第27話 受け入れきれない事実
ここから2話は、ザプリェットの苦悩を書きたいと思います。
挫折から立ち直るためには、苦悩も必要だと踏まえた上ですので、理解願います。
目が覚めたザプリェットの視界に飛び込んできたのは、石膏で出来た天井と、ペルセウスの姿だった。
「………気付いたか、ザプリェット…………」
「………先生、ここは………?」
ザプリェットは状況が飲み込みきれておらず、身体を起こそうとしたが、右の肋骨に痛みが走る。
小さく呻くザプリェットに対し、ペルセウスは溜息を吐いた。
「………病院だよ、病院。まったく、無茶しやがって………」
「………?? あの、まったく覚えてないんですけど………ここに来るまで………」
ペルセウスはピクっとなった。
意識を失っていたので、覚えていないのも無理はないのだが。
「………フロイドが運んだんだよ、テメエを。っとによぉ………棄権の手続き、大変だったんだからな?」
「!? じゃ、じゃあ大会はもう………!!」
「もう1日経ってるっての、大会からよぉ………」
「…………〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」
ザプリェットは無力感に打ちひしがれる。
そこまでにモチベーションを保っていただけあったので、棄権と知り、悔しさも滲み出していた。
「………まったく、こっちゃあ色々苦労してたんだ。死傷者の確認と………会場の早急な復旧とでな。その死傷者の中にフローティアがいた、傷口のわりに眠ってるような顔で死んでいやがった………」
フローティアが無事見つかったことを知り、安堵の顔と、悔しさをまた滲ませるザプリェット。
ペルセウスは更に問い詰めた。
「…………お前よぉ、まさかとは思うがその現場にいなかったか………? フローティアに戦闘能力は皆無、にも関わらず、テロリストが大量に死んでいた………魂が抜かれているような格好で、な。それで俺がお前を見かけた時には怒りで我を忘れているように見えた。だから聞きたい。ザプリェット……フローティアに何が起こった? 死因を把握しておかねえと………家族に報告が出来ねえからな…………」
ペルセウスの言葉を聞き、ザプリェットは脳裏に浮かべていた。
フローティアが致命傷を負う、それを目撃した瞬間を。
涙声になりながら、ザプリェットはゆっくりと、何が起こったかをペルセウスに語ったのであった。
嗚咽を漏らしているザプリェットから話を聞き終えた後、ペルセウスはタバコを一服する。
未成年の前でタバコは教育上良くないだろうな、ということはペルセウスも考えたが、本人なりの気持ちの鎮め方なのだろう、ゆっくりと息を煙と共に吐き出した。
「………事情は分かった。そりゃあ辛えよな、大事な友達を亡くしたからな………目の前で。」
ザプリェットは返事をする、というよりも涙ながらに頷くことしか出来なかった。
事実を受け入れきれないでいるザプリェットではあったが、フローティアの魂自体は彼女の中に眠っている。
ザプリェットの中では「生きている」といっても過言ではなかった。
「………親御さんにもそれは報告しておく。だがな………お前のことは言わない。フローティアの頼みとはいえ、命を完全に絶ったのはお前だろ、ザプリェット………お前を守るためだ、貴族の家に下手なことを言えば何をされるか分かったものじゃねえさ。」
「………多分フローティアも………先生と同じ立場なら…………そう言ってると思います………」
「………心優しいヤツだったからな、よく分かるぜ………」
「………あと、先生………調べて欲しい男が………」
「あ………? なんだよ、急に。」
「………『アムール・トカシェフ』を調べてもらえますか………? アイツ、私のことを知っている口振りをしていた………だから…………何者なのかを知りたいんです………」
ペルセウスは顔を濁らせた。
アムールのことを何か知っているような表情であるように思えた。
「………わかった。理事長に頼んで………国の方で調べてもらうことにする。しかしまさかなぁ………アムール少佐が、か………」
「………先生………?」
「………なんでもねーよ、今のお前には関係ねえことだ。とにかくだ、今は好きなだけ泣け。今のお前の魔力値を測っておくついでにアイツのことも調べておく。サダムパテック屈指の重大犯罪者、だからな………」
そう言って、ペルセウスは病室を出て行った。
ふと見ると、ベッドの懐にはザプリェットが着けていた赤いカチューシャが置いてあった。
「………そっか………フローティア…………もう、いないん、だよね………」
手に持ち、握りしめて、ジッと見つめた。
ザプリェットは、フローティアとの思い出を回想し、すると涙で視界がボヤけた。
フローティアを救えなかったこと、そして想いを託されたにも関わらず、仇であるアムールを討てなかったことを悔やんでいた。
ザプリェットは溢れる涙を止めることができず、一晩中泣き腫らしたのであった。
2日後に退院し、寮に戻ったザプリェットだったが、精神的ダメージが大きく、食事も碌に喉を通らないくらいに落ち込んでいて、独りになった寮に閉じこもってしまった。
何も手につかず、布団の中で寝転がる時間だけを過ごしていたザプリェットだったが、夕方になってドアをノックする音が聞こえてきた。
重い身体で起き上がり、ザプリェットがドアを開けるとそこには。
神妙な表情をしたラチェーカがいた。
「………な、なんでラチェーカが………???」
ラチェーカの突然の風の吹き回しに困惑の色を隠せなかったザプリェット、ラチェーカは大きな目の隈が出来たザプリェットを見て、溜息を吐いた。
「………ハア、ホント何やってるのよ貴女は………こういう時くらい、身なりくらい整えなさいよ、みっともない………」
ラチェーカの言うことは正論もいいところだったので、流石のザプリェットも反論しようがなかった。
「ご、ゴメン………」
「ホント、心配してるのよ、貴女のクラスだけじゃなくて………他のクラスの皆んなも。いいから入れなさい。私もそのクチだから。」
ザプリェットはラチェーカを招き入れ、ベッドに座らせた。
そしてこの後、ラチェーカはザプリェットに思いもよらない言葉を投げかけることになるのである。
次回はザプリェットがラチェーカに檄を入れられる回です。




