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10話 ブラックベア

「ほっ!」…「ほい!」…「ほっと!」…


雨の降る中、❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)を展開しながら荷馬車を曳いて道を走った。

❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)は、地面の中を含め、自分を中心に最大50mの範囲を360度、球状で透明な防壁が覆うものだ。

今は調整して30mの範囲にしてある。

進むにつれて雨風は次第に激しくなり、時折、雷も鳴っている。

全てバリアで遮れるのだが、濡れた地面や水溜りの跡はそのまま残る。

水溜りの中の水まで遮れるのに、何故、地面の土が削れないのかは分からない。

不思議なファンタジーの力なのだろう。

神アマテラス様から貰った[聖衣]は、濡れる事も汚れる事も無いのだが、泥濘(ぬかる)んだ水溜りの跡に足を入れるのは気分が悪い。

一々❛聖なる硬化❜(ホーリー・ハード)を道に唱えるのも面倒だし、後がどうなるか分からんし。


そこでジャンプをして避ける事にした。

スピードが出ていれば慣性の力で荷馬車が直ぐに止まる事は無い。


「よっ!」…「ほいさっ!」…「あらよっと!」…


大きめの水溜りの跡に足を付ける事なく、綺麗に飛ぶのは気持ち良い。

ジャンプしている最中に、慣性で後ろから押されるようなフワッとした浮遊感も面白い。

童心に返ったようだ。


「ほい!」…「よ!」…「おらぁ!」…「ああっ!?」


…あ~水溜りの跡に足が付いちまった…1点減点。


綺麗に飛べれば1点加点。飛べなければ1点減点。

頭の中のスコアは、今、2,328点に成った。

1/3くらいは減点してるな…まあ、何だか結構楽しい。

昔、ゲーム○ウオッチにハマった事を思い出す。

火事になった左のビルから人が飛び降り、担架でバウンドさせて右の救急車に運ぶだけのものだったが…あれでよく一晩遊べたものだw。


左手の[聖具(せいぐ)指ぬきグローブ]の甲を見るが、Lvはまだ上がっていない。

まあ、昼食休憩も挟んでるから、まだ250km程しか走ってないしな。

今日中にドーラの沼まで到着するのは到底無理だろう。


『ビーーーッ!』

そんな事を考えていたら、❛聖なる地図❜(ホーリー・マップ)から警告音が聞こえた。

確認すると、約300m前方で敵味方不明の[黄▼](黄マーカー)3つが、敵[赤▼](赤マーカー)8つに囲まれている。

「…人が襲われているのか!?…皆!ちょっと飛ばすよ!」

「「「「「はい!(コク)」」」」」


小雨の時にすれ違った旅人の様な人はいたが、激しい雷雨に成ってからは人と出会っていない。

ジャンプ遊びは終了だ。

俺は泥濘(ぬかる)みに構わず走り出した。


残り30m程で、マーカーの姿が目視出来た。

道から逸れて少し奥に入った開けた場所に、ゴブリンの集団がいた。

ゴブリン・ナイト、ゴブリン・アーチャー、ゴブリン・メイジもいる。

Lvは24~30。


襲われていた[黄▼](黄マーカー)は、野生のブラックベアだった。

一匹のブラックベアは成体で身の丈4m程。

Lvも40あり、かなり強い。

だが、後ろに子熊二匹を庇いながら戦っている。

小熊の身の丈は80cm程。

Lvもまだ8しかない。


親熊(?)の背後から『クアーッ!』と、か細い声でゴブリンに吠えているだけだ。



…魔物って野生動物も相手にするもんなんだなぁ。

