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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第四章

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少年と呪われたナイフ

 オロチが旅に同行するようになって馬車に魔物が寄ってくる事がなくなった。ただでさえ平和な旅が更に平和になって、なんの妨害もないまま僕達はリブル湖畔へと辿り着いた。

 10日程の旅の間、僕達は暇を持て余しオロチへ言葉を教え込んだ。その結果オロチの会話能力は完璧とまではいかなくとも、かなり意思の疎通がはかれるまでに成長した。

 元々オロチの方は僕達の言葉を理解しているのだ、問題なのはオロチがこちらの言葉を発声できるかどうかだけなので、オロチが流暢に喋り出すのもそう遠い未来ではないだろう。

 リブル湖はそこそこ大きな湖で、湖畔には辿り着いたものの僕達はまだ街へは到着していない。今日の夕方には街へ到着するだろうなと思っていたそんな時、オロチがふと湖を見やり何かを呟いた。


「? 今、何か言った?」

「マ、ロク……マ、リョク、ノ、ケハイ」

「え? ドラゴン!?」

「チガウ」


 オロチがふるふると首を横に振る。


「マモノ……ん~ツヨイ、チカラ、の、ケハイ」

「強い力の気配? 魔物じゃなくて?」

「ワカラナイ、ケド、イキモノ、チガウ」


 そう言ってオロチはじっと湖を見つめると、馬車から飛び降りてドラゴンの姿に戻ると、声をあげる間もなく飛び立った。


「ちょ! オロチ! 駄目だよ!」

『すぐ戻る』


 ドラゴン姿のオロチの体躯は大きい、リブルの街へと向かった訳ではないが、街の方からもオロチの姿が目撃されてしまうのではないかと僕は気が気じゃない。

 けれど、そんな心配をよそにオロチは「すぐ戻る」の言葉通りにすぐに僕達の元へと戻ってきた。それはいい、それはいいのだが口に何かを咥えている。

 しかもそれは生き物のようでオロチの口元でジタバタと暴れているので僕の血の気は一気に引いた。


「オロチ、何を拾ってきたの!? 魔物!?」


 僕が慌てて馬車から飛び降りると、僕の目の前にポイっと咥えたモノを放り出すオロチ、そこには身体を丸めるようにしてぎゅっと目を瞑り、顔を青褪めさせ震える少年。僕はオロチが咥えてきたのが人であった事を確認して更に青褪めた。


「オロチ! なんて事を!!」

『仕方ない、拾いたかったのはコレではないんだが、付いて来た』


 全く悪びれた様子のないオロチはしれっと言って亜人の姿へと戻る。そして丸まったままの少年を蹴飛ばすようにして転がそうとするので、僕は慌てて少年を庇うように覆いかぶさりそれを止めた。


「ちょ、ちょ、オロチ! 何してんの!? オロチが何を拾いたかったのか知らないけど、これじゃあただの追いはぎだよ!」

『追いはぎ、とは?』

「泥棒、犯罪、悪いこと!」


 僕が言い募るとオロチはキョトンと首を傾げる。これ絶対何が悪いのか分かってないだろ。


『俺様はそいつの持っているモノを拾おうとしただけだぞ?』

「既に所有者がいるモノを奪う事は拾うとは言わないんだよ!」

『いや、だがなぁ、そいつはソレを湖に捨てようとしていたんだぞ? 捨てられたモノを拾って何が悪い?』


 え? そうなの? だったら少し話は違ってくるな。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ボクは食べても美味しくないです。せめて食べるなら痛くないように食べてくださいぃぃ!!」


 ぎゅっと瞳を瞑ったままの少年はいっそう体を丸めて縮こまる。嗚呼、これ完全に怖がらせちゃったな……


「あの、君……」

「ひぃぃぃ! 魔物が喋ったぁぁぁ!!」


 全くこちらを見ようともせず悲鳴を上げる少年。これは困ったな。


「タケル、どうしました? この子は何処から……?」


 あまりの急な出来事にアランが馬車を止める。荷馬車から顔を覗かせたルーファウスとロイドも戸惑い顔だ。


「それが僕もさっぱりで、オロチが急にこの子を湖から連れてきちゃったんですよ」

「ワルイマリョク、キケン、ダカラ」


 オロチが僕以外の皆にも説明しようと口を開いたのだけど、やはりたどたどしいオロチの言葉では何を言いたいのかが分からない。

 悪い魔力? この少年が何か良くない魔道具でも持っているとでも言うのか?


「ねぇ、君。君は湖に何を捨てようとしていたの?」

「へ?」


 脅え続ける少年を宥めるように僕が彼の背中を撫でてそう聞くと、少年はようやく固く閉ざしていた瞳を開けて僕の方を見やり「人間?」と、小さく呟いた。


「ごめんね、僕の従魔が君のこと連れてきちゃったんだ。悪気があった訳じゃないんだけど、怖かったよね。ホントごめん」

「従魔……? ボク、魔物に襲われたんじゃ……」

「違うんだ、ごめん。うちの子が君の持ってるモノに興味を持ったみたいで、それで君ごと連れて来てしまったみたい、本当にごめんなさい」

「そう……」


 僕の言葉にホッとしたようではあるが、やはりどこか警戒気味に少年が顔を上げる。少年の年齢は恐らく僕の見た目年齢と同じくらいか僕とロイドの中間くらいだろうか。そのおどおどした言動は少し幼げにも見えてはっきりとした年齢までは分からなかった。

 容姿は僕には見慣れた黒髪黒目。この世界では黒髪の人をあまり見かけないので、少し珍しいと思う。この世界の住人はどちらかと言えば見た目は西洋寄りの人が多く、僕も生まれ変わってからはそちら側の見た目に近付いているので、こんなに如何にもな東洋系の顔立ちを見ると驚くと同時に懐かしくもある。


