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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第四章

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オロチが……喋ったぁ!?

 迷宮都市メイズを出発して最初の目的地は観光都市リブル。リブル湖という湖のほとりに形成された観光地で、貴族や王家の人達の保養地にもなっているような場所だ。

 そんなリブルまでの道程は日数にして10日ほどかかるらしい。今回の僕達の旅程は馬車に乗ってののんびり旅で、依頼された魔物を狩るという作業がないので呑気そのもの。

 時々道を塞ぐように現れる魔物を狩ったりする事はあるけれど、基本的には退屈な旅だ。そんな旅の中で僕は馬を操る術と乗馬を教わっている。

 僕達の仲間になった馬は二頭、一頭は葦毛のオスで、もう一頭は栗毛のメス。どうやら葦毛の方は栗毛に気があるようでちょっかいをかけては邪険に扱われていて見ていてちょっと面白い。

 僕が二頭を「葦毛の子」「栗毛の子」と呼んでいたらそのまま名前が「アシゲ」と「クリゲ」になってしまった。別に名前のつもりで呼んでた訳じゃなかったんだけどな……

 旅立ち初日は何事もなく、野営ができそうな場所を探し夕飯の準備。ダンジョン内で寝泊りは何度かあったが、野宿をするのは久しぶりだ。まぁ、野宿と言っても今回は馬車があるので、地べたでそのまま寝るということもないけれど。

 僕のマジックバックの中には布団も収納されている、荷台に敷布団を敷いて毛布をかければ、そこは立派な寝床である。徒歩の旅と比べると快適過ぎるな。

 食料はある程度買い溜めしてきたけれど、道々狩った魔物も食べる。だって、やはり温かいご飯も食べたいからね。

 そういえば、僕の空間魔法スキルで実験していた食料備蓄の件なのだけど、結論から言うとアイテムボックスはマジックバックと一緒で野菜は痛まなかったのだけど、小箱の中を拡張した収納の中に入れた野菜は痛んでしまった。

 要するにアイテムボックスの中は真空で時間も流れないのだろうけど、空間魔法で拡張された空間には普通に時間が流れているという事だ。

 でもよくよく考えてみれば、僕は部屋を拡張できてしまった訳で、その部屋の中が真空だったら僕は拡張した部屋の中では暮らす事もできないのだから、その実験結果はある意味当然だった。そんな事にも気付かなかった自分が間抜けなだけである。

 でもこれで、荷物を何処にどのように収納すべきかある程度確認できた。生鮮食品に関しては限界があるけれど、普通の荷物に関してだけ言えば僕の持てる荷物量は無限大と言っていい、これはとても便利なスキルだ。これからも有効活用していこう。


「そういえば、夕食なんですけどオロチも呼んでいいですか?」

「あ? 別に構わないが、何かあるのか?」

「オロチ用のお酒を預かっているというのもあるんですけど、約束はきちんと守らないといけないと思うので」


 そう、僕がオロチと従魔契約するのには条件があった。それがこの世界に居るドラゴンの保護である。オロチは近くに同胞がいれば気配で分かるそうなのだが、向こうで留守番をさせてばかりではその居場所も特定できない。時々は近くに仲間がいないか確認をしてもらわないと、約束を反故にしたと言われてしまっては困るからね。


「ああ、そういえばそんな条件あったな、すっかり忘れてたわ」


 アランが完全に失念していたという感じに苦笑する。まぁ、これは僕とオロチと古老のドラゴンとの約束なので、他の皆には関係のない話である。だけど何もせずに一年の従魔契約を継続させて貰う訳にはいかないと僕は考えている。

 皆の許可を取って僕はこちらへとオロチを呼び寄せた。


『ん? ここは何処だ? なんだかいつもと様子が違うな』


 魔法の扉をくぐって亜人の姿で現れたオロチはキョロキョロと辺りを見回した。


「ダンジョンの攻略ができたから、僕達街を出たんだよ。今日はここで野営をするんだけど、オロチも一緒に晩御飯どうかと思って呼んだんだ」

『なんだ、今日は仕事じゃないのか。だったら別に呼び出さずとも……』

「お酒あるよ」

『それを先に言わぬか!』


 酒の一言であっという間にご機嫌になったオロチは、僕の出した酒樽に頬ずりしてる、ホント好きだねぇ。


「そう言えば夕飯を一緒にっていうのもあるんだけど、オロチに聞きたい事もあったんだ。オロチは同胞の気配を感じる事ができるって聞いたけど、それってどのくらいの範囲で分かるのかな?」

『範囲?』

「そう、今は近くに同胞の気配を感じる?」


 僕の問いにオロチはしばらく耳を澄ませるように瞳を閉じたが、しばらくして『ない』と一言答えた。


「そっか、じゃあこの近くには居ないのかな」

『爺が言っていたが、こっちの世界では同胞はあまり一か所に留まる事をしないらしいぞ。なにせねぐらを作ったそばから人間どもに壊されるらしくてな、住みつきたくても住みつけないらしい』


