04話 初めての錬金魔法《ホーリー・アルケミー》
◇◇◇
マサト side
30分は経った頃、ようやく扉が開かれて中に招き入れられた。
”玉座の間”
いったい何畳あるのか?旅館の大広間のような広さ。
床には廊下と同様に、金糸や銀糸の刺繍が入った赤絨毯。
真っ白な漆喰が塗られた壁には、所々、重厚な赤いカーテンが垂れ下がる。
天井から下がる大きなシャンデリア。全てが相俟り、荘厳な雰囲気が漂う。
壁際の三段高い位置に、金色に縁どられた真っ赤な椅子が置かれ、そこに一人の女性が座していた。
歩みを進めながら、横目で❛神の眼❜を使う。
この、アリスさんがそのまま大人になったようなこの美しい女性が、キャサリン・ミドルランド女王。
年は20歳そこそこに見えるが…女性の年齢は分からない。
とても10歳の子供がいるようには見えない若々しさ。しかも巨乳…。
ごっつあんです!ってちがう!
女王の正面に到着し、目を合わせるのは無礼と感じて、視線を下げているから自然に胸元が目に付くだけなんだ!…冤罪だ!
玉座の三段下の右横には、如何にも魔法使いと思しき黒い服を着た白髪の老人。
手には杖頭に宝石が付いた杖を持っている。この男が賢者シモン・エリュク。
【名前】キャサリン・ミドルランド
【種族】人間
【職業】ミドルランド国王・魔法師
Lv:36
HP:1405/1405
MP:2463/2463
【称号】王国の統治者
【名前】シモン・エリュク
【種族】人間
【職業】賢者・魔法師
Lv:62
HP:1849/1849
MP:3005/3005
【称号】知の探求者
室内の四隅には、やはり西洋式の甲冑を付けた衛兵が佇む。
隠し通路でもあるのだろう。天井の裏からは、何者かの気配を感じる。
❛聖なる防壁❜を最小範囲で展開。これは何かあった際の保険だ。
暫くして女王が玉座を離れ、階段を下り俺の目の前に立つ。
「私がこの国の女王、キャサリン・ミドルランドです」
そう言って、優雅な動作で軽く黙礼する。
「陛下自らお言葉を戴き、恐悦至極に御座います。私は山田聖人。姓がヤマダ、名をマサトと申します」
こちらは深々と頭を下げた。
「神の御使い様、その様に恐縮されなくて結構です。アリスから話は聞いております。話し方も普通で構いませんよ?」
「ありがとうございます。私は平民なので、高貴な方の応対は苦手でして…。それとその”御使い様”というのはお止め下さい。”ヤマダ”か”マサト”と、呼び捨てで構いません」
…本当は”神の使徒”になっているが、バラす心算はない。何かに利用されるのはゴメンだ。
「ではマサト様と。マサト様、魔王討伐に力を貸して戴けるとの事。本当にありがとうございます」
再び優雅な動作で黙礼する女王。
「オホン。ちと宜しいですかな?」と、白髪の老人が話しかけてきた。
「マサト様、此方は賢者シモン・エリュク。私の右腕の者となります。どうぞ、よしなに」
「はい。シモン様。私は山田聖人です。よろしくお願いします。私の事は”ヤマダ”か”マサト”と御呼び下さい」
「ではマサト殿と。ワシは賢者シモン・エリュクと言う者。ワシの事はシモンと御呼びくだされ」
「さて、マサト殿。お主が並並ならぬ力を持っておるのは、その魔力の気配でワシにも分かる。じゃが、それだけでお主を”神の御使い様”などと、俄かに信ずる事が出来ん」
「これ、失礼ですよシモン。先ほどアリスからの話を、お前も聞いたでしょう?」
「陛下、事は世界の命運を左右するものですぞぃ?だいたい、ワシには”勇者”などという者の存在すら信じられん。ましてや”神の御使い様”などと…姫様の話を鵜呑みにする訳にはいかぬのです」
…まあ、そりゃぁそうだ。俺は未だ何の力も示して無いんだから。
「シモン様。事は一刻を争うものと考えます。どうすれば信用していただけるのでしょうか?」
