20話 クシューマの砦街③
◇◇◇
マサトα side
「アリス!下れ!」
「えっ!」
ブリジットさんの横で杖を突き、尊大な態度を取ったままのアリス。
分身の時、口元をニヤリとさせた兵が気に掛かり❛神の眼❜で確認した処、こいつは”闇の住人”だった。
【名前】ルト(ロベルト・ラインザック)
【年齢】17歳
【種族】人間
【状態】隷属・正常・怨恨
【属性】風
【職業】闇の住人・元貴族
Lv:36
HP:1316/1316
MP:98/98
【称号】復讐者
俺の方を振り向いたアリスの隙を突いて、❛疾風❜と唱えた男が剣を腰だめにして飛び出す。
反射的に❛聖なる防壁❜を唱えたが、味方に認識していたために素通りされた。
…チッ!!!
再認識しようとしたが間に合わず、バキン!という音と共に、アリスがこちらに吹き飛ばされる。
「アリス!!」
「きゃっ!」
反動によりヨロヨロと地面に倒れるアリス。
❛神の眼❜ではHPに変化はかったが、慌てた俺は直ぐに抱き起して❛聖なる完全回復❜を唱えた。
…この野郎!
装備のお蔭で剣の方が折れたようだが…こんな少女を躊躇なく斬ろうとしやがって!許さ無ぇーぞ、手前!
「ちっ!」
「待て!!」
舌打ちをし、❛疾風❜を唱えて教会の方向に逃げる男。
「…何ですか、何なんですかマサト様!」
「ルト!何処に行く!」
アリスとブリジットさんが同時に声を上げる。
「アリス…あの男は”闇の住人”だ。ルトと名乗っているらしいが、本名はロベルト・ラインザックだ。
それよりも、どこも怪我をしていないかい?一応、❛聖なる完全回復❜を掛けたけどさ」
俺がそう伝えると、ハッとした顔をしてからアリスは直ぐに[電話玉]に触れ、『…マサト様!お気を付け下さい!…敵味方の識別を!』と俺に伝えた。
頭のいい子だ…俺なんかもう頭に血が上り、そんな事考えもしなかった。闇の住人が一人だけとは限らないのにな。
❛神の眼❜でアリスのステータスに異常が無いかを確認し、実際に手で身体に触れて(別にイヤラシイ意味では無い)どこにも異常が無いのを再確認した後、首の[電話玉]に触れて《送受信開始》…『…すまん…味方と思った兵の中に”闇の住人”が一人いた。そいつがアリスに襲い掛かって…まあ、装備のお蔭でアリスに怪我は無いが…あの野郎!ぶち殺してやる!!…《送受信終了》』…マサトβとγに心配しないように連絡を入れた。
子供に手を出した事をぜってー後悔させてやんよ。
などと考えていたら、「王女様、御怪我は御座いませんか!?」と言いながら、慌ててブリジットさんが近寄って来た。
「問題ない。マサト様がお造りに成ったこの装備が、私を護ってくれた…それよりもマサト様、一瞬の事で私には顔が確認出来ませんでしたが、あの男が”ロベルト・ラインザック男爵”とは本当ですか?」
「ああ…アリスはヤツを知ってるの?」
「以前マサト様にもお話ししましたよ?魔王討伐後、倒れたマサト様や私達を捕縛しようとした男です。その後、抵抗した私達を殺そうとした…神アマテラス様の御加護により事無きを得ましたが」
「え~と、神聖ラーナ王国の元男爵…小便を漏らしながら逃げ出したってヤツ?」
「はい。狂信者ハーバート・ラインザック元伯爵の甥です。”神に仇名した”と言う事で、元伯爵から神聖ラーナ王国より追放されました…まあ、今では元伯爵も入牢していますが…マサト様、このクシューマの砦街での争い…もしかしたら私とマサト様を狙ったモノなのかもしれません」
マジで!?
俺とアリスを狙うだけで、こんな約5,000人もの兵を巻き込んだの!?
うぞ~ん。
それが本当だとしたら、死んだ兵達になんとお詫びをすればいいのか……って、あれ、別に俺もアリスも悪く無いじゃん。
悪いのはロベルト・ラインザック。只の逆恨みによる凶行じゃね?