 ああ、なんかそれは分かるな。ドラゴンなんてこの世界ではほぼ天災扱いだもんな、住みつかれるのは人間側としても困るのだろう。


「だったらオロチには旅に同行してもらわないと仲間の場所は分からないのかな」

『何なら今から飛ぶか?』

「そうしたいのはやまやまだけど、オロチの姿はそれだけで目立っちゃうから今は無理」


 オロチはちっと舌打ちを打ち『面倒くさいな』とそう言った。

 でもさ、僕はオロチを従魔にするにあたって彼を護ると古老と約束したのだ、だから今はオロチが害のないドラゴンだという事を周りに知ってもらう事の方が先決だと思うのだ。


「ねぇ、良かったら僕達の旅にオロチも同行してみない?」

『あ? なんで俺様が』

「少し窮屈な思いもさせちゃうかもしれないけど、オロチがこの世界を知るいいきっかけになると僕は思うんだよね」


 オロチが少し考え込むようにして『知ってどうなるものでもないが』と一言呟いてから、むぐむぐと口を噤んで何か言いたげに唸り声を上げた。


「オロチ、どうかした?」

「ぁあ……ぅ、たぁ……う、うぐぅ……たぁ、ケ、ぅう?」

「!? 今、オロチ喋った!?」


 驚いて僕がオロチを見やると、オロチはまだもごもごと「たぁ、けぇ、ルぅ?」と僕の名前を呼ぶ。


『ああ、やはりまだ声を出すのは難しいな』

「オロチ、今、僕の名前呼んだ!? 呼んだよね!?」

『やってはみたが、まだまだだな。古老のように流暢に発声するには骨が折れそうだ』

「オロチ、お前喋れるのか?」


 オロチが喋った事に驚いた様子でアランがこちらへと寄ってくる。そしてアランの問いにオロチは「まぁ、ダ……ぁあ……」と、そこまで言って『無理』と、僕の方を見て首を振った。


『まだ練習中だと、この男に伝えてくれ。長文は無理だ』

「あはは、アラン、まだ練習中だってオロチが言ってる」

「そうか、練習中か。じゃあ俺の名前も覚えてくれよ、俺の名前はア・ラ・ンだぞ」


 一言一言区切るように言ったアランの言葉に僕は思わず笑ってしまう。だってオロチはアランの言葉を理解しているのだ。当然だが名前だって既に覚えていて、ただそれを皆に通じる言語として発音できないだけなのだから。


「ア~ぁ、ラ、ぅ!」

「惜しい、あと少し!」

「ア、ラんっ!」

「おお! 言えたな!」


 オロチにアランが名前を呼んで貰えた事でロイドもそわっとした様子で、僕達の方へと寄ってくる。


「俺の名前はロイド、ロ・イ・ドって言えるか?」

「んんっ……ろぃ、ド!」


 今度は一発で名前を発声できたオロチはどこか得意気に笑みを浮かべる。そのままルーファウスの名前も練習していたのだが、ルーファウスの『ファ』の字がどうしても発音できないようで、最終的には諦めたように「ルー」と彼を呼んだ。


「別にそれでも良いですけど、その呼び名、何だか懐かしいですね」

「ルーファウスはルーって呼ばれてた事があるんだ?」

「姉が私の事をルゥやルールーなんて呼んでた事があるのですよ。姉以外にそんな呼び方をする人は居ませんでしたけどね」

「ルーファウスってお姉さんいるんだ!?」


 今まで僕はルーファウスの口から家族の話を聞いた事がない。家出同然でエルフの里を飛び出したと聞いていたので家族仲はあまり良くないのだろうなと勝手に思い込んでいたのだが、ルーファウスにもそんな風に彼を愛称で呼ぶような家族がいたのかと、その事に何故か驚いてしまった。

 変な話だけど、僕の中のルーファウスのイメージはずっと今のままの彼の姿なので、家族に囲まれ暮らしている彼の姿なんて想像ができなかったのだ。


「正しく言えば『いた』ですね。姉はもう亡くなりましたので」

「え……」

「私はハーフエルフです、ハーフという事は親の片方がエルフではないという事。私はハイエルフである父に似ましたが、姉は人族の母に似てしまって、思いのほか短命で逝ってしまいました」


 あぁ……なんか、あまり聞いちゃいけない話題だったな。そうか、お姉さんはもう亡くなっているのか……


「そんな顔をしないでください。長命な種であるエルフが他種族から置いて逝かれるのは運命さだめのようなもので、さすがに私もその辺は割り切っています」


 そう言ってルーファウスはわずかに笑みを浮かべると、僕から視線を外し遠くを見つめ「ただ、嫌いな人ほど長命で、好きな人ほど短命なのは割り切れない部分もありますけれど」と続けた。

 僕も家族に置いて逝かれる寂しさを幾度となく経験してきたのでルーファウスの気持ちは分かる気がする。気付いた時にはポツンと一人で、何故自分だけが生きているのか分からなくなる夜もあった。


「僕はなるたけ長生きできるように頑張りますね」

「その辺は私も考えているので大丈夫ですよ」

「……え?」


 僕が何気なく放った言葉に返ってきたどこか不穏な返答。にっこり笑顔のルーファウス、考えてるって一体何を……?


「タケルの存在はある意味私の希望でもあります。私がここまで生きて学んだ全てをかけて、私はあなたを守ってみせます」

「それは、ありがとう?」


 ルーファウスが何を言わんとしているのかよく分からないのだが、これは聞いたら駄目なやつだと、僕の本能が囁いている。


「たぁけ、ル! メシ! サケ!!」


 オロチが僕に呼びかける。飯と酒だけやけに流暢に発声するじゃないかこのドラゴン。


「ああ、はいはい分かったよ。今準備するから待っててね」


 僕はそう言って夕飯の配膳に取りかかる。煮込んだホーンラビットの肉はホロホロと、今日も美味しくできたと思うよ。



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