第7話 ザプリェットの独壇場
第1章終盤の場面なんで、ザプリェットの無双っぷりを書けたらいいかなー、って感じです。
一方その頃、ネイウッドとザプリェットを追っていたフロイドとフローティアは。
「クソッ……!! まさかナビが追いつかないなんて……!! 完全に見失った!!」
ネイウッドとザプリェットを森の中で見失い、精霊に発見を託すしかなかった。
フロイドもフローティアも決して運動神経が悪いわけでもないし、2人とも身体能力は低いわけではない。
それでもネイウッドは大人の身体能力、ザプリェットは天性の身体能力を有していたため、見失ってしまうのも無理はない。
「しょ、しょうがないよ、フロイド君……あの2人が速すぎるだけだって……」
フローティアは走り疲れたのか、肩で息をし、手を膝に突くくらいである。
フロイドの額にも汗が噴き出していた。
「とにかく見つけないと……こんなんで遭難なんてしてたら先が思いやられるから……!! というか、フローティア、今はどう!? なんか進展あった!?」
フローティアはちょっと待ってね……と言って魔法陣の円内の精霊視界をフロイドに見せる。
「……なにこれ、鉄の建物??」
フロイドがそう呟いた。
生い茂る木々に聳え立っている不自然なほどの鉄鉄しい建物がポツンと一軒。
2人は顔を見合わせた。
ここにいるだろう、と。
「フローティア、こっからどれくらい??」
「走ったら北西に5キロくらいだから……30分は掛かると思う……」
「なるほどね……オッケー、フローティア。僕におぶさって。」
「……え……へ!? いいの!?」
フローティアは顔を赤くした。
何せ男子に触れることすらも初めてで、ここら辺の純情乙女なのは仕方ない。
だがフロイドは冷静だった。
「この状況でそれ以外に理由はないでしょ? あとは僕に任せて。」
フロイドはフローティアを背に担ぐ。
そして、緑色の魔法陣と赤い魔法陣を足下に生成した。
「『噴炎』で両足から火を噴かせて……しっかり捕まっててよ!? もうすぐで魔法が出るから!!」
「う、うん!!」
フロイドが掛け声を掛けると同時に、足元から突風が吹き荒れた。
「さて……一気に行くよ!! 『竜巻飛翔』!!」
バヒュン!!! という勢いでフロイドとフローティアは飛んでいった。
同時に燃えるフロイドの足が勢いを増し、推進力が生まれている。
風に乗られながらもフロイドは空中で平泳ぎをするかのように蹴り上げて少しでも時間を短縮させる。
3分後、工場のような「虎の威を借る者」のアジトへと到着した。
「……ハア……ハア…………久しぶりにこんな大技を使ったから疲れたよ……」
どうやらフロイドからしてもギリギリだったようだ。
フローティアに至っては、船酔いに遭ったかのようにへたり込んでしまっていた。
「うぅ……気持ち悪い……時折グルグル回るからフロイド君が頑張んなかったら何回落ちるかと思ったよ……」
「とにかく……休んでる暇ないからさ、早く突入しよう……ザプリェットが心配だからね……」
「そう、だね……ザプちゃんを見つけないと……」
2人は疲労に鞭を打ってアジトへと突入していったのであった。
一方ザプリェットは。
ボスが呼び寄せた無数の部下に囲まれていた。
「ハッ………ガキがノコノコ来たようだが……俺たちを舐めんじゃねえぞ……? ウチはテメエらガキの魔法師に負けるくらいなヤワじゃねえさ……」
ボスは強がって開き直る。
だがザプリェットは、この100人はいるであろうワルを前にも全く動じる様子を見せない。
むしろ笑っていた。
「へー……一丁前に人を集めてたようだけど……さっきのを見てそれならさ、アンタ……ホント、バカじゃないの? ただのエサだよ、私にとってのね?」
余裕の表情で煽る。
ボスは魔法を撃つように命じた。
「クソッ……!! 撃て! 撃ちまくれ!!!」