「…皆、魔物ってなんで生き物を襲うの?食べるの?」

「マサト様、魔物は魔素を養分としています。食事をする必要は無いのです。人間や動物を何故襲うのかは分かっていませんが…。野生動物が魔物を食べる事もありません」

「旦那様、多分テリトリーを侵されたのでしょう…どうやら侵したのはブラックベアの方みたいですが」

「道の反対側の山が土砂崩れしてるから、あそこらへんにブラックベアの住処が有ったんじゃ無いのかな?」

「…母親…頑張ってる…」


「え!母親って、何で分かるの?」

「にーさん、ブラックベアの成獣は胸に白い三日月があるのが雄。無いのが雌なんだよ」


「成程~。じゃ、住処が壊れて新しい住処を探してた処でゴブリンのテリトリーに入って仕舞った。戦闘になり、母熊は小熊を庇いながら戦っている…って事か」

…しかし、どうしようかね?



「…助けない…の?…」

円らな瞳で俺を見るマリー。

助けてあげて欲しいのか?


「マリー、アンタだってブラックベアの肉を食べた事があるでしょ?アタイだってある」

「そうよマリー。助けたって、もしかしたらその後猟師に殺されるかもしれないのよ?」

「マリー、私達人間は肉であれ野菜であれ、他の生き物の命を奪って糧にしているのです。でも、死ぬのを見物するのは気分の良い物ではありません。マサト様、この場を離れましょう」


「…熊が()られるって事かい?」

「はい、旦那様。子供を護りながらでは、ブラックベアでも勝てないでしょう。現に今、相手の攻撃から子供を護るのに精一杯で反撃出来ていません」

「そっか…」

「…かわいそう…」


マリーでは無いが、実際に戦っている処を見てしまうと相手が熊とはいえ、小熊を庇いながらの(さま)には同情してしまう。

だが、アリスが言う通り、人間は他の有機物の命を糧にしなきゃ生きられない。

ベジタリアンだって”植物”の命を喰っている。

家畜だから殺していい、野生動物だから助けるというのは烏滸(おこ)がましい気がする。


それに、何でも()んでも命を助けようとするのは偽善者だろう。

今、走って来た道。

そこにいた小虫を踏み殺して来たかもしれないし、他にも意識しないで殺している場合だってあるんだ。

これから野生動物を殺して食べる事があるかも知れないしな。

だいたい、自分たちが野生動物に襲われたら迷わず抵抗する。


ナイトに斬り付けられ、アーチャーの矢が数本身体に刺さり、メイジの❛ファイア❜を受けて、満身創痍の母熊の姿。

後ろで『クオ~ッ!』と、悲しそうに吠えるだけの小熊の姿が何とも可哀相だが…ここは(きびす)を返そう。


そう思った時、とうとう母熊がドサリと倒れた。

まだまだ戦おうと両手を動かすが、時間の問題だろう。

残された小熊二匹が母熊に寄り添い、か細い鳴き声を上げる。


…だめだ、見るな!

「みんな、行こうか…「…あ!…」…えっ!」

マリーの声に反応し、振り返って仕舞った。

そこには一匹の小熊が❛ファイア❜を受けて倒れる姿があった。


――――ブチッ!!

あっ…ダメだ…カッとなっちまった!


「この野郎!!――[黄▼](黄マーカー)味方(・・)と認識!❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)を展開!❛聖なる転移❜ホーリー・トランスポート!」


「…お兄さん!」


❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)を100mまで展開すると、ブラックベアはスッっと中に入り、ゴブリン共はバリアに当たって吹き飛んだ。

