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リーネの能力



「やっと終わった……朝だぁ」


 東の空から昇る太陽光が街に朝を告げる、そんな美しい光景を徹夜明けのリーネが見つめていた。


 昨日、リーネはレヴァテインの所属になった特典で、ギルド四階の空き部屋を自室にしてもらっていた。1DKでシャワーとトイレ付きだがベッド以外の家具類は一切なし…けれどそんなのは瑣末な問題であった。


 リーネが来るまで使われてなかった部屋には辺り一面に埃が溜まり、蜘蛛の巣やら小動物の糞なんかも散乱していた。とても生活できるような状態じゃない部屋を徹夜で大掃除し、そして綺麗になった部屋と共に朝日を迎えたのだ。


「でもまぁ、街を一望できるのは最高だよね」


 ここら一帯には遮る物がなく、この部屋からは街の端から端まで見える。朝焼けに染まる街並み堪能したリーネは、汚れた服を着替えて部屋を出た。


 エドナとコニーの部屋を通り過ぎ、軋む階段に気をつけて降りる。三階には『静かに』という吊り看板を下げたミランダの部屋と(いびき)が外まで聞こえてくるヴァリーの部屋、それとドアノブにお洒落なカバーを付けたネイの部屋がある。


「あ、おはよう、リーネっち!昨日は寝れた?」


「あぁ…うん」


 丁度ネイが部屋から出てきたので挨拶を返し、階段を降りながら気になった事を訊いてみた。


「ネイ、今日デザイアンは出る?毎日予報してるって言ってたけど、どうして分かるの?」


「ああ、それはシエルさんの能力のおかげだよ。予知能力でシエルさんの右に出る人はユグドラルにいないからね。たぶんボスの所にもう連絡が来てるんじゃないかな」


 二階に着いたリーネ達はミカの部屋を訪ねる。ミカは相変わらず真っ暗な部屋で書類に目を通していた。


「ミカさん、おはようございます。今日はデザイアンでますか?」


「おはよう、リーネ、ネイ。さっき通信があったが今日は出ないらしい、仕事は休みだ。それとリーネ、シエルがお前の能力を鑑定すると言ってるから行ってこい」


「じぁあ私が連れて行きますね。私もリーネっちの能力がどんなのか知りたいし」


「いや、シエルから一人で来るよう言われている。何を企んでるんだか…」


「そんな〜。じゃあリーネ、帰ってきたら教えてね」


「わかった。それじゃあ、朝ごはん食べたら行ってみます」


 ミカの部屋を、明かりをつけてから出たネイとリーネ。二人は下に降りて、バーカウンターの中にあるキッチンで朝食を作る。残っていた鹿肉のベーコンをよく炙り、薄くスライスしたチーズと一緒に全粒粉のパンに挟んでサンドイッチの完成する。


 二人は丸机を囲んで手を合わせた。リーネはサンドイッチにかぶりつくとベーコンの熱で溶けたチーズを目一杯伸ばして持ち上げ、流れ落ちてくるものを口の中に収める。それを見たネイは堪らず真似をして食べた。


「んん、美味い!いつもこんな美味しい物を食べてたなんて羨ましい」


「そうかな?私はもっと色々な、ユグドラルの名物料理とか食べてみたいな」


「よーし、じゃあ今度私の行きつけのお店に連れてってあげる!旬の食材を使った料理を出してくれる定食屋なんだ」


「それは楽しみだなぁ!そう言えば、神憑りって女性だけなの?」


「え、なんで?」


「レヴァテインのメンバー全員女の人だから」


「あーそれは…」


 ネイはそれを聞くと後ろを確認し、顔を近づけるよう手招きしてひそひそ声で話した。


「ウチのボス、大の男嫌いなんだ。男って言葉を聞くだけで露骨に機嫌悪くなるし、子供だろうと女みたいな人だろうと関係なく半径1メートル以内に侵入したらボコボコにするんだ」


