心優しい殺し屋さんのエンディング
注意! この作品には以下の成分が含まれています!!
・初投稿
・初心者
・暴力的な表現 等
……これらが苦手、あるいは抵抗を覚える方はブラウザバックを推奨致します。
「よくやってくれた、こいつが今回の報酬だ」
「事前に聞いてた報酬より多いみたいだけど?」
俺は報酬を確認しながら、顔見知りになった依頼人に疑惑の視線を向けた……
「ちょっとしたボーナスだ、お前はいつも仕事が早いからな」
「……あっそ、まぁ貰えるものは有り難く受け取っておくよ……それで次の標的は?」
「いつも通りメールで指示をする」
そう言うと依頼人の男は素早く人混みの中に紛れてしまった。
……はぁ、俺も帰るか、早く夕飯の支度をしないとあいつがうるさいからな。
「……悪く思わないでくれ、これも仕事なんだ」
死体を投げ捨てたばかりの川に向かって呟く、いや正確にはミンチ状にした死体をばらまいた……だな。
俺は訳あって殺し屋稼業をしている、母親は半年前に他界して親父は失踪した、俺は高校を中退して妹を養う必要があったのだが、どうやら俺には暗殺の才能があるらしい、もう20人は殺しているからか、なにも感じなくなってしまった……
「……次の仕事に向けて弾丸の発注をかけておかないとな」
俺はスマホで知り合いの武器商人に渡りの依頼をしながら帰路に就いた……
「あぁ、5.7×28mm弾を200発、つまり50発ケースを4箱頼むよ、それと口径5.7×28mmの滅音器も頼む、今夜の2時に受け取りに行くよ……いつもありがとう、助かってるよ」
そんなこんなをしているうちに、五階建ての小さなアパートが見えてきた……
「ふぅ、今日も無事に帰ってこれたな」
1Kの事故物件アパートで家賃は光熱費込みで23000円、何でも五年前に兄妹が心中したらしい……
そんな訳あり物件なアパートの階段を登って、最上階の502号室の扉を開ける。
「……ただいま」
「お帰りなさいお兄ちゃん!! ねえ、一緒にスラブラやろうよ!」
妹のサチが仔犬の様な無邪気さで駆け寄ってくる、俺はそんなサチの頭に手を置いてそっと撫でてあげた。
「いいぜ、久し振りにBKサンダーから始まる無限地獄を見せてやるよ」
「私だって友達と練習して腕を磨いたんだから」
そう言うとサチは俺にジョイコンを渡してきた。
「お兄ちゃんはそれね、私はGCのコントローラを使わせてもらうよ」
「うへぇ、ジョイコンかよ……これ使いにくいんだよな」
「すぐに壊れるし、入力ミスが出やすいよね」
まぁいいか、サチ相手なら丁度いいハンデだ。
……数分後……
「悔しいっ!! また負けたぁ!!」
「今のはナイスプレーだったな、もしあそこで上スラッシュじゃなくて上掴みなら負けてたかもな」
「うぅ、やっぱりお兄ちゃんにゲームで勝つのは無謀だったかな」
「一応俺はeスポーツの元日本代表だったからな、まぁ母さんが死んでからは大会にも参加してないけど」
「アルバイトが忙しいもんね、私がこうやって学校に行けてるのもお兄ちゃんのお陰だし」
「それじゃあ、俺の分もしっかりと勉強してくれたまえよ? 紗智君」
「はーい」
大乱闘スラッシュブラザーズを終了してゲーム機本体の電源を落とす。
「それじゃあ夕飯の支度するから、お風呂に入っておいで」
「あ、ご飯は炊いておいたよ」
「それじゃあ適当におかずを作っていきますか」
冷蔵庫を置けていくつかの食材を取り出す。
「サツマイモがあるから芋の天ぷらと、豚肉を塩こしょうで炒めて、後は野菜炒めの卵とじとかでいいかな」
玄関側のキッチンに食材を持って移動している途中にポケットのスマホからメールの着信音が鳴り響いた。
「もう次の標的が決まったのか……」
俺はサチが風呂に向かった事を確認してからメールを開いた……
《和馬、次の仕事だ……今回はお前の忠実さを確認するための仕事だ、標的は藤倉 紗智、お前の妹だ、手段は問わない。報酬は既に口座に振り込んである、それではお前の働きを期待している》
メールを読み終えた後もしばらくは意味が分からなかった、だって俺がこの仕事を始めたのはサチを学校に通わせて、不自由のない普通な生活を送らせるためで……
「なんでだよ、なんでいつも俺達ばかり……」
サチを殺せ? ふざけるな、サチを殺す位なら……
「お前を殺してやるよ……!」
仕事のメールを受信してから30分後、俺とサチは食を食べていた……
「お兄ちゃん、何かあったの? すごい険しい顔をしてるけど」
「なんでもないよ、ちょっとバイト先からシフトをずらしてほしいって頼まれて口論になってただけだから」
「ふーん、そうなんだ……」
「そうだよ、うん」
今夜の2時に弾丸とサプレッサーを受け取って、その足であいつを殺しにいく。
……そんなことを考えていると、突然サチが思いもよらない発言をした……
「……お兄ちゃんの嘘つき、一体今度は誰を殺すの?」
「……え……」
俺はあまりの驚愕に左手の箸を落としてしまった。
なんでサチが俺の仕事の事を知って……
「私が何も気づいてないとでも思ってた? 実はお兄ちゃんが寝てる間にメールを見たの……そもそもいくらバイトを掛け持ちしても、未成年のお兄ちゃんがあれだけの大金を稼げる訳がないでしょ?」
「……そっか、気づいてたのか」
