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Second WorldⅡ  作者: ELMOA
第1章
9/28

Silent Forest(8)

サイレントフォレストに入った高須とナナは、道なき道をひたすらに進む。


高須はマップを確認しながら、ゴブリンとの戦いで徐々にサイレントフォレストの方面へ進んでいたのだ。


通常の森林とサイレントフォレスト、特に変化は見られない。

背の高い木々が無数に生え亘り、地面は草花で覆われている。


唯一違う点があるならば、サイレントフォレストに入ってからというもの敵MOBと出くわしていない。


とても静か。


サイレント。


そういうことなのか? サイレントとはそういうことで、敵はいない?


あるのはお宝のみ?


そんなことを考えながら歩いていたら、不意にナナに肩を叩かれた。


「ねえねえ」


「ん、ごめん。考え事してた」


「うん。あのさ、さっき報告するタイミング逃しちゃって、話題の一つにでもなればいいと思ったんだけど」


そう言ってナナはこげ茶色で手のひらサイズの球体を渡してきた。


「また『臭い玉』か。これで10個くらいか」


森林でゴブリン狩りをした際、ドロップ品を手に入れた。

主に武器の欠片――『鉄片』や、ゴブリンが身に纏っていた『布きれ』など。

高須はそれに加えてエレメントを。


そしてナナは、スリにより通常ドロップしないアイテムも盗み出すことに成功している。

その一つが『臭い玉』だ。


ゴブリンは行動する際、二体以上の集団で行う。

そんな中、外敵と出遭い戦闘になって不利な状況に陥った時、周辺の仲間を呼び出す為に臭い玉を使用する。

強烈な刺激臭を放つそれは、風に乗れば1km先でも嗅ぎつけることができるらしい。

ゴブリンとの戦闘中に何度か使用され、苦戦を強いられそうになったこともあった。

それにしても、本当に臭い。

現実世界でもこんな臭い、嗅いだことがなかった。


臭い玉の他には、『ゴブリンの木材』というレアアイテムも多く入手した。

説明欄にはゴブリンが武器を作る時に使用している木材、としか書かれていないので詳細はわからないが、スリでしか入手できなかったので、おそらくレア度は高い方だろう。


「それで本命はこっちなんだけどさ」


サッと、ナナはゴブリンの木材を差し出してきた。


しかし、今まで盗み出したそれとは違い、薄青色の光を帯びている。


「これは……」


「最後のゴブリンで盗めたものなんだけど、名前が『ゴブリンの極上木材』ってなってる」


「なるほど」


ゴブリンの木材の上位アイテムだ。

極上の冠詞は前作では最上位ランクだったので、おそらく相当レア度の高いものだ。


「よし、サイレントフォレストの探索が終わったら、アリス街のアンジュ製林館へ持って行ってみよう。木工のアイテムを多く取り扱っているみたいだから、何かわかるかもしれない」


「これってすごい?」


期待の眼差しでナナは高須を見つめる。


その期待は裏切らないはずなので、


「すごい。ゲーム開始序盤で手に入るアイテムじゃないな。さてはナナ、天性の盗人だな!?」


「今ここでのその言葉は、褒め言葉として受け取っておいてあげるわ。ふふっ」


二人は雑談を交わしながら、更に奥地へと進んでいく。


しかし。


行けども行けども敵は現れず、ましてや宝のたの字も見つからない。


名称のある森なだけに無意味ってことはないはずなのだが、今のところ全く意味のない普通の森である。


もしかして本当に森林浴を楽しむ為だけの場所なのだろうか。


高須の中で不穏な予感が巡りだす。


空を見上げると、薄っすらと赤みがかかり始め夕暮れを諭してくる。


どうするか。


高須一人だったらこのまま探索を続けるが、今はSWシリーズを初めてプレイするナナがいる。


初見エリアでこれは無謀か。


今から引き返せば、日が暮れるまでにはアリス街とサイレントフォレストを繋ぐフォレスト街道に出ることができる。


もう少し先へ進めば、おそらくサイレントフォレストの最奥地に到達することができる。


迷いはせど、高須の中で答えは決まっていた。


「よしナナ、今日は引き返そ――」


「いや!」


かぶせるように、ナナは言い放った。


「せっかくここまで来たんだもん。行こうよ。もうちょっとなんでしょ?」


「そうだけど……。ここで深追いするのは悪手な気がするんだよ」


はあ……と、ナナはため息を吐き、続けて、


「現実世界ならそうかもね? でもこれはゲーム。『やりたいようにやるのが一番』!」


あんたがあたしに言ったことでしょ――と。


「ははっ」


高須は思わず笑いが込み上げてきた。


「何がおかしいのよ?」


「いやごめん」


はははと笑いながら空を仰ぎ、両手を伸ばして大きく深呼吸をする。


「忘れてたよ、その感覚」


ゲームはゲーム。


現実は現実。


やりたいようにやって、楽しむのが、ゲームだ。


リスクばっかり考えてたら、楽かもしれないけど、楽しいではない。


「あんた他人ばっかり楽しませようとして自分の楽しみ忘れてたとか、そんな偽善者ぶったこと考えてたわけじゃないでしょうね?」


偽善者、か。


言い得て妙だな、と高須は自嘲する。


そして。


「俺は進化した」


「は!?」


「俺はきっと今、次のステップに立ち上ることに成功した」


「……は? 最高に意味がわかんないんですけど?」


高須は顔だけナナへ向け、森の奥へ指をさす。


「さあ行くぞ! 最奥地はもうすぐそこ! きっとなんかある! てかなんかあってくれないと困る!」


「あっ」


ナナは高須のテンションを無視し、高須の指さした方に同じく指を向ける。


そこには、怪しく光る白い霧があった。


霧が、蠢いていた。


一般的な住宅のドアくらいの大きさの、霧。


入り口かも出口かもわからないそれが、いつの間にか出現していたのだ。


「特定の時間でのみ現れる、ワープ装置かなにか、だな」


高須はメニューから現時刻を確認すると、『16:00』を示していた。


ビンゴだろう。


「急にテンション戻すのやめてくれる……? 無反応だったのに疲れるって、生まれて初めてなんだけど」


「行くぞ。時間経過で消えちゃうかもしれない」


高須はナナの手を取り、霧へ駆ける。


「ちょっ、ちょっと! 無視で仕返しとか、それも初めてなんですけど!」


「初めてだらけの一日になりそうだな!」


霧が、少しずつ小さくなっていくのを確認した高須は更に走るスピードを上げた。


「なによそれ!」


「この霧に入ったら、もっとすごい初めてがナナを迎えるぞ、きっと!」


「痛いのはイヤだかんね!?」


「だいじょーぶ! この世界の痛覚は無に等しいから! てかやばい、霧が消える!」


ドアの大きさほどあった霧が、フラフープ程度の大きさにまで縮小している。


あと数メートル。


このまま走っていたのでは、消えるのは目に見えていた。


だから。


「ごめん!」


高須は叫ぶと、ナナの手を強引に引き体を半回転させ、片手で抱き締める。


そのまま高須は右手を真後ろの地面へ向け、


「蛇弓破炎!」


背後で爆発を起こし、その風圧で高須は、飛んだ。


「きゃああああああ!?」


高須たちが霧に入るのと、霧が消滅したのは、ほぼ同時だった。

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