僅かな心の軋み
ただ別れの挨拶に来ただけなのに、なんだか気まずい感じになってしまって、どうにもその空気を変えられず、僕達はそのまま従魔師ギルドを後にした。
ルーファウスは、そこからむつりと黙りこんでしまってなにも喋らない。
「いつもタケルには過保護な奴だが、さっきのあいつ、ちょっとおかしくなかったか?」
アランがそんな風に僕にこそりと耳打ちをしてくる。ルーファウスがおかしいのはいつもの事だけど、確かに先程のルーファウスはいつもより少し言葉がきついように感じていたので、その言葉に僕は頷く。
少なくともルーファウスは誰かを呪うような言葉をむやみに吐くような人ではない、けれど先程彼は『誰かの犠牲の上にしか成り立たない国なら滅びてしまえばいい』と、この国を呪うような言葉を吐いたのだ。
一体何が彼の地雷になったのか、聖女、勇者、魔王、魔物の大暴走、確かにどれも不穏なワードではあるけれど、そのどれもが基本的には僕達には関係のない話だ。けれどそんなワードの中にルーファウスには引っかかる事があったのかな。
「そういえば、勇者召喚ってそんなに簡単にできるものなんですかね?」
「いや、さすがにそれはねぇだろ? でもそういえば、初代国王陛下もその勇者召喚で呼び出されたんだって話を昔聞いた事があるな」
「え? そうなんですか?」
「いや、それこそお伽噺だし、本当かどうかは俺も知らねぇけどな」
えぇ……でもそうしたら、フロイドさんも異世界人? 何処か西洋の人だったのかな? そもそもこの世界に転生してきてる異世界人が日本人ばかりだっていうのも不自然な話だし、そういう事があっても不思議ではないよな。
「初代国王陛下は元冒険者だって話だし、後付けで作られた創作の可能性は高いと思うけどな。なんせ300年も前の話だ、知ってる奴なんて……」
アランが「ん?」と首を傾げてルーファウスを見やり「お前、もしかして何か知ってんのか?」とルーファウスに問う。
「何故そう思うのですか?」
「いや、別に。エルフはそういえば長生きだからなぁ、と思っただけだが?」
「さすがに知りませんよ、その時代にはまだ私も生まれてません」
「あれ? でも、ルーファウスはタロウさんとは会った事あるって……」
「ありますよ、ですがそれは初代国王陛下が即位してもう何年も経ったあとの話です。私が物心ついた時にはあの人は既に王様でした、ですのでその辺の事は知りません」
なるほど。という事はルーファウスの年齢は300歳に少し欠けるくらいの年齢という事か。
「そもそも勇者召喚で呼ばれたというのならば、その呼び出された勇者というのは初代国王陛下よりもタロウの可能性の方が高いと私は考えます」
確かにタロウさんが僕と同郷なのはほぼ間違いないもんな。なんせ「スズキタロウ」さんだし。偽名っぽくはあるけれど。
「ルーファウスはそのタロウという人物にずいぶんご執心のようだな。聖者だってのは聞いたけど、そいつはお前の何なんだ?」
「…………」
アランの問いにルーファウスはぷいっとそっぽを向く。これは話したくないという意思表示か。
「なぁ、おい、ルーファウス、返事しろって」
「……なんでもありませんよ」
「それが何でもないって態度かよ、明らかに何か隠してますって態度だろう? この際だからゲロっちまえよ、楽になれるぜ?」
アランがルーファウスの肩を抱いて、顔を覗き込む。なんだろう、その問い詰め方は。
軽い冗談のようなノリだけど、まるで犯罪者を問い詰めるような……いや、逆か? まるで悪人が何か秘密を握っている主人公を追い詰めるようなその台詞、一度は言ってみたい台詞ランキングにノミネートされてそうな問い詰め方だな。
「だから! 何でもないって言ってるんです! 私とあの人の間には何もなかった、一方的に私が見ていただけですからね! これで満足ですか!?」
「え、おい、ルーファウス!」
ルーファウスはアランの腕を振り払い「貴方のそういう無神経な所、大嫌いです!」と、そっぽを向いた。
でもアランって無神経かな? 何だかんだで察していても、あまり口や顔には出さないアランは僕の中ではどちらかと言えば『気遣いのできる人』なんだけど。確かに嫌がるルーファウスに無理やり酒を飲ませたりした事もあるけれど、一応それにも理由があったしな。
「もう、こんな話はしたくありません。さっさと冒険者ギルドに鍵を返して街を出ないと日が暮れますよ!」
そう言って、ルーファウスは僕達を置いて先に行ってしまう。ルーファウスはタロウさんの事になると少し感情的になる。それはルーファウスの想いを体現しているようで、僕は複雑な気持ちになった。
ああ、そうだ、僕はルーファウスとタロウさんの関係性に少なからず嫉妬しているのだ。ルーファウスはこの世界にやって来て、僕を最初に丸ごと受け入れてくれた人だ、そんな彼に少なからず僕は惹かれていたんだと思う。
けれど、そんな彼の好意は僕本人に向けられていたのではなく、僕に似た人へと向けられていたと知りショックも受けた。
この世界では同性に好意を持つ事に然程差別意識はないらしい。現にロイドは僕に向かって何度も好きだと言ってくれている。それはルーファウスも同じだけど、ルーファウスとロイドは違う。
ルーファウスは僕にタロウさんを重ねている、僕はどうしてもそれが嫌なのだ。
もう認めてしまったら楽になれるのかな……だけど、そうしたら僕達4人の関係がすべて壊れてしまいそうで、僕は何も言えずに黙りこんだ。