試しに誰かと戦ってみるとか、そんな猶予は無いハズだ。
「うむ。ではまず、この”鑑定の宝珠”で、お主のレベルを見せてもらおうか」
あ~これはあれか~。宝珠を割らなきゃいけない流れか~。
「ちなみに、シモン様。コレはLv幾つまで計れますか?」
「鑑定の宝珠は、Lv100まで測定できるぞぃ。安心せい」
「…私、Lv255なんですが…」
「「「「はぁ???」」」」
「れ、Lv255などと、馬鹿な事を言うで無い!この世にはLv100迄しか存在せん!それ以上というのは、それこそ”人知を超えた存在”じゃ。いや、待て、待て!待て!!」
もう面倒だからと、鑑定の宝珠に触ろうとしたら止められた。
何なんだよ、このジジイ!ここは、パリン!と割って、スカッ!とする所だろうに。
「鑑定の宝珠は攻撃されることを前提にして、作られてはおらん。壊されて、有耶無耶にされる予感がするぞぃ」
チッ!感のいいジジイだ。
「では、どうすれば?」
「バルド!この者の髪の毛を1本、抜いて持ってきてはくれんか?マサト殿、宜しいな?」
コクリと頷く。
「マサト殿、御勘弁を。シモン殿はその頭脳によって、この国の内政を補助してきた者。故に言葉だけでは容易に納得させる事が出来ぬのです…平に、平にご容赦を…」
そう言ってバルドさんが俺の髪の毛を1本引き抜いて、シモンさんに手渡した。どうせなら白髪の毛を抜いてくれたらよかったのに…。
「ふむ、僅かな魔力の残渣があるが、この程度ならば宝珠が壊れる事はあるまいて。どれ…」
そう言って、シモンさんが”鑑定の宝珠”の上に俺の髪の毛を乗せる。
”パキーンッ!!”
乗せた瞬間、”鑑定の宝珠”が、バラバラと砕け散った…。よし!お約束ぅ~
「「「「工工工エエエエエエェェェェェェッ!!」」」」
皆が唖然としていた。
シモンさんはその場で両膝をつき、「嘘じゃ…嘘じゃ…」と譫言のように呟いている。
「素晴らしいです!神の御業です!ヤマダ様!」
感嘆の声をあげながら、俺の左袖を引っ張って小躍りするアリスさん。
王女という立場では仕様が無いのかもしれないが、いつもこういう態度なら、子供らしくて可愛いのに…。
微笑ましくなり、ついつい頭を撫でてしまった。
・
・
・
「アリス、場を弁えなさい。シモン、もういいでしょう。何の道、私達にはもう打つ手が無いのです。マサト様、マサト様のお力の一端は、窺う事が出来ました。で、どのようにして魔王を倒すのでしょうか?」
「そうですねぇ、まずは斥候を出してもらい、魔王軍の位置を知らないと話にならないのですが…。
位置が分かれば”転移魔法”で転移し、”上級魔法”数発で倒す心算です」
「まあっ!!それで魔王を討ち取れるのですか?心強い事を…。しかし、斥候ですか…」
そう言って、チラリとシモンさんに目を向けた。
「マサト殿。この国にも斥候、所謂”影の者”がおる。魔王が生まれたと知り、わが国もこの影の者を各地に放った。しかし魔王軍の侵攻が激しくなるにつれ、城に戻る者の数は減っ行った。殺されたのじゃ。魔物の集団に。
三日前、西のウェストランド地方が、神聖ラーナ王国に残存総兵数、約三万を集結させたと言う情報まではわかっておる。
国境のわが国シーガやクイの村、その近隣からの知らせが無いので、まだ神聖ラーナ王国が落ちたとは思えん。
この情報をもたらし、その場で死んだ影の者。これがこの国の”影の者”を治める長だったのじゃ。
直ぐに使える斥候はこの者が最後じゃった。
その者が育てていた者も居るには居るが、まだ半人前。普通の兵よりはマシじゃがの…。ここは致し方ない。サラ!」
「ハッ。此処に」
シモンさんに呼ばれて、天井裏の気配が消え、代わりにサラと言う少女が現れた。
はやっ!…魔法?なのか?
