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角の折れた娘

作者: 天見ひつじ

 時は二十世紀初頭、イングランド中央部の都市バーミンガム。大英帝国の繁栄を支える礎たる炭鉱業と鉄鋼業、その朦々たる黒煙によって天も地も黒く塗りこめられる『ブラックカントリー』の荒廃を体現したようなこの街に、薄汚れた小さな事務所がある。掲げられた看板にはこうある。


《クリストファー・バーンズ人類学研究/探偵事務所》


 人類学、そして探偵。およそ似つかわしくない二つの単語を並立させるこの事務所では今まさに、所長たるクリストファー・バーンズ氏が事務所に所属するたった一人の助手であるアシュリーから叱責を受けているところだった。


「先生!」


 すらっとしたジャケット姿の助手は机を挟んでクリストファー氏に向き合い、声変わりする前の少年を思わせる声で威圧するかのように叫んだ。間髪入れず、椅子に掛けたまま足を組んで目をそらそうとする相手に自分の方を向かせるため、ばちんと音を立てて右手で思い切り机を叩く。しぶしぶ、といった感じで向き直るクリストファー氏が、落ち着き払った態度と声音で応じる。


「なんだね、アシュリー君」


「なんだね、ではありません!」


 今度は左手を机に叩き付け、右手の人差し指を突きつけて助手が叫ぶ。


「久しぶりに依頼人が来るとお伝えしたでしょう、先生! いったいなぜそのようにトンチキな格好をなさっているのですか!」


 助手の憤慨をよそに、クリストファー氏は自らが身に着けるカーキ色の衣服をつまんで、鷹揚に微笑む。その姿は今から探検に赴く英国紳士といった趣であり、見れば部屋の隅には巨大なリュックサックとトランクも置かれている。


「アシュリー君は知らないのかね? これはサファリジャケットと言ってね、アングロアフリカンの冒険家たちが愛用する実に機能的な衣服なのだよ」


「きちんとした格好をして下さい、と申し上げているのです!」


 ばちん。三度机に叩きつけた手を、クリフトファー氏がそっと取る。


「やめたまえ、綺麗な手に傷がついてしまう。わかった、君がそこまで言うのなら着替えてこよう。シルクハットにモーニングコートでいいかね?」


「かっ、からかうのは止めて下さい! 正装の必要もありません! お部屋に用意しておきましたので、それを着て下さい! ぼくはその間に依頼人を迎えに行ってきますので! お願いだから、逃げないで下さいよ!」


 いきなり手を握られて動揺しつつも律儀に説明を残してぱたぱたと事務所を後にする助手を見送るクリストファー氏。彼は引き出しに入れてあった書き置きを握り潰してくずかごに放り込むと、逃げるなと釘を差せるまでになった助手の成長ぶりに苦笑いするのであった。




 それから一時間後。応接室のソファーで依頼人の若き英国紳士とクリストファー氏が向かい合っていた。助手もミルクティーとプレーンスコーンを給仕して後、クリストファー氏の横にちょこんと腰かける。純粋な興味が半分、いざとなれば先生の暴走を掣肘せねばならないという使命感が半分、といった面持ちだ。


「初めてお目にかかる。私が人類学者のクリストファー・バーンズ……」


「は……?」


 身なりがよく、黒々とした髭を生やした依頼人が首を傾げる。


「いえ」助手が机の下でクリストファー氏の足を軽く蹴る。「彼こそ、これまでいくつもの難事件を解決に導いてきた探偵、クリストファー・バーンズです。そして先生、こちらの方が今回の依頼人、エイブラム・ブラムフィールド氏です」


 助手の紹介を受けたエイブラムは、いかにも有能で自信に満ち溢れたビジネスマン然とした笑顔を浮かべて自己紹介する。


「初めまして、エイブラム・ブラムフィールドです。貿易商をしております。本日こちらへ伺ったのは、とある有角族の女性についての相談なのですが……」


「有角族!」クリストファー氏の反応は激烈だった。「有角族。一八六〇年、我が大英帝国の新聞記者にして紀行文作家、東洋の仏教と神秘思想の研究者であったエドウィン・アーノルドがインドの奥地で発見した一族の通称で、ツノッコ族――彼らの言葉で《角持つ人々》を意味する名を持つ一族。独特の風習、そして頭部から生える角を特徴とする人々であり、その角の形状が古今東西あらゆる地に生息する全ての角を持つ生物のいずれかに酷似している――彼ら自身はその動物について見たことも聞いたこともないにもかかわらず――ことから十九世紀最大のミステリーと呼ばれ、今なお人類学・生物学を志す者たちの探求の対象となっている、あの有角族で間違いありませんな?」


