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DTのまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話  作者: 矢車 兎月(矢の字)
第三章

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僕にはまだ知らない事がたくさんあるようです

 荷馬車の手配が整って、いよいよ旅立ちの日。僕達がメイズで三年間過ごした家は冒険者ギルドで用意してくれた賃貸物件だったので、この家とも今日でお別れだ。

 もし、またメイズに帰ってきたとしてもこの家はたぶんよその誰かの家になっているのだろうと思うと少し寂しい気持ちがない訳ではないが、長く家を開けるのに放置する訳にもいかないので権利は冒険者ギルドにお返しする事になった。

 思えばこの世界にやって来て、ほとんどの時間をこの家で暮らしていたのだから愛着がわくのは仕方がない。けれど、これからはまた新しい生活が待っているのだからいつまでも感傷に浸っているのもナンセンスだ。

 僕達は旅立つ前にお世話になった各所へ挨拶回りをする事に。

 ダンジョン城近くにある従魔師御用達のアイテムショップの店主とはライムのおやつを度々購入している事でずいぶん仲良くなっていたのだが、しばらくメイズを離れる事を告げたら「また来いよ」といつもより多めにおやつを融通してくれた。

 店主は「俺がにらんだ通り、君は良いお客さんだった」と笑ってくれて、客を持ち上げるのが上手い商売上手な人だなと思いつつも何故か気持ちがほっこりした。

 従魔師ギルドを訪れたら、そこには支部長のルマンドさんと奥さんのマチルダさんも居た。今日もマチルダさんの足元には行儀のいいモフモフのフェンリルが寝そべっている。

 僕がしばらくこの街を離れると告げるとルマンドさんは随分とがっかりした表情を見せたが、オロチの酒樽に関しては僕が冒険者である事も鑑み、こんな事もあろうかと各地のギルドに伝達済みとの事で、僕が職員証を見せれば何処のギルドでも酒樽を受け取れるようにしてくれてあった。ありがたい。


「その見返りと言ってはなんですが、オロチ君の鱗、これからも時々よろしくお願いいたしますね」


 なんて、こっそり耳打ちされてしまったのだけど、そこはそれオロチの機嫌次第だからな。

 ルマンドさんの奥さんであるマチルダさんは「この間は急に悪かったね」と、僕に頭を下げた。


「私は従魔師ギルドの職員なんだが、神獣と呼ばれるフェンリルを従魔としている事から教会とは何かと縁があってね、聖女様とも懇意にさせてもらっているんだ。今回の事もたまたま聖女様とお茶をしていて、ドラゴンを従魔にした君の話を話の種として話題にだしたら聖女様が君を探していたと聞いたもので、つい連れて来てしまった。だが、君にとっては迷惑だったようで申し訳なかった」

「いえ、それは大丈夫ですよ。エリシア様も今回の事で僕の事は諦めてくれたようなので結果的にはお話しできて良かったと僕は思っています」

「そうか、それなら良いのだけれど」


 マチルダさんは少し息を吐き「聖女様にも色々と事情があるので、彼女を嫌わないであげて欲しい」と言葉を続ける。


「それは冒険者ギルドに依頼が出ていた聖剣グランバルトの盗難にも関係する事ですか?」

「それも理由のひとつではあるけれど、その他にも色々。彼女もある意味被害者のようなものだよ、10年も前に決められた婚約者には簡単に婚約破棄されて、今はその婚約者の弟君との婚姻話が持ち上がっている」

「え……そうなんですか?」

「元々の婚約者である第一王子が国政を放って自由奔放な聖女様と一緒に旅に出てしまっているからね、そんな放蕩者に国王を継がせるのはどうなのかというのは教会の中だけではなく、国政に関わる官僚の方からも声が上がっているのだよ」


 あ~……まぁ、確かにそんな声があがるのは仕方ない話だよな。僕だって、その話を聞いて、この国大丈夫か? と思ったものな。


「けれどその新しいエリシア様の婚約者も彼女の年齢を理由に結婚をごねていてね……」

「年齢?」

「第二王子とエリシア様の歳の差は10、第二王子はそれが気に入らないのさ」


 10歳差って、それはさすがにどうなのか。別になくはない年齢差だけど、それだけ年齢が離れているのなら、結婚相手はもっと歳の近い聖女になっても良いと思う……っていうか、エリシア様が何歳で第二王子が何歳なのか滅茶苦茶気になるんですけど!