「ミカさんが…ちょっと意外だ」


 そう言って二人は最後の一口を頬張り手を合わせた。

 それからリーネはお金持ってギルドを出発し、路面電車に乗って移動する。今日乗った電車は街の外周をぐるぐると走る環状線だ。

 移動中、リーネはネイから貰ったビーク・ラルゴの地図を見た。


 1-2-3-4-5

A   ギ

C☆

E   観


 約400平方キロメートルのビーク・ラルゴは5×5のマス目状に分けられていて、縦にA〜E、横に1〜5の数字が割り振られている。私たちのギルドはA-3、観光街がE-3、そして目的地はC-1にあるらしい。


 ネイが「絶対迷子になるから誰かに道を聞くんだよ」と言っていたが、心配しすぎである。この街の地図を頭に叩き込み、目印一つない大自然で迷ったことが無い私が──


「迷子になんてなるはずが……」


 目の前に広がる大きな人工の渓谷。岩壁を補強して、その上に高層建築物が連なり、谷底には民家が密集している。

 建物から別の建物へと架かる橋、下と上を行き来するロープウェイ、谷底の民家を縫うように流れる運河、そして谷の向こうには巨大な湖が広がっている。


 C-1。そこはビーク・ラルゴ…いやビーク・ラルゴと言っていいものなのか?兎に角そこは栄華を極めた立体都市であった。これではどこをどう進めば、目的地のシエルさん宅に着くのかなんて検討がつく筈もなく、私はただただ途方に暮れていた。


「ねえねえ、そこの貴女、何かお困りごと?」


 今日のうちにギルドに帰れるか考えていると、穏やかな声で話しかけられて振り返る。紫色のウェービーヘア、ちょっとふくよかでおっとりとした甘い香りの漂う女性が、背中の羽をぴょこぴょこさせて立っていた。


「実は行くところがあるんです、けどどう行けばいいのか分からなくて」


「あらあら、じゃあお姉さんが案内してあげる。どこに行きたいの?」


「シエルさんという予知能力者の家です」


「まぁまぁ、そこは良く知ってるわ♪さぁさぁ、行きましょう」


 お姉さんは離れ離れにならないよう手を握ってくれる、私は藁にもすがる思いでついていった。


「ねぇねぇ、貴女お名前は?」


「リーネです」


「そうなの。ねぇねぇリーネちゃん、ちょっと寄りたいお店があるのだけどいいかしら?」


 助けてもらっている手前、断ることもできない。私は「いいですよ」と言って軽く頷く。


 長い階段をゆったりと降りて谷底に着くと、上から見たのでは分からなかったが、活気溢れる市場が開催されていた。

 新鮮な淡水魚や野菜の漬物、付近の塩鉱で採れた岩塩、スパイスを塗した肉の串焼き、他にもアクセサリーや織物などの土産物も売られている。


「リーネちゃんはユグドラルの外から来たのよね。どうかしら、リーネちゃんから見たこの場所は?」


「どこを見ても初めて見る物ばかりで、それにここに生きる人たちは皆活気があって楽しそうです」


「そう、そうね。上に比べると貧しい生活だけれども、みんは貧富の差やデザイアンなんかに負けない素敵な人たちよ。リーネちゃんもデザイアンに負けないでね」


「はい!一人前の神憑りになって、どんなデザイアンが来てもやっつけちゃいます!」


 お姉さんは「ふふっ」と笑い、私の頭を優しく撫でた。

 市場を抜けて川をいくつか渡り、迷路みたいな路地を進む…すると焼いた小麦と砂糖のいい香りが、どこからともなく漂ってきた。暫くして私は『シエル&ロイヤルテ』と書かれた看板の小さな赤煉瓦のお店の前にやって来た。


