201号室
三度の飯より本が好き、な人が好きです。
10月27日金曜日22時02分
なんだ、今の音は?
201号室の住人、清水鳴二32歳独身は天井を見上げた。上の階から、何か音が聞こえたのだ。
もしやあの女…柊の奴に、何かあったのか?それとも、他の住人?
疑問を確認しようと自室のドアへ向かおうとして、慌てて引き返した。
机にだしっぱじゃまずいよな。
彼は机の上にあるノートを引き出しの奥に放り込んだ。
ノートにはデカデカと「柊青殺害計画」と書かれていた。
土井、工藤と同じく、四股をかけられていて、しかも自分がビンゴゲームの題材だと知らされた清水は、昨日からずっと、あることを考え続けていた。
柊青殺害計画。
清水にとって、柊青ははじめての彼女だった。だからこそ、許せなかった。
この罪は、死をもって償われるべきだ。
清水は会社を休み、一日かけて殺害計画を組み上げた。
深夜に殺して国外逃亡だ。金はある。逃げ切った後は何とかする。
以上が彼の計画だった。シンプルイズベスト。だからこそ成功するはずだ、と彼は信じた。
決行日までは彼女と一切連絡を取らない方が良い。言いたいことは色々あるが、接触しては駄目だ。
そう決めた清水だったが、今、自分の頭上で鳴った音は、無視できなかった。
何だ今の音は…カチッ?ガチッ?って音。いや、ポンッともダンッとも聞こえたような…
どこかで聞いたことがある音だ。しかし一体なんだったか…
爆発か?火事?いや、そんなに大きな音ではなかった…とにかく、行ってみよう。
部屋を出て階段を上る。
三階廊下には誰もいなかった。腕時計を確認すると。
22時03分。
音が聞こえてから、一分弱。
しばらくすれば、他の奴も集まってくるだろう。俺があえて確認する必要はない。
ただ、どうしても気になる。
音は自分の部屋の真上から聞こえた。つまり音源は301号室のはず。それともさらに上の401号室か?そうかもしれないが、いずれにしても…
清水は301号室の前まで来た。
柊青と接触するのは避けるべきだ。向こうに何か勘付かれては面倒だし、下手したら先に警察に通報されるなんて恐れも。
頭では分かってはいた。しかし、どうしてもそのドアを叩きたくて仕方がなかった。ついこの間まで、度々通っていた、彼女の部屋…
「おい、何かあったのか」
301号室のドアをノックして、中に呼びかけた。返事はない。
まだ帰っていないのだろうか?
ふと横を見ると、301号室の窓のカーテンの隙間から、光が漏れていた。彼女は既に帰っているらしい。
「おい、何か変な音が聞こえただろ?開けろよ」
再びノックして呼びかけるも、やはり返事はない。
試しにノブを回そうとしたが、鍵がかけられていて、開かない。窓にも手を掛けたが、こちらも鍵がかけられている。
「やっぱり、この部屋ですよね」
急に後ろから声をかけられ、清水は背筋が凍った。振り向くと、そこには401号室に住んでいる工藤剣が立っていた。
柊青の四股の相手。清水も工藤も、自分以外のその「相手」が誰なのか、柊本人から聞いていた。
数秒、気まずい空気が流れた。
「工藤さんも、聞こえましたか?」
空気を変えようと清水が話しかける。
「ええ、僕の部屋の真下から聞こえたんですよ。清水さんも?」
清水は頷く。
そのとき、彼らの鼻に異臭が漂ってきた。
301号室のドアの奥から…
生臭い、異臭…
そこで二人は同時に気付いた。この臭いの正体。
血の臭いじゃないか?
二人とも、他人の血の臭いなど嗅いだ経験は無かった。しかし二人とも柊青の「死」について考えていたため、すぐ確信した。
これは血の臭いだ!
「…工藤さん、管理人の部屋に行って、鍵を取ってきてくれないか?なにやら妙な胸騒ぎがする」
清水が言い終わらないうちに、工藤は階段を下りていった。