401号室
怪談は怖いです。
10月27日金曜日22時01分
401号室の住人、工藤剣21歳大学三年生は、一人椅子に座って天井を見上げていた。
死とはなんだろうか…
そんな疑問が頭を離れなかった。
土井と同じく、工藤剣も、昨日、彼女に…301号室に住む女に振られた。
最初は電話で別れを切り出され、嘘だろうと思った。しかしそのすぐ後、彼女の四股の相手…土井から電話を受け、そして、真実を知った。
自分は遊ばれたのだ。
最初は怒りが湧いた。殺意を持った。
しかし、殺すのは不可能だと悟った。
自分は大学生。ここまで育ててくれた親のためにも、自分のためにも、警察に捕まってはいけない。
ならば完全犯罪は?
無理だ。警察は優秀。自分のような三流大学生が、警察を出し抜けるはずがない。
では他の復讐方法はどうだろう?
窃盗、駄目。強姦、駄目。悪評を流す…流す友人がいない。
電話で激昂する?罵倒してやる?
無意味だ。彼女にそんな嫌がらせをしても、効果がないだろう。効果があるほど嫌がらせをしたら、きっと訴えられる。
どうすれば、彼女に屈辱を与えられるだろう。
自分と同じ屈辱を。死に等しい屈辱を。
彼は昨日からそんなことばかり考えていた。しかしどれだけ考えても、彼女を傷つける方法など、まるで思い付けなかった。
彼女の人生そのものを否定してしまうような方法…彼女の尊厳を踏みにじる方法…そんな手口があるだろうか。
…死とはなんだろう。
…死とは、その人がその人ではなくなることなのだろうか。
工藤の思考は空転し続けた。