表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そんなこんなで異世界生活~50歳からの異世界転移~  作者: 聖プリ
第一章 召喚~魔王討伐まで
7/59

03話 死んだ両親の真実

10数分も経った頃、やっと正気に戻った王女様。

再び❛神の眼❜(ホーリー・アイ)を使った処、ホントに称号が”神託の巫女”になっていた。


「では、母…、女王陛下に御目通…、お逢い下さい。ご案内いたします。ささ、此方にどうぞ…」

女王陛下と対面し、今後の話をする事になった。

王女と俺、互いに”恐れ多い”と恐縮し合ったが、最終的にアリスさん、マサト様と呼び合う事で合意した。


姫様を先頭に、バルドさん、俺の順で城の廊下を歩く。

床も壁も全てが石造りのその廊下は、重厚な雰囲気を醸し出していた。

中央部分に敷かれた、継ぎ目の分からない程の長い赤絨毯。ちりばめられた金糸・銀糸の刺繍が、権力や威信を表しているように感じる。

等間隔にあるアーチ型の窓から見える庭には、青々とした背の低い生垣が、迷路のように造られていた。

行った事は無いが、西洋の城はこんな感じなのだろうか?


やがて、両側に槍を持った衛兵が立番する、大きな赤い扉が見えた。王女様が声を掛けると、内側からその扉が開かれる。

「マサト様、ここで少しお待ちください。女王陛下に事情を伝えてきます」

そう俺に告げて、アリスさんは先に入って行った。


俺の横に残ったバルドさん。扉の前で黙って立つ門兵2人。

ここに居るうちの三人が甲冑を着、草臥くたび)れたスーツを着るのは俺一人。


沈黙の中、所在無い俺はじっと正面の扉を見続けた。

…苦痛だ。小学生の頃、廊下に立たされていた時より苦痛に感じる…。

◇◇◇


アマテラス side


「あんなんで良かったのかい?姉貴」


子供達四人は、無事、彼の❛聖なる送還❜(ホーリー・リターン)で送還された。

途中、私がこの場所に留め、四人を❛聖なる睡眠❜(ホーリー・スリープ)で眠らせた後、❛聖なる削除❜(ホーリー・イレイズ)で召喚の記憶を削除して、元いた場所に送還した。

行方不明として捜索されていた子供達だが、記憶がないのだから詳細は誰にも分からないだろう。


「大丈夫でしょう。記憶は消しました。深層には残っているかもしれませんが、大人になるうちには現実かどうか分からなくなっているハズです」

「それもあるが、そうじゃなくて彼奴あいつに全て伝えなくて良かったのかい?っつう話だよ」

「あ~山田家の話ですか…」

「ああ、彼奴んの奴らは、随分な巡り合わせなんだなぁ…」

「そうですね…」


弟神のスサノオやのツクヨミ創造した他の星(神の箱庭)には、エルフや獣人、ドワーフなどが生まれていた。

私が創造した星、ガイアース(神の箱庭)。幾千年の年月を経ても、生まれてくるのは動物だけ。”人間”が生まれずる事は無かった。

それどころか、そのうち魔素溜りから”魔物”が生まれ出るようになった。人型の魔物もいるが理性が無く、アレでは人間に数えられ無い…。

先に生まれた動植物にも、既に魔素は必要不可欠となっているため、魔素を取り除く事は出来ない。


私はその世界ガイアースに失望し、日本ばかりを見るようになった。


数年前、そんな時に見つけた二人。山田太郎やまだたろう田中花子たなかはなこ

二人とも二歳の孤児だ。

ある雪の降る同じ日に、鬼島学園きじまがくえんという民間養護施設の、門の前に置き去られた幼児おさなご

園長である鬼島という男は、二人の名前を適当につけた。

太郎と花子は、鬼島に何の疑いを持つこともなく、幼いころから近所の農家や店の手伝いをし、もらった駄賃を全て鬼島に差し出していた。

年が大きくなるに連れて仕事を増やし、太郎は新聞や牛乳配達、土木作業員など。花子は学園の中で全ての家事を行い、他の孤児弟妹の面倒を見、合間には内職を行って、やはりそれらの賃金の全てを学園に入金していた。孤児という事で世間から嫌がらせを受けても、自らの事よりも弟妹を庇った。

食事や菓子などは、弟妹達に多くを譲る。そんな太郎と花子に弟妹達もよく懐き、互いに助け合った。


鬼島は所謂、小悪人だ。真っ当な仕事はした事が無い。小・中学生になった太郎や花子のアルバイト先は、時給が安いが顔が利く場所を利用した。

太郎や花子が入れる金は全て、昼はギャンブル、夜は酒場で遊んで使った。


鬼島学園は正式な児童養護施設ではなく、補助金目的で議員と鬼島がグルになり設立し、二人で金を横領していた。

不正が発覚するのを避けるために暴力は振るわなかったが、太郎と花子に子供達の面倒を任せ切りだった。

子供達に金を極力かけたくない為に、食事は死なない程度。花子が料理を覚えるまでは、鬼島の弟分が経営している店で、廃棄間際の食べ物を貰って食べさせていた。衣類も同様に安く仕入れ、身奇麗にさせることで周囲の視線を誤魔化そうとした。