多種多様な魔法の一斉射撃がザプリェットに迫り来る。
だが、ザプリェットは冷静にこれを避け続け、左の階段に向かってダッシュを仕掛ける。
「『魂喰い』。」
ザプリェットは魔法を躱しながら、高速で魔法陣を次々と錬成していく。
そしてザプリェットの手に触れた者達は、次々にマリオネットの糸が切れたかのように崩れ落ちていった。
この技はザプリェットの得意にする技で、触れた者や属性魔法弾に当たった動物の命を一瞬で奪い、「魂」としてザプリェットの中に吸収するという技である。
ザプリェットは戦闘時、この「魂喰い」をどれだけ使えるかで戦局を左右するくらいには一撃必殺の威力を誇っている。
ただ、自身と戦闘能力や魔法値を上回る相手には、まるで効果がないのが致命的な弱点なのではあるが。
ザプリェットは上のフロアを走りながら一周し、次々と魂を奪っていく。
ザプリェットは下のフロアに降りる頃には、もう述べ50人もの命をいとも容易く刈り取ってしまったのであった。
「クッ………このドルムンガ、不覚ではあるが逃げるとするぞ……」
ボスの名はドルムンガ、と言うそうだ。
だがザプリェットは逃がすわけにはいかなかった。
次々と「魂喰い」を逃げようとした部下に正確に撃ち込み、動きを止めた。
「……意地でも逃さねえ気か、クソガキ……」
「当たり前でしょ? 潰すって決めてんだから。」
「このっ……!! そこを通してもらうぞ!!」
「……ったく、ホント懲りないなぁ……ま、だけど……絶望は見せてあげるよ。『魂の贈与』。」
ザプリェットは魂の一つを、ある死体に解き放った。
魂は吸収され、死体がゾンビの如く動き始めた。
「なっ………!! なんだぁ!?!? 急にネイウッドの死体が………!!」
当然、ネイウッドには意思などとうにない。
ただザプリェットの思いのまま、動いているだけに過ぎない。
「さあ……!! 地獄絵図の始まりだよ………!!」
ザプリェットは高尚な声でネイウッドを魔力で動かし、仲間だったはずの部下に襲わせた。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図と化す中、フロイドとフローティアが到着した。
「ザプリェット!! 無事かい!?」
必死の形相でザプリェットに問いかけるフロイド。
だが、当のザプリェットは淡々としていた。
「ん? まあヨユーですけど?」
「ちょっ……!! ザプちゃん、今どういう状況!? てかネイウッドだよね、アレ!?」
フローティアが見たのは、ネイウッドが突如寝返り、部下を襲っているシーン。
だがこれはただ単にザプリェットの演出に過ぎない。
動かしているのがザプリェットなのだから。
「どうもなにも……こういう状況。しっかし、いいコマだわー……頑丈だからなかなか魔法食らっても壊れないし。」
ザプリェットはサラッとした顔で説明を簡潔にした。
だが、慌てふためく中でドルムンガは反撃をした。
「舐めおって、このクソガキが……!! 喰らいやがれ!!」
ドルムンガは念魔法で瓦礫を浮かせ、ザプリェットに向かって攻撃を仕掛けた。
だが、ザプリェットはこれを物ともせず、魔力も何もない右ハイキックだけで瓦礫を粉々に砕いた。
「……ホント、最後までアホな男だったなぁ……これが麻薬組織の元締めだなんて聞いて呆れるよ。」
ザプリェットはそう呟くと同時にネイウッドを動かし、ドルムンガの上にのしかからせた。
そして、取り込んだ魂を3つ追加でネイウッドに付与する。
「き……!! 貴様…………!! 我々に喧嘩を売ってただでは済むと思うなよ……!!」
「……我々、ってなによ、オッサン………ああ、言い忘れたけど……魂は爆発するからね? その代わりにもうその魂は使えなくなるけど。」
「……は???」
ドルムンガは思考が止まり、唖然とした顔になる。