「ロベルト・ラインザック??……王女様、あの男は”ルト”と申し、教会の神官メルク・シュワンツの甥で、神官の推挙で我が隊に入隊した者で御座いますが…鑑定の宝珠でも確認済みです」
そんな事をブリジットさんが言う。
「それは偽名だ。俺の魔法ではルトの横に”ロベルト・ラインザック”と表示された。」
…偽名、多分、契約の宝珠を使い付けられた名前。
契約破棄の前、サラも名前が”サラ(サラスティア・イーストランド)”と、❛神の眼❜では成っていた。
本人の希望があって現在もサラと呼んではいるが、ステータスに表示される本当の名は”サラスティア”だ。
ん……ここで引っかかりが…
「ブリジットさん、ルトは神官メルク・シュワンツの甥という事に成っているんですよね?…で、アイツは教会の方に逃げて行ったのですが…。貴女は初めに”目の前の1,500人の兵達が教会に攻め入ろうと致しました故、それを私達500人で防衛していたのです”と言いましたね?教会には何かがあるのですか?何故コイツ等は、教会に攻め込もうとしたのか分かりますか?」
俺が問いただすと、目を閉じて首を傾げるブリジットさん。
「…思い当たるのは獣人の子供でしょうか…」
暫く考えてから徐に口にする。
「…子供?…しかも獣人の子供?」
不思議そうにアリスが呟く。
そりゃそうだ。ここは軍事基地みたいなモン。
どうして子供がいるんだよ。
況してや獣人の子供が何故いるんだ?
「一般住人がいないこの集落に、何故教会が残っているのか……王女様は御存知無いでしょう。…失礼、その前に”者共、倒れている兵を捕縛せよ!負傷兵は治療を、死者は一場所に集めよ!”」
「「「「「はっ!」」」」」
控えていた兵達がブリジットさんの号令で動き出した。
兵達を横目にして二人は会話を続ける。
「失礼致しました。一般人の疎開にあたり、王都からは神官の帰還が求められました…が、父はこれを断り、神官も説得致しました。」
「…何故です?」
「…戦災棄児の保護と兵の懺悔…いえ、相談の為です。」
「戦災棄児?」
「はい。先の戦争で両親を亡くした者や棄児…棄てられた子に御座います。
多い時は百人を超えたと言います。
…王都には『兵の心の安寧の為に、教会は必要』と申告して存続の許しを得ていますし、神官も同意して下さって居ります。
貧困だけが理由とは思えませんが、現在でも門の前に子供が捨てられる事があり、上は11歳から下は6歳の子供が22人生活して居ります。
父…カワシラの大集落領主ジョイス・マルクは、『この子等もカワシラの民。再び捨てる訳には行かぬ』と言い、教会で手厚く保護を致しました。
教会で育てられた子。15歳を超え、希望する者は入隊させ…旅立ちたい者は旅立たせています。
第三騎士団団長パーク・フルールも、棄児の一人でした。
また、実際、閉塞感のあるこの地では、唯一自分を曝け出せるのが教会の”懺悔室”だけに御座いますので、神官への些細な相談も兵達の心の拠り所に成っております」
「何と…立派な領主ですね、ジョイス・マルクは。でも産業の無い集落。子供達の衣食は、恐らく自費で賄っておりますね?子供は国の宝、その保護に女王陛下が罪を問う事はありません。この地で育てたいと申すなら、後でキャサリン・ミドルランド女王と”会談”の場を儲けましょう。」
「はっ!有難く」
…アリスとブリジットさんが話している間、俺は違う事を考えていた。
懺悔室。俺はキリスト教じゃ無いからよくは知らない。
アニメなんかだと、神父の前で自分の罪を話していたようだったが…ここでは兵達が心配事や不満の相談…要は自分の一番鬱積しているモノを曝け出していた訳だ。
神官メルク・シュワンツが”闇の住人”という設定ならば、この場で洗脳は可能だな。兵達も信頼していただろうし…何か”洗脳”に使える魔法やアイテムを持っていたのかも知れない。
それに教会にいる子供が22人。
❛聖なる地図❜では、教会にいる人間は53人に成ってるんだけどな。
さっき逃げたアイツを加えてだ。
アイツは既に敵の[赤▼]に認識したが、残りの敵味方不明の[黄▼]の52人。
その内、子供達22人を除く31人。一人は神官だと思うが…残りは修道女か?
