04話 ナヤゴの大集落② ~盗賊団の襲撃~
◇◇◇
荷馬車 side
ご主人様がナヤゴ大集落に向かわれて約十分が経過した頃、❛隠密❜を使う者が近づく気配を感じた。
ジーッと物陰に潜む者。
十分程そのまま此方を伺っていたが、その後ゆっくりと遠ざかって行く。
…不味い。どこかの斥候だ。
直ぐにグスタフ様の所に転移し、その事を伝えた。
「うむ、サラ殿。それは間違いなく斥候でしょうな」
「如何いたしますか?」
「使徒様を待つ間は、私達がこの場を護りましょう。先ずは外に出ている者達を荷馬車の中に避難させねば」
「分かりました。そちらは私が」
「サラ殿、頼みます…《送受信開始》全員聞け!何者かの襲撃の可能性あり!警戒せよ!襲撃の可能性あり!警戒せよ!」
「「「「はっ!!」」」」
「副長、お主には私の分の[エリクサー]も渡してあるのだ、大怪我の者が出たら頼むぞ!」
「はっ、心得ました」
外で遊んでいた子供達、入浴や洗濯をしていた者達に声をかけ全員荷馬車に避難させて、入口を硬く閉ざす。
「グスタフ様、避難無事終了」
「サラ殿ご苦労。全員、点呼を!」
「は、一番、難民二十名、荷馬車内問題なし!…二番、難民二十名、荷馬車内問題なし!…三番……」
どうやら難民の避難は無事に終了したようだ。
このままご主人様の戻るまで護り通すのみ。
「うん?何だ、警戒されてるじゃ無ぇか…」
太々しい態度で森から出て、こちらに歩み寄る集団。
兵隊崩れの盗賊か。
一際体の大きい男が、右手に持った分厚いバスタードソードを肩の上に担ぎ、無精ひげを擦りながら悠々と歩いて近づいて来た。
この男が頭領か…。
後ろには、これも兵隊崩れと思われる三十人のもの屈強な男たちを従えている。
不味い。
Lv差もあるだろうが、こいつら如何にも戦い慣れした態度だ。
こちらの騎士達はゴクリと喉を鳴らし、緊張した面持でいる。
実戦には慣れていないのであろう。
このままでは総崩れになる。
こういう場合は頭を叩くに限る。
責めて一太刀浴びせれば雰囲気が変わる筈。
「ボソッ…❛隠密❜…❛疾風❜」
一息で間合いを詰め、大男に斬りかかった。
「ムダだよ、ガキ」
カキンと軽く振るわれた分厚いバスタードソードによって、私の攻撃が回避された。
ぐっ…奇襲を防がれた…しかもあの重そうな剣を軽々と操っている…。
ならばと、次は無防備な足を狙う。
「フンッ!」
地面すれすれに体勢を低くし、男の右足を狙った。
ドスッっと地面に剣を突き刺すことで、それを回避する男。
「だから、ムダだって。そんなに殺気があっちゃ、何処を責めて来るか見え見えなんだよ!…オラ!」
ガキン!と真上から振り下ろされた剣を、なんとか両手で刀を支えて受け止める。
「…くっ…重い…」
男が振り下ろした剣は、剣の重さも相俟り非常に重い一撃となった。
「へ~俺様の剣を受けても折れ無ぇなんて、その短刀なかなか良いもんだなぁ。…男だと思ったが、オメエも中々可愛い女じゃ無ぇかよ。後で両方戴くか……寝てな!」
そう言いながら左手の拳に力を溜める。
メキメキと盛り上がり、私の太腿以上の太さに成って行く男の二の腕。
肘を後方に引き絞り、拳を打ち出す態勢に入る。
…怪我はないが、重い一撃で右腕が痺れて動かない。
無理だ、私ではこの男に一撃すら与えられない…。ここはご主人様に御縋りするしか無い。
そっと左手で首のネックレスに触れる。
「《送受信開始》…ご主人様!お助け下さい!『どうした!サラ!何が起きてる!』「クソガキ!何言ってやがる!オラ!」…かはっ!」
ドゴン!と腹部に重い一撃を受け、男と周りの景色が遠ざかって行く。
続いてドスンと背中に響く鈍い音。
何かに背中を預けたまま、ズルズルと地面の上に尻を突く。
身体に力が入らず、だんだんと視界が狭まって行った…。
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「サラ殿!…全員抜剣!荷馬車を護れ!」
サラ殿が飛ばされて来た方向に駆けつけると、二度と会いたく無かった男と集団に遭遇した。
「いよぉ!グスタフ。久し振りじゃ無ぇか!」
「…”狂犬”ダニエル…!第四十四小隊か!」
「何だよ、連れ無ぇ事を言うなよ…オメエだって俺様と同じ、”殺人鬼”じゃ無ぇかよ~」
「貴殿と一緒にするな!」
私と同じLv六十のこの男ダニエルは、先の戦争中の第四十四小隊の隊長。
Lv四十代の五十人の部下を引き連れて、嬉々として縦横無尽に戦場を駆け巡った……女兵士を犯して殺すために!