直ぐ様ブラックベアの側に転移し、ステータスを確認。

母熊も小熊もまだHPが残っている。

❛聖なる完全回復❜ホーリー・パーフェクト・ヒール❛聖なる完全回復❜ホーリー・パーフェクト・ヒール!」


母熊と小熊に❛聖なる完全回復❜ホーリー・パーフェクト・ヒールを唱えた。

純白の光に包まれて、小熊の方は完全に回復したが、母熊は直ぐにHPが再び減り始める。

『クォ~ン…クォ~ン』と鳴きながら一匹の小熊は母熊の身体を舐めていた。


『クァ?』

俺が助けた方の小熊は、何が起きたのか分からないようで、首を傾げながら俺を見つめている。

その仕草が可愛くて、思わずニヤケて仕舞った。


次いで母熊を見ると、身体に刺さった矢の根元から出血が見られる。

成程、この所為で完全回復しない訳ね。


意識は戻ったようだが、母熊は俺を襲う事は無かった。

地面に横に成ったまま、ジッと俺の目を見つめている。


「今助けるからさ…」

まあ、今の俺なら熊相手でも無傷だろうけどね。

母熊に声を掛けてから両手を出すと、左腕に抵抗があった。


「ちょっと待ってろ。今、かーちゃんを助けてやるからさ」

『グアッ!…グアッ!…グアッ!』

母熊の側にいる小熊に話しかけるが、俺の左腕に噛り付いて引っ張り、離れない。

…ナウ○カのようには行かないなぁ~。

まあ、この(小熊)はこの子で、母熊を護ろうとしているんだろうけどね。


『グアッ!』

そんな事を考えていると、俺が助けた子が左腕に噛り付いている子に覆い被さる。

この子は俺が何を仕様としているのか分かるんだろう。


二匹でケンカの様な事をしていると『ガァー!』と母熊が咆哮し、二匹はシュンとなって離れた。

や~いや~い、怒られてやんの!


傍で二匹がじゃれ合っている間に、十二本刺さった母熊の矢を全て抜き、再び❛聖なる完全回復❜ホーリー・パーフェクト・ヒールを唱える。

今度は完全に回復したようだ。


母熊がムクリと上半身を起こすと、二匹の小熊は母熊の身体をペロペロと舐め始める。

さて、次はあちらだね。


❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)に斬り付けたり、矢を射たり、❛ファイア❜を()つけているゴブリン共。

俺達が襲われた訳でも無く、ゴブリン達に何の恨みも無いが…

❛聖なる業火❜ホーリー・ヘル・ファイアー

範囲を狭めた広範囲上級魔法で殲滅した。


ムシャクシャしてやった…反省はしていない。

『…ご主人様…』

[電話玉]からサラの声が聞こえた。

仮眠から起きたのか。


振り返ると、荷馬車の前に佇んだマリー以外が唖然とした顔をしている。

…どうせ俺は偽善者だよ!そーいう目で見ないでよ!




『…お兄さんは…やさしい…』

『本当にマサト様は素晴らしい方です』

『旦那様は動物にまで情けを掛けるとは…』

『にーさんは凄いや…ブラックベアに回復魔法を掛ける人はいないよ』


えっ?小声で喋るなって!聞こえないよ!?


『…ご主人様、そのブラックベアは()ですか?』


「サラ、この姿を見て敵だと見えるかい?」


俺の助けた方の小熊…あー面倒臭い、”クマ太郎”と名付けよう…クマ太郎は、俺の背中を()じ登って左肩の上に上半身をもたれ掛からせ、『グギャ…グギャ…』と言いながら俺の頬を舐めてるんだぜ?


『いえ…クマの雌まで手懐けるとは…』

えっ!全員雌なの?…この子、クマ太郎って付けちまったぜ。

『グァ??』

左側に目をやると、首を捻って俺を見つめるクマ太郎。

…ぐっ、可愛いな。


まあ、❛聖なる契約❜ホーリー・コントラクトで名を付けた訳じゃ無いからいいか。

クマ太郎、改めクマ子に改名だ。

クマ子の頭を撫でながら荷馬車に向かって歩く。


魔物達を焼いた炎は、打ち付ける雷雨によって鎮火されていた。


荷馬車に近付こうとした処、残り5mという所でクマ子が肩の上で騒ぎ出した。

母熊と、もう一匹の小熊も歩みを止める。

あ~、もしかして荷馬車に使われている”ドラゴンの革”の所為か?