正気の兵たちによって、元洗脳兵は捕縛されて連行された。
意識が回復しても呆然としている処を見ると、自分が置かれている状況が理解出来ないのだろう。
死体も荷車に乗せられて何処かに運ばれて行き、この場に残るのは俺達三人だけに成った。
「処でブリジットさん。教会に子供は22人と言いましたね?俺の魔法によると、現在の教会には53人の人間が確認出来ました。修道女とか、衣食の賄いをする者とかは何人いるんです?」
「修道女はいません。教会で衣食の賄いをする者は、私の母を含めて3人いるだけで御座いますが?」
「!!!」
じゃぁ残りの28人が敵の可能性もあるんじゃんか!
教会だから大勢の修道女がいるもんだと考えていた俺。
てっきり奴は、神官と二人で逃げ出す算段の為に教会に向かったのかと思っていた。
ちっ、悠長に話をしている暇は無かった。
子供達が危険だ…ブリジットさんの母親も。
奴は子供達を人質に取る心算だったんだ…俺達を誘き寄せる為に!!
迂闊!何でもっと早く気付かないんだよ!俺!
「アリス、ブリジットさん…拙い。ロベルト・ラインザックは教会に逃げ込んだ。恐らく子供達と母君を人質にする為に!」
「「ええっ!!」」
「俺が行きますから、二人はここで待っていて下さい」
「マサト様、狙いの一人は私です。私もお連れ下さい!」
「使徒様!母と子供達を人質になど捨て置けません!私もお連れ下さい!」
「ロベルトの他、27人の敵がいる可能性がある。危険なんだ。」
「マサト様、誰が敵か分からないのです。何処にいても危険はあります。」
「使徒様、姫様の護衛は私が致します。」
この場でやり取りを続ける時間が惜しい。
「…分かった。ここに置き去りにして何かあっても困るしな。二人とも俺に掴まって!❛聖なる身体強化❜!❛聖なる転移❜!」
・
・
・
教会の門の前に転移した俺達。
22人の子供達と、ブリジットさんの母を含めた3人の大人達は、教会の庭先に集められていた。
ロベルト・ラインザック、及び、神官他27名の兵士が周囲を囲み、震える子供達に刃を向けている。
「ルト!何をしている!…カルトル!キャスプ!ブリザル!デノア!…第二騎士団の兵ともあろう者が、この様な狼藉!…私が手討ちにしてくれるわ!」
この状況を目の当たりにし、腰の剣をスラリと抜いたブリジットさん。
気持ちは分かるが人質がいるんだよ?
「ブリジット!人質がいるのです。剣を収めなさい!!」
「母上…くっ…はい」
注意されて顔を赤くし、鞘に剣を戻すブリジットさん。
庭で正座しながら、両手で震える子供達を抱き抱えるブリジットさんの母親が、毅然とした声で娘を諫める。
この場の全員は既に❛神の眼❜で確認済みだ。
感電した”洗脳兵”を確認した後、❛神の眼❜はLvが20に上がったようだ。
この場に来て❛神の眼❜を使った処、一度に全員のステータスが確認出来た。
説明にも、
❛神の眼❜Lv20:完全鑑定…消費MP1:モノや魔物、動植物のステータスを鑑定する。初めに1回唱え、意識して見る事により、同時に複数を確認出来る。但し途中で追加されたモノや魔物、動植物を再確認する場合は追加で唱えなければ成らない。…と成っている。
便利だ…❛神の眼❜…しかし…
うひょー!美人~!
【名前】キャロル・マルク
【年齢】35歳
【種族】人間
【状態】正常・恐怖
【属性】風
【職業】カワシラの大集落領主の妻
Lv:12
HP:564/564
MP:32/32
【称号】なし
金色の長い髪に青い瞳。ブリジットさんがそのまま年を重ねた感じだ。
くっ…人妻じゃ無ければ…くっ!!