小隊で少人数の敵性女性を捕まえては両腕・両足を斬り落とし、逃げられないようにしてから犯す。
エルフも獣人もドワーフも無く、犯しては殺し、犯しては殺すを繰り返した。
「へっ、どうせ殺すんだから、その前に何をやったっておんなじだろうがょ…」
注意した上官への返答がこれだ。
相手の尊厳を踏みにじるその奇行に、付いた仇名が”狂犬”だった。
手柄も多く、戦争中は罪を問われる事が無かったが、停戦と共に裁かれる事に成るのを知るや、小隊を引き連れて逃走した元貴族。
「何だよ何だよ~俺様よりオメエの方が殺してただろうがよ~」
「私は貴殿のように…ハッ!」
戦いの最中にこんな悠長な事を言う奴では無い。
男が相手の場合は無言で殺すだけだった。
迂闊さに気付き、直ぐに周囲を見渡すと、既に数人の部下が倒されていた。
「へっ、気付いたか。俺様はオメエの足止めだ。安心しな、お嬢ちゃん達は気ぃ失ってるだけだ。荷馬車と一緒に後で美味しく戴かなきゃならねえんでな~がっはっは…」
「おーまーえーーーーーーーーーーーーー!!!!」
激昂し、ロングソードで斬り付ける。
右から、左からと斬り付けるが、カキン、カキンと分厚いバスタードソードに防がれた。
だが!
次の瞬間に鮮血が飛び散る。
「うおっ!」
…右上から斬り付けた剣の軌道を変え、下から左腕に斬り上げたが…。ちっ、浅い。
「がっはっは…腕は衰えて無ぇようだが…その剣じゃぁ、ほれ、皮一枚しか斬れ無ぇぞぅ」
「ぬかせ!セイヤッ!」
カキン、ガキンと剣を捌き、攻撃もせずにニヤニヤしながら剣を受け止めるだけのダニエル。
こいつの狙いは私の剣か。
剣撃を合わせて剣に衝撃を与え、最後に重い一撃で剣ごと私を切り伏せる心算だろう。
だがな、私の[アイテム・ポーチ]のに中は、[エリクサー]の代わりに使徒様から頂戴した[聖剣バレンタイン]が存在するのだ。
そう易々とは行かぬぞ!
幾度目かの斬り合いのあと、奴の思惑通りにポキリと折れたロングソード。
「へっ、そんな鈍ら使っているからだ」
ニヤニヤとしながら、ゆっくりと両手でバスタードソードを振り上げるダニエル。
私は直ぐさま[アイテム・ポーチ]から[聖剣バレンタイン]を取り出した。
「騎士は下れ~~~~~~!うおーーーーーーーーーーっ!!!!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!❛聖なる電撃❜!……」
突然空中より現れた使徒様。これぞ正しく疾風迅雷。
次から次へと繰り出される、真っ白な雷の魔法で賊を屠って行く。
逃げ惑う事も出来ず地面に倒れ、プスプスと煙を上げて真っ黒の炭のようになる死体。
「な、なんだありゃ?」
驚愕で動きを止め、一点を凝視するダニエル。
「冥土の土産に教えてやる。あの御方が魔王を討伐された”使徒様”。お前の仲間は皆”神の雷”で全滅した…お前も後を追って逝け!」
「はぁん?」
右横から[聖剣バレンタイン]を振るう。
奴は自慢の剣で防ごうとするが、何の抵抗も無くサクッっと分厚いバスタードソードごと、身体を剣が通り抜けた。
「いでっ!なんだ?魔法か?こんなもの大して痛くも痒くも…ごぼぁぁああ!」
何という凄まじい切れ味。
斬られた事も分からずに、動き出して初めてドスッっと半ばから剣が落ち、続いて身体が上下に分かれ、大量の血を噴き上げながらドサリと地面に倒れて事切れた。
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ナヤゴ大集落 side
――『…ご主人さま!お助け下さい!「クソガキ!何言ってやがる!オラ!」…かはっ!』
何っ!?「どうした!サラ!何が起きてる!」
サラの緊急連絡で動作が止まってしまった。
「うが~あ~~~~っ!」
断末魔の叫びにハッとして視線を戻す。
目の前では領主に胸を刺され、血を噴出させる小父さんの姿。
畜生!どうすればいいんだ!…
サラの安否が気にかかる、だが、今は目の前で一人の男が命を落とそうとしている…。
「くっそ、済まない、サラ!❛聖なる転移❜!❛聖なる防壁❜!」
前方に転移してバリアを展開。敵に識別した領主や兵隊が吹き飛んだ。
