03話 アマテラス教と世界樹教
魔王を倒してから10日経った。
既に体調は万全だ。
身体が動かない間は、グスタフさんが俺の面倒は見てくれていた。
「他に仕事もあるでしょうに、すみませんね。グスタフさん」
「使徒様、御気になさらず。使徒様が魔王軍を殲滅された御蔭で、第三騎士団も壊滅した街や村の復興の手伝いに出て居ります故。私も今は他の任務が無いので御座います」
「そうですか…しかし、グスタフさん。その”使徒様”と呼ぶのは勘弁してもらえませんかね?」
「ですが貴方様が”使徒様”と判明した以上、他の呼び名など以ての外で御座います」
「…判明という事は知られちゃったんですか…」
こういう事が嫌だから、内緒にしておいたのに。
「はい。使徒様を此処に御運び致した時、意識が御座いませんでした。数人の神官が回復魔法を御掛けしましたが意識は戻らず。失礼とは思いましたが、HPを調べるために、鑑定の宝珠を使用したので御座います。Lvが25。HPが6553。MPが6553。そして、称号が”神の使徒”となっている事が判明致しました。この国は神聖ラーナ王国。”神の使徒”様を蔑ろにするなど罷り成りません。今は大神官の元に神官達が集まり、使徒様の今後について検討しているそうです」
神の使徒だなんて、アマテラス様が勝手につけただけだし…。
もう大した神の御業が使える訳でもないんだけどね。❛聖なる裁き❜は使えないし…。
だいたいアマテラス様の御告げを聞けるアリスちゃんの方を、崇めればいいと思うのだが。
それに、俺の今後を俺抜きで検討するなって~の。
まあ、放っておこう…それがいい。
触らぬ神に祟りなしだ。
今、アリスちゃんとサラちゃんはこの城に居ない。
俺が無事な事が確認できたため、二人は[転移の水晶玉]を使って、王都トゥーキングへ行き来しているのだ。
サラちゃんに[映像の水晶玉]の停止方法を教えていなかった御蔭?で、俺たちの戦闘は[受信の水晶板]により、ミドルランドのお歴々も魔王軍の消滅を確認できた。映像だけでは分からない事を二人が説明して、現在それを書面に残しているのだという。
…Lv・HP・MPは、やはり1/10に減った。
ステータス・ダウンの弊害で、俺の魔法は威力が低下していた。
❛聖なる転移❜は、以前は距離など関係なく転移出来たのだが、❛聖なる地図❜で確認すると、数1,000km程までしか転移出来ない事がわかった。❛聖なる錬金❜で、[転移の水晶玉]を造ってみたが、これも1回に数1,000kmしか転移出来ない。込められる魔力量の関係なのだろう。しかも、1回の使用で壊れ、再使用出来ない。水晶ではなく、魔石でも造る事ができたが、[転移の水晶玉]を造るのは封印する。だいたいこんなものが流通すれば、ガイアースの交通手段に悪影響を及ぼす。それにより職を失う者が出るかも知れないし、そんな事になったら、途中の街や店々にも影響がでるハズだ。
❛聖なる箱❜には何も問題がなかった。
元々こちらの魔法では、❛転移❜の魔法は存在せず、❛錬金❜魔法も、例えば薬草を粉末にする位のモノなんだとの事。
❛付与❜魔法も、魔物を倒して得られる”魔石”に属性魔法を付与して、水道やトイレや風呂に使用しているくらい。
身体が動くようになって、初めて水洗トイレを使った時は感動した。
それに比べれば、弱体化したといえ、❛聖なる転移❜で転移できたり、薬草と❛聖なる水❜で出た水に、❛聖なる錬金❜を唱えれば、簡単にポーション類を造れるのだから、俺の魔法はチートであることに変わりはない。
深夜に❛聖なる転移❜で表に出て、エミの村の海岸で各種魔法や身体の具合を確かめた。
なるべく目立たぬよう、魔法の威力は最小限だ。
神聖ラーナ王国で王との対面を求められていた事もあり、王に会うまで俺はのんびりと養生していた。
神アマテラス様から受けた、二つの依頼は終了した。
今後はどうしようか…。
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そして20日経過したとき、王と対面が出来る事になった。
王都トゥーキングより、バルドさん率いる30名の近衛騎士団に護衛され、キャサリン・ミドルランド女王も訪れた。
長らく寝泊まりしていた部屋を出る時が来た。
俺の左にはアリスちゃん。右にサラちゃんが立ち。グスタフさんに案内されて玉座の間を目指す。
途中の廊下では神官達が膝を折り、”ああ、使徒様…”、”使徒様、我らを御導き下さい”などと恭しく挨拶する。
別に崇められたい訳では無い。
いい加減辟易として、俺は神様じゃないと伝えるが、彼らは態度を改めなかった。
玉座の間に到着し、王と王妃の前に立つ。
❛神の眼❜。
右の玉座にいる男がダニエル・ウェストランド国王。
黒髪のオールバック。前髪を少し垂らしている。口髭を生やした優男。