まあ、冗談はさておいて、闇の住人はロベルト・ラインザック一人だという事が分かった。
神官も26名の兵も”洗脳状態”にあるだけだ。
今の所人質には怪我も何も無い。
それではいつもの通りにやりますかね。
そう考えて俺は一歩前に出る。
人質は[青▼]に。敵は全て[赤▼]に認識済みだ。
48歳の賄い婦に剣を向けて、ニヤニヤとしているロベルト。
❛聖なる防壁❜で吹き飛ばしてやんよ!
喩えその女性が俺より老けているとしても!
「ロベルト!お前、女子供達に剣を向けてんじゃ無ぇーよ!…❛聖なる――「者共!《防壁》!」「「「「・・・・《防壁》」」」」――防壁❜…何っ!?」
ロベルトの掛け声とともに、兵達は右腰に吊るした[水晶玉]に触れて《防壁》と唱える。
各々を中心にして半球状のバリアが張られ、❛聖なる防壁❜で吹き飛んだのは、[水晶玉]を装備していない神官一人だけだった。
「[防壁玉]か!何故お前等がそれを持っている!」
…[防壁玉]は自分を中心にして1m範囲の180度を、半球状で透明な防壁が覆う物だ。
よく見ると、三つの[水晶玉]が腰に下げられている事から、他の二つは[陣地玉][身体強化玉]だろう。
それが27人分という事は――グスタフさんの第三騎士団にあげたモノだと推測される。
騎士達のモノか馬達の装備かは分からない。
拙い…分身体との訓練で互いに❛聖なる防壁❜を使った時、❛聖なる防壁❜同士は打つかっても中和されてバリアの用を成さなかったのだ。
「クッハハハ…ホントに情報通り、最初はバリアを使うんだねぇ~”神の使徒様”はさぁ」
嫌な顔で高笑いをするロベルト。気に入ら無ぇ!
「煩い!❛聖なる氷槍❜!」
炎や広範囲型の魔法では、人質に余波が及ぶ可能性がある。
ここは一点突破型の中級魔法だ。
キン!と音を立てて放たれた❛聖なる氷槍❜。
ロベルトに向かい純白に光る氷の槍が真っ直ぐに伸びる――が、バリアに当たった瞬間、パリンと鋭利な音を立てて砕け散り、そのまま光の粒子と成って霧散した。
「アハハハハ…どうやら使徒様は自分で造ったアイテムの力を知らないようだね。[防壁玉]のバリアは中級魔法なんて効かないんだよ?」
「……」
正にぐうの音も出ない。
こいつ等俺の戦い方を研究している!?いや、俺の事を!
「さてさて、”分身体”に成ると弱く成るって報告も本当かなぁ~?ガルク!アイツに斬り付けて来い!おおっと、三人とも抵抗するなよ?抵抗したら、この女を刺すよ?」
俺達に見せつけるように、48歳の賄い婦、ペネロピさんの太腿に剣を向けるロベルト。
「ヒッ!…」
その恐怖に短い悲鳴を上げ、ガタガタと震えるペネロピさん。
この野郎!ぜってーぶっ殺してやる!
兵達約5,000人を巻き込み、同時に数か所で暴動騒ぎを起こしたのは、俺に❛聖なる分身❜を使わせる為だったのか!!
分身体の事は、神聖ラーナ王国の第三騎士団の者なら全員知っている事だ。
誰か内通者がいるのか?闇の住人に?
だが、あの時に❛神の眼❜で鑑定をした時は、騎士達に”闇の住人”はいなかったぞ?
だが、そんな事より今はこの状況を打破する事だ。
しかし、魔法を封じられた今、何も考え付かない。
況してや女子供達を人質に取られていると成っては…
どうする!どうすりゃいいんだ!
ガルクと呼ばれた男が正気の無い目をしながら歩み、何の抵抗も無く俺の❛聖なる防壁❜の中に侵入した。敵に認識しているのにも関わらずだ…畜生!
