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1-5 大宮殿

 そして、馬車は少し閑散とした場所を走ったかと思うと、がたがたと石畳の大通りらしき道を駆け、俺は街並みに目をやった。


 いわゆる木製住宅が主流の中世ヨーロッパ的な街並みではない。

 比較的石作りの建物が多いな。


 くすんだような白や薄い灰色っぽい物が多く、赤っぽい屋根などが激しく目立つ中世ヨーロッパの街に比べると、ここの街並みは少し色合い的に地味に感じる。


 こういう物は結構お金がかかると思うのだが、長い間住宅を使うという考えなのかもしれない。


 あるいは戦争で焼き討ちに遭う確率が高いとか。


 この立派な舗装された広い大通りなどをみるにつけ、ここはおそらく、この国ないし共同体の首都にあたる場所なのではないか。


 この豪華な馬車のような物が走り、この護衛隊のような立派な部隊もいる。地方に行くと、もっと田舎というか、建物なども木製が主流になるのかもしれない。


 あるいは煉瓦ないしは日干し煉瓦という事も考えられる。その地方の環境も影響するのだろうが、この国の国土の広さも影響するのだろう。


 少なくとも、ここは都会に見える。


 石作りなので街全体が暗く地味っぽい色合いかというと、そうばかりでもない。


 窓枠はカラフルな物も中にはあるし、扉の装飾などには明るい色合いの物も使われている。


 飾り布や飾り紐を飾っている建物も少なくない。このあたりはメインストリートなのかもしれない。


 商業区域なのだろうか。

 走っている馬車や駐車中の物も多い。


 馬車を使うせいか、全体的に道は平坦で勾配は緩やかのようだ。


 俺はそういう街が好きだな。

 だって日頃は徒歩か自転車しか使えないんだもの。


 うちの街はまた坂が多かったのだ。 

 よそから引っ越してきた人が皆ボヤくほどに。


 そして、少女は突然俺の着ていたジャケットの裾を引っ張った。

 そして自分を指で差して言った。


「エリーセル」と。

 名前を教えてくれたのだ。


 さっきまでは、それどころじゃなかったしなあ。

 俺も彼女を指差して「エリーセル?」と聞くと嬉しそうに笑ってくれた。


 そして物問いた気に俺を見た。


 俺も自分を指差して言った。

「ホムラ、ホムラ・ライデン」


「ホムラ」


 彼女は俺にあれこれと俺に聞きたそうにしていたのだが、話が通じないので諦めていたようだ。


 護衛の女性兵士も、彼女のそういう行動を特に咎めなかった。


 あの乱痴気騒ぎの後なので、保護した要人の精神状態に配慮したものなのだろう。

 こやつ、出来る!


 そして正面に現れた建物は。


「うわ、もしかして宮殿⁉」


 そこは全面石畳の広場のようになっており、その正面に巨大な宮殿らしき建物が聳えており、その門が大きく開いていた。


 そしてこれは、とてつもなく巨大な施設であった。


「へえ、常時門が閉まっていて警戒されているのではないという事は、警戒の程度もそう厳しくはなく、馬車や人の出入りも頻繁なんだろうな。


 さっきの騒動が、あまりにもヤバかったんでビビっていたんだけど。

 そりゃあまあ一国の首都っぽい街がそこまで物騒だったら困るよな」


 エリーセルは今向かっている壮大な宮殿を指差して、ゆっくりと「エルスパニア・ハリーヤ」と言った。


 おそらく、エルスパニア宮殿とかいう意味なのだろう。


 俺はとりあえず、この世界で初めて人名以外の言葉、行先と思しき宮殿の名前だけは覚えた。


 そして、馬車は数十騎からなる騎馬隊に護衛されながら、左右に十名ほどいる武装した衛士に守られた王宮の門を潜った。


 さすがに誰もフルプレートの鎧などはつけていない。

 あれは重装歩兵や、騎馬兵士というか騎士が戦場で着るものだ。


 さっきの連中は本気の本気で殺しにかかって来ていたという事だ。


 圧倒的な防御力と大剣の力、そして数で押し切るつもりだったのだ。

 あいつら以外に、敵も味方もあんな物は着ていなかったのだし。


 あれを着込んでいたという事は、まさに命懸けの戦場であったのだ。


 あれは装着にも時間がかかるし、あれを着込んでいると、大小便さえも垂れ流しになってしまうものだからな。


「これからどうなるんだろう。

 まさか、こんなところへ連れてこられるとは思わなかった。


 いや、あの要人らしき少女を見ているのだから予想くらいはしておくべきだったのか。

 こいつは心の準備ができていないぞ。

 でも、あそこに置き去りのままだと、それもまた困ってしまうしな」


 たぶん、ここへやってきたという事は、エリーセルはここのお姫様か何かなのだ。


 そして、馬車は出迎えの人々が待つ宮殿の正面へつけられて、俺は嫌も応もなく馬車から降ろされてしまった。


 俺のそのあまりにも無様な心許ない様子を見て、キャセルは鼻を鳴らした。


 言葉を越えて悪意というものは通じるもののようだった。


 そうか、俺の身分が低いとみて、こいつはこういう態度を取るのだ。


 くそう、俺は世の中には味方からの誤射っていう物があるという事を、あの戦闘中に、こいつの体に教えておくべきだった。


 だがそんな事になっていたら、俺も残りのカラフルなアマゾネス連中に速攻で殺されていただろうしなあ。


 この宮殿の出迎えでもエリーセルは非常に丁重に敬わられていた。


 そして例の隊長とキャセル、それに侍女らしき生き残った女性、俺とエリーセルの五人は案内人の女性の後について宮殿の内部を歩いていく。


 俺は流れに任せて一緒に歩いていた。

 他に護衛の衛士が四名ほどついてきた。


 いつもこうなのだろうか。

 それとも、あんな事があった後だから?


 幅が五メートルほどもありそうな広い廊下は大理石のようで、ピカピカに磨かれている。


 この廊下の分だけで掃除人が一体何人いるのだろう。


 ここから、どこへ行くのだろう。非常に嫌な予感がする。


 そのまま俺達は厳めしい大きな扉のついた部屋の前に来た。


 やたらと凝った装飾が施されたどっしりとした扉の前には衛士が二人いて、それを開いてくれた。


 嫌な予感、的中!

 そこは、おそらく謁見の間のようなところだった。



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