第9話 夏休み開幕
今回から4話は日常回です。
初回はザプリェットとフローティアが海水浴……ではなく、湖浴に行きますwww(サダムパテックは北極海に面しているのでそこで海水浴は自殺行為ですw)
さて、月日は流れてサダムパテック魔法学院は7月末になって夏休みになった。
ここから1ヶ月間は学校も寮も閉まるため、生徒は全員、例外なく帰省になる。
勿論ザプリェットやフローティアも例外ではない。
だが2人に関しては実家の居心地が悪い……そういう事情があった。
かといって他のクラスメイトに世話になるわけにもいかない。
2人が頭を悩ませている夏休み前日の夜。
ザプリェットとフローティアがチェスをしながら、夏休みの予定をどうするか、話し合った。
「ねー、ザプちゃんはさ、どうするか決めてる? 夏休み。」
「予定なし」
即答であった。
そうしてザプリェットは右から2個目のポーンを進める。
フローティアも負けじと真ん中のポーンを前進させる。
「私も……ないなぁ。家に帰ってもいびられるだけで居場所ないもん。」
「私もだよ。田舎じゃあ魔法のせいで村人からは異端扱いだし、そもそも森しかない所だから何もすることないし。」
……お互いに似た事情ではあるが、どちらにせよ親には現状は伝えなければいけない、それもまた事実であり、だからこそあまり帰りたくないという本音が浮き彫りになった。
「そっかー……なんか、似てるね、事情は。」
「そうだね。でもそうなると1ヶ月が長くなっちゃうな……」
チェスを淡々と進めながらも、話の内容は夏休みの予定のことでいっぱいだった。
しかし予定が全くない2人だ、それすらも難航するし、寮も使えない。
他の貴族の血を引く人間がバカンスを満喫している、そう考えると空虚な気分になった。
夏休みをただ暇を持て余して過ごすのは2人も本意ではないのは明白だったからこそ、2人が残せる思い出を作るしかなかった。
と、ここでフローティアが何かを閃いたかのように、言葉を発した。
「あ!! そうだ!! いいこと思いついた!!」
「ん? 急にどうしたの、フローティア。」
「あのさあのさ!! 明日湖に行かない!? 2人で!!」
「へ??? ま、まあ……いいけど……」
ザプリェットはよくわからないまま、二つ返事で承諾した。
「きーまり!! じゃ、明日着替えと水着と……あと色々持ってワクスモ駅集合!!」
「……え? み、水着……???」
……急転直下で思考が追いつかなくなったザプリェットなのであった………。
さて、翌日。
2人は汽車に乗り、目的地である「ルカイバ湖」へと向かっていった。
何せサダムパテックは領地が広く、遠くまでの移動手段は汽車か馬しかない。
ザプリェットも入試の際に、一つ隣の町まで歩いて汽車に乗っていったほどだ。
広大なツンドラが広がるサダムパテックで、遠出をするのは相当な時間を要するのである。
そして基本的に寒冷地なので、気温は夏でも20℃が平均である。
ただこの日は運良く27℃。
絶好の湖浴日和であった。
ゴトン、ゴトン………と揺られ、約2時間後。
2人は駅を出て、そこから徒歩30分歩いて森を抜けた。
ルカイバ湖が見えた。
広大な自然に加え、広々とした湖、そしてログハウス。
遊ぶ秘境としては最適であった。
2人はログハウスに荷物を置き、水着に着替えた。
ザプリェットは白いビキニに、フローティアはピンクの花柄のビキニにそれぞれ着替え、「せーの!!」と掛け声を合わせて湖に飛び込んだ。
ドボーーーーーン!!! という音と共に水飛沫が舞った。
浮上した2人は顔を見合って、笑いながらハイタッチをした。
その後、2人は泳いでいき、ザプリェットは高速潜水で魚を立て続けにゲットしていって、木箱に詰め込んだ。
そして昼時になり、ザプリェットは取ってきた魚を使って調理を開始する。
持ってきたナイフを使い、エラをくり抜き、腹を裂いて内臓を取り出した。
しかも手際がいい。
取ってきた数十匹もの多種多様な魚を素早く、丁寧に捌いていった。
その姿にフローティアも感心していた。
「すっごいなー……ねえ、ザプちゃん、なんでそんなに早いの?」
「なんで、って……母さんが仕事に行ってる間は自給自足で生活してたからね。これくらいお手のものだよ。」
母子家庭で、母は仕事を掛け持っていたため、ザプリェットは幼少の頃から生きるための知恵を身につけていた。
ザプリェット本人は、料理は好きではないけどやらなければいけないことだったから、と言うものの、それにしても手際が早すぎる。
実家で料理をしないフローティアには到底追いつかない領域だった。
しかも捌き終わった後に、塩を軽く振って余分な水分を出すところまでもが完璧だった。
ザプリェットは、いつの間にやら集めてきた木で枠組みを作り、火起こし用の火種を木で擦って作り出した。
何せザプリェットもフローティアも、炎魔法は使えない。
フロイドも誘えばよかったな、とはザプリェットは思ったものの、それは後の祭りだ。
黙々と、土台を胡座で固定して、火種になるタンポポの綿毛で太い木の枝で擦り上げた。