「マサト様!」「使徒様!」
女性二人を背中で庇うように両手を広げる。
俺の脳天目がけて振り下ろされたガルクの剣は、当たった瞬間にバキンと鈍い音を立てて砕け散った。
うん。HPに変化が無いからガルクはLvが上がっていないハズ。
「へー、やっぱりその変な服も凄い防御力があるんだねぇ~」
ま、神アマテラス様が造った聖なる衣だしな。
バリアが無くとも、俺やアリスは装備のお蔭で大怪我をする事は無い。
ただ、人質やブリジットさんは別だ。
「なあ、ロベルト男爵様よぉ~、お前なんでこんな事をしてるんだ?」
純粋に疑問に思った事でもあるが、今は打開策が見つからない。
少しでも時間を稼いで策を練らなきゃな。
もしかしたら他の分身体が助けに来てくれる可能性もある。
そう思い、ロベルトに話しかけてみる。
「ふん、嫌みかい?僕はもう男爵じゃ無いよ…貴族ですら無い。
まったく…魔王軍斥候の初任務をその王女に邪魔されて、伯父には国を追放されたんだぞ…この僕がだ!
各地を彷徨い、山賊紛いの事をし無けりゃ糊口を凌いでいたんだぞ…この僕が!
18歳で第三騎士団団長という出世を果たし、前途洋洋たる未来が待ち受けていたこの僕が!
嫡子のいない伯父の後を継ぎ、何れ伯爵位を授けられる事が決まっていたこの僕が!
何れクリス・ウェストランド王女と結婚し、王配となるであったであろうこの僕が!
…お前の!お前たちの所為で国を追われたんだぞ!…何故こんな酷い仕打ちを受けねば成らんのだ!
…復讐だ復讐だ復讐だ復讐だ!…王女とお前、その首を持って償って貰う!僕の人生を滅茶苦茶にしたんだ!当然だろう?
…復讐だ復讐だ復讐だ復讐だ!」
ああ、こいつ狂人だわ。
話しの途中から目を血走らせ、口角から泡のような涎を垂らしながら復讐という言葉を連呼し出した。
自己陶酔型の人間が狂うとこんな感じになるのかねぇ?
貴族という華々しい人生を歩み、全く挫折した事なんかコイツには無かったんだろうなぁ。
だいたいどこからクリス・ウェストランド王女との結婚の話しが出たんだ?願望だろ?それ。
第一、俺達に対するその”復讐”。只の逆恨みだって事に気付か無いのかよ?
隙をみてチラリと左手の甲でステータスを確認する。
❛聖なる身体強化❜で24%の強化をしているので、MPの残りは3806/5026。
逆算すると、分身体と別れてから約20分程か。
魔法を全く使わないとすると、タイムリミットは約1時間。
俺が《分身解除》を唱えなくても、分身体の活動限界は俺より12分早い。
分身している内は[エリクサー]や[MPポーション]を使えないが、これなら何とかなるかも知れない。
もし傷を負ったら、自然に分身解除されると同時に[エリクサー]を飲めばいい。
「なぁ、ロベルト元男爵。逆恨みって言葉を知ってるか?」
「…僕が逆恨みしてるって言いたいのかな――巫山戯んじゃねーぞ、平民が!平民なんざ、貴族にどう扱われようと反抗する事なんか出来ないんだよ!」
うわぁー面倒くせー!何という選民思想…俺が平民だという事も知ってる訳だ…って、お前も今じゃぁ平民だろうが。
「だが、アリスは王女だぜ?」
「自分で王女と言えば良いのか?その証明は?…王女が居るとは思えない場所で、王女とは思えない出で立ちで…もしその女が本当に王女だとしても、あの時点で認められる訳が無いだろう?……僕はその女の罠に嵌められたんだ!!巫山戯るな!」
「ぎゃぁ!いた!痛い痛い痛い痛い!!」
激高し、ペネロピさんの太腿に剣を突き刺すロベルト。
刺されたペネロピさんは激しい痛みに太腿を押さえて泣き叫ぶ。
ドバドバと傷口から血が流れ出る…
『ブッチーーーーン』
ああ、切れちまった…
「テメエ、ざけんじゃねーぞ!❛聖なる転移❜!」
「今だ!へクタ!ヒュー!ロルド!イア!ジェフ!《強化》して王女を狙え!」
「「「「「……《強化》」」」」」
「❛聖なる大回復❜!ペネロピさん、確りして下さい!」
「使徒様!後ろ!」
「えっ!」
キャロル・マルクさんの声に反応し、後ろを振り返る。
5mも離れていないその場所では、五人の兵がアリスとブリジットさんに斬りかかる姿が見えた。
「きゃっ!」「ぐぅあ~~~っ!」
アリスは尻もちを突いただけだが、ブリジットさんは頭から血を流して倒れている…重症だ。
俺を誘き出す為にペネロピさんの足を刺したのか!