「それで、君はもしかして湖に何かを捨てようとしていた?」

「え……あっ、っと……コレを……」


 少年が差し出したのは一振りのナイフ。その柄には宝石のような石も嵌められていてずいぶん高そうに見えるのだが……


「コレ、捨てようとしてたんだ?」


 僕がそのナイフに手を伸ばそうとしたら、少年は「ダメ!」と、その手を引いてナイフを胸に抱え込み「コレは呪われているから、危険だ」と僕に告げる。


「呪われている? このナイフが?」


 少年が無言でこくりと頷いた。彼が抱え込んでいるナイフは確かに綺麗で魅惑的なナイフではあるけれど、呪われているというような禍々しさは感じられない。けれど、少年が呪われていると言うのなら、何かしらの不思議な力を持ったナイフではあるのだろう。


「どういう風に呪われているの?」

「よく分からない、ただ捨てても捨てても付いてくる。それに……」

「それに?」

「時々、喋る」


 喋る? このナイフが?


「え? そんな事ってあるんですか?」


 僕は思わずルーファウスに視線を向ける。不思議なナイフはきっと魔術が関係している、だとしたらそれの専門はルーファウスだ。

 ルーファウスは腕を組み「ふむ」と一言呟くと「無くはない話です」と少年の抱えるナイフをまじまじと見やった。


「使い込まれた道具には魂が宿るというのはよく聞く話です。ただ、それ程に魂のこもった道具を私は見た事がないので俄かには信じ難い話ではありますが」


 ああ、確かにその話は僕も聞いたな。僕の杖が正にそれで、杖自身が使い手を選ぶのだと魔道具屋の店主は僕に言ったのだ。


「そもそも、そう言ったものは長年使いこなしてこそ魂が宿るものです、が、そんな希少な逸品を手にするには彼は少々若すぎる気が……いや、でもそれが呪いの場合は話が別……?」


 ルーファウスが腕を組んで何やら考え込んでしまった。でも、ルーファウスの言が正しければ僕が手に入れた杖も僕には過ぎた逸品って事になっちゃうなぁ。


「そういうのは年齢は関係ないんじゃないですか? 要はその道具に気にいられるかどうかなので」

「そんなものですかね」


 少々腑に落ちないという表情のルーファウスだったが、そんなルーファウスを尻目に「ボクはこんな物いらないのに!」と、少年がナイフを投げ捨てた。

 ナイフは投げ捨てられたまま、ピクリとも動かない。少年の言う事が正しければ捨てても付いて来るという事だけど、そんな動きも見られない。


「なんだ、平気そうじゃないか?」


 ロイドが投げ捨てられたナイフの前にしゃがみ込んで指でナイフをつつく。


「ああ! 触っちゃ駄目だって!!!」


 少年が叫んだその瞬間、ナイフの刀身が眩い程の光を放つ。何事が起こったのかと呆然とそれを見ていたら、僕達の目の前には先程までそこにあった華美なナイフではなく、なかなかに立派な剣が無造作に転がっていた。


「え? なにこれ?」

「ああああああ、知りませんよ! ボクは触っちゃ駄目だって言いましたからね!!」


 少年の絶叫と共に、剣がガタガタと震えだした。


「え? え? ええ??」


 そして、何故かそのままその剣はロイドの腰のベルトホルダーに収まってしまう。その時に既に収納されていた元々の剣は弾き飛ばされて、ここは自分の場所だと言わんばかりにホルダーに収まってしまったその剣に僕達は言葉も出てこない。


「え? なに? ちょ……外れない!?」


 ベルトホルダーに収まった剣の鞘はホルダーにがっちりと収まって、ロイドがどんなに外そうと頑張っても全く外れる気配もなく、しれっとそこに収まっている。


「あ、ああ……あああ、それじゃあボクはこの辺で……」


 最初は驚いたように、次に少し安堵したように息を吐いた少年が、ここは逃げるが勝ちとでもいうような様子で踵を返しかけた所で、その首根っこをアランがガシッと捕まえた。


「坊主、さすがにそれはねぇだろう?」


 にっこり笑顔のアランだったが、瞳の奥は笑っていない。


「呪われていると言っているにも関わらず迂闊に触ったうちの馬鹿なパーティーメンバーにも問題はありますが、それでもさすがにこれで、はい、さよならという訳にはいかない事くらい、貴方だって分かりますよね?」


 ルーファウスも、口調は穏やかだけど声に怒りが籠ってる。これは少年に怒っているのか、それとも迂闊にナイフに触ったロイドに怒っているのか……

 それにしてもナイフだった物が立派な剣に姿を変えるなんて、一体どんな仕組みになっているのだろうか?


「ボ、ボ、ボクは何もしてないぞ! 勝手にそっちがボクを攫って、ボクは止めたのに勝手にナイフに触ったのもそっちだろ!? そんでもって勝手に呪われたんだから、これは絶対ボクのせいじゃないし、ボクはむしろ被害者だぁぁぁ!!」


 うん、確かに少年の言う事には一理ある。そもそもオロチがこのナイフを少年ごと運んできたのがそもそもの間違いなのだ。


「あの、その件に関してはごめんだけど、それでもやっぱり詳しい事情は聞かせて欲しいから、少しだけお話聞かせてくれないかな?」

「話だけでいい? ボクにそれ返品されても困るんだけど」


 返品は困ると言われても、こちらも呪われた剣なんて物騒な物を譲渡されても困るんだけどな。僕達はとりあえずこの呪われた剣(ナイフ?)の詳細を少年から聞くだけ、そして少年に危害は加えないと約束してようやく話は纏まった。



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