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14 鬼の一閃、海を断つ

 魔力が全身に漲り、感覚が何処までも鋭さを増していく。


 船の動きが止まり、大海魔(クラーケン)が止めを刺さんとした瞬間、捕まえたと確信する。


 手に持った杭が破裂するぎりぎりまで魔力を流し込んだ。


 渾身の踏み込みに合わせ、腰を捻り、肩を回し、手首を活かし、力を解放する。


 海魔を目指し音速を超えた速度で杭が飛翔、そして……。



 すとらーいく。



 私は投擲を終えた姿勢のまま、小さく笑みを浮かべた。


 どうやら大海魔に向けて投げた杭はきっちり命中したようだ。


 いやはや、きちんと当たって良かった。


 船が戦闘を始めてすぐに私は投擲用の杭を準備に走った。


 まあ、準備したと言っても、近場に生えていた樹の中で最も大きく育った物を引っこ抜いて枝を落とし、先端を尖らせただけの大雑把な品。


 当然、急拵え故に品質は今一だ。


 投げて命中させたところで、大海魔に突き刺さるかどうか不安だった……が、杞憂だったようである。


 大海魔は胴体をブチ抜かれ、海面に浮かんで痙攣を繰り返している。


 あの一発だけではまだ死なないだろう。


 だが、かなりの大ダメージを与えたはず。


 剣を握る時の要領で杭に魔力を込めたのが良かったかもしれない。


 こんな事が出来るようになったのは、一ヶ月に渡る魔力コントロール訓練の副産物だ。



 海魔の動きが止まったのを見て、硬直していた金髪指揮官が再起動を果たす。


 そして、動ける兵士たちに指示を出した。


 指示の内容は海に落ちた者の救難。


 動きを止めているとはいえすぐ側に大海魔、この状況で即時撤退を選ばなかったのは観る人次第で評価が分かれそうだな。


 私としては喝采を送りたいと思う。


 危険でも仲間を見捨てない金髪さんの在り方は私好みだ。



 本当はもう少し早めに助けたかったのだが……結局ぎりぎりになってしまった、すまんな。



 杭を準備した後、即座に攻撃できなかったのは、海に潜ったまま動き回る大海魔の位置を掴み難かったからだ。


 軍船が激しく動き回っていた為、そちらに当てる可能性があったのも理由の一つ。


 五感を研ぎ澄ませて投擲の機会を待ったが明確な好機は訪れず、戦いに決着が付き両者の動きが止まるまで動けなかったのである。



 ……おっと、大海魔が動き出しそうだな。



 兵士たちの救難作業はもう少し掛かりそうである。ならば。



「ゴォルゥアァァァァッッッッ!!」



 全力で咆えた。


 手加減は一切無し、周囲の全てを吹き飛ばすつもりで喉を震わせた。


 大海魔に私という脅威がここに居ると伝えてやるのだ。


 貴様を負傷させた者はここに居る。


 こんな強力な化物が居るのだから、人間の相手なんてしている場合ではないぞ、と。



 ……兵士諸君、君達まで止まってどうするかな。


 ほらほら、体を動かしたまえ。

 


 兎に角、これで大海魔は私という脅威に気が付いた。


 かなり強烈な警戒心を抱いたようで、人間の存在など眼中から消えたようである。



 さあ、どうする大海魔、掛かってくるのか逃げるのか?



 奴が何をしても良いように魔力を練り上げ身体を強化、時折吠えて威嚇してやる。


 海を挟んで超遠距離での睨み合いだ。


 私達が牽制し合っている間、金髪指揮官と兵士達は必死で……それこそ、最初の倍ぐらいの勢いで動き回り作業完了させた。


 軍艦が遠ざかって行くのを見届け、漸く緊張を緩める。



 これで彼らはもう大丈夫かな。



 後はこの巨大烏賊をどうするかだが……あれだけの傷を与えたのだし、手を出さなければこのまま逃げるだろう。


 しかし、放置して別の船が襲われたりしたら意味がない。


 少し考え、私は決断した。



 よし、さくっと殺ってしまおう。



 こちらの殺気を感知し身の危険を覚えたのか、大海魔はゆっくりと遠ざかり始める。


 だが、もう遅い。


 先程のレグナム軍船は既にかなりの距離を稼いでいる。


 それは私が多少暴れても巻き込む心配はないという事だ。


 のろのろと逃げる敵は海上にあり、私は泳げない。


 しかし、泳げないと追えないはイコールではないのだ。


 私は泳げないだけで、海を移動する方法を編み出し終えている。


 砂を蹴散らし駆け出した。


 そのまま最大まで加速し、海へと脚を進める。


 海への一歩、海面に足の裏が触れるタイミングを狙って魔力を炸裂させた。


 水中に足を突っ込んで魔力を流すと、力は立体的に様々な方向へ散ってしまう為管理が難しい。


 けれど足が海面と接触する瞬間に限ってなら、足踏みによる地揺らしと同じく平面への干渉で済む。


 力を流すべきは真下、爆発させるつもりで踏み込む。


 どばぁん、と水が爆ぜ我が身体が持ち上がる。


 肉体が沈んでしまう前にまた一歩踏み出し、魔力を爆発させる。


 また一歩、更に一歩、もう一歩。


 どばぁん、どばぁん、どばばばばっ……と脚で魔力をぶっ放しながら駆ける。




 質問。泳げないけれど海へ出たい、どうしたら良いだろうか?



 回答。良いことを思いついた、泳がずに走り抜けてしまえよ。




 海上を駆け一気に距離を詰める私に驚いたのだろう。


 大海魔が速度を上げて逃げようとする……が、私の方が圧倒的に速い。


 あっという間に距離は縮まり、このままでは逃げ切れぬと悟った敵は海中へと沈んで消える。



 下に逃げるか、悪くない手だ。だが、逃がさん。

 


 私は背中から愛用の巨大木剣を引き抜き魔力を流し込む。


 そして、遠ざかってく大海魔の気配に向けて、全力全開の一閃を放った。


 我が剣の衝撃は大地を引き裂く。


 ならば地面より柔い海を割る程度、出来ぬはずがない。



 剣閃は当然の如く海を割り、そのまま大海魔を真っ二つにし、ついでに海底まで引き裂いた。



 大海魔との戦いはこの様にあっさりと終わった。

 

 そして、足場にしていた海面を自分で切り崩してしまった私は海底へと転落し、またしても溺れて死に掛けるのだった。




※※※




 レグナム王国に所属する高級貴族の乗艦は、国旗に加えて天に向かって吼える竜を図柄とした旗も掲げる。


 これは慣習のようなもので、明文化された決まりではない。


 ただ敢えて逆らう理由もない為、貴族達は今日も竜旗を掲げている。


 しかし貴族達の船の中で一隻だけ、竜旗ではなく剣を握った獅子の旗を掲げる船があるという。


 煌竜号という名を持つ巨艦で、さる公爵家が自身の力を周囲に見せつける為に造った船である。


 多くの者は船の威容を見て驚き、名前を聞いて相応しいと頷き、旗の図柄に首を傾げる。


「竜の名を冠する船が、なぜ獅子の旗を掲げているのか?」と。


 乗組員達にそれを問えば、その理由を熱く語ってくれるそうだ。


 彼らが語る「何だそのイケメンモンスターは」と言いたくなる存在は……たぶん、私には関係がない。


 人違いと言うか、鬼違いだと思う。





強く優しく怖ろしく、ちょっと間抜けで憎めない。

そんな魔物として彼を描きたい。


ジェドさんの楽しい海水浴はこれにておしまい。

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