第1話 禁忌の少女
新年あけましておめでとうございます。
2022年もよろしくお願いします、黒崎吏虎です。
この度は新作として、「魔法学園もの」を書いてみました。
どうなるかは僕も正直分からない部分があって、めちゃくちゃ未知数なんですが、本気でやりたい作品ですので、力を貸してくださるとありがたいです。
というわけで、「禁忌の死霊術師」をよろしくお願いします!!!
地球の北側にあるサダムパテック王国。
「禁忌の死霊術師」と呼ばれ、恐れられる世界最強の魔法師がいた。
彼女の名は「ザプリェット・トカシェフ」。
彼女が如何にそう呼ばれるまでに至ったのか、過去を遡って見ていこうと思う。
彼女が「世界最強」と呼ばれるその7年前の3月。
「王立サダムパテック魔法学院」の入学試験が行われていた。
内容は至って単純で、「魔力値」と「錬成速度」、そして「属性の多さ」……これが決まるのだが、「属性の多さ」に関しては「炎・水・雷・氷・風・地・光・闇・念・回復」……これに該当していなければ、どれほど「魔力値」が高くとも、「錬成速度」が速くとも、8つあるクラスの内の最低ランクである「H組」に入れられてしまうのである。
つまり、H組に分けられる面々は、例外なくワケアリか、落ちこぼれかの二つに一つである。
魔法の弾を魔法陣から生成して、的に向かって解き放っていくのだが、一人一人に試験官がちゃんと付いているので、手抜きは許されない。
次々と結果が出て、15歳の生徒は一喜一憂する、だがしかし全員が全員入学できるわけもなく、あまりにも酷かったり、そもそもの話で魔法が使えなければ落ちるのみだ。
そして、その時は来た。
黒いボサボサの髪に無精髭を生やした白衣を着た教師・『ペルセウス』がその名を呼んだ。
「試験番号5217!! 『ザプリェット・トカシェフ』!!」
ザプリェットと呼ばれたその少女は、腕を後ろでグイーーーーっ、と持ち上げながら魔法を放つ台に立った。
銀髪の首くらいまでのセミロングの髪に加え、澄んだ青い目が特徴の、一見するとどこにでもいそうで居ないような少女だ。
ザプリェットは、左手を突き出して魔法陣を生成する。
一瞬にして円が二重になり、雪の結晶のようなものが、その円と円の間を結ぶかのように創り出される。
ザプリェットは一息吐き、一気に放出したが……
的を破壊するまでには至らない。
そして結果は、というと。
「……1437点。」
ペルセウスが読み上げる。
ちなみに言うと、15歳の魔力値の平均値は約30000と言われている。
最低でも5000は行かないと合格のラインには届かない。
ザプリェットの胸元には貴族の位を示す月のマークが何も付いておらず、即ち「平民」であることを表していた。
他の受験者達は、こぞってひそひそ話だったり、嘲笑を浮かべていたりしていた。
だが、ザプリェット当人はそれを意に介するようなことは全くなく、「まーこんなもんですよねー」と、ヘラヘラした顔を浮かべながら立ち去ろうとした。
だが、ペルセウスに「ちょっと待て」と言われ、首根っこを掴まれた。
「……なんですか? 先生……」
ザプリェットは不機嫌そうな顔でペルセウスに問いかけた。
「お前……手ェ抜いてただろ? なんだ、その両手に付いてる腕輪は。まさか貴様……わざと魔力を抑えていたのか??」
ペルセウスが注目したのは、ザプリェットの両腕に取り付けられていた腕輪。
左手に青い腕輪、右手に黒い腕輪がそれぞれ付いていたのである。
「………なんのことですか? アレが私の実力ですよ〜?」
わざとらしく惚けるザプリェット、しかしペルセウスの追及は続く。
「魔法考古学を担当している俺の目を舐めるな、ザプリェット。どういうわけだ? 説明しろ。」
この言い争いに空気が凍りつく。
しかし、ザプリェット当人は涼しい顔をして、この空気を受け流す余裕を見せていた。
「あー……専門の先生に言われちゃあ、仕方ないですね〜……まあ、単純ですよ。溢れるんですよ、腕輪で抑えとかないと魔力が。あと、試験の要項を読んだら……はい、属性の欄ですよ。私はこれのどの属性も使えない……それに私の魔法は迂闊に触れたら危険が過ぎるので……普段はうっかり使っちゃわないように黒いので抑えているんですよ。」
ザプリェットはとんでもないことをサラッと言う。
これに他の受験者達も騒めき出す。
「……なるほどな。事情は分かった。では、特別に再試験を許可する。この騒めきようだと……他の連中の期待も大きいだろうからな。」
「はいはーい。じゃ、左のを外しますね? 右も外しちゃうと……先生が死ぬ羽目になりますから。」
「??? 理屈は分からんが……お前が未熟だということはわかった。じゃ、台に立て。」
「了解でーす」と言いながらザプリェットは試験台に立った。
ザプリェットは息を吐き、目をガッ、と見開くと巨大な魔法陣をこれまでに無いくらいのスピードで作り上げた。
(!! 予測はしていたが、これ程までに速いか……!! しかも大きい!! これは期待が高まるぞ!!)
