何も考えてなかったのか。呪いのナイフを手離したいって思いが先行しちゃって、その後の事は何も考えてなかったんだね。
「ボ、ボクは、これから一体どうやって生きていけば……」
またしてもボロボロと泣き出してしまった小太郎君、なんだか見てて可哀想になってきたぞ。
「小太郎君、もし良かったら、僕達と一緒に行く?」
「え? 良いんですか?」
このままほっといたら、この子この世界に順応できずに死んじゃいそうだし、さすがに放置はできないよな……
「僕がお世話をしますので、いいですか?」
僕が皆に向かって提案すると「まぁ、タケルがそう言うのなら」と、アランは頷き、ルーファウスは「タケルのする事に否はありません」とこれまた頷く。
最後にロイドは「この呪いの剣がどんな物なのか分からないんだ、それが分かるまでは嫌なんて言えないよ」と困ったように苦笑した。
いつも本作品お読みいただきありがとうございます!
前書き後書きは読む上でお邪魔かと思い、今まで入れずにいたのですが、本日ついにブックマークが100を超えたのでお礼を述べたく筆をとりました。
なろうでブクマ100は目標でもあったので、とても嬉しいです。ありがとうございます(*´ω`*)
これからも完結へ向けて精進してまいりますので、どうぞ宜しくお願い致します。