荷馬車に[防壁玉]も付けてあるが、既に”味方”に認識してあるのだ。

他に考えられない。

「ちょっと、皆、荷馬車に入ってみて?」

「「「「……はい。(コク)」」」」


全員が荷馬車に入るが、やはり近付くのを嫌がる。

やはり原因は荷馬車のドラゴンの革で、他に人がいるからでは無いらしいな。

「いいよ~!出てきて~!」


声を掛けると全員が荷馬車から出て来た。

その内、マリーがこちらに歩き出すと『…グギュ~』と泣いてクマ子が嫌がった。


…俺以外の装備は”ドラゴンの革”だった。

「ちょっと待ってマリー。ストップ!」

「…ん??…あぶない??…」


「そうじゃ無いんだ。どうも”ドラゴンの革”が嫌なようなんだ。マリーの装備もそうだからさ」

そういえばここまで動物も魔物も近付いて来た事は無いな。

今まで荷馬車に近付く魔物を倒してきたが、こんな近くまで来たモノはいない。

過剰防衛だったのか?

俺は元々ビビリだしなぁ。

戦闘スタイルも魔法を使う遠距離タイプだし。


「…装備…」

ボソリとマリーが呟いたかと思ったら、次の瞬間には”ズバン!”と服を脱いで全裸に成っていたでゴザル。

「ちょ、マリー!せめて下着くらい付けなさい!」

セシリアが注意するのを意に介さず、マリーがズンズンとこちらに歩き出す。


今度はクマ子も嫌がらなかった。が、俺の側まで来て「…おいで…」とマリーが手を出すと『ク~…ク~』と鳴き、俺の頭の後ろに隠れようとする。

…お前は犬か!

いや、野生の動物なんだから、当然の反応か…。

ん?犬?…だったら…


「マリー、チョッとゴメンね」

「…ん」

右腕でヒョイとマリーを抱き上げる。

マリーの頬に自分の頬を付けながら「ほらほらクマ子、見て見て~。俺とマリー、仲良し。ナ・カ・ヨ・シ!」

視線をクマ子に向けて話しかけた。


…犬を飼った事は無いけど、他人を嫌がる時はこうすると良いって聞いた覚えがある。

後は尻の臭いを嗅がせるとかな。

まあ、俺はクマ子の主人じゃないんだけどさ!


続けるうちにクマ子も首を傾げながらマリーを見るようになった。

そろそろいいか?


「ほらほら~マリーとクマ子も仲良し~~」

そう話し掛けながら、マリーをゆっくりクマ子に近付けて行く。

「…クマ子…なかよし…」

マリーも話しかけた。

互いの顔が接近し、ついにペロッっとクマ子がマリーの鼻先を舐める。

「ん…」マリーもペロリとクマ子の鼻先を舐めた。

…お前も犬か!


「クキュ~ン…クキュ~ン」

「…クマ子…かわいい…」

お互い両手を出してじゃれ合い始めたので、地面に降ろす。

そのまま一人と一匹は抱き合いながら歓喜の声を出し、右に左にゴロゴロと地面を転がり始めた。

もう一匹の小熊も混ざり、歓喜の声は更に増した。

子供は仲良く成るのが早いな~。


しかし良かった…裸のマリーを抱き上げるのは、精神的にキツイ。

身長140cmも無い身体に、小玉スイカがニ個付いてるんだよ!?

胸、デカ過ぎだっつーの。


「フ~~~ッ…」

溜息を吐いて地面に座る。


母熊が俺の横に来て丸く成った。


「悪いね…」

『…ガォ…』

母熊の背中を撫でながら呟くと”お互い大変ね”という様な目で俺を見る…。

あ~~~俺、一生ブラックベアの肉は喰えんなぁ。

辺りは激しい豪雨が続く。

夕方に成ったので、今日はここで野営する事にした。

全員(王女達)が下着姿に成り、小熊二匹と戯れている。

子供だ…サラ、お前もだ。


流石に夜は冷え込むと思ったが、野生動物がいるので火は使えない。

マリーには下着を付けさせ、❛聖なる錬金❜(ホーリー・アルケミー)で[綿入りの服]上下を造って王女達に着させた。

そして[ドライヤー玉]の要領で[ファンヒーター]を造り、温度を30℃に設定。

空間が広いから、このぐらいでちょうど良いんじゃないかな?