ペルセウスは、ザプリェットの結果に胸が躍る。
当のザプリェットは、なんとか制御しようとしていたが、意を決して的に向かって無属性の魔法弾を解き放った。
その魔法は超高速で的に向かって飛んでいき、着弾と同時に岩壁をも破壊した。
他の受験者達が驚愕と唖然で目を見開き、口を大きく開ける中、ザプリェットは堂々としていた。
「……ザプリェット・トカシェフ……『89573点』!!!」
ペルセウスが興奮気味で伝える。
ザプリェット以外の全員が驚愕の表情を浮かべる。
ザプリェットはむしろ、この時はやりすぎたな、と思っていたくらいだ。
一仕事を終えた、といったくらいにザプリェットは左の腕輪を再装着した。
と、そこに、ペルセウスは何やら液体の入ったビーカーを持ってザプリェットの前に置いた。
「ザプリェット、右の腕輪を外せ。お前の属性を調べたい。それの結果を学校に通知するからな。」
「わかりました。」
ザプリェットは二つ返事で右腕の腕輪を外し、ペルセウスに少し離れるよう伝え、属性弾を液体に置いた。
属性弾は液体に溶け出し、色は全体に広がった。
その色は、闇属性の黒とも、かといって紫とも形容しがたい、禍々しい色をしている。
用が済んだザプリェットは右の腕輪を取り付け、ペルセウスは試験管に混合液を入れ、蓋をした。
「……ザプリェット、この結果は合格の可否と共に書面で伝える。たとえ合格してもH組にしかならないが……お前はそれでいいか?」
「まー、別にいいですよー? ……逆にこれだけ人から注目を浴びて入らないアホがどこにいるんですか、って話ですよー」
「……案外目立ちたがり屋なんだな、お前は……まあいい、的を直して試験を続けるから……ザプリェットは家に帰ってろ。合格になれば全寮制になるからな。」
「わかってますよ、それは。それじゃー、失礼しまーす。」
ザプリェットは掴み所のないまま、試験会場から立ち去っていった。
(しかし……アレだけの才能があって何故アイツは平民なんだ……?? もっと上の立場でもおかしくないのにな……ザプリェットは母子家庭らしいが……母親は魔法が使えないらしい、となると父親か……ザプリェット……完全にワケあり物件だが、これでまだ成長曲線がある……間違いない、コイツは『世界最強の魔法師』になる“素質”がある!!)
ペルセウスはザプリェットに素質を感じながらも仕事をキッチリとこなしていき、正確な採点を残る受験生に付けていったのだが、結局ザプリェットの数値を超える受験者が現れることがなく、合格可否の会議を教職員の間で行われることになった。
可否に関しては順調に進んでいったのだが、ザプリェットに関してだけは2時間も揉めに揉めたのである。
魔法学に保守的な考えを持つ教師・キエフは真っ向から反対を出している。
「私はこのザプリェットという受験者の入学には断固として反対致します!! 彼女の入学を認めればいずれ学校に災厄を招くことになります!! しかも落ちこぼれのH組に入れるとなれば……学内の秩序も崩壊しかねない、そういった危険性も孕むのです!! いくら魔法値の素養が高いとはいえ、我々は爆弾を抱えることになるのですぞ!!!」
しかし、ペルセウスはこれに対抗をする。
「キエフ先生のおっしゃられる事も尤もですが……そもそもの問題で属性に優劣を付ける方がおかしいのです。確かにザプリェットの魔法は私が調べたところ、下手をすれば人の命をも容易に奪いかねない、そんな魔法しか使えません。しかしそれは本人も危険すぎると認めるところ……自制は効くはずです。そして彼女の魔法の値を調べた結果、このような結果を叩き出しています。」
ペルセウスは資料を全員に配る。
そこに書かれているのは、魔力値と生成速度の数値が記されていたが、ペルセウスの論文には一つのことが書かれている。
「この資料にある通り……彼女はこの数値でもまだ魔法師として完成途上にある、つまり現在のサダムパテック軍で最強と謳われる『グレゴリー・ラムドバック』将軍を超える逸材です。グレゴリーも入学当初でこのような数値を叩き出していない……つまりは彼女はそれを易々と凌駕し、『世界最強』となれる可能性を秘めている、私はそう考えます。キエフ先生のような、その固定観念だけで彼女の入学を拒否するのは如何なものかと思われます。」
資料に目を見遣る中、ペルセウスは続けた。
