癖のあるメンバー
神憑りの力に目覚め、デザイアン討伐ギルド【レヴァテイン】の所属となったリーネ。彼女はネイにギルドの仲間を紹介してもらう為に一階へ降りていた。
ネイがメンバーを連れてくるまでの間、リーネはズタボロの椅子に座り待っていたのだが、居心地の悪さを感じていた。
「ふんふふーん♪」
「……」
赤ワインをラッパ飲みしている赤髪の女性が、機嫌良さそうに鼻歌を歌いながらこちらを見ていたのだ。
「…あの、さっきはすみませんでした」
「ん、何かしたっけ?」
「ここに来た時に家畜小屋って言ってしまったから」
「ああ、それね」
女性は飲んでいた酒瓶を空にすると、とろんとした目つきから肉食獣のような目に変わり、こちらに真っ直ぐと近寄ってくる。角を含めるとかなり背丈があり、目の前まで来ると色々な大きさに圧されて仰け反ってしまう。
怒っているのか、もしかしたら暴力を行使してくるかもしれない。受け身だけは取れるように警戒していると彼女は両手を広げて抱きついてきた。
「気にしてねーって事実だし!お前可愛い奴だなぁ!」
その豊満なボディでのハグは凄まじく、その弾力のある物と染み付いた酒の匂いに包まれ、私は溺れてしまいそうになる。そこへタイミングよく、ネイが三人の女性を連れて降りてきてくれた。
「どうした?昼間っから全員集まるなんて」
「ヴァリー、その可憐なお嬢さんはウチの新しいメンバーだってさ」
「なに?!お前ホントにここの所属になったのかよ!」
「ふぁ、ふぁい…」
熱烈な抱擁からようやく解放されたリーネ。集まったレヴァテインのメンバーはカウンター席に右から
角が生えた赤髪の女性
ネイ=イデア
狐らしき耳の薄い金髪の少女
この中で一番幼い栗色の髪の女の子
黒いショートヘアの女性
という順に座った。
それぞれ自己紹介をする事になり、一番左に座った濡羽色の髪が綺麗な女性が口を開いた。
「まず僕から自己紹介しよう。デザイアン討伐数世界一、疾風迅雷でその名を轟かせ、万雷の喝采を浴びる【滅雷の角馬】こと、エドナ=セレニティとは僕のことさ!」
貴族のようなお辞儀で締めたエドナ。見入った私は「おぉ〜」と声を漏らしし、思わず拍手する。次に立ち上がったのは酒瓶を7〜8本は空けた赤髪の女性。
「相変わらず大仰な名乗りだな。俺はノヴァ=ヴァレリア、竜人で【爆液薬体】っていう爆破能力の神憑りだ。気軽にヴァリーって読んでくれ、よろしくな!」
名は体を表すとは恐れ入る。次に眠たげな様子の狐耳の少女が、気怠そうに自己紹介する。
「ミランダ=オーベルト、獣人です。基本的に夜勤で昼は寝ているので静かにしてください。それとくれぐれも街の破壊行動と無銭飲食はしないように」
それだけ言って静かに目を閉じた。
「どっちもヴァリー姉さんの事だね。家を壊したり飲み代をツケにしてるから」
「いやいや、好き好んで家を壊してる訳じゃないぞ!街を守るための致し方ない犠牲だ。それに飲み代は払う気はあるんだって」
「あぁ、飲み代は私の提言でボスがヴァリーの給料から天引きしてます」
「なんだって!?どおりで給料は少ないし、いつもツケにしてるのに怒られない訳だ」
ヴァリーはケラケラと笑う。その左隣ではエドナーにピッタリとくっつく、メンバーの中で一番幼い茶髪の女の子がじーっとリーネを見つめていた。
「次はコニーだね。自己紹介できるかい?」
「コニー=フェリーチェ。…ねぇ、あなた強いの?」
「えーとどうだろ、今日神憑りになったばかりだから…」
「なにそれ、じゃあ雑魚じゃん!」
彼女の口から出た言葉に周りはやってしまったと言った様子、エドナは額を抑えた。
「コニーも悪気があって言ってる訳じゃないんだ。ただちょっと信頼を勝ち取るまではこんな感じでね」
「強い人じゃないと信頼できない?」
罵詈雑言を浴びせ続けるコニーをリーネがじっと見つめ返す。グッとなってエドナの後ろに隠れたコニーにリーネは微笑みかけた。
「私がこの街に来たのは、デザイアンを倒しにきたのもそうだけど…色んな人と会ったり、美味し物を食べたり、綺麗な景色を見たり、故郷じゃ知ることが出来なかった物を知りたいから来たんだ。だから、やりたい事全部やるまで負けないよ」
「…ふんだ」
言い包められたコニーはそっぽを向いて大人しくなり、エドナがよしよしと頭を撫でる。
「えーとじゃあ、改めてだけど私はネイ=イデア。休みの日はショッピングに行ったり、街の外に行って風景写真を撮ったりしてるよ。さぁ最後はリーネっちだ」
「うん。リーネ=ロロです……何を言ったらいいかな?」
自己紹介など初めてで何を言えばいいか分からず、助けを求めてネイに尋ねる。
「じゃあこっちから質問するから、それに答えてもらおうかな。まずは無難に住んでた所は?」
「住んでた場所は雪と小さな森しかない所で、銃の扱い方を父さんに教えてもらって狩りをしてたよ」
リーネはにこやかに話す。しかしネイ達は想像の遥か斜め上の答えに苦笑する。
「つ、次!好きな食いもんはなんだ?」
「なんでも好きだけど、母さんが作ってくれる鹿肉料理、特にシチューが大好き。あ、そうだ、燻製が余ってるから食べてみて」
リーネはリュックから鹿の燻製肉を取り出して面々に手渡す。皆微妙な反応だったが、ヴァリーだけは「酒のいいアテになりそうだ」と喜んだ。
「あ、そうだ!ねぇ折角メンバー全員いるから写真撮ろうよ!ほらリーネっちもこっち来て!」
ネイがウエストポーチから小さなポラロイドカメラを取り出し、ヴァリーが手を引いて私をメンバーの中に入れる。
ネイは丸机にカメラを置き、ボタンを押して急いで元の場所に戻ると皆にVサインをするよう指示をした。
見様見真似でぎこちなくポーズをとる。みんな時間が止まったかのように微動だにしない……フラッシュが焚かれシャッターが切られる。
「どれどれ…おっ、いいね!」
見せてもらった写真はよく撮れていた。レヴァテインの一員になった私はこの癖のある…個性豊かなメンバーと一緒に騒々しい日々を過ごす事になるのだった。