「は、はあ……私はそこまで詳しくないのですが、その有角族です」


「詳しくないとおっしゃる!」引き気味に応える依頼人のエイブラムを見て、クリストファー氏はさらに身を乗り出す。「いいでしょう、手短にではありますが有角族の学術的研究の歴史をごく簡単に、三時間ほどかけて紐解いて進ぜましょう。そもそもですな、有角族というのは我々の勝手な呼び名であって……」


「先生」助手の制止が入る。「講義はまたの機会にして、ブラムフィールドさんが出会ったという有角族の女性がどんな方だったかをお聞きしましょう」


「ふむ……確かにそちらの方が興味深いな。では、報告してくれたまえ」


 熱っぽい口調で講義を始めたかと思えば、今度はソファに体重を預けて尊大な聞きの姿勢になるクリストファー氏の振る舞いに内心はらはらする助手だったが、エイブラムはさほど機嫌を損ねた様子もなく語り始める。


「あれは半年ほど前でしょうか……仕事でインド北西部、アフガニスタンとの国境地帯にある街へ赴いたときのことです。その辺りを訪れるのは三度目で、油断もあったのでしょうな。ある日、護衛も付けずにふらふらと散歩に出てしまったのです。ふと気付いたときには人通りが絶え、路地の奥からは縄張りを犯す外国人へ向ける複数の剣呑な視線を感じるようになっていました」


 エイブラムがティーカップを手に取り、一息置く。


「一刻も早くホテルに戻らねば、と足を速めたのが運のつきでした。あっという間に五人の若者に囲まれてしまい、懐に隠し持っていた護身用のリボルバーで二人を撃ち倒し、二人は逃げ去ったものの、残った一人が私の後頭部を目掛けて鈍器を振り上げたのです」


 銃を構える真似をし、架空の鈍器を振り回してみせるエイブラム氏。


「そのときでした! 私と暴漢の間に割って入った麗しき女性……いや、顔はヴェールに覆われていて見えなかったのだが、あのたおやかな物腰、天上の乙女を想起させる声、美人に間違いない! その彼女が、今まさに暴漢の一撃を受けんとする私をかばってくれたのです!」


 エイブラム氏は自らの懐にさっと手を突っ込む。まさか銃を抜くのかと身構える助手をよそに、宝物でも扱うような手つきで取り出したのはハンカチで包まれた手のひら大の小さな物体だった。そっとテーブルに置かれたそれの正体を、クリストファー氏が問う。


「これは?」


「これこそ、女性が私の身代わりとなって、銃で撃ち返す時間を稼ぎ出してくれた証拠、いえ、人を守ろうという尊き真心の代償なのです。ご覧ください」


 愛おしむような手つきで開かれたハンカチの中から現れたのは、細く伸びて尖った、螺旋状の溝を持つ白大理石のごとき光沢を放つ角だった。優美な印象の角は、伝説の一角獣ユニコーンを連想させる。


「ほう……これは素晴らしい。それだけに、惜しい……」


「わかっていただけますか!」


「手に取っても?」


「ええ、ですがくれぐれも落としたりしないようにお気をつけて。失礼、専門家であるクリストファー氏に私などがわかりきったことを……」


「いや、気持ちは分かるよ。気に病まないでくれたまえ」


 クリストファー氏は絹の手袋をはめ、そっと角を手に取る。表面を撫で回してうっとりした表情を浮かべたかと思えば、折れた部分を覗きこんでため息をついたりしている。ちらりと見えた角の断面から、中は中空になっているのが見て取れた。見かけよりも軽いのかも知れない。


「美しい……ただ美しいと言わざるを得ない……! 生半可な褒め言葉では、かえってこの角の美しさを損なってしまいかねない」


「そうでしょう、そうでしょうとも!」


「…………」


 角を介して意気投合するクリストファー氏とエイブラムについていけず、しかしこのままではまたもや角談義が始まってしまうことを危惧した助手が話の軌道を元に戻すべく発言する。


「つまり、暴漢からブラムフィールド氏をかばったのは有角族の女性であり、この角はその際に折れたものである、ということですね?」


「はい、そうです」エイブラムがやや興を削がれたような顔で応える。「頭部を鈍器がかすめたのでしょう。ぱきりと音を立てて折れた角がヴェールの下から零れ落ちてきました。私はとっさにそれを受け止め、逃げた若者が仲間を呼んでくる前にと女性の手を取って逃げ出したのですが……少し行ったところで、女性は手を振りほどいていずこかへ去ってしまったのです」


 エイブラムは心の底から悔やむような表情を見せる。


「なぜもっと強く手を握っておかなかったのか……ぜひ助けてくれたお礼をしたかったのですが、女性を探そうとうろうろしていては再び襲われかねず、その場はやむなくホテルに逃げ戻った、というわけです」