「……見てみたくないですか? 我が校のワケあり、落ちこぼれと言われた卒業生が、『世界最強』と呼ばれるようになる瞬間を。少なくとも私は……その姿を一目見てみたいと思います。」
ペルセウスは全教員に向けてそう告げた。
ここで全教職員30人の中で多数決を取り、半々に分かれた。
ペルセウスの賛成派と、キエフの反対派の真っ二つに分かれた。
これで決まらないのであれば、理事長である現王弟・ドリトミー・サルディヤックスがどちらに手を上げるかでザプリェットの合否が決まる。
ドリトミーが出した決断は_________
一方、ザプリェットは実家のある「リムペ村」へと帰ってきていた。
家に帰り、母のカチュアと食事を摂った。
家庭の味のボルシチと、黒パンが置かれてそれを黙々と食べた。
家に父はいない。
8年前に突如失踪したっきり帰ってきていないのだから。
以来、母のカチュアは朝は市場で魚を売り、夜にはスナックを経営して生計を立てている。
「……どうだった? 試験は。」
「まー、ぼちぼち。」
「……そう……そういうところ、あの人と変わらないわね、ザプリェット。」
あの人、とは父のことを言っている。
ザプリェットは父の顔を朧げにしか覚えていない。
だから父との思い出もなければ、母も付き合いたての時しか話さないので、ザプリェットは父の姿はボヤけたイメージしか湧かない。
また、沈黙の時間が流れる。
暖炉の薪が燃える音がパチパチと響くだけに過ぎない。
「……ザプリェット、もし入学することになったとしてもさ、あの魔法は使わないでね? アンタの魔法は……碌なことがないからさ?」
「……わかってるよ、母さん。隠しながらやっていくつもり。」
ザプリェットはそう言って黒パンを齧る。
あとは1週間後の合否を待つだけであった。
母娘と過ごせる時間は短くてあと1ヶ月____ザプリェットは今のうちに準備を整えるべく、食事後に外へ行き、葉も生えていない木の枝から枝を伝う遊びを一人でしていたのであった。
そして1ヶ月後。
ザプリェットはサダムパテック魔法学院の校舎前にいた。
黒い、真新しい制服と共に。
どうやら合格が出たようで、入学が決まったのだ。
ただ、当然のことながらクラスはH組。
しかし、ザプリェットには分かりきっていたことで、それよりも自分のことを知るペルセウスがいることに警戒心を覚えていた。
「……あの人が担任、ってことか……色々口煩く言われるんだろうな……まあいいか、ゆったり楽しく過ごしますかー……」
ザプリェットは入学式に出席するため、校舎の中に入って行った。
そこで全寮制のため、女子寮に案内され、ザプリェットのネームプレートがあるドアを見つけ、ガチャッと開けて入る。
荷物を置こうとした時、黒髪の、ほんわかとした巨乳少女が部屋の中に既におり、ザプリェットに声をかけた。
「あなたがルームメイトの子?」
「うん……そうだけど。私はザプリェット。よろしく。」
少女の胸には、中流貴族を示す月の印が2つ付いている。
ただ、H組を示す黒いリボンがあった。
「私は『フローティア・ルカシェンコ』。よろしくね?」
笑顔が可愛らしいこの少女がルームメイトと知り、ザプリェットは一つ頷き、荷物の封を開けた。
とはいっても私服や替えの下着や靴下くらいしか持ってきていない。
他には小説くらいのものだ。
「ねえ、ザプちゃん。何処から来たの?」
フローティアはザプリェットのことをいきなり“ちゃん”付けで呼ぶあたり、平民を見下す性ではないのだが、物凄く馴れ馴れしい。
推定Hカップの胸が、月のマークと共にぽよん、とザプリェットの眼前で揺れた。
「……リムペ村。」
「えー、そんな田舎から!? すっごいなー……大変じゃない? 何もないしさ? 田舎って。」
「……都会が逆にありすぎてそっちの方が慣れない。」
「アハハ……そうだよね……慣れてないとビックリするよね……って、入学式!! 始まるから早く行こ!!」
フローティアは慌てた口調でバタバタと準備をした。
そんなに慌てなくてもいいじゃん、ザプリェットはそう呟き、制服姿のまま身体を起こしてローファーを履いて入学式のために校舎に向かっていったのであった。
さて、2022年も始まったわけですが、皆様は如何様にお過ごしでしょうか。
今更追放も異世界転生もない魔法学園ものに需要があるかは分かりませんが、年始はこの作品に僕は注力したいと思いますwww
次回はペルセウス先生との再邂逅、そしてザプリェットの学園内のライバルになる人物が登場しますので、お楽しみくださいませ。