何というか、スキップ・ビー○の社長、○ーリィ・宝田に似ている。
【名前】ダニエル・ウェストランド
【種族】人間
【職業】ウェストランド国王・騎士
Lv:42
HP:1978/1978
MP:126/126
【称号】王国の統治者
左の玉座にはシェーラ・ウェストランド王妃。
【名前】シェーラ・ウェストランド王妃
【種族】人間
【職業】ウェストランド国王妃・魔法師
Lv:38
HP:1479/1479
MP:2585/2585
【称号】なし
美女だ…。色白の肌。新緑色の瞳。緑色の長い髪をアップで纏める。
少し垂れた目尻が、穏やかそうな印象を与える。
胸は普通の大きさだが、シルクの様な光沢のドレスが柔らかさを引き立たせる。…さ、触りたい…。
周囲にはキャサリン・ミドルランド女王はじめ、バルドさんやアリスちゃんが佇む。
玉座の前に立つのは俺一人だ。
「ヤマダ殿、いや神の使徒様の方が良いか?お会いするのに復興の対策で時間が掛かってしまった。申し訳なかった。余が神聖ラーナ王国国王、ダニエル・ウェストランドである。隣にいるのが余の妃、シェーラ・ウェストランドだ」
「シェーラ・ウェストランドで御座います。どうぞよしなに」
玉座に座したまま、ウェストランド国王と王妃が俺に話しかける。
「私は平民ですので、ヤマダと呼び捨てで構いません。言葉使いに対しては、どうかご容赦を」
不敬罪で打ち首獄門じゃ適わない。
「よい。ではヤマダ殿と。祖父母や両親とは普通に話していたため、余は我より上の立場の者と話した事が無い。こちらこそご容赦願う」
「構いませんよ」
「うむ。此度の魔王軍討伐、大儀であった。ウェストランドの民に代わり、礼を申す。誠に忝い」
そういって黙礼する。
「アマテラス様の頼みでもありましたから。…お役にたてて何よりです」
「…事の経緯はミドルランド女王より聞き及んでおる。ヤマダ殿の御力が弱まり、もう向こうの世界に還れぬ事もな…。して、今後は如何いたす御心算か?」
「はい。折角ですので、色々な場所を見てみたいと考えています」
「そうか。ヤマダ殿さえ良ければ、娘の婿にでもと思っておったのだがな…クリス!」
「父上、此処に」
そう言って前に出てきたのは、髪は黒いが王妃様が子供になったような感じの可愛い少女。
なんで、この世界は美男美女が多いんだ?
言い伝えでは日本人もいたハズだろうに。
俺のように平たい顔の人間は少ないのか?
暦が和風なのに、名前は西洋風だし…どこか、ちぐはぐに感じる。
「お初に御目見え致します。クリス・ウェストランドに御座います。神の使徒様、どうぞよしなに」
ドレスの端をつまみ上げ、深々と優雅にお辞儀をした。
【名前】クリス・ウェストランド
【種族】人間
【職業】ウェストランド国王女・魔法師
Lv:23
HP:907/907
MP:1654/1654
【称号】なし
もう、そういうのお腹いっぱいです。…ほら、アリスちゃんも膨れ面しない!
「初めまして、クリス様。恐れ多いです。それに私はもう50歳ですので、貴女のお相手には相応しくありませんよ?」
アリスちゃんもだけどな!
「まあ、御戯れを…。貴族ではそれほど珍しい年の差では御座いません。私ももう十二歳。あと三年すれば成人で御座います」
そこ!アリスちゃん、ウンウン頷かない!
35歳~40歳くらいなら、大歓迎なんだけどな。
ちょうどいい年代の女性って居ないのかね?…ちょ、キャサリン・ミドルランド女王!俺見てウインクしないで!
「いや、ね、まぁそのぅ~ね?」
「使徒様。あの日、窓から見えたあの眩い光の柱。使徒様の御業と知り、貴方様に御逢いしたくて、矢も盾もたまらず居りました。あのような清浄なる光の魔法を使う御方は、どのような御姿なのかを…。思い描いた通りの優しそうな御顔。使徒様と夫婦になれるのであれば、私はこの上ない幸せ者に御座います。それとも、私ではご不満でしょうか?…後程、お時間を戴けませんでしょうか?私の事を良く知って戴きたく思います」
グイグイくる。
随分、積極的な子だな~
それとも国王に何か言われているのか?
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「陛下、私めも話しを致してもよろしいですか?」
そう、話の腰を折ってくれたのが、西洋風の白い神官服を着た老人だ。
「なんだ、大神官。…ヤマダ殿、この男は、我が国の神官を束ねる大神官、ジョセフ・ドゴールと申すもの。宜しいか?」
白髪の老人。眉も髭も白い。サンタのような感じの男だ。サタンじゃ無い。
「ええ」
王女の話しが途絶え、こっちは大助かりだ。
「で、何でしょうか?ジョセフさん」
「はっ!神の使徒様。使徒様には是非、我が国の聖宮で、終生お過ごし戴きたく」
マギで?いや、マジで?
