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第8話 「勝つのは私だ」

一章終了です。

ダークサイドも描きつつ、ザプリェットとラチェーカのライバル関係がより深くなる回です。

 サダムパテック王国の辺境にある、とある小さな村。


そのある建物の地下に、ザプリェットから命からがら逃げ切ったドルムンガの部下がいた。


そこにはオールバックの銀髪に、青い目をした中年の男が顎に右手を突き、椅子に座ってその男を見下ろしていた。


「どうした、ドルムンガの所が青い顔をして?」


「ハァ……ハァ………!! アムール様、報告します……!! 我らの麻薬製造工場が……!! メスガキ1人によって壊滅しました……!!」


「………顔は覚えているか?」


銀髪青目の男・アムールは、「虎の威を借る者(ペルシャザール)」が壊滅したことについては咎めなかったが、少女の特徴を跪く男に聞いた。


「ぎ……銀の髪に……青い目をしていたのは薄らと………!!」


この報告を聞き、アムールは眉を顰めた。


更に追求は続く。


「……どのような魔法を使っていたか判るか? 覚えている範囲でいい。」


「そのメスガキが触れた仲間が……!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()次々と……!! 死んでいくのです……!!」


「……他は?」


「更には……!! 死んだ仲間に……!! ネイウッドに()()()()()()()死体を暴れさせて……!! その後は……その……!! アト………ハ………!! ウッ……ウワァァァァァァァァァ!!!」


その部下は、ザプリェットが見せた()()()()()()()()()()()()()、床に転げ回った。


「……おい、アノス。コイツを休ませてやれ。」


「ハッ」


アムールは眉間に皺を寄せたまま、横にいた緑髪の男・アノスに命じてベッドに運ばせた。


「そうか………あの子、か………だが………」


アムールは立ち上がり、横にいる部下達にこう告げた。


「『魔闘演舞(ヴァルプルギス)』の全体図は抑えたか?」


「ハイ、会場設営に我らの部下が参加して潜入し、製図も入手しております。ここまでは計画通りです。」


これを聞き、アムールは口角を上げ、ニヤリと笑みを浮かべる。


「では……予定通りに事を進める。サダムパテックの弱体化を狙う、一大プロジェクトだ、失敗は許されんぞ。いいな?」


「アムール様の仰せのままに。」


アムールは部屋を出て、上のフロアに登っていった。


(……あの子が、か……随分と大きくなったものだな……しかしアレから9年、か……時が流れるのは早いものよ……)


ザプリェットというぼやけた「()()()()()」が、アムールの脳裏に焼き付く。


しかし着実に、9月に迫った「魔闘演舞(ヴァルプルギス)」に危機が訪れていたのは事実であり、それを知る者はいないのもまた事実であった。


自室に入るアムールの背には、紅い虎のタトゥーが刻まれていたのであった。





 そして魔法学院では。


理事長室に呼ばれたザプリェットは、「虎の威を借る者(ペルシャザール)」を壊滅させたとして、国から感謝状と、サダムパテック王国の通貨であるハムルが1万枚も贈与された。


だが、ザプリェットは9割を母に送りたい、としてあまり金は受け取らなかった。


ザプリェットはお金に関してはそんなに頓着はしないし、一人で暮らしている母を楽をさせてあげたい、というザプリェットなりの親孝行だった。


当然、ザプリェットのこの件は校内に広まり、教室の外に出れば一気に声を掛けられることが多くなった。


ザプリェットは慣れない対応に四苦八苦していたが、フローティアを初めとしたクラスメイトの助力によって、なんとか切り抜けて食堂に辿り着いた。


時の人は大変だ……ザプリェットは溜息を吐きながらパスタを頬張っていると、因縁の相手が。


そう、ラチェーカである。


「……隣……よろしくて? ザプリェット。」


「……いいけど?」


ザプリェットはお盆を机の上に置き、食事を摂り始めた。


2人の関係性をよく知る人物からすれば、黙々と進んでいく食事風景でも一触即発の空気になりかねない。


無論、ザプリェットもラチェーカもお互いがお互いに嫌悪しているため、ザプリェットの向かい側に座っているフローティアは気が気ではなかった。


「……ザプリェット……アンタ、一人で壊滅させたんでしょ? 学内に蔓延っていた麻薬を作って売っている組織を……」


「? 事実だよ? それがなに?」


「……どんな手を使ったの……? 少なくともH組にいるアンタが壊滅させれる程、甘い組織じゃなかったハズよ。国や軍ですら手を焼いていた組織をいとも簡単に葬った……ザプリェット、アンタ何者なの……?」


「……“普通に”戦っただけですけど?」


そう、ザプリェットにとっては「()()()」戦っただけだ。


他の魔法師にとっては「()()」であっても、だ。


「だからそれ、答えになってないってば……ホントのこと言って。」


「何回も言うけど、私はただ単に“普通に”戦っただけ。相手が弱すぎて時間の無駄だった。」


だが、この言い分にカチンと来たラチェーカは、ザプリェットの胸ぐらを掴んだ。


「とぼけないで!! ちょっと有名になったからって調子に乗らないで!!」


だがザプリェットは顔色を変えない。


何故ラチェーカがここまでムキになるのかが分からなかったからだ。


「……私にとっての“普通”はアンタ達にとっての“異次元”……それを教えても理解できるとは思えないよ?」


「……?? アンタ、何者なのよ……!? それでいて何様なの……!?」


「何者か、ね……ただの田舎娘、ってだけだよ。それに……」


ザプリェットはそう言って、ラチェーカの腕を胸ぐらから引き剥がした。


「同じ学年なんだから……貴族も平民もへったくれもないんじゃない? その証拠がフローティアだったりフロイドだったりするしね。」


「……聞いた私がバカだったわ……いいわ、決着は……『魔闘演舞(ヴァルプルギス)』で着けましょう。」


「……そのつもりだよ、ラチェーカ。尤も……負ける気はないよ。」


ラチェーカはグッと拳を握りしめた。


今にもザプリェットを殴らんとばかりに。


だが、矛を収め、ラチェーカはザプリェットにこう告げた。


「こっちだって首席のプライドがある……勝つのは私だ。それだけは覚えといて。」


ラチェーカは席を立ち、ザプリェットの元を去っていった。




 嵐が過ぎ去った格好になり、ザプリェットは息を吐いて座った。


「何様なの、って聞きたいのはこっちだっての……勝手に絡んどいてそれはないでしょうよ……」


愚痴を溢しながら食事を再開していくザプリェット、フローティアはフォローをした。


「まあまあ、ザプちゃん……ラチェーカさんは()()()()()()()()()()だから……内心負けてられない、って思ってるんだと思うよ?」


「……関係ないね。別に意識もしてないし。ただ……やるからには負ける気は私も一切ない。とにかく今の私がやれるだけのことはやるし……完全に抑え込めるようになるまで鍛えるしかないからね。」


「アハハ……どうやら傲慢にはなってないみたいだね、その感じだと……」


()()()()()()調子乗ってる場合じゃないよ。まだ始まったばかりだもん、私の戦いは。」


表情だけを見れば、ザプリェットが深く何かを変えているわけではなかったが、フローティアには見えていた。


内なる闘志が宿っている、と。

アムールに関しては若干仄めかしていますが、ザプリェットとは深い関係になっています。

それは第3章で明らかになりますので、お楽しみにしていてください。

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