だがザプリェットは小さい魔法陣を作って指を鳴らした。
「爆ぜな、信頼していた部下と一緒に……『魂の放出』。」
ネイウッドの身体が光に包まれた。
ドルムンガは目で残っていた部下に合図を出した。
部下が走り去って部屋から出た瞬間、ネイウッドがもう、爆発寸前までに熱を帯びた。
「ぬわアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
刹那で閃光が放たれたと同時に、ネイウッドの身体が大爆発を起こし、ドルムンガを彼の断末魔と共に木っ端微塵にしたのであった。
犯罪組織をたった1人で圧倒してみせたザプリェットだったが、どうも本人の顔は浮かない。
「………まだ終わってないな、これは……」
「ザプリェット……君は……まだ納得してないのかい?」
「いや、違うよ、フロイド……組織を壊滅させられたのは大きいけど……1人逃がした……嫌な予感がする、このままだと……」
「……どうかな? 流石に裏はないだろうとは思いたいけど……」
ザプリェットの凄さをフロイドは目の当たりにし、ザプリェットに掛ける言葉が見つからず、言葉をついつい選んでしまっていた。
「さ、帰るよ2人とも………って、フローティア、どうしたの、手をフーフーして?」
フローティアは掌をザプリェットに見せた。
「あのさ……爆発に巻き込まれたら悪いかな、って思ったから一応防壁を張ったんだけどさ……!! なんとかならなかったの!? 威力!!! めっちゃ痛いんだけど!!!」
「??? よく分かんないけど……フローティアの魔法って、痛覚と同接してるわけ???」
「そう!! それで魔法の威力を判断するの!! でもそれを差し置いてもザプちゃん、めちゃくちゃ痛いんだけど、なにこれ、ホントに!!!」
ザプリェットは、なるほど、合点がいった、そう思うと同時にやりすぎたな、とも思っていた。
ペルセウス先生にも報告しなければな……ザプリェットはそう思いながら寮に帰還していったのであった。
次回は第1章の終了です。
今回の登場人物紹介、今回はペルセウス先生です。
ペルセウス・メドベージェフ
36歳
サダムパテック魔法学院1年H組担任・魔法考古学教師、魔法薬学教師(上級生のみ)
ワクスモ・フリーレン区出身
下級貴族・メドベージェフ家長男
7月4日生まれ
O型
使用魔法:光魔法・回復魔法・使役魔法『忠誠』
183センチ76キロ
好きな食べ物:ゴルゴンゾーラチーズ、ワイン
趣味:タバコ、薬学の研究、歴史を調べること
ザプリェット達のクラスの担任で、ボサボサの黒髪と無精髭が特徴の教師。
また、ザプリェットの最大の理解者でもある、魔法にはとことん精通している男。
研究者でもあるため、普段から白衣を着用している。
ザプリェットの入学に反対する教師も多い中、ザプリェットに将来の素質を感じ、「自分が3年間彼女を受け持つ」という条件で入学を許可されるほど、学院内でも異端且つ嫌われる側面はあるものの、理事長からは信頼されている。
無愛想で口も悪いが、ザプリェットに関しては娘のように気にかけており、事あるごとにサポートをする、本作序盤から中盤にかけてのなくてはならない存在である。
学校の固定観念を嫌う、解放的な考え方も持っているが、それ故にH組しか担任を受け持ったことがないほどの「ワケあり請負人」でもある。
試験官を務めることも多く、入学試験のザプリェットの手抜き受講を即座に見抜くなど、観察眼にも優れていて、「正しい数値」に拘る、研究者的な一面も所々で覗かせていたりもする。
戦闘では攻防一体でバランスが取れており、魔力値は約25万。
また、特殊魔法の使い手でもあり、「忠誠」を使うことで相手を強制的に自殺をさせたり、味方に使うことで戦力を100%まで鼓舞し、引き出すことで、味方では頼もしく、敵からすればこれほどまでに厄介な存在はいないだろう。