額に鉢がねのような物を巻き、首から下は黒ずくめ。まるで忍者。
肩口で揃えられた青い髪。意思の強そうな眉。引き締まったキツネ顔の美少女だ。
スレンダーな体で、屋根の上を飛び回る姿を想像した。
しかし、どう見ても中学生程にしか見えない。
「え~と、少女ですか?男性はいないのですか?」
「マサト殿は、この国が十年前までエルフ・獣人・ドワーフ連合との戦争が続いていたことはご存知かな?」
「はい」
「先の戦いで、多くの若者の命が失われた。十五歳から三十歳の働き盛りの男達じゃった。
その時五歳だった者が今やっと十五歳の成人。今の世、若い男の数は少ない。
当時は、子を作ろうにも相手が死傷してしまっていたのじゃから…。
今は一部に一夫多妻制を認めておる」
いや、何そのハーレム・フラグ。
そういうのは結構です!
「はあ…。それは…、大変ですね…」
そっちも俺に”任せろ!”ってか?ムリムリ。
もう、50だよ俺。最近じゃあ、朝起きた時にも反応が乏しくなったアレ。
トイレで小便をする専用道具になってる。トホホ…。
「サラ、行けるか?」
「ハッ!ご命令とあらば!」
「ちょっと待って!!」
直ぐに消えようとするから、大声になってしまった。
此方に背中を向けたまま、ピタリと止まった少女。
「サラさんに話かけても良いですか?」
「構わぬよ。サラ、マサト殿とお話を」
「ハッ」
翻って俺の前で片手片膝をつく少女。
「何なりと」
【名前】サラ
【種族】人間
【職業】影の者(見習い)
Lv:26
HP:1311/1311
MP:67/67
【称号】なし
…❛神の眼❜を使ってみたが、強いのか弱いのか、良く分からない。
「サラさんは、お幾つですか?」
「ハッ。十三に御座います。サラと御呼び下さい」
…あ~やっぱり中学生か~。J~C~
「貴女がここから神聖ラーナ王国まで行き、帰ってくるのにどれ程の時間がかかりますか?」
「ハッ。私の使う風属性❛疾風❜の魔法は速度が出ても、短時間しか使えません。
行きに、潰れるまで馬を使ったとしても、往復一月半以上は…」
ガイアースは、地球より小さい惑星だ。だが、日本として考えると、ほぼ10倍の大きさになる。
ただし、大陸は少し変形して創造されており、各県の形や県境、面積を日本と比較するのは難しい。
地球では、東京~奈良間が直線で約360km。10倍すると3,600km。これは北海道~沖縄くらいの距離だ。
しかし、それを単純に当てはめることは出来ない。
❛聖なる地図❜でも、一度は行った事が無いと詳細な表示がされず、詳しい距離が分からない。
ここは、❛聖なる錬金❜を試すしか無いようだ…。
❛聖なる錬金❜。無からは生じない。材料があれば、思ったものを創造する事が出来る。何でも創造出来る訳では無い。嫌な予感がある時は必ず失敗する。
・
・
・
「マサト様、如何なさいましたか?」
目を閉じ、手で顎を擦りながら考え込んでいた俺。
会話が止まり不思議に思ったのか、サラさんが話しかけてきた。
「…よし、試してみるか。サラさん、ちょっと待ってて下さいね」
水差しの置いてあった高さ1m、天板1m程のテーブルを借りた。
テーブルの上に、❛聖なる箱❜から[水晶(原石10kg)]を2つ、[ミスリル塊(10kg)]を1つ乗せる。
「おぉ!!」「すごい!」「あれはアイテムボックス…」などの声が聞こえるが、気にしない。まだ出しただけだ。
「今から❛聖なる錬金❜の魔法を使います。これは、神アマテラス様より授かった力ですが、何でも創造できる訳けではありません。今からこれ等で”ある物”を造ります。…行きます!❛聖なる錬金❜!」
そういって、手のひらをパンッ!と合わせる。…別に意味はない。例の錬金術師的なものでもない。ただの気分だ。
まず、1つ目の[水晶(原石10kg)]が、純白の光に包まれた。光が収まると、直径3cm大の水晶玉が2つ出現していた。
この1つ目の水晶玉に❛聖なる転移❜を❛聖なる付与❜で付与。
嫌な予感はしない。
