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そんなこんなで異世界生活~50歳からの異世界転移~  作者: 聖プリ
第一章 召喚~魔王討伐まで
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05話 サラとアリス

「なんと、素晴らしい。本当に一瞬ですね」

「バルド、ここはどこなのですか?」

「ここはマナシの街ですな。この宿、儂も泊まった事が御座います」

「ふむふむ、これは便利なアイテムじゃのう」


皆で、食い入るように[受信の水晶板]を見る。


流石はサラちゃん。

話を理解していたようで、俺が場所をイメージしやすいよう、転移したあと一旦立ち止まり、ゆっくりと周りの風景を映し出してくれている。

そして暫く佇んでから、次の場所に転移して行った。


皆によると、ズオカの村~イチの村と、神聖ラーナ王国方面に、順に転移しているという事だ。


「ふむ、ここまでは我が国。ミドルランド地方には、何の災厄も起きておらぬようじゃ」


続いて国境を超え、ウェストランド地方のエミ村に転移した。

そこからは空気が一変する。



「…誰も居ないわね?」

「…避難したのでしょうか?…」

「随分、閑散としておりますな」

昼餉ひるげも近いというに、煙突から煙が上がっておらんのう…」


俺の左袖を必死に掴んで震えるアリスさん。

家が壊れたり、火事になったりしている訳ではないが、白昼から誰も居ない村と言うのは嫌な雰囲気が漂う。



そして遂に『神聖ラーナ王国』に転移した。


そこは大きな城郭都市。

石積みの、高さは3mを超える壁に囲まれた大国。

壁の内側にはテントが連なり、他から逃げてきた人間が雨露を凌いでいるようだ。


家々は窓や扉が閉じられ、門前や道には大量の兵隊がひしめき合っている。

広場は、食事を炊き出す煙で溢れ、ものものしい雰囲気だ。


「他の村の民も、ここに逃げ集まっているようですね」

「お母様、よかった…。まだ魔王軍は来ていないようです」


よし、間に合った。と、思ったら映像が揺れ始める。サラちゃんが転移し始めたようだ。

うん。お疲れ様サラちゃん。早く戻っておいで。

先ほどまで映し出されていた”神聖ラーナ王国”の風景を瞼に刻む。

うん。MAPに表示された…。大丈夫だ。


❛聖なる地図❜(ホーリー・マップ)確認済・・・の場所がMAPに表示される。未確認の場所は灰色で表示されて転移不可。味方は[青▼](青マーカー)・敵は[赤▼](赤マーカー)・敵味方不明は[黄▼](黄マーカー)に識別される。


…この時は俺は❛聖なる地図❜(ホーリー・マップ)の使い方を、まだ理解していなかった。


「ど、どうした事ですか、これは!!」

「ヒッ!!!」

「ぬう。街が焼け落ちておるではないか!」

「ふむ。大量の死体が川に浮いておるようじゃな…。ここは”サカオの街”か?」


…サラちゃんは、戻る事なく、先に進んでしまった。




「もういい!!戻れサラちゃん!!」

[受信の水晶板]に向かって、大声を出してから俺は気付く。


”声を伝える”アイテムを造り忘れた事に…。



◇◇◇


サラ side


私は親の顔を知らない。

物心ついた頃には、既におさに拾われ、訓練を受けていた。

走らされたり、木に登らされたり、泳がされたり…。


食べて寝る以外の時間は、全てが辛く厳しい訓練だった。


その寝食ですら、任務が上手く行かなければ与えられない事もあった。

毎日が叱られ、叩かれ、殴られの繰り返し。

それでも生きていく為には、従うしかなかった。

他の仲間たちも皆同じ。

次第に心は、氷に閉ざされたようになって行った…。


仲間が死んだ。長が死んだ。

それでも何の思いも湧かない。


長が死んだとて、国の内情を知る者は、おいそれと辞める事が出来ない。

逃げれば死ぬまで追われるだけだ。


女王への忠誠を、シモンに誓わされた。

誓った。任務・・として。

殴られる事が無いだけマシだ。

食事があるだけマシだ。

どうせ、死ぬまで外される事の無いこの鎖・・・


私は任務をこなすだけの人形だった。




あの方に遭うまでは…。



『でかした、サラちゃん!!』

『ヤッターッ!サラちゃん!えらい!』

褒められた事など無かった…。




『気にしないでいいから。ね?』

『いいんだよ、サラちゃん。それがサラちゃんを守ってくれるよ』

優しい言葉をかけられた事も無かった…。


もしも、父や兄が居たとしたら、あの方のように優しく頭を撫でてくれたのだろうか…。



あの方に遭ってから、心の氷・・・が解け始めた…。



何とか、あの方のお役に立ちたいと思った。

次は”褒めてもらえる”かも知れない!