 お姉さんに招かれて店に入ると、中は焼き菓子やケーキの甘い香りが充満していて、息を吸うたびに幸せな気持ちになれる。


「いらっしゃいませ、お客様」


「ここのケーキがとってもとっても美味しいの!苺のホールケーキもチョコレートのホールケーキもいいけれど、特におすすめなのがフルーツ盛り沢山のタルト!生地の食感もさる事ながら、フルーツとマッチするカスタードクリームが堪らないの!」


「どれも食べた事ないけど、絶対に美味しいって分かります…!」


 目を輝かせる二人。リーネは見た事のない、煌びやかな果実がふんだんに使われたフルーツタルトに目を奪われる。


「うんうん!はぁ〜今ダイエット中だけど、今日はお客さんが来るから仕方ないわよね!フルーツタルトをホールでお願いするわ〜!」


「私も同じのをお願いします!」


 直径25センチのフルーツタルトを購入してご満悦の二人。そのまま店を出るかと思いきやお姉さんは、カーテンで仕切られた店の奥へと向かった。


「お帰りなさいませ、()()()様」


 先程、お会計をしてくれたケーキ屋の店主がそう言った。


「じゃあラヴちゃん、タルトと紅茶をお願いね♪」


「かしこまりました。特別なお茶が御座いますので、そちらをご用意いたします」


「えっ?えっ?」


「ふふ、黙っててごめんねリーネちゃん、貴女が探してたシエルは私なの♪」


 全く想定していなかった展開にただただ驚いた。


「さぁ、奥で貴女の能力を鑑定しましょう」


 シエルさんにお店の奥へ案内される。外観はとてもこじんまりとした物だったのに中はおとぎ話のお城のように広かった。真っ赤なカーペットが敷かれた長い廊下を歩き、突き当たりの重厚な扉を開くと、湖の見えるテラスへと辿り着いた。


 テラス席で待っていると、ラヴさんが切り分けたタルトを光沢のある白い皿に盛り付けて現れた。山盛りのフルーツを零れ落ちさせることなく配膳し、ティーカップに紅茶を注ぐ。注がれた紅茶は柑橘系の香りを立たせている。


 いざタルトをいただく事になり、ゆっくりと気をつけて口まで運ぶ…口に入れた瞬間、衝撃が走った。

 生地のサクサク食感、甘酸っぱいフルーツ、それを優しく包み込むカスタードの甘味、今まで食べてきた甘味(かんみ)が掠れてしまう美味さだった。


 タルトのおかわりもいただき、美味しい紅茶も堪能した。シエルさんは何故か、紅茶を啜ってとても渋い顔をしていた。

 二人のお腹が満腹になったところで、ようやくシエルの鑑定が始まった。


「さてさて、じゃあリーネちゃんの能力を鑑定しましょう。いくつか質問するから答えてね。フルネームは?」


「リーネ=ロロです」


「ふむふむ、誕生日は?」


「1月1日です」


「つい先日なのね、おめでとう!さてさて、リーネちゃんの能力が分かったわ。リーネちゃんの能力は…『付与』、名付けるなら【性質付与(ネイチャーギフト)】ね!」


「ネイチャー…ギフト?」


「物に新しい性質を付与できる能力みたいね」


 能力を知り、名前を与えられた…その瞬間、頭の中でこの能力の使い方を本能的に理解した気がした。


「だけどちょっと妙なのよ」


「妙…とは?」


「まだ完全じゃないみたい、複雑な性質の付与はまだ出来ないかも。きっと色々な経験を積めば進化していくわ」




 能力が判明したリーネはタルトに合う紅茶の葉をお土産に貰い、ラヴに駅まで送ってもらった。

 それから無事ギルドに帰ってこられたリーネはミカに能力を報告し…


「『みんな』に『タルト』を『お裾分け』した…まぁまぁ、リーネちゃんは優しい子ねぇ。けれど、あの子いったい何者なのかしら?【託宣(ピックアップワード)】は知りたい事に関する言葉を教えてくれる……『デザイアン』とどんな関係があるの?」

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