第5話 「囮はフロイドで」
3人が作戦を立てていく回になるんで、会話メイン。
翌日。
放課後の店が閉まっている食堂にて、ザプリェット、フローティア、フロイドがネイウッド及び密売組織・『虎の威を借る者」を討伐するために作戦会議を開いていた。
「……本当にやるんだね? ザプリェット。」
フロイドはザプリェットに最終確認を取る。
「当たり前でしょ。私に危害が及ぶならまだしもさ、学校にまで麻薬が浸透して行ったら色々ヤバいでしょ? だから私が止める、そのために2人に協力してほしい。」
「……とりあえず今日は偵察に行くかい? いきなりやるのは流石に無鉄砲すぎる。」
「そう……だね……うん、フロイド君、怖いけど一緒に行こう……?」
フロイドに対して緊張しているのか、フローティアの声はザプリェットと2人でいる時より格段に上ずっている。
「だね。『己を知り敵を知れば百戦に危うからず』……その精神で行こう。まずは……アレか、寮のおばさんに外出届、出さないとね。」
ザプリェット達は、寮にて外出届を出し、ワクスモで偵察に向かったのであった。
こういう時に、フローティアの精霊魔法が役に立つ。
ワクスモで買い物をするフリをしながら偵察に出した精霊が出す情報を待った。
「……なかなか現れないね……」
「偵察はそんなに単純なものじゃないよ。大事なのは忍耐力。じっくり待とう。何があるか分からないのが偵察だからね。」
「……そうだね……フローティア、今どう?」
「うーん……精霊さんの情報はまだ来ないけど……手配書は記憶させた上でやってるからなぁ……」
「……まだ現れてない、ってことか……とはいえ帰る時間が遅くなったら授業に影響しちゃうしな……」
「ハハ、仕方ないよ。それを承知で偵察にまずは行こう、って僕が提案したんだから。」
フロイドの言うことも尤もで、3人は黙ってネイウッドが現れるのを待った。
2時間後。
午後10時になった。
流石に眠気も襲ってくる頃だったので、早く終わらないか……という感じだった。
と、その時。
フローティアの魔法陣が発光した。
どうやら見つけたようだ。
「!! ここから3軒先の居酒屋さん!!! しかもかなり大手の……!! 貴族………!?!?」
「!? フローティア、どういうこと!?」
名家の子息としての誇りを有しているフロイドが、フローティアの言葉に驚愕し、詰め寄る。
「うん! 今精霊さんの視界を送るね!?」
フローティアは魔力を強め、魔法陣の円の中に映像を送った。
そこにいた取引相手は。
「………!? 待って、アレ……名家の『ペルディア家』の……!!」
「ペルディア家??」
貴族の事情には疎いザプリェットがフロイドに問い詰める。
「僕のアルカーツ家にも並ぶサダムパテックの貴族の名門だよ……!! しかもこの学校の生徒、ペルディアの次女は僕らの一学年上だ……!! もしこの事が知れ渡っていたら……!!」
フロイドが青ざめた格好になった。
しかも映像を見る限り、麻薬をさも当たり前かのように躊躇いなく受け取っていた。
「……多分常習者だね……知らない間に麻薬に脳が侵されているはず……というか、ルームメイトは気付いてるの? これ……」
「わからない……でもどうすれば……」
「名家の娘だから……殺すのは問題だよね、これ……かといって野放しにしたら『名家の娘がやっているから』という理由で他の生徒にも波及しかねない……」
フロイドとザプリェットの2人は頭を悩ませた。
危険だという事は承知の上だったが、優先順位をどちらにするべきか、を考えていた。
だが、ここでフローティアが意外な提案をした。
「でもさ……まずはネイウッドを捕まえるのが先でしょ? ペルディア家はその後でいいと思うんだけど……だってさ、前後関係が明らかになれば……流石にペルディア家の当主様が黙ってないと思うよ?」
これにフロイドとザプリェットが目を合わせ、合点がいったような顔をする。
「……確かにね……ごめん、フローティア。僕が間違っていた。名家のメンツを気にしすぎていた。」
フロイドが謝罪をする。
ザプリェットも当初の目的を忘れるところだった、とフローティアに謝った。
「……明日、食い止めよう。これ以上被害者を増やすわけにもいかない。」
ザプリェットは改めて誓った。
「そうだね……!! 絶対にネイウッドを倒す!!」
フロイドも決意は固かった。
「……でさ、フロイド……アンタに提案があるんだけどさ、夕方言えなかったヤツ。」
「うん、言って?」
