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12 大海で踊るもの

 どばぁん、という爆音と共に巨大な水柱が立った。


 私はその衝撃で水中から放り出され、砂浜の方へと吹っ飛ばされた。


 慌てず空中にて体勢を整え地面に着地、ずざざと少し滑って止まる。



「グルルゥゥ……」



 最早、何度目かも分からぬ失敗に思わず呻く。


 現在、泳ぐ為の魔力コントロールは難航していた。


 水中に魔力を放出する事自体は思ったよりも簡単にできた。


 しかし、そこで巨大な問題にぶち当たったのである。


 泳ぐという事は推進力を得るという事で、推進力を得る為には一定の方向に絞って魔力を流さねばならない。


 ところが水中で魔力を放出すると四方八方に流れてしまい、流れを一定の方向に固定するのが難しいのだ。


 これは魔力放出が体に接している物質を媒介して伝わっていくからである。


 流した力の制御は固体、液体、気体という順で難しくなる。


 また、力の逃げ場が無い独立した物体に手や足で触れた状態(剣を掴んだ状況がこれだ)、地面のような平面に働きかける(地揺らしの足踏み)、全身を包む立体空間内(魔力咆哮)の順でも制御難度が上がる。


 水中での魔力開放は地揺らしの足踏みよりも、魔力咆哮に性質が近いと練習を始めて直ぐ気が付いた。


 陸上では体全体が大気に包まれており、大気を媒介に魔力を放てばあらゆる方向に伝わっていく可能性がある。


 海中でも全身を水が包んでおり、水を媒介に魔力を流せば同様に散ってしまう。


 どちらも最低限の方向性は仕込めるが、基本は自分を中心とした全周囲を対象とするものになってしまうのだ。


 そして、無理に制御しようとして魔力を押し留めると、集中が乱れた瞬間に暴発してしまう。


 この魔力爆発自体は新しい技として何かに使えそうだが……所詮は暴発なので力の向きが管理不能、望んだ方向に進むどころか先程のように水中から叩き出される場合すらある。


 エネルギーは十分だと思うが、これでは水中移動に使えない。


 元々私の魔力放出全般は攻撃用だから、精密な操作を行うの難しいという事なのだろう。


 力一杯ぶっ放すか、控え目にするか、という程度ならコントロール可能になってきたのだが。


 まあ、根を詰めても疲れるばかりだ。


 食事でもしながら休憩にしよう。


 ありがたい事に食糧がそこら中に浮かんでいる。


 私が訓練中に魔力を暴発させ続けた影響で、魚や海の魔物がぷかぷかと波間を漂っていた。


 獲れたての新鮮な魚をそのまま丸齧りだ。



 うむ、海水の塩が利いて味がはっきりしている。


 味の付いた食品は美味いなあ……しかしこれ、食べきれるだろうか?



 水面に浮かぶ魚をかき集めれば、ちょっとした船が一杯になりそうである。

 



※※※




 魔力コントロール訓練を開始して一ヶ月ほど経過した。


 今だに水中移動の方法は確立できず、漁獲高だけが増えていく。


 もはや食べきれないないので、半分以上は干物にしている。


 下手をすると訓練に費やしている時間よりも、爪で魚を捌いて岩場に並べる作業の方が長いかもしれない。


 本末転倒である。 



 そろそろ魚にも飽きたが、勿体無くて捨てられん……我ながら貧乏性で困る。



 崖に腰掛けて海を眺めつつ、そろそろ今日も練習を開始するかと考えていた時のことである。


 巨大な帆船が航行しているのが見えた。



 おお、あれは凄いな。



 かなり遠くの位置だが見事な船飾りである。


 要所に刻まれた海神やその使徒の彫刻、それらは華美になり過ぎぬよう見事なバランスで配置されている。


 一目で設計者の拘りが分かる造りだ。


 黒字に金糸で刺繍がされてた旗もまた目立つ。


 その図柄は天に向かって吼える(ドラゴン)



 ……あの旗、レグナム貴族の乗艦を示すものじゃなかったか。


 それもかなりの上位貴族だったような。


 

