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28 ある伝説の終わり

 私達の戦いはあれから三日三晩続いた。


 


※※※




 竜は既に満身創痍であった。


 金眼の片方は潰れ、角は砕けて輝きを失い、翼は破れて折れ曲がり、鱗は剥がれて肉が剥き出しになっている。


 もはや、再生に回す力も残っていないようで、一歩動く度に傷口が拡がっていた。


 自分では分からないが、対する私も似た様な状態なのだろう。


 視界は霞んでいるし、身体は重くて思うように動かない。


 竜は言った。



"ああ、楽しい、楽しいなあ……。"



 ああ、全くだ。


 心の底から竜の念話に同意する。


 魔物として目覚めてから、ここまで充実した時は無かったと断言できる。


 永遠に続けられるのではと思った時間にも終わりはあったようで、刻一刻とその瞬間が近付いている。


 ここで痛み分けにしても良いのではないか。


 私という存在が居れば、この竜も人間に手を出そうとは思わないのではないか。

 

 そんな邪念が脳裏を過る。


 彼の方はどう思っているのだろう。


 そう思って竜を見れば、既に思考も混濁しつつあるのか、意味のない思念が垂れ流されていた。


 だが、それでも足りぬと金色の眼は告げている。


 全く、とんでもない怪物だ。凄まじい貪欲さだ。もう、呆れるしかない。


 いいさ、ここまで来たんだ。ならば、何処までも付き合ってやる。

 

 愛用の木剣は随分前に半ば辺りで折れている。


 しかし、今更それが戦いを阻害することはない。


 木剣を核として、魔力の刃を展開する事にした。


 体内にはもう力が残っていないので、外から集める。



 獅子鬼の食らう力で、世界を齧った。



 魔力なんて苦いばかりで美味くもへったくれもないから嫌なのだが、必要だから仕方ない。


 集めた力を体内にて練り上げ、無駄なく伝えていく。


 手本とするのは目の前の竜の技である。


 瞬間的に傷を再生する時に、破壊の吐息として撃ち出す時に見た理想的な魔力の流動。


 手元が輝き始め、木剣を覆い尽くし、更に更に伸びていく。


 完成したのは目の前の竜すら両断出来そうな、白い輝きの純粋なる魔力大剣。


 重さも質量もないそれだが、斬れ味と刃渡の長さは超一級のはずだ。


 自分でも何時、これを使えるようになったのか覚えていない。


 まあ、戦いの中で編み出したのだろうな、と思う。


 こちらの準備は整った。



 竜は喉元に魔力を溜めている。


 やはり、決め技として破壊の吐息を選ぶか。


 私は静かな気持ちで、魔力が溜まっていくのを待った。


 力を集め過ぎたのか喉元が破れ、ばちばちと電光のような物を放っている。


 竜が大きく口を開け、自身が耐えれる限界すら超えた威力で吐息を放った。




 私は破壊の吐息を斬り払い、そのまま竜の首を刎る。


 かくして戦いは終わった。




※※※




 満足できたかね?



"ああ、十分だ"



 首を斬られてもまだ命はあるようだ。


 最後の力なのか、先ほどよりもずっと明瞭な思念が届く。


 蝋燭は最後に明るく燃え上がるといった所か。



"力を使い尽くして終わる。

 余の望む最高の幕引きよ……どれほど感謝しても足りぬ、な"



 念話ゆえに感謝と満足は本心だと感じる。


 そして感謝に加えてもう一つ、これは罪悪感だろうか、それとも心配?



"余はここで終わる。

 しかし、貴様はこれからも生きる。

 その強過ぎる力と、長過ぎる命を抱えてな。

 いずれ貴様も余のように、世界に飽く日が来るやもしれぬ"



 なるほど、そんな事を気にしていたのか。


 傲慢で貪欲で人間など意に介さない竜のくせに、まさか私を気遣うとは……少し意外だ。



"余のみが満足して逝く事を申し訳なく思う"



 私は気にするなと、笑ってやる。


 何故なら、耳を澄ませば遠くで「ジェラルド」「師匠」と私を呼ぶ声が聞こえているからだ。


 少なくとも、ああして私の名を呼んでくれる人がいる間は大丈夫だよ。



"そうか……余と同じかと思ったが、少し違うようだな。ならば、良し"



 そう言えば、最後までお前の名前を聞いてなかった。



"余の名は……"



 私は彼の名を心に刻み、一つの伝説が終わる瞬間を見届けた。





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