「ネイウッドは女子に構わず声を掛けてたから……フロイド、アンタが女装して囮になって。」
「……………は????」
フロイドはザプリェットの提案に、開いた口が塞がらない、といった格好で唖然とした。
「いやいやいやいやいや、待って待って、ザプリェット、それは聞いてない。そもそもなんで女装しないといけないの? 僕が。」
「だって今日わかったのがさ、フローティアは私以外だと緊張しいだし、私も速攻で殺してしまうかもしれない……だからフロイドが最適解なんだよ、囮は。だってその後で密売組織も叩かなきゃいけないんだからさ?」
「……一応ザプリェットの魔法も聞いたけどさ、僕は。だからってそこは女の子がやるべきじゃないの!? 僕だって魔法には自信があるよ!! それでも僕じゃなきゃダメ!?」
「ダメ。」
「なんで!?!?」
「だって私たちよりも“女の子”してるのにさ、ああいうオッサンが間違えないわけないでしょ。スラックスを履いてなかったら女の子に普通に見えると思うんだけど、客観的に。」
全力で拒否するフロイドと、女装が絶対似合うから、とゴリ押しをするザプリェット。
どっちも一歩も下がらない。
「うん……私もフロイド君が囮で誘うべきだと思うなぁ……」
「フローティアまで!?!? なんで!?!?」
「だ、だって……か、可愛いし……ウチのクラスの女の子もさ、言ってるよ……? フロイド君が自分達よりも可愛い、って。」
フローティアは緊張しながらもフロイドにクラスの事情を明かした。
女の子に見られる事が悩みだったフロイドは、ついに根負けをした。
「あー、分かったよ!! やればいいんだろ!? だったら僕が囮で引きつけるよ!!」
大赤面しながらも、フロイドは囮役を引き受ける事になるのだった。
「決まりだね。じゃあ囮はフロイドで。じゃ、明日の夜集合ね、玄関で。制服は私のを貸すから。あと下着も。」
「下着まで!?」
ザプリェットのさりげないオチの付け方に、フロイドはツッコミが追いつかなくなっていたのであった。
そして翌日の夜。
ザプリェットは私服で、フロイドは無理やりザプリェットの制服に身を包んだ。
「おー、似合う似合う。想像以上。」
ザプリェットは、可憐な容姿をして佇むフロイドに関心をしていた。
「これじゃ、タダの変態だよ……!! なんで名家の息子がこんな事を……」
スースーする足元を必死に手で抑えながらフロイドはモジモジとしていた。
「うん、仕草も完璧。これで去勢してたらさ、ほぼ完全体の女の子になるのにね。」
「去勢前提なの!?!?」
そのままでいれば、ボーイッシュな女の子でも通りそうなくらいにフロイドは可愛い。
ザプリェットは真顔でそう言ったものだから、フロイドもツッコミが自然とストレートなものとなってしまう。
「ま、これくらいやれたらあとは大丈夫そうだね。とりあえず指定の場所まで誘って。路地裏で私とフローティアは待ち伏せるから。」
「……頑張らせていただきます………」
フロイドはガックリとしながら、なんとか役割をこなそうと声を振り絞った。
ネイウッドを罠に嵌めるために、3人は行動を開始したのであった。
ザプリェットとフローティアは、予め路地裏へと行って精霊魔法でフロイドの姿を捉えながら、その時をじっくりと待ったのであった。
次回はネイウッド戦。
登場人物紹介、今回はフロイドです。
フロイド・アルカーツ
15歳
王立サダムパテック魔法学院1年A組
上級貴族「アルカーツ家」三男
使用魔法:炎魔法・風魔法・地魔法・雷魔法
12月24日生まれ
A型
170センチ 54キロ
好きな食べ物:野菜サラダ
趣味:カードゲーム(トランプ等)
本作のヒーローだが、半分は「ヒロイン」的な立場。
色白で赤い髪、大きくぱっちりとした黒い目をしているので、初見ではほぼ間違いなく女子と間違われる。
本人はそれを気にしており、使用人や兄にも実家で揶揄われるほどの可憐な容姿である。
魔法値は「58302」で、まだまだ成長途上。
ザプリェットが他のA組のクラスメイト(特にラチェーカ)と衝突しがちなので、仲裁役に度々なっているので損な役回りが多い。
基本的に社交的な性格で、情報収集が得意だが、争い事は基本的に嫌い。
しかし貴族及び名家の誇りは人一倍持っており、庶民には心優しく、またメンツも重んじる。
多種多様の魔法を放てるため、それを活かしたコンビネーション系の戦闘スタイル。
実はザプリェットに初見の段階で好意を寄せている。
次回はラチェーカを紹介します。