中学を卒業して直ぐ、太郎は住み込みで鉄工所に勤め、花子も住み込みで飯場はんばの賄いに勤めた。

その頃には弟妹達も中学生になり、家事も出来るようになっていたからだ。

それでも、残った弟妹たちのために、やはり働いた金の殆どを鬼島学園に寄付していた二人。

そんな二人が二十歳になった頃、やっと鬼島学園の数々の問題が世間の明るみに出た。

事件に気付いた警察や関係各所が介入し、議員と鬼島は逮捕。残った子供達は皆キチンとした児童養護施設に保護された。


廃園を知り、訪れた鬼島学園の門の前で二人は再開。

そして様々な事を二人で語り合い、慰め合い…。二人は付き合いはじめ、その後、結婚した。


二人より数奇な人生を送るものも多い。

だが、私はこの二人を見逃せなかった。

子供の頃から、助け合い、譲り合い、庇い合う二人。まさしく私が守護するべき日本人だと感じた。


結婚してからも二人は一層、懸命に働き、二十五歳の時には小さいながらも家を建て、子供もできた。


そして、この子供が山田聖人やまだまさとだ。



十年前、二人が六十五歳になって初めての海外旅行で、飛行機事故に遭遇した。

私には二人を見捨てる事が出来なかった。


死の直前、二人をこの空間に転移させ、説明し、魂に細工を施した。

異世界への転移をいざない、ガイアース(神の箱庭)の【ノースシーロード大陸】に立たせた。

極寒のこの地には、魔物の生息が少なかったからだ。


私は二人を立たせる前に、ノースシーロード大陸の大地や気候を変えた。

中央には世界樹を植え、周囲には飲み水となる湖を。様々な果実の成る木。草花を生やした。

緑の大地に変わった大陸は、楽園さながらとなった。


与えたモノで家を作り、田畑を耕し、牛や鶏などの家畜を飼い、魔法で魔物を倒し…。この世界を二人は楽しんでいた。


魂の細工により寿命が延びたが、六十五歳という事もあり、自然に子供が生まれる筈もない。

ある時、二人に『この世界に子孫を繁栄させるため、大勢の子供が欲しいのです』と頼まれた。


スサノオやツクヨミに相談したところ、

”神々として悪戯に魂を(もてあそ)ぶのは嫌だが、死の定めしか無かった子供達を転移させるのは賛成だ”と言う話になった。


死の直前に身体ごと、この空間に転移させて魂に細工を施し、ガイアースでも生きて行けるようにするのだ。


スサノオやツクヨミからも、”こちらの星の子供達も頼む”と頼まれた。


そしてそれらの中から、

私が十二人の日本人の男女を選び、スサノオが十二人の獣人の男女とドワーフの男女を。ツクヨミが十二人のエルフの男女を選ぶ。

私が魂に細工を施して、太郎と花子の元に届けた。

二人が育てたこの子供らが、後のこの世界の人間・エルフ・獣人・ドワーフの祖先となる。


太郎と花子は大層喜び、慈愛を注いで皆を育てた。


言葉や文字。農業や畜産。鍛冶や土木建築。料理や裁縫。そして魔法。

二人が知ることは全て教えた。


子供らは皆、太郎と花子を親と慕いスクスクと育ち、やがて適齢期を迎えてつがいになった。

しかし、エルフ・獣人・ドワーフと人間との間では、人間の子供が生まれる率が多かった。

人間:7に対しエルフ:1・獣人:1・ドワーフ:1になったのだ。


その後も血が濃くなるのを避けるため、幾度か太郎と花子に子供を届けた。

子供を届ける私を見て、皆が私をあがめるようになって行った。


太郎と花子は三百歳まで生きた。そして世界樹の根元に眠り、私の元に魂は還った。


その頃にはノースシーロード大陸は”人類”で溢れかえっていた。

太郎と花子が亡くなったあと、人間は【イヤマート大陸】に、獣人とドワーフは【サウスランド大陸】に移って行った。

エルフは【ノースシーロード大陸】に残った。



異世界と地球では、時の流れが違った。

太郎と花子がガイアース(神の箱庭)に眠ってから二千年を経た頃、実子の山田聖人が”巻き込まれ召喚”に遭遇したのだった…。



「しかしよお、日本語が通じている時点で、普通気付くんじゃねえのかねぇ?親がいたとは知る由も無ぇが、”先に日本人が居た”くらいはさぁ…」

「ふふふ…彼の事だから”異世界言語習得が~”などと考えているんじゃないですかね…」







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