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鬼の首  作者: 夏瓜 竹海
5/7

5(投了せい)

 そうこうしている内に、月はいたずらに肥えて行く。

 その頃の頼通は、毎夜毎夜、鬼と酒を廻し飲み、将棋を指していた。


「小僧はどうして剣が強い」鬼が訊ねた。

「性に合っていたのだろう」答えながら駒をぱちりと盤に置く。

「つまり好きなのか」ぱちり。

「いや」頼通の手が盤の上で迷った。「どうだろう」考えたこともなかった、と駒を手に取り、ぱちり。

「人切りが特技か」

 頼通は応えなかった。

「鬼とは」と大男が口を開く。「望んでなったわけでない」ぱちり。

 小男は無言で、駒を取る。

「それは人も同じであろう」

 鬼の言葉を聞きながら、小男は静かに駒を置く。次いで鬼が駒を手にし、「難義だな」

「む?」頼通は顔を上げた。

「剣など無用の長物になると云うのに」

 程なくそれは予言となる。ぱちり、と鬼は駒を置いた。「投了せい」

「待て」

「待たぬ」

 鬼は呵々と笑って、徳利を引っ掴み、ぐいと傾け、対面の小男に突き出した。

 頼通はそれを渋々受け取り、同じようにぐいと呷る。


 これまでの勝敗、凡そ七三で鬼の勝ちであった。

 しかし決着は当てなく持ち越される。


 いつものように日がすっかり昇った屋敷に戻った頼通は、鉄砲隊が来ると知らされた。

 当主が頼んだことではないが、どこからか横槍が入ったのである。


「鬼など、ズトンですよ」


 先遣として押しかけて来た十人僅かの男たちは、もう討ち取ったかのように我が物顔で庭を占拠し、酒を空け、舞台に昇って踊り出す始末であった。


 頼通はいねを捕まえると、経緯を訊ねた。

 しかし当のいねだって知りようもない。ただ、「来る途中に小さなお稲荷様があったのを憶えてますか」


 それがなんだと云うのか。


「あの神社はミナアテと云いまして、お稲荷様が夢枕に立ち、以来、外しっこなしなのです」


 頼通は空を仰ぎ、目を閉じた。

 暫くの後、「いね」頼通は背の高い女中に向かって至極真剣な声音で云った。「酒を用意して欲しい」

「徳利一つでないですね」

「ああ」頼通は首肯した。「飛び切りいいやつを、ありったけ。ありったけ、鉄砲隊に振る舞ってくれ。銭なら幾らでも出す」

 懐に入れた手を、大柄の女中は上から押さえ、小さく首を横に振って微笑んだ。「徳利の一つ分だけは別にしておきます」

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