ファンタジーショートショート:仮免勇者
ここ勇者免許センターは人で溢れかえっていた。
「残念ですけど、今回も不合格です」
「そんな!あんなに強い奴を倒したのに?」
「おめでとうございます。これで貴方も晴れて勇者ですよ」
「やったー!」
悲喜交々様々な会話が聞こえてくる。そして自分もその中の1人なのだ。
「すいません。本試験を受けたいのですが?」
受付でこう言うと
「勇者(仮免)の方ですね?それでは本試験の受付をさせていただきますのでこの書類にご記入ください」
書類の記入を済ませ、待っているとセンター内のスピーカーが鳴り響いた。
「これから本試験の説明がありますので、勇者(仮免)の方は2階B室にお入りください。
ぞろぞろと沢山の人がその流れを作っていた。自分もその流れに加わるとB室が見えてきた。暫くするとセンターの職員が入室してきて早速説明がされた。
「貴方達の今の状態は勇者(仮免)と言う事になっています。一応勇者ですが、仮免なので様々な制限が掛けられています。それはより厳しく勇者を選別するためのものです。ではどうすれば(仮免)が取れるのかと言うと今回の本試験に合格すればいいのです。それでは試験の内容を発表します」
その言葉に息を呑む勇者(仮免)達。
「試験は『魔王』と称号の付いているモンスターを倒す事です。倒したらその仮免許証を持ってきてください。何を倒したのが記録されていますのでそれを元に試験の合否を判断します」
その言葉にどよめきが走る。
「質問は認められません。それでは時間は1ヶ月です。始めます!」
その言葉に一斉に走り出す仮免達。勿論自分も走り出した。
とは言え自分もまだ仮免の状態で『魔王』を倒すのは自殺行為と言ってもいい。それでも中にはとても弱いのに何故か『魔王』の称号を得ているモンスターが居たりする。それを狙わなくては勝ち目は無い。
「スライムに魔王とか居ればな・・・」
等と言いながら探していると丁度目の前にスライムが
「お!『魔王』持ちのスライムなんて本当に居たのか!よしこいつなら・・・」
結果。即死した。攻撃が全く通じない上に魔法まで連打されれば勝ち目は無い。一応勇者なので復活は出来るけど復活するのに丸1日掛かってしまう。勇者になれば倒れた次の瞬間にはもう復活していたりする。早く本試験に合格せねば。
などと考えながら探すも、『魔王』と付くモンスターはどれも異常に強い奴ばかりで倒せず。もう直ぐ期日が迫ってきている時のこと。
草むらから現れたのはゴブリンだった。
「ん?」
しかしよく見てみると『魔王(仮免)』と書かれていた。
「もしかして魔王にも認定試験があるのか?」
等と思っていると向こうもこっちに気が付いたようで襲い掛かってきた。
「こいつならなんとか!」
疑問に思いながらも戦闘に突入する。
何とか勝つことが出来た自分は再び免許センターに到着する。
「魔王を倒してきました!」
受け付けて確認してもらう。
「魔王(仮免)を倒しましたね?これでも魔王は魔王ですから合格です。おめでとうございます」
「やったー!」
喜びが爆発すると共に職員の方たちから暖かい拍手が送られる。
「免許が出来るまでもう暫くお待ちください」
そう言って待っている間職員に気になったことを聞いてみることにした。
「今回倒せた『魔王(仮免)』っていうのは?」
「どうやら魔王も認定試験があるみたいで、それが勇者を倒せと言う事みたいです。お互い様なのですかね?」
その言葉に釈然としないものを感じつつも免許が出来たので受け取ることが出来た。
「これで俺も一人前の勇者だ!魔王をどんどん倒すぞ!」
と決意を新たにするのだった。