無事に[転移の水晶玉]がテーブルの上に出現した。…成功だ。
もう1つの水晶玉。今度はこれにビデオカメラをイメージして、❛聖なる錬金❜。[映像の水晶玉]を造った。
2つ目の[水晶(原石10kg)]。テレビ画面をイメージして、❛聖なる錬金❜。[受信の水晶板]を造る。
縦横20cm大の水晶の板が出現。下には小さいスタンドも付いている。
最後は、水晶玉を装備しやすいように加工だ。
ミスリル塊に触れて❛聖なる錬金❜。ミスリル塊からはイメージに合った使用量が掴み取れた。
ネックレスのチェーン部分と、”龍の爪”によく似た形の5本の”立爪”2つ。それぞれに、水晶玉が填め込まれた。
これで、[転移の水晶玉]と[映像の水晶玉]が垂れ下がるネックレスが出来上がった。
余った素材は❛聖なる箱❜に戻す。
「説明します。ネックレスの右側の水晶玉、これが”[転移の水晶玉]”です。手で触れ、今まで行った事のある場所を強くイメージして”《転移》”と唱えると、その場所に転移する事ができます。転移した場所に人や物がある場合は横にズレます。
左側が”[映像の水晶玉]”。これは周囲を映すことのできる水晶玉です。これも手で触れ”《映像》”と唱えると、周囲を映し出します。
そして、この大きいのが”[受信の水晶板]”です。遠くにいながらも[映像の水晶玉]に映ったものが、此処に映し出されます」
「「「「「……」」」」」
これを”あんぐり”と言うのだろう。その場にいた全員が、口を同じように開けていた。
パン、パン、パンと3回手を叩き、注目を集める。
「私の魔法、❛聖なる転移❜は、行った事のある場所、見た事のある場所に転移することが出来ます。転移は一瞬です」
「「「「「…ハッ!」」」」」
皆がハッとした。そうそう、そういう事です。
「どなたか、神聖ラーナ王国、もしくは、その近くに行った事のある人を知りませんか?」
…行った事のある人にこれを装備。先に転移してもらって映された映像を見れば、続いて俺が転移する事が出来る。
「マサト様、私の夫は神聖ラーナ王国の生まれです。私は何度も訪れた事があります」
「はい!マサト様!私も数回行った事があります。従姉のクリス・ウェストランド王女の部屋なら、良く覚えています」
「マサト殿。儂は、女王陛下や姫様の警護として、その都度、神聖ラーナ王国に同行致した。当然場所も良く覚えておる。陛下や姫様を行かせる訳には参らん。…ここは儂が行こう」
「ほっほっほっ…。ワシも「ダメです!」んなっ?」
「…女王様、王女様は当然ダメです。危険な目に遭わせる訳には行きません。バルドさん、シモンさん。”国の有事の際”のため、お二人には残ってもらわなければなりません。ですから、”行った事のある人を知りませんか?”と尋ねたのです」
「「「「「……」」」」」
…皆、沈黙してしまった。それぞれが誰かを思い浮かべているようだ。
「マサト様、此処はやはり私が…」
ここで黙っていたサラちゃんが、話しかけてきた。
ダメだよサラちゃん。いくら斥候能力が高くても、時間が間に合わないんだからね。
「…この国にお仕えするまでは、我らは”流浪の集団”。各地を転々として参りました。長も、長に拾われた私も、”エミの村”のガイの里の生まれでして、その付近は…「でかした、サラちゃん!!」はぁ??」
三重か!日本では、奈良まで約100km。10倍で約1,000km。ここでも、それほど離れているとは思えない。
しかも忍者のサラちゃん!(注:忍者ではありません)一番妥当な線だ!
サラちゃんに頑張ってもらえば、数日でなんとかなる!もう呼び方も”サラちゃん”に変更だ!
「…でして、もちろん神聖ラーナ王国に、訪れたこともありますぅ…「ヤッターッ!サラちゃん!えらい!」ぅぇえ!!あ、そんな、何を…」
なんと!神聖ラーナ王国に行った事があるんなら、時間の問題ナッシング! オールグリーンでございます!
も~オジさん、感激しちゃってサラちゃんの頭を撫でまわしちゃったよ…えらい!えらい!…ん、んん??