「エリシア様は初代聖女様の血を引いていてエルフの血も入っているから年齢は問題にならない。それに現在エリシア様は協会所属のどの聖女様より聖女としても妃としても優れている、王家にとってこれ以上ない良縁なのだけど、それでも王子は嫌だと言って聞かなくてね」


 エリシア様ってエルフの血が入ってるんだ……確かに見た目が三年前から全然変わってないなとは思ったけれど、その辺も関係してたんだな。納得。


「エリシア様御自身も本当は誰にも望まれない婚姻なんてしたくはないのが正直なお気持ちなのでしょうけど、それでも彼女は王家に嫁ぐために大事に育てられてきた聖女様だ、彼女自身もその生き方を変えられず、一番辛い想いをしているのはエリシア様だと私は思っている」


 そうなんだ……彼女は僕を聖者の生まれ変わりだといい、僕を教会へと連れて行こうとしていた。僕はそんな風に教会に縛られるのが嫌で逃げ出したのだけど、教会に閉じ込められて籠の鳥になっているのは、むしろエリシア様の方なのかもしれないな。

 生まれた時から籠の中に暮らすエリシア様にとって籠の中が一番の安寧の地、そんな籠を嫌がる僕の方が彼女にとっては不思議な存在でもあるのだろう。

 けれど彼女にとって安寧の地であるはずの籠の中も今や平穏な場所では無くなりつつあるようで、彼女の心労も相当なものなのだろうな。


「彼女は君に時間がないと言っていたと思うのだけど、君は今年がどんな年かを知っているかい?」

「え? 今年何かあるんですか?」


 僕はマチルダさんの言わんとする意味が分からず首を傾げると、ルーファウスがそれを受けて「今年と言えばグランバルト王国建国300年の節目ですが……」と続ける。

 へぇ、300年なんだ。思っていたより短いな。もっと長いのかと思ってた。いや、でも待て、その時代に既に生まれていたらしいルーファウスは単純計算で300歳越えか……そう考えると300年はとても長いな。


「そう、建国300年、そして魔王の力が覚醒する節目でもある」


 ??? 魔王の力? 覚醒? 何やら話が見えなくて僕は首を傾げる。

 僕達の話を傍から聞いていたアランも僕同様に首を傾げ「魔王の覚醒は100年周期とかいうアレか? 俺もそんな話を昔話として聞いた事はあるが、100年前も200年前も特に何も起こらなかったんじゃなかったか?」と、マチルダに問うと、彼女は「何も起こらなかった訳じゃない」と返してくる。


「国の混乱を避ける為に、便宜上何も起こらなかったと発表しているだけで100年毎に魔王の覚醒はなされ、100年前も200年前も魔王の覚醒と共に魔物の大暴走スタンピードは起こっている。けれど秘密裏に何とか封じる事ができたというそれだけの話だそうだよ」


 魔王、意外とがっつり世界に影響及ぼしてた! あまり人の話題に上らないから無害なのかと思っていたけど、そんな事なかったんだな……

 それにしても魔物の大暴走って、そんなの起こったらこの世界は大変な事になるのでは?


「300年目の魔王覚醒、それを阻止するために王家が行った勇者召喚で現れたのがあの困った聖女様と雲隠れしてしまった勇者様だ、エリシア様が焦る気持ちも分かるだろう?」


 それは……確かに!


「君にこんな話をするのはお門違いだというのは分かっているけど、魔物の大暴走スタンピードを止めるためにはドラゴンの存在はある一定の効果を示せると思う、君は自分には関係ない話だと思っているかもしれないが、これはこのグランバルト王国の存続を揺るがしかねない話でもあるんだ、だから……」

「だからと言って、それにタケルが手を差し伸べるいわれはないですよね?」


 ルーファウスがばっさりとマチルダさんの言葉を切って捨てた。


「ちょ、ルーファウス!」

「誰かの犠牲の上にしか成り立たない国なら滅びてしまえばいい、正直者が馬鹿を見る、そんな話にはうんざりしているのです」

「ルーファウス、言い過ぎ!!」

「いいえ、言わせてもらいます。先日のホウエル枢機卿もそうでしたが、誰もかれも考えているのは自分に都合のいい事ばかり。タケルはとても人が良い、頼まれれば断れない性格です、だから私は敢えて言わせてもらうのです、タケルにそんな義理はない、とね」


 場がしんと静まり返る。僕も何をどうフォローしていいのか分からない。確かにルーファウスの言う通り、僕には彼らを助ける義理などない、だけどさすがにそれは言い過ぎな気がしなくもないのだ。

 だってこれはこの平和な国の存続にも関わる問題で、この国の平穏がなくなれば僕だって平和に暮らす事はできなくなる。

 けれど、ルーファウスの言葉は僕を想って言ってくれているという事も分かるので一概にルーファウスを否定もしづらい。


「……熱くなるなよ、ルーファウス、お前らしくもない」


 アランが困ったような表情で場を和ませるようにおどけた口調で言うのだが、凍り付いた空気は変わる事はなく、マチルダさんが「魔術師殿の言う通りだな、すまなかった」と頭を下げた。


「マチルダさんが謝るような事じゃないですよ! でも、ごめんなさい、僕は静かに暮らしたい、目立つような事はあまりしたくないです」

「そうか」


 微かに瞳を伏せるようにして彼女はもう一度「旅の門出に余計な口出しをしてしまったね」と、謝罪の言葉を口にした。


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