第35話 行きすぎた正義
正義の対義語=悪、という考え方ではないですが、アムールの価値観と、それを間違っていると斬る娘・ザプリェットの姿を書ければいいかな、と思います。
ザプリェットが魔法を放ち、アムールも負けじと魔法を放っていく。
真っ向勝負になると、両者互角という形になっていた。
それだけザプリェットが成長したとも言えるし、アムールの魔法には致命的な弱点があった。
それは、「生命の移動』は、“自分の生命力”を代替えして魔法を放つため、普段はセーブしなければいけない魔法だ。
アムールは娘を倒すためだけにリミッターを解除していたため、威力も大きくなるが同時に魔法の消費量も激しくなっていた。
それがボディーブローのようにジワジワと、アムールを、ザプリェットが粘れば粘るたびに追い込んでいった。
だがそれでも、今のザプリェットでは凌ぐのに手一杯となっている。
(やっぱり強い………!! 正直言ったら魂を使いすぎる………!! 父さんの攻撃を凌ぐだけでも集中してないとやられる………!!)
(たった一か月でここまで変わるか………しかし何故だ? 何故私がこうも苦しまなければならない………? たかが16の女に!!! 私の娘に!!!)
アムールは両手を構え、特大の魔法を放つようである。
「私は正しいことをしているのだ!! こんなところで負けるわけにはいかないのだ!!!」
なにやら吼えながら、魔法を放つ。
「『生命の放出』!!!」
まるで電撃波のように、ザプリェットに向かって魔法が放出された。
ザプリェットは避けきれない_____そう感じ、身体を丸めて受け止めた。
だが、倒れるわけにはいかない、そう奮い立たせ、身体が痺れながらも必死で耐える。
「………何故倒れない………!? たった1人の小娘に………!! 何故効かぬ!! 私はサダムパテックをより良き国にするために闘っているのに………!!」
アムールは根性を見せるザプリェットに明らかに動揺していた。
ザプリェットは顔を上げ、こう言った。
「父さんは強いよ………だけど………私は父さんに負けない………!!」
「なんだと………?」
「そう言い切れるのは………父さんの正義が行きすぎているからだ………全部間違ってるからだ………!!」
ザプリェットはそう言い、大きくアムールの元へと踏み込んでいった。
そして魔法を纏わせた拳で、アムールの顔面を殴り飛ばした。
「気持ちは分かる………でも、だからと言って人を無差別に殺していい道理なんかない!!! 私はそれを止めに来たんだ!!!」
「ザプリェット………綺麗事で国は変えられない………!! いつかお前もそれに直面するだろう………私は何も間違えていない!! 私はこの国のために立ち止まってはいられないのだ!!!」
アムールは自身の魔法を、巨大な腕状に型取り、ザプリェットを握り潰そうとした。
「………やっぱり殺さないとダメだ………」
ザプリェットはそう呟き、「魂の贈与』を放った。
アムール魔法を、魂が網のように絡まり、ザプリェットが手を握ると、みじん切りのようにアムールの魔法が粉々に砕け散った。
「なっ………!! 私の魔法が………!?」
「やっと分かった………父さんの本質が………」
ザプリェットは娘の情を醸しながらも、表情は冷徹そのものになっていた。
「父さん、貴方は………ずっと独りだったんじゃないの? 去年までの私と同じように………」
「何が言いたい………?」
「貴方の心には………幸せと安らぎが欠如してる………でも私は………ここまで来れたのも、学院のみんながいてくれて、支えてくれたからだ………だからもう、終わらせる………貴方と関わってると、ただただ心が痛くなるから………!!」
今の自分が放てる最大魔力をチャージするザプリェット、どうやらここで決着をつけるようだった。
「自惚れるな、ザプリェット………お前に私は殺せない!!」
アムールも上等、と言わんばかりに持てる全てを使い切るようだった。
「お前を葬って私は先に進む!! 『生命の放出』………『消滅の光砲』!!!!!!!!」
「止めてやるよ、父さん!! 『魂の放出』…………!! 『破壊なる起源』!!!!!」
互いの最大魔力が正面衝突し、火花が弾け飛ぶ。
「「ウォォォォォォオォォォォアアオアオォォォォオアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」
咆哮を互いに放ち、拮抗している魔法力を押し戻さんとする。
その瞬間、大爆発を引き起こし、2人を飲み込んでいったのであった。
30分後、ザプリェットは失っていた意識を取り戻した。
「う………うぅ………ん…………なにが、どう、なって…………」
身体を起こすものの、ダメージが深いのか、思うように動かなかった。
「………父さんは………どう、なって………」
頭から流れてくる血を拭いながら、アムールのことを探した。
数秒歩くと、アムールが仰向けで倒れているのが見つかった。
「と………父さん!! 父さんッッッ…………!!!」
ザプリェットがアムールの名を呼ぶ。
久しぶりに思い出した父の顔を見て、ザプリェットの目から涙が溢れた。
すると、アムールは意識を取り戻し、目を開けてザプリェットの方を見やる。
「………久しぶりに、娘の顔を間近で見たな………大きく、なったな………ザプリェット………」
アムールは身体を起こそうとしたが、ザプリェットにそのままでいい、と制止される。
「私の最期が………娘に看取られて死ぬ、か………まったく、こんな私にも、見捨てないでいてくれる者もいたものだな………」
ザプリェットは難しい顔になる。
幼少期に少しばかりしか遊んでもらえなかった記憶があるのみの父との思い出だったが、頭がグチャグチャになりそうでザプリェットは心が痛くなった。
「………父さん、いろいろ聞きたいことがある………」
ザプリェットは必死に感情を堪え、こう問う。
「なんで………テロなんてやろうと思ったの………? 父さんのことは正直そんなに覚えてたわけじゃない、でも私たち家族の元を去ってまでして………する必要があったの………??」
「そうだな………話せば長くなるが………私なんぞの辞世の句を、聞きたいか………?」
「父さんに正義があるのは分かる………でも行きすぎる必要性がなかったと思うから………」
「………まあ、そう思うだろうな、普通なら………いい娘を持ったものだ、こんな碌でなしから、よく生まれたものだよ………」
アムールは自虐を込めて、軽く笑う。
そしてすぐ、一息吐いた。
「私はサダムパテックの元軍人だった………内部での評価はまあ………それなりにはあったし、真面目に任をこなしていたという自覚はあるさ、だがな………9年前のある日のことだ。」
「………何があったの………?」
「私が国と軍を追われるキッカケになった日になるのだが………ある貴族を賄賂の罪で捕らえ、取調べをしたところ………不正受給に左大臣が関わっていたのだ………私はそのことを問い詰めた。だが現実は残酷だったのだ…………」
アムールが語る9年前の失踪の真実を、ザプリェットはこの後知ることになる。
ザプリェットは本質的には優しい性格なので、アムールのことにも同情したりしています。
次回はアムールが歪んだ理由を書くと共に、ザプリェットのある決断が、第二幕のことにも影響してきます。
それで「遺志継承編」は終わりです。
次回もお楽しみください。