「うん、それで次は誰を殺せって指示をされたの?」
「……サチだよ、どうやら俺の忠実性を確かめたいらしい」
「……私なんだ、それなら良いよ……殺して良いよ……その代わり1つだけ約束して、もう誰も殺さないって……私が居なければお兄ちゃんだって殺し屋なんてしなくて済むでしょ?」
「……馬鹿だな……本当に馬鹿だよ、俺もサチも……」
サチは俺の全てだ、サチの居ない人生なんてあり得ない……確かにサチが居なければ、俺は普通のアルバイトで生活が出来ただろう、でも俺はサチがいなかったらとっくに自分からこの命を捨てていたはずだ……だから……
「サチ、俺は高額の生命保険に加入している、だから事故や他殺に見せかけて自殺をすればサチは学校を卒業出来るし、俺に殺される必要もない……学校を卒業した後は就職をして普通の人生を送れる……」
俺は母親と同じ場所には逝けないだろう、そしていつかサチの寿命が尽きた時もサチは俺と違って天国に召されるはずだ。
「……それならお兄ちゃんが死ぬ前に私がお兄ちゃんを刺して、お兄ちゃんが私を刺そうよ……そうすれば死んでもずっと一緒にいられると思うんだ、寂しがり屋なお兄ちゃんを1人になんてしないよ」
サチが抱きついてくる……でも俺はそんなサチを抱き返すことが出来なかった。
俺の手はあまりにも汚れすぎてしまったんだ……この子を抱き締めることが出来ないほどに……
「お兄ちゃん、どうして泣いてるの?」
「……情けなくて……俺には……サチにお兄ちゃんって呼ばれる資格なんて、ない……」
「やっぱり私の知ってるお兄ちゃんだ……泣き虫で、弱虫で……でも誰よりも優しくて、素敵なお兄ちゃん……」
サチの声が、体が震えている……
「お兄ちゃん……どんなに汚れてても良いから……きゅっとして……」
「……うん……」
それから俺はサチと一緒に泣き続けた……16年の人生で一番格好悪く、みっともなく……どんなに泣いても、泣いても、涙が止まらなくて……抑えられなくて……
「……お兄ちゃん、少しは落ち着いた?」
「そう言うサチだって目が赤くなってウサギみたいだぞ」
「ウサギじゃないもん!」
……あのあと、俺とサチは一枚の布団に二人で横になっていた……
「サチはいつから俺の仕事に気づいていた?」
「お兄ちゃんの事なら何でも知ってるよ」
「そっかぁ」
「んー、次の人生は妹じゃなくてお兄ちゃんの恋人になりたいなぁ」
「俺の恋人は大変だぞ、色んなコスプレさせるから」
「それじゃあそのコスプレ姿でデートしてあげるよ、その代わりお兄ちゃんもコスプレしてよね」
「え、俺は撮影専門なんだけどな……」
「もう決定事項でーす」
そう言いながら笑うサチの右手には銀色に輝く、俺のコンバットナイフが握られている……
「それにしても包丁で人を刺すのは現実的じゃないなんて知らなかったよ」
「まぁドラマとかでも犯人は包丁を使うからな、でも包丁を良く見たら日本刀や剣とは決定的に違うところがあるだろ?」
「えっと……鍔がない?」
「正解、ナイフの世界じゃヒルトって言うんだけど、これがないと突き刺した時に手が滑って前に進むんだ、そして前には剥き出しの刃がある……つまり包丁で人を刺せばもれなく自分の手を斬る、それも人を刺すんだから思い切りだ、思い切り指を包丁の刃に滑らせたらどうなるか、指でも残ってれば御の字、大抵は筋も筋肉も血管も斬れる、指が落ちる一歩手前だ……それと……」
サチからナイフを取り上げて、刃を上向きにして返した。
「刃を上にする事で骨につっかえずにすんなりと心臓に届く」
「う、うん」
「大丈夫、人間なんて適当に刺しても死ぬから」
「それじゃあ、いくよ」
サチが俺の胸にナイフを突き立てたのと、痛みと溢れでる熱さを感じたのはほぼ同時だった……俺の鮮血が布団を赤く染め上げていく……
「……う、あ……刺されるのってこんなに痛かったんだな……」
「次は私の番だね、私も汚れたよ、お兄ちゃんと同じ……人殺しだね……」
……薄れつつある意識の中でナイフを受け取る……
「……サチ、俺……最後までちゃんとお兄ちゃん出来てたかな……」
「うん、ちゃんと私のお兄ちゃんだったよ」
俺の左手のナイフがサチの小さな胸を貫く……
「く、うぅ……い、痛い……」
「大丈夫、すぐに楽になるから」
「……お兄ちゃん……はぁ、はぁ……大好き、だよ……」
「……サチ、俺も……だよ……」
苦しげな表情だったサチの顔が弱々しい笑顔に変わる……
「……お兄、ちゃん……手、繋ご……」
「……サチ……」
俺とサチは互いの顔を見つめながら手を繋いだ……
「…………」
「…………」
その後、とても穏やか表情で息を引き取った兄妹は互いの指を絡めあう様に手を握っており、第一発見者である大家や警察が二人を離そうとしたが、どんな力を加えても二人の亡骸がその手を離すことは無かった……
-お兄ちゃん、ずっと一緒だよ-
……この様な素人作品に最後までお付き合いありがとうございました。
少し余談になりますが和馬が包丁について解説するあの場面は、検証を行ったものではございません。
あくまでも自分の推測によるものです、なので実際には手が滑らずに怪我をしない可能性もございます。
最後に、この様にした方が良い、こう言った表現の方が伝わりやすい等の改善点や意見があれば、感想欄等で指摘を頂けると幸いです。