06 旅立つ準備
森を出て冒険をする為の準備をしようと思う。
今、手元にあるものは少ない。
人間用の両手魔剣、小銭が詰まった皮の財布、自作の巨大木剣、皮の腰巻が数着、寝具としてつかっている毛皮というところだ。
旅をするのに絶対必要なのは食料だ。
食料の類は必要になる度、獲りに行きその場で全て食っていたから現時点の蓄えはゼロである。
縄張りから外に出れば食料事情も変わるだろうし、いざという時用に保存食ぐらい準備するべきだ。
まあ、その辺の獣や魚でも獲って干物を作る程度が自前での限界だろうが。
で、保存食を始めとした荷物を持ち歩く事になるなら荷運びに使える頑丈で大きな袋が欲しい。
これは如何にかして作る事にしよう。
野外生活用品に関しては……今寝具に使っている毛皮を加工してマントでも作るか。
マントは雨具として使えるし、敷物代わりにできるし、簡易寝具にもなる便利な道具だ。
ロープなども準備しておくべきか?
確か森に丈夫な蔦植物が生えていたから、あれを集めておこう。
武器や防具は……正直、必要性が感じられないな。
魔剣よりも、巨大木剣より、爪と牙など生来の肉体が高威力なのだから……とここまで考えてふと思う。
私は戦いの際に手加減を考えねばならないだろう。
考え無しに暴れた日には環境への影響が恐ろしい。
だとすれば普段は木剣で戦う方が便利なのでは?
戦闘力を落とす為に武器を持つというのも本末転倒な気がするが、事情は人それぞれだしな。
防具も似たような方向性で考えれば結構良いかもしれない。
例えば魔力を遮断したり散らしたりする素材で靴を作れば地面への影響が少なくなるだろう。
……うむ、多分この考え方は間違っていないはずだ。
良いぞ良いぞ、なんだか楽しくなってきた。
冒険というものは出発前の準備だって面白いものなのだ。
素材を求めて森の中を歩きまわる。
ある時は光すら射さぬ森の最深部まで出向いた。
そこには樹齢など分からぬ程の巨樹が存在しており、木材として最適だ。
巨樹に絡み付くように自生している蔦植物も強靭で使い勝手が良い。
また別の日はずっと無視していた魔獣、多頭大蛇を襲って首を一本頂戴した。
奴の皮は撥水性が強い為、水袋の素材として使えそうだと思ったからである。
高魔力素材として白い九尾狐の尻尾も毟ってやろうと考えて何日か探したのだが、こちらは失敗に終わる。
何時の間にやらこの森から去っていたのか白狐は発見できなかった。
以前、泉で出くわした時にきちんと狩っておくべきだったな。
あれは惜しい事をしたのかもしれない。
保存食に干物を作ろうと決め、魚を求めて池や川を巡りもした。
今まで自粛していた咆哮漁法を解禁、二度三度と吼えて魚が漁れなくなるまで集めた。
干し肉も作ろうと鹿や猪、鳥など目に付いた獣を片っ端から狩る。
どうせ旅立つのだ、もう後の事など知らん。
森の生態系は当然おかしくなったようだが、私は気にしない。
何年か時間が経てば元に戻るだろう……たぶん。
鍛錬は暫く休みとしてちくちく針仕事で日々を過ごす。
強靭な魔獣の皮に爪で穴を開け、糸代わりの蔦植物を通して縫い合わせていく。
昔から袋や衣服の補修程度は自分でやっていたが、最初から作るのは初めてである。
中々思い通りに作れず、素材が尽きてしまう。
仕方がないので多頭大蛇を襲ってもう一本首を引き千切ってきた。
袋一つにしても使い勝手が良いものは中々作れない。
かつて何も考えず購入していたが、自分で作って初めて職人さんの偉大さを知る。
袋が終われば今度はマントである……はてさて、きちんと作れるだろうか?
一方で保存食の準備は思ったより簡単に終わる。
幸い天候が良い日々が続いたので、黴たりせずにきちんと肉や魚の干物が完成した。
食料が干物だけでは寂しいので少量ではあるが燻製も作ってみた。
ただまあ、干物にせよ燻製にせよ素人が作った物なので味はお察し下さいという程度。
武器に関しては以前作った木剣と人間時代の魔剣で十分だろう。
防具の方は残念ながらどうにもならなかった。
魔力を遮るグローブや靴を準備したかったのだが、何を素材に使うべきか、どのように加工すべきかさっぱりだったのである。
そんなこんなで時間は過ぎ、出立の準備は整うのだった。