母熊は[ファンヒーター]の近くに行って丸く成る。

王女達から”暖かいです”という声があったので、やはり少し寒かったのだろう。

次は食事だ。

自分達だけムシャムシャと食べるのは気が引ける。

別に食べても文句は言わないと思うがね。


ブラックベアの食性が分からないので、❛聖なる箱❜(ホーリー・ボックス)からキャベツやジャガイモ、タケノコやリンゴ。魚肉ソーセージや笹かまぼこをビニールを剥いて出した。

食べ物が出ると小熊は喜んで食べに来る。

小さめの[ステンレス製のボウル]に水を入れて出すと、それもゴクゴクと飲んでいた。

熊って雑食だったっけ…。

食べる量が分からないので、結構多めに出して置いた。

サラに荷馬車で料理を作って貰おうと思ったが、王女達も熊と同じものを食べだしたので俺も右に(なら)えだ。

今日は全員熊と一緒にいたいようだなぁ。


「え~と、皆、このまま外で寝る気なのかい?」

「「「「「…コクリ」」」」」

童心に返ったのが恥ずかしいのか?マリー以外も無言で頷く。

いや、別にいいんだよ?


風邪を引かないよう、❛聖なる箱❜(ホーリー・ボックス)から毛布を出して地面の上に敷く。

在庫は千人分近くあるんだ。百枚くらい使っちまおうぜ!


毛布を敷き終わり、再び地面に座ると、母熊が俺の側にノシノシと歩いて来て右肩をトントンと鼻先で突く。

「ん?どうしたの?」

俺が声を掛けると、バリアの外に向かってクイッ…クイッ…っと鼻先を向けた。


バタバタと打ち付ける雨音で気付かなかったが、バリアの周囲には数十匹のシカやサル、オオカミまでずぶ濡れで立っていた。

❛聖なる地図❜(ホーリー・マップ)で確認しても敵味方不明の[黄▼](黄マーカー)だけだった。


災害や豪雨などの時、普段は一緒に成らない動物達が一つの洞穴にいたというのも本で読んだことがあるが…あれって本当の事なのか?

母熊を見て「…中に入れたらって事?」と聞くと、『ガゥ…』と小さく鳴く。

う~ん。どうするかね~。

というか、お前ら(熊達)、人間の言葉がわかるのか?


「皆~!外の動物達が中に入れて欲しいようなんだけどさ、どうする?」

ここは王女達に聞いておこう。嫌がったらそれまでだ。


「…まあ、マサト様、あれは滅多に見ない”ニホン・オオカミ”です」

いや、何で日本語なのさ!”ジャパン・ウルフ”とかでいいじゃんか。訳がわからないよ…。

「あれは”ニホン・ディアー”ですね。これも珍しいです、旦那様」

そこは”ニホン・シカでいいじゃんか!なんでシカの部分が英語なのさ!

