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三人の騎士と姫

「……朝はあんまり食べたくないんだけど……」

「だめだよ、イミナ。朝ごはんは大事だ」

 ぶつぶつ言う私を茶髪の青年が諭し、食堂の方向を指さす。

 朝は気持ち悪くなるから本当にいやなんだけど。嫌がらせかな。

 歩く私の周囲を三人のすらりとした美青年たちが囲み、その後ろをキズナがついてくる。

 まるで護衛の騎士を引き連れている王女様だ。

 ただ王女様役が、騎士役に比べてあまりに貧相だけど……。

 私は足元を見つめながら歩く。

「ユート先輩、おはようございます~」

 女生徒たちの挨拶に、青髪の青年が笑顔を返して手をひらひらと振る。

 ファンが多いなあ。

 ”ファン”は入れ代わり立ち代わり青年たちに声をかけ、最後に私をひと睨みして去っていく。

 ――なんであなたがそこにいるの?

 きっとそう言いたいけれど、「騎士様」たちの手前、言葉を飲み込んでいるのだろう。

 ……朝から気分が悪くなる。

 こんな目立ち方、したくないのに。……嫌がらせかな。

 

 

 食堂は男子寮と女子寮の間の建物内にある。

 テーブルに四人で囲むようにつき、私の足元にキズナは座った。

 それにしても、このグループは目立つ。

 三人とも、その昔この大陸を脅かしていた魔王を倒した勇者の子孫だと言う。

 100年ほど前、3人の勇者と一人の王子が魔王を倒し、この地に平穏をもたらした。

 その勇者たちそれぞれの家系の末裔の一人なのだ。

 みんな揃って、その優れたルックスと血筋で、尊敬と憧れを集めている。

「これならイミナも食べられるかな?」

 さっぱりとした感じのフルーツの盛り合わせと、ミルクたっぷりのカフェオレが私の前に置かれた。

「いつもパンは残して、使い魔に食べさせてるみたいだから」

 その声の持ち主は、ちょうどこのカフェオレみたいな髪の色の青年。

 彼の名はハルマ。

 21歳。すでに学院は卒業して、研究者としてここに残っている。

 宮廷魔術師の座が内定しているという噂もある、若き天才。

「……」

 前にテーブルの下でこっそりとキズナに食べ残しをあげたことがばれていたんだ……。

 私は気まずくて無言でフルーツをつつく。

「カフェオレとフルーツ? ひとつひとつはいいけどさ……口の中で微妙じゃない?」

 青い髪の青年が、コーヒーを飲みながら文句を言う。

 彼の名はユート。18歳。私より上のクラスの先輩。

 三人の中でも特に背が高い。

 大貴族のお坊ちゃまらしく、制服も、一般の生徒たちよりも上等な生地で仕立ててある。

「お前は本当に先輩に対する尊敬が足りないな……」

 苦笑するハルマ。

「そんなことないですよ。心の底から尊敬してますよ」

 ユートは悪びれずに恭しくお辞儀をした。

 そんな中。

「非効率的ではないか」

 眼鏡の青年が、食事の手を止めて口を開いた。

 彼の名はソラヤ。17歳。私と同じクラスの生徒。

 彼の目の前には、胚芽パンと鶏肉と卵とたっぷりの野菜にミルクにオレンジ、バランスばっちりの通称「ソラヤ朝食セット」が置かれている。彼が食堂に来るだけで自動的に出てくるらしい。

「イミナくんの周りに三人もいる必要があるのか。だいたい、先輩たちはここで朝食をとるわけでもない」

 眼鏡を光らせ、厳しい口調で続ける。

「まあもう俺はそのへんは一通り済ませてあるから。でも朝からイミナちゃんに会いたいじゃないか」

 ユートはさらりと返す。

「イミナは僕の妹のようなものだ。世話をして何が悪い」

 ハルマはちょっとむすっとしながら、私の頭を抱いてきた。

 食べられないからやめてほしい。

「妹~?」

 ユートがいぶかしげに笑いながらからかう。

「そうだ。王子から『ハルマに妹をあげよう』って任されたんだ。僕は王子と幼き頃から机を並べて学び……」

「はいはい。家ぐるみの付き合いで仲がいいんですよね。まあうちももちろん王家との付き合いはあるけど。しかしハルマ先輩がこんな人間だとは知らなかった。遠くから見ていたときは、もっとクールだと思っていた」

「イミナのおかげで変わったんだよ」

 ハルマは断言する。

 私? 私のおかげ?

 えっと……。何もしてないんだけど……。

「ユートこそ、なぜイミナに執着するんだ」

「一目ぼれだよ。運命の出会いだった。こんな女の子を守るために生まれてきたんだと思う」

 こちらもわけのわからないことをよどみなくすらすらと言う。

 え……ええ~……。

 その貴公子然とした笑みの前に、状況と自分の不釣り合いさにいたたまれなくなってくる。

 一目ぼれ? このもっさりとした私に?

 嘘でしょう?

「ユートにはたくさんの見合いが入っているだろうに」

「いやあ、三男なんてまだ気楽なものだよ。兄さんたちは大変だろうけど」

 二人の様子に、ソラヤは少しイライラしているようだ。

「そんな話はどうでもいいんですよ、先輩たち」

「えー? 俺たちがここにいたい理由をソラヤくんに知ってもらおうと思ってさ」

「僕は情で言っているわけじゃない。僕は同級生でイミナくんの面倒を見ている。関係がない先輩たちがわざわざ関わるのは道理がおかしい。今の状況を異様だと思わないのか。一人の女の子を大の男が囲んで……」

 私は異様だと思う。こくこくとうなずく。

「同級生がみんな転入生の面倒を見る必要はないと思うけど?」

 ユートのつっこみにソラヤは一瞬ためらって、

「……そういうことになってるんだ」

 苦しそうに言った。

 なにそれ。

「イミナちゃんを独り占めは許さないぞ?」

「そういう話じゃない!」

 ソラヤは少し赤くなっているようだった。

 私はハルマの腕の下でイチゴをつまむ。

 なんだろう、これ。

 信じられない。意味が分からない。

 物の怪にでも化かされているんじゃないのかな。


 なんだか嫌な空気がしてふと目を横に向けると、女子たちの厳しい視線が私に向けられていた。

 嫉妬。

 こうして私はまた嫌われるのだ。

 悪意がのしかかってくる

 ……はあ。憂鬱。

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