【名前】ジョセフ・ドゴール
【種族】人間
【職業】大神官
Lv:38
HP:1486/1486
MP:2684/2684
【称号】アマテラス教信者
「あの、その聖宮とは何ですか?」
なんでも一つだけ、願い事を叶える力がある部屋な訳じゃ無いよね?
「は。聖宮とは神聖ラーナ王国の神聖たる所以。『旧都トキョーの街』に建つ宮殿に御座います。トキョー城を改築したそれは、全アマテラス教の総本山。有史以来、数名”神託の巫女”は居りましたが、神の御告げを聞くものは居りませんでした。この度、アリスティア・ミドルランド王女様が”神託の巫女”に成られ、アマテラス様の御告げを聞いたと伺いましたが、”神の使徒様”が居られるのならば、信託の巫女の存在は必要ありません。是非とも我らの為、全人類の為、居を構えて戴きたいのです。神の使徒様は、私たちの心の拠り所なので御座います…」
「…一生ですか?私は何をすれば良いのですか?」
「何もする必要は御座いません。ただ居て下されば良いのです」
あのさ、それ”飼い殺し”ってヤツじゃね?
なんかもうさ、皆、”神の使徒”とか”神託の巫女”とか、名前に拘り過ぎじゃ無いかな?
まあ、俺は日本人で、余り神様仏様に拘らないからよく分からないけどね。
欧米の人は、こんな感じなのだろうか?
「お金も必要ありません。食べ物にも困りません。修道女達を御手付きにされても構いません。是非に!」
何そのハーレム状態。
う、羨ましくなんか無いんだからね(震え声)
「そんな事はどうでもいいのですが、ちょっと教えて下さい」
「はぁ、何なりと」
「今までも”神託の巫女”の出現は少なかった。居ても御告げを聞く者が無かった。神の使徒など、最初から居なかった…それでも、アマテラス様は、皆の心の拠り所だったんじゃ無いのですか??」
「…それはそうで御座いますが…。最近、異教徒が増えているのです…」
「新興宗教ですか?」
「いえ、違います。使徒様は、この世界の生誕話しを御存知で御座いますか?」
「アマテラス様がこの世界を創造し、人が誕生しないので異世界から~ってヤツですか?」
「はい。最初の人間は二人。男の名は山田太郎。女の名を山田花子です」
何度聞いても違和感ががががが
「二人に最初に育てられた我らが祖先、十二人の日本人の男女。男がテへペロ・ツンデレ・シナモン・バトルロマイ・ピーポー・マストの6名。女がヤブコ・コヤブコ・ハネヨ・アタイ・タダ・マッテーナの6名でした」
え~と、何処かで聞いた事が有るような、無いような…それ、本当に名前なのか?適当につけただけじゃね?
だいたい、山田太郎と花子が付けた名前なの?日本人が日本人の子供に付ける名前じゃ無ぇーな。
ああ!!だから、日本と西洋をごちゃ混ぜにしたような、ちぐはぐさを感じるのか。
「凡そ二千年前、ヤマダ・タロウとハナコが亡くなり、亡骸は世界樹の根元に埋葬されました。その後、人間はイヤマート大陸に、獣人とドワーフはサウスランド大陸に移り、エルフはそのままノースシーロード大陸に残りました。人口が増えすぎてしまった所為もありますが…その頃から、創造神アマテラス様を崇める我ら人間”アマテラス教”と、ヤマダタロウ・ハナコも崇める、エルフ・獣人・ドワーフの”世界樹教”との対立が始まったと言われています」
う~ん。産みの親派と育ての親派って事か。
何なんだろうな~宗教って。
地球でもそれで争いが起こっているし、一概に下らないとは言えない。
「先の戦争で、イーストランド地方『ブルー・フォレスト国』をエルフが、『キアタの街』を獣人が、『ワイテの街』をドワーフが治め、他の『マガタの村』『ヤギーの村』では人間と混血が行われています。この地方ではアマテラス教よりも世界樹教の方が主になりました」
「…強制的…洗脳などでですか?」
「いえ、そうではありません。国を治めるものが替り、自然に崇める事が変わったのでしょう。民は元々、特に農家などは、日が昇り、田畑を耕し、時折、雨が降り、作物が育ち、収穫し…それが出来ればよいのです。ただ、何かあった時、例えば日照りや凶作の時に、崇める拠り所が必要なのです」
「はぁ。私が居ても居なくても、変わらないんじゃないですかね?」
「そんな事はありません!実際に貴方様は魔王軍を退治されたのですから。あの聖なる光は、他の大陸からも確認されており、使徒様の事は世界中に鳴り響いております。いや、私達がその名を広めました」
「それとこれとは関係ないんじゃ無いですか?」
「貴方様の…”神の使徒様”の御名前で、アマテラス教を主とする者が増える筈です」
「2千年替わらなかったのにですか?」
「…アマテラス教への改宗が、必要な者達が居るのです…約一千。それも緊急にで御座います」
俺の目を注視し、声を落として、剣呑とした雰囲気を漂わせ始めた。
「訳をお聞かせ下さい…」
ゴクリと喉を鳴らしてから、彼に話の続きを促した。
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