摩擦熱で火種は発火し、ザプリェットは葉で包みながら枠組みの隙間まで持っていき、吐息を出して火加減を調節させた。
着火したと共に、木串で手際よく調理した魚を刺し、地面に挿して焼いていった。
パチパチパチパチ…………と、火の音が響く中、フローティアはこう呟いた。
「ねえ、ザプちゃん……私さ、このままでいいのかな……? 魔法師としてさ……?」
「え? なに、急に。」
ザプリェットは、親友の心境の吐露に急にどうしたのか、と言わんばかりに返しをする。
実際に、ペルセウス曰く完成形という評価を受けているフローティアだが、それでもなんとか努力を腐ることなくし続けているのはあるのだが……。
それ以上にザプリェットの才能と成長力に自分だけ置いてけぼりになっているのではないか、と不安に駆られていたのも事実だった。
「もっとさ、ザプちゃんの力になりたい、って思うのにさ、それと裏腹に……ザプちゃんはどんどん先に行っちゃう……麻薬組織を倒した後もザプちゃんは止まんなかった……勝てるわけ、ないよね……ザプちゃんが凄い努力家だってこと知ってるの……私だもん……あんなに凄い魔法師なのに努力も怠らない……ずっと置いてけぼりだよ……」
ザプリェットにとっては意外や意外だった。
いつもなら明るく、気丈に振る舞うフローティアだからこそ、悩みを抱えていたことが考えられなかったからだ。
だが、「魔闘演舞」でパートナーを組む以上、放ってはおけなかった。
「……いいんじゃない? 今のままでもさ?」
ザプリェットはあっけらかんと、そう答えた。
現状維持でも全然困らない、ということは伝えたザプリェット、だがしかし、フローティアはそれだけでは足りないとは言った。
ついついムキになってしまうフローティアだったが、ザプリェットはフローティアにこう告げる。
「正直さ、私にとってはフローティアは初めての友達だったから……アンタがあんなに悩んでる、なんて思ってなかった。そうだったんだ、とは思った。でも私が1人でも頑張れている、っていうのは違う。フローティアがいるから私は頑張れてるだけだよ。だって……こんな私にも……父さんに捨てられて、村のみんなからは忌み嫌われて……っていうのに最初から友好的だったからさ、大事にしないわけないよ。フローティアは蔑ろには絶対できない。今まであんまり言わなかったけど……ホントはすっごい感謝してるんだ。フローティアには……本当に、ね。」
フローティアにザプリェットは感謝を述べた。
率直な気持ちと、今のままでいいという理由も添えて。
「……今のままでも……いいの、かな……??」
「フローティアにはあんまり変わってほしくない。焦ったって正直しょうがないじゃん? だってそのままのフローティアが大好きだから、私は。フローティアには……今のままでいて欲しい。」
フローティアは空を見上げた。
晴れ晴れとした、夏空を。
一雫、フローティアの目から涙が溢れた。
「アハハ……私、バカだなぁ……ザプちゃんの成長ぶりに焦って……ザプちゃんのために、って思ってたのが……全部自分のためにしかなってなかったな……」
「フローティアは気にしすぎだと思う。表に出してなかっただけでさ? ホラ、焼けたから食べよ?」
フローティアが涙を拭うと同時に、ザプリェットは串を土から引っこ抜いてフローティアに渡した。
「うん……ありがと。」
魚を頬張る頃には、フローティアはいつものフローティアに戻っていったのであった。
ザプリェットは火の後始末を行った後、またフローティアと遊ぶことにしたのだが………ザプリェットがまた潜水した直後、事件が起こった。
フローティアにアクシデントが発生したのだ。
ザプリェットが浮上した時、フローティアが涙目で、巨乳を腕で隠すように抑えていた。
「ちょっ……どうしたの、フローティア……」
異常事態を察したのだが、フローティアが青ざめている。
心なしか、フローティアの顔が震えている。
「み……水着……持ってかれちゃって………ど、どうしよう……」
「え……?? ちょ、ちょっと待って、落ち着いて、フローティア……とりあえず上ろう、一回。」
ザプリェットがフローティアを抱え、湖から出たのであった。
ザプリェットは、パーカーをフローティアに着せ、何があったのかを聞いた。
どうやらザプリェットを追っていたら、岩に引っかかって水着が脱げてしまったとのことだった。
パニックになりかけるフローティアに対し、ザプリェットは冷静だった。
「と、とりあえずさ、アンタの魔法で探そう。何処かにあるはずだから。」
「う……うん………」
ザプリェットは魔法陣を起動し、精霊を湖に潜らせて水着を探す。
3分後、水着を発見したが、かなり深いところに水を吸って沈んでしまっていた。
取りに行くにしても時間が掛かるのは明白だった。
だが、ザプリェットはフローティアのためなら、と動き出す。
「ちょっと待ってて。取りに行ってくるから。」
「……ごめんね、ザプちゃん……よろしくね?」
ザプリェットは湖に勢いよく飛び込み、水着を捜索するために潜水していったのであった。
次回は水着捜索をメインで書きますwww