小父さんは既に大量の血を流し、顔面は蒼白。「アザリン…アザリン」と譫言のように妻の名を呟いている。
「小父さん、確りするんだ!❛聖なる完全回復❜!」
眩い純白の光に包まれた後、出血は止まり胸の傷も治った。
穏やかな表情になったが、しかし、血を流し過ぎたのか視線が定まらない。
「❛聖なる陣地❜!」
❛聖なる陣地❜で一時的に戦意、いわゆる気力を上昇させる。
「❛聖なる身体強化❜!」
小父さんに❛聖なる身体強化❜を付与し、一時的に筋力と魔力、いわゆる体力を上昇させた。
そしてもう一度❛聖なる完全回復❜を唱えて小父さんを抱き上げる。
「小父さん、小父さん!大丈夫ですか!」
次第に目の焦点が定まって行く。
「お~あんたはさっきの…しかし、なんじゃ此処は?眩い光じゃのう…お迎えが来たのか?…」
「いえ、回復魔法を掛けました。もう大丈夫です…が、血を流し過ぎた。少し休んでいて下さい」
…良かった、気が付いた。
続いては縛られている人たちだ。
小父さんの身体を、そっと地面に横たえる。
「ユリコスタさん!縄を解くのを手伝って下さい!」
「…は、はい!はい!」
目の前で起きたことが不可思議で、呆気に取られていたユリコスタさん。
俺が声を掛けて初めて、助けられた事が分かったのだろう。
慌てて弟の所に向かい、猿轡を外して縄を解き始めた。
「もう大丈夫だからね、お姉ちゃんが今助けるからね!」
「うん!」
声を震わせながらも弟に優しく声を掛ける姉。
俺は両親の猿轡を外し縄を解いた。
地面からは純白の光。周囲は透明な壁に覆われた中で、家族全員が唖然とした表情をしている。
「あの、お助け下さいまして有難うございました。私はユリコスタと申します。こちらが両親。こちらが弟に成ります」
事の成り行きを最初から見ていた姉が我に返り、俺に礼を述べた。
「いやいや、あんた本当に凄い魔法師じゃったのじゃなぁ…」
回復し、地べたに座りながら小父さんが呟いた。
パチパチパチパチ…
「いよ、にいちゃんスゲエスゲエ!」
「いや~胸がスッっとしたぜ!」
群衆からは賞賛の声と拍手が上がる。
「ブヒー!何だこの壁は!衛兵!叩き壊せ!…え~い、煩いわ~!拍手をしている群衆を捕らえよ~!」
❛聖なる防壁❜に遮られて、今度は群衆にまで手を出そうとする領主。
「ふん!」
両手を広げ、俺は❛聖なる防壁❜を最大まで展開した。
「おお!なんだこれ、なんだこれ!」
「凄い凄い!神の御業かよ、にいちゃん!」
兵達は入って来れないのに、自分らがスンナリと入った事に驚いている。
「ほい…ほい…!」
中にはバリアから出たり入ったりを繰り返す者もいた。
…取り敢えずの危機は去った。後はサラの方だ。
「サラ!聞こえるかサラ!返事してくれ!」
『…ザザッ…ガキン…キヤッ!…ドサッ…』
サラの声は聞こえず、周囲のくぐもった戦闘音が流れる。
くそ、どうする!…今、俺が魔法を解けば、激高したブタ共が何をするか分からない。伯父まで殺そうとした馬鹿だ。
「マサト様!」
「えっ?」
聞き覚えのある声が背後から聞こえ、思わず振り向く。
頭巾を取り、杖を右手に持ちながらトコトコと歩いて俺の横に来るアリス。
「アリス…向こうは大丈夫なのか?」
「火急の事態ですので、暫し御待ち戴いております」
「そうか…済まない。サラの状況は分かるかい?」
「[映像の水晶玉]、[音声送受信の水晶玉]とも機能しております。時折呻き声が聞こえますので死んでは居らぬでしょうが、意識が無い様子。城の[受信の水晶板・改]に映し出されていたのは、盗賊二十~三十に襲われる女騎士達の映像。二~三人で一人の賊の相手を致しておりますが、相手は手練れで劣勢です」
「…何かいい案はないかな?」
「少々お待ちください…」
そう言って、今度はトコトコと❛聖なる防壁❜越しにブタ領主の前に立った。
ドゴン!と杖で大地を鳴らす。
「聞け!タイラン・ウエルキン!…我はこのミドルランドの地を治めるキャサリン・ミドルランド女王が娘、アリスティア・ミドルランド王女なり。見よ、この額の聖印は神アマテラス様の神託の巫女の証。…皆の者!我の前に平伏せ!」
…それ、俺の真似じゃないよね?…止めて!ハズカチィー!