「にーさん、”イエロー・モンキー”もいるよ。これは珍しくないけどね」

誰が名前を付けた誰が!よし、ケンカ売ってるんだな?そいつ。

言うに事を欠いて”イエロー・モンキー”は無ぇーだろう!…屋上へ行こうぜ…久しぶりに…キレちまったよ…。あ、さっきキレたっけ。


「…ビショビショで…かわいそう…」

うん。可哀相だね~皆雨に濡れて項垂れてるね~。

「ご主人様、敵意は無いようです」


「じゃ、雨宿りをさせてあげるかね。皆良いね?」

「「「「「はい。(コク)」」」」」


[黄▼](黄マーカー)を味方に識別し、❛聖なる防壁❜(ホーリー・バリア)を200mまで展開すると、動物たちがスッとバリアの中に入った。


ブルブルと身震いさせて身体の水を飛ばし、そのまま地面に伏せたり膝を突く動物達。

雨宿りが出来れば良いみたいだ。

俺達に近付く事無く、また、他のモノと争う事も無しに静かにしている。

俺が近付いても平気な顔をしているので、余った食い物と水をそれぞれの前に置いてそっとしておく。


子供達(王女と小熊)は眠く成って来たようで、互いに抱き合いながら毛布の上で横に成る。

俺も欠伸をしながら、次第に微睡んでいった…。


目覚めると、既に雨は止んで太陽が出ていた。

雨宿りをしていた動物達は既に出て行ったようだ。

腕時計を確認すると時間は7:10分だった。

王女達を起こし、昨夜と同じようにブラックベアと一緒に食事をした。

じゃれ合いながら食べている王女達には申し訳ないが、この後はブラックベアとの別れが待っている。

連れて歩く訳には行かないからだ。


道から離れた場所とはいえ、日が昇り、人が行き交う可能性がある。

王女達には急遽造った[布の服]を着させ、熊達が住んで居たであろう1km程離れた場所の崩れた山の斜面まで進んだ。

シオンが言った通りそこには洞窟があり、崩れた岩や砂利によって半分ほど埋まっていた。


「中には何も無いよね?」

母熊に問いかけると『ガゥ…』と鳴いて頷く。

これから魔法で穴を元に戻すのに、父熊の死体があったら嫌だしね。

❛聖なる水弾❜ホーリー・ウオーター・ブリットに、強く魔力を込めてガンガンぶつけて行く。

洞窟を埋めていた岩は割れ、砂利と一緒にドボドボと外に流れ出て来た。

直径3m、奥行き20m程の洞窟を掘り治し、中に入って壁や天井に❛聖なる硬化❜(ホーリー・ハード)を唱えて崩れ落ちないようにする。

流れ出た砂利を❛聖なる硬化❜(ホーリー・ハード)で固め、入口の外側に逆Uの字に出っ張りを造った。

これで次に上から砂利が崩れてきても、直接は洞窟を埋めないハズだ。


全員で中に入ってみたが、結構広々としている。

「これでどうかね?」

『ガゥ!』


どうやら気に入ってくれたようだ。

一番奥の中央で母熊が地面に丸く成ると、小熊二匹も母熊に身を寄せて丸く成る。


「…じゃ、名残惜しいだろうけど…俺達は出発しよう」

「「「「「はい…(コクリ…)」」」」」


俺の後をトボトボと付いてくる王女達。

洞窟から外に出ると小熊二匹も付いて来ていた。


「何だ、見送りか?」

クマ子を抱き上げると、俺の鼻先をペロリと舐める。

もう一匹はマリーの腰に抱き着いた。


「…お兄さん…ダメ?…」

連れて行きたそうにマリーが話す。

「マリー、母熊がいるんだ。離れ離れにするのは可哀相だろう?」

「…ん…」


『…クォン…』

奥にいる母熊と、俺達を交互に見て鳴く小熊達。

「ごめんな、連れては行けないんだよ」

そっとクマ子の頭を撫でる。


「マサト様、せめて小熊達が狩人に捕らわれないよう、何か工夫する事は出来ませんか?」

そうしたいのは山々だが、マジックアイテムは唱えて使う必要があるし、装備も嫌がるだろう。

出会ってしまったとはいえ、元々は野生の動物なのだ。

動きを阻害するようなモノを付けさせても困るだろう。


「う~~~ん…アイテムは使えないだろうし、装備は動きを邪魔しちゃうしね…何かいい案はないかな?」

「旦那様、ならば”祝福”をしては如何でしょうか?」

「どういう事?…祝福って、称号を与えれば良いって事かな?」

「にーさん、”称号”っていうのは、良くも悪くも祝福なのさ。病気しなかったり、強く成ったり、Lvが上がりやすく成ったりする人もいる。小熊に、にーさんが祝福をあげれば、生き残る率もあがるかもよ?」