こんの~~~~~~!!!!
「❛聖なる転移❜!」
「五人!引け!」
「「「「「・・・・・」」」」」
「❛聖なる完全回復❜!ブリジットさん!確りして!…アリス!大丈夫か!」
「マサト様、私に怪我はありません」
「…うっ…ううっ…」
HPは全快したが、ブリジットさんの状態は”朦朧状態”に成っている。
命の危機は去った…普段の俺なら、ここで数回❛聖なる完全回復❜を唱えている処なんだが…今は省エネ中だ。ごめんね、ブリジットさん。
…魔王討伐後にMPが6,553に減った時、ラインザック伯爵から獣人の子供を助けるのに、❛聖なる地図❜・❛聖なる転移❜・❛聖なる防壁❜・❛聖なる陣地❜・❛聖なる付与❜を1度ずつ使っただけで、MP切れを起こした。
自分と各魔法のLvの上昇に伴い、各魔法の消費MPは減ったのだが、【回復魔法】の消費MPだけは今でも変わら無い。
❛聖なる小回復❜がMP10・❛聖なる中回復❜がMP20・❛聖なる大回復❜がMP30。そして❛聖なる完全回復❜はMPを50消費する。
ブチ切れて転移し、ペネロピさんに❛聖なる大回復❜を使ったのは後悔していない。だが…
❛聖なる転移❜でMPを10×2回。
❛聖なる大回復❜でMPを30。
❛聖なる完全回復❜でMPを50。
さっき左手の甲を見てから2分の時間経過分を含めると、既に220のMPを消費してしまったのだ。
残りMP3,586…拙い。この調子だと、分身体が自然に解除される前に殺られる可能性がある。
「ギャハハハハ…見ず知らずの人間が傷つけられても、ホントに見境なく飛び込んでくるんだねぇ~~情報通り愚かな奴だ。赤の他人…しかも平民を救ってどうするんだい?」
こんのやろ~~~!!嬲りやがって!!!
「人の命を何だと思ってやがる!!」
「はぁ?平民の命や棄児の命に、何の”価値”や”意味”があるって言うんだ??」
「人の命に貴賤は無ぇ!人間の生きてる”意味”だの”価値”だのはなぁ、死ぬ瞬間まで誰にも分からないモンなんだよ!他人が決めつけるモンじゃ無ぇー!…だいたい貴族様が踏ん反り返っていられるのは、皆が汗を流して仕事をしてくれるお蔭だろうがよ!…それにその子供達が将来何者になるのか、今は誰にも予測出来無ぇーだろうが!!」
キャロル・マルクさんが静かに頷くのが見えた。
領主夫婦もそう考えているんだろう。
俺の背後で二人が頷くのも感じた。
「ああ、確かに平民が生きてる”意味”はあるな。うん。一生地べたを這いつくばる様にして馬車馬の様に働き、貴族に金や食物を収めるという意味がな…まあ、でも貴族の命とは違い、平民何て幾ら死んでも其処らの雑草の様に増えるんだから問題ないだろう?」
「ふザケンな!」
「…フンッ!…って、おい王女!何だその手は!…今、首の水晶に触れようとしたな?自分達が置かれている立場が未だお分かりで無いようだ――脱げ!そうだ、その装備全て外してもらおう。そうすれば剣が通るな…三人とも装備を全て外せ!さもないと…”包囲!”」
ザッ!!!
ロベルトの合図に従い、27人の洗脳兵が一斉に子供達に刃を向けたのだった。
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