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力を手に入れるために

 そうだ。魔法の勉強をすればいいんだ。

 気持ち悪いと思うもの、全部私の力に変えてしまえばいいんだ。


 私はドキドキしていた。

 今までこんなに前向きな気持ちになったことなんてなかった。

 人生で抱えてきた鬱屈としたものをすべて吹き飛ばしてしまいそうだった。


 いつもと少し違う朝。

 身なりを整え、鏡の前で自分に向き合う。

 心なしかちょっぴり自信に溢れて見えた。 


 でもそのためには。

「心を開いて、エネルギーを受け入れる、か……」

 うーん。出来るかしら。

「イミナ様にならできますよ!」

 またキズナは根拠のないヨイショをしてくる。

 相手にせず、状況の整理を続ける。

「そもそも目的に対して私の魔力のキャパが足りてないんじゃないかしら」

「と言うと?」

「魔力の儀、か……」

 自信がみるみるしぼんでいくのを感じた。


 あのめちゃくちゃ痛くて不安なものを、またやらなきゃいけないのか。

 そもそも一般的な魔術師は第二段階以降は受けないって聞いたのに、私にできるのかしら。



 私はまだ教室に戻らず、ハルマの研究室で自分の興味のある分野の本を読んで過ごしていた。

 放課後になるとユートとソラヤが様子を見に来るので、自然にお茶会状態になっていた。


「ハルマもユートも、いつ魔力の儀の二段階目を受けたの?」

「どうしたの、急に」

 ユートは紅茶の入ったカップを口から離して言った。

「気になって」

「俺はイミナがこの学院にくるちょっと前かな」

「僕は16のときかな」

「マジで? 早すぎない? 大体卒業直前にやるもので、俺だって早い方なのに? 天才魔術師過ぎない?」

 ハルマの答えにユートは驚き、ソラヤは表情を硬くした。

「もしかしてイミナ、次の段階に行きたいの?」

 ハルマは優しく聞いてくる。

「……うん……。無茶なことはわかってるけど……」

 私は下を向いてクッキーをかじる。

「いや。無茶じゃないかもしれない」

「え?」

 ユートの言葉に他の三人がきょとんとする。

「ソラヤも第二段階を受けたいだろ?」

「もちろんだ」

 被せるように答えるソラヤ。

 ユートは髪をかき上げ、気障に笑った。


「二人同時に受けると言う手がある」


「同時に?」

「受ける人と儀式を行う人、それぞれ二人用意するんだ。それによって魔力の受け皿を増やして安定させる」

 ハルマが説明をする。

「前のときはコツとかないって言ったのに……」

 私はちょっと拗ねた。

「第一段階にそこまで大げさなことはどちらにしろ必要ないよ。それにあの時は他に第一段階を受ける人間は学院にいなかったし、そもそもイミナちゃんを預けられる人間が二人揃っていなかったからね。ハルマ先輩しか」

「おいちょっと待てユート。もしかして……」

 ハルマが顔色を変える。

「この間、王子が学院に来た時に、ちょちょっと裏ルートで儀式資格もらっちゃった」

 ユートはVサインを出してにかっと笑った。

「王室と貴族の癒着……。黒い関係……」

 がっくりとソファに崩れ落ちて頭を抱えるハルマを、ユートは悪びれずにぱしぱしと叩いた。

「遠い昔、同じ冒険をした仲をそんな人聞きの悪い言い方しないでくださいよ」


 そうか。ソラヤと一緒に受けるのか。ハルマとユートに儀式をしてもらって。

 ソラヤの方をちらっと見ると、彼は真剣な顔をして俯き考え込んでいた。

 うーん。なんか緊張しちゃうな。


「ただ、それでもまだ今のままではソラヤはともかくイミナは失敗する可能性が高いよ」

「ですかね」

 ハルマとユートの会話に、私は肩を落とした。

 そんなに簡単にはいかないんだ。

 そうよね。そんなうまい話はないんだ。

「だから。成功させるために、ソラヤと心を通わせてくれ」

「えっ!?」

 びっくりして声が裏返る私。

 ソラヤを確認すると、彼は顔を上げ、きょとんとしていた。


 



「ねえ……恥ずかしい……」

「そうか? 別に大したことじゃない」

 私はソラヤと手をつないで教室の前に立っていた。

 ハルマいわく、とにかくソラヤとずっと一緒に過ごせと言うことだった。

 それも、なるべく近い距離で。

 二人の間の意思エネルギーの循環がどうのこうの……。

 ハルマの難しい話を脳内で咀嚼しようとする。

 こんなことで本当に上手くいくのかしら。

「ソラヤはこんなところを人に見られてもいいの?」

「魔力の儀を成功させたくないのか?」

「させたいけど」

「じゃあ我慢しろ。僕一人ではまだ第二段階は早いってことらしいから、二人で頑張らなきゃいけないんだ」

 彼の、眼鏡のレンズ越しの相変わらず真っ直ぐな強い意志の瞳に貫かれる。

 強く手を握られ、私もドキドキしながら握り返す。


 手をつないだまま久しぶりの教室に足を踏み入れると、不思議と悪意の重さをあまり感じなかった。

 もう王子事件から日が経っているから、みんなの気持ちも落ち着いたのかもしれない。

 でもあの事件の前でさえ、もっと気持ち悪いものが渦巻いていた気がする。

 ふと、街の中でユートに手をつないで貰ったことを思い出した。

 安心する。


 ソラヤに、守られている気がした。

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