50歳、神アマテラス様に遭う
『きゃー!!!』『なんだこれ!』『何で地面が真っ白に!』『だ、だれか助けて~!!』
静寂が悲鳴で掻き消された。
外から数人の悲鳴が聞こえる。
声からしてたぶん子供。場所は家の塀の前あたりか?
ハッとして目を開けると、眩い光に玄関が包まれている。
「な、なんだこれ?」
兎に角、外に出て確認しようとするが、体がピクリとも動かない。
白く眩い光の所為で、前後の感覚さえ分からなくなる。
目を凝らそうと、ギュッと強く目を閉じ、再び目を開けてみると…。
そこには美しい女性が佇んでいた。
「こんにちは、山田聖人さん」
目の前で、美しい女性が俺の名前を口にする。
身長は160cmほどか。年は二十五歳くらいに見える。
艶やかで腰まで届くほどの黒髪。一重で切れ長の目。黒い瞳は、まるで俺の心の内を
覗き込むかのようだ。
スッと通る鼻筋に、弾力のありそうな唇。和風の美人だ。
巫女装束のような服装は、大きく襟元が開き、膨よかな胸を主張していた。
周囲を見ると、真っ白で静謐な空間。
広いのか、狭いのかさえ分からない。
自宅の玄関では無いことだけが理解できた。
何処なんだ、此処は?
「え~っと、その…。何がなんだか…」
笑顔で俺を見つめる瞳に耐え切れなくなり、出てきた言葉がこれだ。
「あなたはこれから異世界に転移されます。巻き込まれ転移です」
ニコリと微笑みながら、突拍子も無いことを言い出した美女。
「美人と思ってくれてありがとう」
あ~心の中を読めるのか~
「はい。神ですから」
これまた突拍子も無いことを言われ、唖然とする。
「私はアマテラス。日本の神です」
言われてみれば神々しさを感じる。
しかし、いったい何が目的で降臨されたのか?
もしかして俺、死んだの?
心筋梗塞か何かで?
暫し悩んでいると、神様の方から話を切り出した。
「説明しますね。貴方達五人は、異世界から勇者召喚の儀を受けました。
他の四人は小学生。こちらが召喚のメインです。
貴方の家の前で召喚が起き、召喚陣の端に入っていた貴方は巻き込まれました。
召喚魔法に割り込みをかけたのですが、向こうは魔法の本流だったために間に合いませんでした。
幼い子供を行かせたくは無かったのですが。
が、貴方を留めることは間に合いました。今、この空間の時間は止まっています。
一旦発動された召喚魔法は取り消せません。私が時間を解けば、いずれ貴方も彼方に行きます」
ふむふむ、なるほど。ラノベによくあるパターンか。
すると、小学生達が勇者という訳か。
そうするとあれか、俺は城から出て冒険者になるタイプか?
ムリムリムリムリ!
50歳の、何の取柄も無い男が冒険者なんて!
それとも神様がチートでもくれるのか?
「はい。私の加護も、チートも差し上げますよ?」
また心を読まれた…。
そういえば、さっきから俺は何も喋ってないよな。
ゴホンと咳払いをして、話しかけてみることにする。
「それで、私は何をすれば宜しいのですか?」
「”俺”で構いませんよ?」
…一応社会人やってたんだ。そのぐらい使い分けますよ…。
「うふふふふ…。では、どちらでもいいですよ?
もう少し説明します。
彼方の惑星は”ガイアース”と言います。異世界に私が作った星です。
そこは魔法の存在する世界。Lvというのも存在します。これらはあとで説明しますね。
文明は地球でいうと、中世ヨーロッパ程のレベルです。
北極に【ノースシーロード大陸】、南極に【イビルランド大陸】、中央に【イヤマート大陸】、
その西にイヤマート大陸の1/5ほどの大きさの【サウスランド大陸】と、大きく四つの大陸に分けられます。
中央の【イヤマート大陸】が他に比べて広大で、ここが主に人間の住む土地となります。
エルフや獣人、ドワーフの国もあります。
北の【ノースシーロード大陸】は、エルフの住む土地。
西の【サウスランド大陸】は、獣人やドワーフが住む土地。
南の【イビルランド大陸】は、魔物の住む土地です。
日本以外を消した地球儀を思い浮かべてみて下さい。
そこに日本を真横にして、北海道を北極に、四国を南極に、中央に本州を大きくし、西に九州を配置した感じです。と、いうか、私がそのように作りました」
よし、マサトおぼえた!
「こほん。続けます。【イヤマート大陸】は、大きく三つの地方に分かれます。
東の【イーストランド地方】、中央の【ミドルランド地方】、西の【ウェストランド地方】です。
ここは元々人間が治める大陸でしたが、十年前にエルフ・獣人・ドワーフ連合との戦争で負け、
【イーストランド地方】の一番東、『ブルー・フォレスト国』をエルフが、隣の『キアタの街』を獣人が、『ワイテの街』をドワーフが治めることになりました。
”何で最西端から最東端?”と思うでしょ?