「ブヒブヒ!何を戯けた事をいうか小娘が!王女の名を騙る不届き者め~!八つ裂きにしてくれるわぁ~!」
「ダメでした…」
シュンとなってトコトコと戻ってくるアリス。
…そんな簡単に戻ってくんなよ。
「あ、あああ!嗚呼!!」
如何しようかと悩んでいると、俺に近寄りながらアリスが突然眼球を上転させてフラフラとし始める。
暫くして焦点を定め、「マサト様、今、神アマテラス様より御告げがありました」と言い出した。
「えぇ!どんなの!?」
嗚呼、神様!助けて下さるのでしょうか!お願いします!!
「よ、宜しいのでしょうか…」
何々、どんな方法があるのさ!
「いいから早く言って!お願いアリス!」
「では、神アマテラス様よりの御告げです。コホン…『うふふふふ…。も~本当に仕様方ですね~貴方は。Lvアップしたら、キチンと自分のステータスやら魔法を確認して下さいね~』…とのお言葉でした」
なぬっ!
この状況を打破するモノがあるのか!
ステータスが上がっているのは確認済みだ。
魔法…魔法…直ぐに魔法一覧を再確認する。
あった!あったが…これ、やばくね?
固有魔法に新しい魔法が1つ追加されていた。
【神聖属性】固有魔法
❛聖なる分身❜自分のLv・HP・MPを本体と同量に分けて分身する。複数に分身する事もできる。但し、MPを1秒間に1消費。その際の全感覚は遊離するが、本体に戻った時に共有する。活動できる範囲は本体より5km以内。本体・分身体、何れかが死ねば全て死亡する。
ちょ、どうせなら渦巻き的な分身にしてくれよ!
何だよ!分身が死んだら本体も死ぬってのはさぁ!
まあ、贅沢は言ってられないか。
俺の今のLvは40。1つの分身を作るとすると1/2で20。だがこの際Lvは関係ない。
HP・MPともに10,378だから、え~と1/2で5,000以上だな。…2ケタ以上の暗算は苦手なんだよ!
でもバルドさんのHPが3,305だったから…それなりに強い?んじゃね?
MPが1秒に1減るって燃費悪ぅ!
そうすると稼働時間は、え~と、誰か電卓貸してくれねぇかな…。
まあ、1秒で1なんだから、1分間で60。1時間で3,600だから、魔法を使う分を差し引いても1時間以上は余裕で分身出来るって事だな!
よし!
「アリス…新しい魔法を手に入れたんだが…」
目の前で二人に身体が分かれたら気味悪いよね?
「はい。マサト様。それはどの様な魔法でしょうか?」
「あ~っ、気持ち悪がらないでね。おじさん、結構ナイーブなんだからね…。❛聖なる分身❜!」
自らの身体が純白の光に包まれ、感覚が分離して行くのがわかる。
「…まあ、何と、マサト様がお二人に!」
光が治まると、目の前にはダサい男が佇んでいた…。
「ダサ!」『ダサ!』
「ちょ、真似すんなや!」『ちょ、真似すんなや!』
「今は、そんな場合ちゃう!」『今は、そんな場合ちゃう!』
「だな!」『だな!』
『俺がこっちに残るから、お前はサラの所に行け!』
「了解!アリスを頼んだぞ!」
『ああ、お前こそサラを頼む!ヘマすんなよ!』
「けっ!オマエモナー。❛聖なる転移❜!」
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