 よく見れば立派な衝角が付いており、多数の重弩砲も搭載されている。


 船自体の作りもかなり頑丈そうだから、分類はたぶん軍船だ。


 ただし、あの装飾への拘りを見るに主目的は戦闘ではなく、持ち主の財力や権力を示す為の船かもしれない。


 この位置で見かけたという事は、おそらくラグラに寄港するのだろう。



 変に目立って攻撃されても困るし、あの船が去るまで訓練は止めておくか。



 今日はあの船を鑑賞しつつのんびり過ごすとしよう。


 装飾の施された巨大な軍船というのは良い。


 あの他者を圧倒する威容には浪漫を感じる。


 浪漫を感じる、という事は裏を返すと実用性は今一という話なのだが。


 どちらかと言えば、軍船は中型から小型の船が好まれる。


 それはこの世界では海戦における機動力を魔術師が担う場合が多いからだ。


 船体が大き過ぎると船付きの魔術師が急加速や減速、回頭といった各種操作を単独でこなせなくなる為、機動力が大幅に落ちる。


 海戦で基本となる戦術は二種類。


 一つは素早く陣を組み、良き位置を奪い、大型重弩や魔術師による遠距離攻撃で敵艦を沈める戦法。


 もう一つは衝角突撃による攻撃で敵船の動きを止め、兵士が乗り込み制圧する移乗戦術。


 どちらの場合でも機動力が最重要とされる為、あちらに見えるような巨艦よりも程々の大きさの船の方が戦果を上げ易い。


 ちなみに帆船の場合は船付き魔術師は風術を得意とする人物が好まれ、他の船種だと水流を操れる人物が重用される。


 多分、あの船にも風術系の魔術師が乗っている筈だ。



 なんとかして会えないだろうか。


 できれば魔術の使い方を教えて欲しいのだが……。


 船を襲撃して拉致するわけにもいかないしな。



 などと考えていると、突然船の甲板が慌しくなった。


 目を凝らしてみれば、望遠鏡を手にして見張り台に立っている人物が何やら騒いでいるようだ。


 それを受けて金髪の指揮官らしき人物が船内から現れた。


 白い海軍服が似合う麗人、女性っぽく見えるが胸はぺたんとしている。



 うーむ、貴族は顔立ちが綺麗過ぎて、遠目だと性別がよく分からん。



 さておき、金髪指揮官は見張りから報告を受け、酷く驚き、焦りの表情を見せる。


 が、それもほんの一瞬、すぐさま表情を引き締め兵士達を集め始めた。

 

 あっという間に兵士は集い、素晴らしい手際で重弩の発射準備をする。



 なんと、これは戦いが始まるのか……海賊でも発見したのか?


 だが、これといった今のところ他に船影はない。


 私の視力で見えないほど遠くに居るのだろうか?


 我が目の性能を考えれば、それは考え難いのだがなあ。



 弩砲は発射できるよう準備を整えられた。


 金髪指揮官はそれを確認し、頷くと待機命令を出したようだった。


 そこへ新たな人物が現れる。


 王国魔術師の証たる白のマントを羽織った老人、おそらくこの船付きの風術師だ。


 金髪指揮官が老魔術師に何かを問い、老魔術師は海の方を確認した後に小さく首を振る。


 どういうやり取りをしているのか気になるが、流石に聞こえない。


 金髪指揮官は老魔術の答えに唇を噛み、目を瞑り、その後兵士に指示を飛ばす。


 重弩が一斉に狙いを定めた。その先に在るのは海面。



 そこで私も気が付いた……そう、敵は海中に在るのだ。


 気が付けいてしまえばはっきりと見えた。


 海面を注視すると巨大な影がゆらりゆらりと揺れている。


 凄まじく巨大な影が、明らかに船より巨大な影が浮上してくる。



 指揮官が覚悟を決めた表情で命令を下す。


 号令から一呼吸と遅れず、全ての重弩から矢が放たれた。


 矢は海面に突き刺さり、波に飲み込まれて消える。


 瞬間、轟と音を立て海中から白い柱が屹立した。


 それも一本ではない。


 二本、三本と海面を突き破り、激しく波立たせ荒らしながら次々と増えていく。


 遥か高くまで吹き上げられた海水が勢いよく降り注ぎ、船の甲板とそこに立つ兵士達を叩く。


 海中より生じた白の巨柱、その数は最終的に八本。


 船は囲んで立ち並ぶ様はまるで檻のようである。


 甲板に立つ兵士達は揃って震え、金髪の指揮官も表情が引き攣っていた。



大海魔(クラーケン)……」



 遠くで誰かがそう呟くのが聞こえた気がする。


 あれは私が溺れかけた時に海底で見かけた烏賊の化け物ではないか。


 だとしたら……あの船、かなりやばいのでは?





見張り「うわあ、クラーケンだぁ」

金髪指揮官「兵士は戦闘準備を整えつつ待機せよ。船付き殿、我が艦の機動力で逃げ切れるかだろうか?」

爺さん「無理ですじゃ」

金髪指揮官「ならば、ダメージを与えて動きを鈍らせればどうか」

爺さん「それなら行けますぞ」

残念、攻撃は効かずクラーケンが怒っただけでした。<イマココ



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