地球儀を回すと分かりますが、西の【サウスランド大陸】と東の【イーストランド地方】は、
”ツー・ガール海”を挟んで目と鼻の先なんですよね。
戦争の理由はどちらが正義とも悪とも言えません。色々ありますからね。
だいたい、人間もエルフもドワーフも獣人も、みんな”人類”なんですよ。互いに交配も可能です。
そう創造したのですから…」
まあ、戦争なんてどうしょうもない理由から起きるんだろうし…。
そう思いながら、神様が何処からともなく出した地球儀、もといガイアース儀を見る。
成程…。こうするとよくわかる…。ん?
北のノースシーロード大陸とイヤマート大陸の間。ようは、北海道と新潟の間の海の名称。
”ニホン海”…。なんの捻りもなく、日本海になってる…。
他の部分は、なんとなく現在の県名を捻ったようなモノなのに…??
「いいんです。そこは昔から”ニホンカイ”です。わ・た・しが作った世界ですから!誰にも文句は言わせませんよ!!」
いや、俺も日本人ですから。わかります。その気持ち。
「話を続けます。今回、南の【イビルランド大陸】で魔王が誕生し、魔王軍を集結。
他種族を殲滅するために”ドアー・リフル海”を渡り獣人とドワーフの国【サウスランド大陸】に上陸しました。
ドワーフが装備を作り、人間よりも平均して強い獣人が奮戦しましたが、力及ばず。
蹂躙が始まり、多くのものは他の地方に逃れています。
魔王のLvは100あり、その力は強大です。
人間の中で現在最強と謳われる、『王都トゥーキング』の近衛騎士団長:バルド・ゴードンですらLv70に至りません。
というか、長命のエルフですら今までLv90を超えたものがいません。獣人やドワーフは平均してLv50以上あります。
滅亡の危機を排するため【ミドルランド地方】の『王都トゥーキング』に於いて、アリスティア・ミドルランド王女が今回の召喚の儀を行ったのです。
異世界に召喚されたメインの四人の子供達には、皆、勇者の称号が付いて強くなります。
が、それは順調にLvアップした場合です。今回時間が足りません。
召喚では年齢や性別を選べません。
アリスティア王女も召喚した勇者が幼い子供だと知り、絶望することになるでしょう。
子供達もガイアースの者達も、もちろん貴方を含めて、皆、私の子供です。
貴方には、私の加護とチートを授けます。皆を救って欲しいのです」
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なるほど。”子供達を助ける”そういう事なら是非もないな。
どうせ命以外、失うものの無いこの身。
その命ですら、チートを貰えば何とかなるんでしょ?
力をくれるというならば、男は度胸だ。やってやろうじゃないか!
美人の、ましてや神様の頼みを断れる訳もない。
状況に流されすぎてるような気がするが、みじめな現実世界から逃避でき、気分が高揚している。
さっきからワクワクしているのだ。
しかし、疑問に思う事がある。
神様が直接魔王を倒せばいいんじゃないだろうか?
下界に手を出してはいけない掟でもあるとか?
「神は手加減ができないのです…。貴方は知りませんか?
外国の神様が、ある地方で起こした”とあるノアの方舟物語”を。
私が直接手を下すと、恐ろしいことになります。大陸ごと消えるかも…」
いや、なにその”とある魔術の禁書○録”みたいなノリ!
なんかカッコいいな!
あと、心を読むのはやめてほしい!会話、いらないじゃん!
「初めと違い、随分とノリノリに成ってきてますね?しかもラノベを知ってるなど…。
私は神ですから神羅万象に通じていますが、普通貴方くらいの大人は、ラノベとかマンガとか読まないんじゃないですか?」
それは偏見です。別に俺はオタクじゃ無い。
今の40代後半が子供の頃からって、マンガやTVアニメの全盛期だったんだよな。
レイン○ーマン・ミラー○ン・仮面ラ○ダーシリーズ・ウルトラ○ンシリーズなどの実写物。
破○拳ポリマー・新造人間キャシ○ーンなどのタ○ノコアニメ。マジンガー○シリーズなどのロボット物。
リアルタイムでガ○ダム・イデ○ン・戦○メカ ザブングル。その他、数え切れないほどのアニメを見て来た…。
高校時代はアニメ雑誌まで買ってたなぁ。
ア○メージュや月間○UT。若い人は知らないと思うが、あの、ゆ○きまさみ先生が月間○UTの巻末に
四コマ漫画を描いてたんだぜ。アニパロマンガを。まあ、俺も”セ○ン・イ○ブン ニーギブン”の四コマしか覚えてないがw
ラノベだって、もともと好きだった小説の作者が、星新○や筒井○隆、小松○京だったから、すんなり読めたし。
今も”六○間の侵略者”とか”ダンまち””俺ガイル”を購入している。
しかし、あの頃の深夜アニメは今と違ってアレだったよなぁ…。
居間のTVでヘッドホンして、くりいむレ○ンを観ていたら、かーちゃんに見つかって怒られたっけ…。
「そうですか~くりいむレ○ンですか~」
我に返るとニヤニヤしながら話しかけてくる神様。
やめて~!心を読まないで~!
「若い時はしょうがないですよね」
もう、いっそ殺して~!
両手で顔を覆い、床の上でゴロゴロと身悶える…。
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