あの方の為にも、魔王軍の居場所を突き止めなければ!!


幸い、西は”サカオの街”まで行った事がある。

あの方がくれた水晶に手を触れ、私は《転移》と唱えた。

周囲の雰囲気が、一瞬で変わった。


ここは既に死の街。


焼け落ちた家々。

死肉の焼ける匂い。

川に浮かんだ死体。

土に染み入る大量の血溜り…。


生きているモノの気配が無い。

しかし…




囲まれた!!


何処からともなく現れた、魔物の集団。凡そ二十匹。

ゴブリンとコボルトだ。

あの方より授かった短刀を抜き、❛疾風❜を唱える。


「テヤッ!」

右のゴブリンの首を狙う。


何の抵抗も無く、サックリと刎ね飛ばされた首。

凄まじい切れ味です。マサト様!


「セヤッ!タアッ!」

その右の一匹、左の一匹と、続けて首を刎ね飛ばす。


これならば私でも何とかなる!



そして❛疾風が途切れる前に、魔物の殲滅が終わった…。


「フ~~~ッ…」

同時に息を吐く。


「ん?」


終了したと思った瞬間、辺りに黒い霧のようなものが立ち込める。

それは異臭を放ちながら徐々に姿を変え、次はオークとオーガの集団なった。


「…グッ!」


一瞬怯んだ隙に、左からオーガの拳を受ける。

咄嗟に左腕で庇った。が、怪我は無くても重量を抑えきれずに吹き飛ばされる。


「カハッ!」


地面にうつぶせになった体。今度はオーガに背中を踏みつけれ、体勢を戻せない。

短刀を抜こうとした右腕は捻じられた…。



「無念…ここまでか」

そう呟いて、私は目を閉じた……。





「サラちゃんをいじめんじゃねぇええええ!!!」


純白の光の中から、大声を上げた誰かが飛び出してきた。

ドゴッン!とした音と同時に背中の圧力が無くなる。

顔を上げると、私を踏みつけていたオーガの上半身が無くなっていた。


❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)❛聖なる陣地❜(ホーリー・サークル)❛聖なる身体強化❜ホーリー・フィジカル・エンチャント!」

魔法を唱え、私を抱き起してくれる…。


「…大丈夫かいサラちゃん。どこか怪我はしてないかい?❛聖なる完全回復❜ホーリー・パーフェクト・ヒール!遅くなってゴメンね」

そう言って、私の目を見つめ、優しく背をたたくマサト様…。




心の氷は全て解けて行った…。



◇◇◇


マサト side


「もういい!!戻れサラちゃん!!」

[受信の水晶板]に向かって、大声を出してから俺は気付く。


”声を伝える”アイテムを造り忘れた事に…。


失敗した。阿呆か俺は。

他人様ひとさまを戦場に送り出すってーのに、もっと注意を払えってんだよ!

声が送受信できなきゃ、危険を知らせられ無ぇじゃねえか!

神様に力を貰って、有頂天になっていたんだよな!馬鹿が!




ふぅ…よし、反省終了!


神聖ラーナ王国は、❛聖なる地図❜(ホーリー・マップ)にMAP表示されている。

だが、”サカオの街”は、まだ灰色表示(未確認MAP)

直接、転移する事は不可能だ。

神聖ラーナ王国からサカオの街までの距離が不明なため、直ぐに転移すべきかどうか戸惑う。

サラちゃんも動揺しているようで、ゆっくり周りの風景を映し出すことが出来ないでいる。


その内、[受信の水晶板]に魔物が映し出された。ゴブリンとコボルトの集団だ。


…いったい何処から現れたんだ?


皆も固唾を呑んで[受信の水晶板]に見入っている。

俺は周囲の風景を覚えようと必死になるが、集団戦で回りがよく見えない。



早いっ!

戦闘を開始したサラちゃん。

見る見るうちにゴブリンとコボルトを殲滅してしまった。…強いな、サラちゃん。

俺は胸を撫で下ろした。


「「「おおおおお~~~~っ」」」

大人三人は感嘆の声を上げている。

アリスさんは黙って俺の左腕に抱きついていた。


すると、一息つく間もなく、周囲に黒い霧のようなものが立ち込める。

そこから出現したのはオークとオーガの集団。

サラちゃんの緊張が、此方にも伝わって来た。


「「「「あっ!」」」」

急に画面が横に倒れた。

[受信の水晶板]には、地面とサラちゃんの左手が映し出され、オーガの右足がアップで映る。


…倒されたのか!!