「いや、正直、称号は”どうして付くのか?”まだハッキリしないんだよね。俺が名前を与えたら付いた時もあるし、聖なるアイテムを渡して付いた時や病気を治したら付いた時もある。一番確実なのは”❛聖なる契約❜ホーリー・コントラクト”の魔法で相手に同意を求めて、相手が従った場合なんだ。…動物相手に上手く行くかなぁ?」

この子達(熊達)は人間の言葉が何となく分かるようだが、理解している訳では無いと思う。


「…ためして…みて?…」

「じゃ、ダメ元でやってみるかね…❛聖なる陣地❜(ホーリー・サークル)❛聖なる契約❜ホーリー・コントラクト!」

クマ子の両脇を手で差さえ、俺の正面に持ち上げて目を合わせる。

地面に広がる円環から純白の光が立ち昇る中、「神アマテラス様の使徒、ヤマダ・マサトが汝に祝福を与える。健やかに強く育て。汝に”クマ子”の名を与えよう。自らが危険に(ひん)する時意外、人間を襲う事の無いように願う」

『クォン!』


次いで❛神の眼❜(ホーリー・アイ)で確認すると、本当に”称号”が付いていた。

何じゃそりゃ。


【名前】クマ子

【年齢】0

【種族】ブラックベア

【属性】土

【状態】正常

【職業】なし

 Lv:8

 HP:376/376

 MP:13/13

【称号】使徒の祝福を受けし者


…年齢0歳?…10カ月とかかな?動物の年齢は分からん。



「…どう?…」

「付いた…”使徒の祝福を受けし者”だって」


「凄いですマサト様!」

「動物に祝福を与える……ああ、何と素晴らしい事でしょうか、旦那様」

「じゃ、次は母親ともう一匹にも与えてよ!にーさん!」


はいはい。


魔法を唱えながら母熊に”クママ”(熊のママだから)、もう一匹は”シス子”(クマ子の姉妹だから)という安直な名前を与えると、こちらも”使徒の祝福を受けし者”という称号が付いた。

分からん…何で称号が付くのか、良くわからんわ~

-----------------------------------------------------


数年後、付近を通る商人の荷馬車が魔物に襲われた。

すると、何処からともなく現れた三匹のブラックベアが魔物を退治してくれたという。


訳が分からぬ商人は、命からがら近くの集落に逃げ込んだ後、酒場でこの話をした。

「それは熊神様だよ」

酒場のマスターと(おぼ)しき男が答える。

「…熊神様?」

「ああ、少し前から同じような事が起きてるのさ。旅人や、特に子供が助けられているんだ。お前さん、子供がいるんじゃないか?」

「…5歳の娘が御者席に一緒に座っていたが…」


「何でも”神の使徒様”が、以前その熊を助けて祝福を与えたらしい。熊達は恩を覚えていて決して人間は襲わず、また、魔物から人間を護ってくれているんだ。だから、ここいらの人間は”熊神様”と崇め、時たま住処にお供えを持って行くんだ。俺も初めは怖かったがな…」


「そうだったのか…後で私もお供えをして来よう」

「そんときゃ、娘にやらせてみな?…鼻先をペロリと舐めて、祝福をくれるぜ?」

「祝福もくれるのか!」

「まあ、祝福までは言い過ぎだが、何だか”御利益がある”って話だ。子供に限ってな…俺の娘も舐められた…以来、風邪一つひかねぇ」


「わかった。教えてくれてありがとう。明日連れて行ってみるよ」

「どういたしまして…ああ、リンゴが好物らしいぜ?」




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