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王子の住む国

よろしくお願いします。

 

 アクアに、リオは小さな一室をくれました。

 ベッドと机があった、最初の部屋です。小さな窓から、海を見ることが出来ます。


「アクア。飯、食いに行くぞ」


 窓から、闇に沈んだ静かな海を見ていると、リオが扉を開けました。

 アクアがリオを振り返りました。

 ノーラが、あまり歩かせない方が良いと言ったので、リオはいつも、アクアを抱き上げて行動してくれていました。

 アクアには、リオのその気持ちがとても嬉しくてたまりませんでした。

 頷いて、窓から離れ、リオと船の食堂へと向かいました。



「アクアちゃん! ほら、これ、あげるよ」


 夕食を食べていると、ノーラが、フォークに何かを乗せてやって来ました。


「!!」

「好きでしょ、甘いもの」


 そう言って、ノーラはアクアのお皿に小さなお菓子を置きました。

 人が食べる、お菓子という物は、とても甘くとろけるように美味しくて、アクアは虜になってしまっていました。

 嬉しくて微笑むと、他の男達が寄ってたかって、アクアに、デザートだったお菓子を渡しました。


「おい、テメェら、アクアが太る」


 アクアの隣で、夕食を食べていたリオが言いました。


「人気者だねぇ、アクアちゃん」


 ノーラがそう言うと、乗組員の一人が言いました。


「だって、男しかいなかったんですよ! アクアさんは、俺達の天使! 癒しなんです!」

「そうだそうだぁ!!」


 アクアは、リオとこの船が大好きでした。



 でも、王子様を探さなくては。

 王子様が結婚してしまったら、泡になって私は死んでしまう。

 いつも、心の隅に必ず焦りがありました。

 アクアが、この船に助けられて、今日で七日目です。

 乗組員達に本を貸してもらって、王子様の住む国を探したり、アクアは必死でした。

 王子様を見つけることさえできなかったら、人間になった意味がないのです。



「……。アクア」


 その日、アクアが本を読んでいると、扉からリオに呼ばれました。


「…?」


 首を傾げます。

 何の用事でしょうか?

 アクアは、話がある、とリオの部屋に連れて行かれました。

 リオの部屋は、とても楽しいのです。

 棚には、雑貨や修飾品等が置かれています。壁には旗が貼ってあったり、明かりは淡い橙色を放つ個性的なランプです。


「昨日、躾けられた王族の手紙鳥が来た。で、城に行かねぇといけないんだが、欲しいもんとかあるか?」


 リオは出身国のお城から手紙が来たようでした。

 少し機嫌が悪そうな顔をしていましたが、アクアに向ける声は柔らかでした。

 アクアは、お城という言葉に反応しました。

 もしかしたら、王子様の住んでいる国なのではないかと、少し嬉しくなりました。

 リオは、アクアに欲しいものを買って来てやるという意味で聞いたのでしょうに、アクアはついて行きたくて仕方なくなりました。

 でも、きっと、貿易のお話に行くのでしょう。

 それに、アクアがついて行くと、リオは抱き上げて歩かなければなりません。


「後、二日程で着くから、何かあったら言えよ」


 リオは、答えないアクアにそう言いました。



 リオが向かった国は、アクアが知っている国でした。

 船の甲板から、国の方を眺めます。

 国の海に沿った面に、アクアが探していたお城はありました。そう、王子様を助けてから、来る日も来る日も海面から眺めていたお城です。

 アクアは我慢できなくなり、リオに連れて行って欲しいと伝えました。

 リオが国から、しかも、城から呼ばれたのには、理由がありました。リオの親族が、結婚式を挙げるからです。

 それを聞いてしまうと、流石について行けないのではないかと、アクアは思いました。

 貿易のお話ならば、リオが話している時は、部屋の隅っこに置いていて貰い、終わってから、お城に連れて行ってもらうおうと考えていました。結婚式ならば、待機場所がありません。

 しかし、どうしても王子に会わなくてはいけないのです。アクアは悩みました。


 お城は本当に、王子様が住んでいるお城でした。大好きな王子様がいるお城です。

 リオは、アクアが悩んでいることに気付き、ついて行きたいと言う願いを聞いてくれました。

 船が、港につきました。何故か、たくさんの人が集まっています。

 リオは、アクアを抱き上げて船を降りました。

 船に残った乗組員達には、買い出しに行って来いと言い、ノーラは楽し気にリオについて来ました。


「リオットリア様よ!」

「お久しぶりです、リオットリア様!」


 リオは、港に集まったたくさんの人に出迎えられました。そのリオの腕の中で、リオットリアとは誰だとアクアは悩みました。

 リオは、適当に会釈をして、港を後にしました。

 途中、リオは城からの迎えと言う馬車に乗りました。

 親族の結婚式は、お城で行われるのでしょうか?


「…あー、俺の親族って言うのが、王族なんだ。結婚するのは、従兄弟。この国を治める王の息子だから、この国の王子だな」


 アクアは衝撃を受けました。

 リオが、王族だったことも驚きましたが、それよりも王子様が結婚することに驚きました。

 大変です。このままでは、アクアの心臓は砕け、泡となり死んでしまいます。

 大好きな王子様と結婚も出来ません。

 アクアは焦りました。

 その間に、馬車はお城につきました。

 リオはアクアを抱き上げ、ついて来たノーラも、馬車を降りました。

 いつもは海から見ていたお城がありました。

 とても綺麗で、ここに王子様がいるのだと思うと嬉しくなりました。しかし、今はそれよりも王子様が結婚してしまうと言う事がアクアの中では問題でした。

 リオはお城の中に入りました。

 たくさんの使用人が出迎えました。


「やぁ、リオ。久しぶり」


 同時に、一段と豪華な服を着た男の人がリオを出迎えました。


「あぁ、フィル兄さん。結婚おめでとう」


 リオがそう言ったので、アクアは驚いて男の人を見ました。

 この人が、結婚するのです。…王子様なのです。

 茶髪で金色の瞳をしていました。アクアが助けた時の王子様は、黒髪で金色の瞳をしていました。髪を染めたのでしょうか?


「ノーラも久しぶり。いつも、リオを見てくれて、感謝するよ。…ところで、リオが抱いているその女性は?」


 王子様は、アクアの顔を覗き込みました。

 アクアは少し違和感を覚えました。


「アクアだ、フィル兄さん。海で拾った」

「…!」


 王子の質問にリオが答えると、アクアが顔をあげました。

 ばちりと、王子様と目があってしまいます。


「初めまして、アクアさん。今日は、来てくれてありがとうございます」


 ニコリと微笑まれました。

 それに笑顔で小さく頭を下げて応えます。

 助けたあの日からずっと想い続けた人が、自分に目を向け笑いかけてくれているのに、アクアは何故か心が弾みません。

 王子は、くるりと踵を返し、歩き始めました。


「結婚式は二日後なんだけれど、暫くはここに滞在するのだろう、リオ?」

「あぁ。結婚式が終わってから、何日かはいないと駄目だろ?」

「まぁ、そうなんだけれども」


 リオとノーラは、王子の後を歩きます。


 王子の事は、好きです。

 声と種族を失ってでも、そばにいたいと思えた人です。

 でも、本当に目の前にいる王子なのでしょうか。

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