「…あの、ヤマダ様…姫様が、頬を膨らませてますので…その…」
・
・
・
暫く頭を撫でていたら、アリスさんから”マサト様!”と注意の声がかかった。
ごめんね。そんなに頬を膨らまさないでよ。
それより気にかかったのは、サラちゃんの装備だ。
頭を撫でている時に、嫌がる素振りを見せなかったサラちゃん。”この子にも何か称号が?”と思い❛神の眼❜を使ってみた。
称号は付いていなかったが、目で見るだけの時とは違い、体に触れると、より詳細な情報を得る事が出来た。
立体スキャンで得た様な体のデータ。
サラちゃんの装備は、何と麻の服だったのだ。
下着も麻で、上は晒、下は下帯。
こんな装備で送り出すのは、余りにも忍びない。…シノビだけに。
違う!冗談言ってる場合じゃ無い!現実に死ぬかもしれないのだ。
ここはオジさん、奮発しますよ~!どうせ只で貰ったものだし!!
❛聖なる箱❜から、イメージに思い当たる素材を出して、床に置く。
素材には、元々、特殊な効果を持つ物がある。
例えば、ブラックドラゴンの革。これは、闇属性耐性・魔法耐性・防御力上昇の効果を。
オリハルコンは、攻撃力上昇・防御力上昇の効果を持っている。
但し、俺にはまだ、これらを混ぜて上手く錬金する事が出来ない。
だから素材その物の効果を利用する。
瞼を閉じ、サラちゃんの体のデータを思い浮かべて❛聖なる錬金❜!忍者の服をイメージ!
純白の光に包まれて、ブラックドラゴンの革と、オリハルコンが変化して行く。
上下の服・フード付きコート・ブーツ・手甲・鉢がねが・鎖帷子が出現した。
鉢がねの額の部分、ブーツの脛の部分、手甲の甲から手首にかけての部分は、オリハルコンが薄く伸ばされ貼り付いている。
次にオリハルコンで短刀を造った。
下着はまだ造れないので勘弁してもらう。
静まり返った空気の中、それらを全てサラちゃんに手渡す。
「この装備一式を、サラちゃんに上げます」
「こ、こんな…」
「気にしないでいいから。ね?」…『いのちだいじに』だ。瞳を強く見つめてお願いする。
それからネックレスの説明をして、試しに自室に転移して装備するように促した。
「…はい。わかりました…。《転移》」
そう唱えた瞬間にサラちゃんの姿が消える。
暫くすると、「まあ!」「な、なんと!」と言う声が聞こえ始めた。
皆が注視しているのは[受信の水晶板]。
サラちゃんは、《映像》も唱えたようだ。
そこにはサラちゃんが服を脱ぎだす姿が映し出されていた…。
いや、そういうサービスシーンはいいから…。
俺は背を向けて、サラちゃんが戻ってくるのを待った。
・
・
・
そうこうしている内、サラちゃんが装備を整え転移して来た。
「装備と[水晶玉]の具合はどうかな?」
「素晴らしいです。❛転移❜は私の❛疾風❜など、及びもつかない速さです。この装備も軽くて動きやすくて、体にピッタリ合っています。
あの…、マサト様、本当にこのような素晴らしい物を、私などが戴いてもよろしいのですか?
私には価値など分かりませんが、材料といい、仕立て具合といい、とても高価な物のように思えるのですが…」
「いいんだよ、サラちゃん。それがサラちゃんを守ってくれるよ」
「しかし…、いえ、ありがとうございます、マサト様」
最初の頃の仰々しい話し方や態度と変わり、頬を染めてペコリと頭を下げるサラちゃん。
うんうん、子供はこうでないとな。俺は自然に手を伸ばし、再び頭を撫でながら話しかける。
「サラちゃん、魔王軍が何処まで侵攻しているのか分からない。近くの場所から順番に転移して、神聖ラーナ王国に向かって欲しい」
「はい。不肖サラ、例え死んでもお役目果たします!」
「いやいやいやいや、死んじゃダメだからね!生き残るのが斥候の務めだからね?」
「はい!」
「サラ、頼みましたよ?」
「ハッ!陛下の御為、粉骨砕身の覚悟!」
「では、行ってまいります。《転移》」
・
・
・
サラちゃんが転移した後、皆で[受信の水晶板]を見る。
…俺は、造り忘れている物がある事に気付く事が出来なかった…。