『…ブチッ!!』


何処かで、何かが切れたような音がした。

全身の血が沸騰し、頭に登って行く感覚。


…この野郎!ふざけんな!絶対ブッ殺す!!


思った瞬間、❛聖なる地図❜(ホーリー・マップ)に”サカオの街”が表示された。

”ポツン”と一つの[青▼](青マーカー)の周りに、大量の[赤▼](赤マーカー)が点滅している。



「…うおぉぉぉぉぉお!❛聖なる転移❜ホーリー・トランスポート!!!」

俺は後先考えずに魔法を唱えた…。






「サラちゃんをいじめんじゃねぇええええ!!!」

転移と同時にサラちゃんを踏みつけていたオーガをぶん殴る!上半身が吹き飛んだ。いい気味だ、ざまあ!

ふぅ、ちょっとスッキリした。


❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)❛聖なる陣地❜(ホーリー・サークル)❛聖なる身体強化❜ホーリー・フィジカル・エンチャント!」

直ぐに三つの魔法を唱えて安全確保。オークとオーガの集団は、❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)❛聖なる陣地❜(ホーリー・サークル)に弾かれて、四方に吹き飛んだ。


「…大丈夫かいサラちゃん。どこか怪我はしてないかい?❛聖なる完全回復❜ホーリー・パーフェクト・ヒール!遅くなってゴメンね」


サラちゃんを抱き起し、完全回復魔法をかける。何かあったら大変だ。


頬を染め、俺を見つめるサラちゃん…。瞳が潤んで涙目になってる…。

うんうん、怖かったね?ゴメンね?ダメな大人で。


トン…トン…とリズムをつけ、安心するよう背中を優しくたたいてあげる。




「ゴホン!ゴホン!…マサト様、サラはもう大丈夫なようですよ?」

えぇ!!

慌てて振り向くと、そこにはアリスさんが立っていた。


「ど、どうして???」

「…マサト様の腕に抱きついていたら、一緒に転移したみたいです」


うわ、最悪。後先考えないって駄目だね。しかも王族を最前線に誘拐するなんて……死刑?


「サラも、マサト様から離れなさい」

「…嫌です」


「「ええっ?」」


どうした?サラちゃん。王族に反抗するなんて…。反抗期?


「私はマサト様に命を救われました。この命、マサト様の為だけに・・・・使いたい。マサト様、私のを握って下さい。私のご主人様・・・・に成って下さい!お願いいたします!」


「「はぁっ??」」


そう言って、俺の前にひざまずくサラちゃん…。鎖なんて見えないんだけど…。


「良くお聞きなさい、サラ。神アマテラス様は、私にこう仰いました。『彼に身も心も(妄想です)委ねなさい』と。マサト様は、次の女王の夫・・・・・・になるお方なのですよ?」


ん?


「では、私は身も心も、命も・・捧げます!」

「い~え、私が捧げます!」

「私も捧げる覚悟です!」

「「ム~~~ッ!!」」


…何だかなぁ、”ササゲル、ササゲル”って、どっかのベ○リットじゃ無いんだからさぁ~…。ニエニエ。


しかも周りを良く見てよ。

そんな事やってる場合じゃ無いってえの。


美少女二人が顔を突き合わせる周囲で、オークとオーガの集団が、❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)をガンガン叩いているこの状況…。

シュールだ…。



❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)越しに空を見つめ、思いをめぐらす。


最初、”頭に来た”から使える様になったと思った、❛聖なる地図❜(ホーリー・マップ)

俺は[映像の水晶玉]で映された場所を[受信の水晶板]で見、脳内でイメージを浮かべ、❛聖なる転移❜ホーリー・トランスポートで、転移しようと躍起(やっき)になって[受信の水晶板]を見ていた。


だが、サラちゃんが地面にうつぶせで倒れた事により、[映像の水晶玉]が”サカオの街”の大地・・を映した。

これにより、❛聖なる地図❜(ホーリー・マップ)大地を確認・・・・し、MAPが表示され、転移できるようになったのだ。


「…ハァ~」

なんだかなぁ…。


魔法の事にしても、アイテムの事にしても、王女の事にしても、サラちゃんの事にしても…。

つくづく、自分の間抜けさを実感する。


「フ~~~ッ…」


一度、深いため息をく…。


「さて、倒すか!」

パン!と両手で頬に活を入れる。


二人の少女の頭を一撫でし、俺は広範囲上級魔法の❛聖なる業火❜ホーリー・ヘル・ファイアーを唱えた。














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