「それはお気の毒です。では、依頼というのはその有角族の女性を探し出すこと、なのでしょうか?」


「いえ、違います」助手の問いかけにエイブラムが首を振る。「問題はそこからです。実は、広告を出したり人を使ったりして見つけ出した候補者、すなわち角の折れた有角族の女性が一人ではなく、十人もいたのです。しかもクリストファー氏もご存じの通り、有角族の女性は夫にしか角を見せないことで有名ですから、折れた方の角を当てがって持ち主を特定することもできないのです」


「それなら、折れた角がどんな形状かを問えばいいのではありませんか? 自分の角なら、どんな形か答えるのは簡単でしょう」


 助手の提案に、エイブラムが首を振る。


「それはもう試しました。しかし、それでも十人中の三人は真っ白な螺旋状の角だと正しい答えを述べ、ならばと用意しておいた複数の角の中から正しい角を選び取ったのです。お恥ずかしい限りですが、どうやら私どもの身内に金目当てで情報を売った輩がいるようです」


「つまり……」


「ええ、報奨金目当てに使用人を買収した詐欺師が少なくとも二人、紛れ込んでいるということです。名乗り出てくれれば多額の報奨金を出す、と宣伝したのが裏目に出ました。まさか角の折れた有角族の女性がそんなにいるとは思っていなかったのも今から思えば迂闊でした。そこで、ぜひ先生のお知恵を借りて、どの女性が本物なのかを当てていただきたいと考えたのです」


「なるほど、ご事情は理解しました。……先生?」


 クリストファー氏は考え込んでいる様子だった。助手が肩を揺さぶると、はっとした様子でエイブラムに向き直り、ゆっくりと口を開く。


「二つだけ質問をしたいのだが、いいかね?」クリストファー氏の問いにエイブラムがうなずく。「では聞こう。残った候補者である三人の女性はまだインドに留め置いているのかね? もう一つ、彼女たちを見つけるために出した広告はその後どうしたのかね? まさか、そのままになどしていないだろうね?」


「三人にはインドにある私の別荘で快適に過ごしてもらっています。広告については本当に私を助けてくれた女性がまだ名乗り出てくれていない可能性も考えてそのままにしてありますが、それがなにか……?」


 てっきり女性の特徴について聞かれると思っていたのだろうエイブラムは、意表を突かれた様子で問いに答えていくが、答えていくうちになにかに気付いたような表情になる。それを見て取ったクリストファー氏も、重々しくうなずいた。


「すぐにインドへ戻りたまえ。その前に電報を打つことも忘れずにな。戻ったらどうすべきかは、この書き付けに記しておく。不測の事態が起きた際にはこちらへ電報をよこしてくれればいい」


「はい、先生。この私の蒙を啓いてくれたこと、感謝に堪えません」


 クリストファー氏がさらさらと書き付けた便箋を受け取ると、エイブラムは慌ただしく立ち上がってクリストファー氏と固い握手を交わし、前金だと言って助手にお金を渡した後、足をもつれさせんばかりにして事務所を去っていった。


「……いったい、どういうことですか?」


「彼が再びここを訪れるまで、考えてみたまえ」


 妖精に化かされたような気分の助手と、世を憂うような表情で葉巻に火をつけるクリストファー氏だけが小さな事務所に残されたのだった。




 それからしばらくして、小切手が同封されたエイブラム氏の手紙が事務所に届いた。時候の挨拶と直接のお礼に伺えない非礼を詫びる文句から始まるその手紙には、無事にエイブラム氏を助けてくれた有角族の女性を特定できた喜びと感謝、そしてインドに孤児院を建てて経営することにした、という決意の言葉が記されていた。


「追伸、私と彼女は結婚することにしました。彼女と彼女の同胞を守ることでせめてもの罪滅ぼしとしたい。そう記されています」


 エイブラム氏の手紙を読み上げていた助手が紙を畳んで封筒に戻し、クリストファー氏に差し出す。しかし、窓の外の黒い空を見上げるクリストファー氏の表情は浮かない。


「先生、お尋ねしてもよろしいですか?」


「うん……? なんだね」


「エイブラム氏はどうやって女性を特定できたのでしょう。先生が渡された書き付けにはなにが書かれていたのですか? ずっと考えていたんですが、ぼくにはどうしてもわからなくて……」


「わけないことだよ、アシュリー君」葉巻をくゆらせ、クリストファー氏は答える。「彼には二つの質問をするように指示しただけだ」


「それはいったい、どのような?」


「一つ目の問いは、貴方の角は額から生えるユニコーンの角ですね? というものだ。そしてこの問いに否と答えた場合は二つ目の問い、貴方の角はどこから生えていますか? を投げかけるよう指示したに過ぎない」


「つまり、エイブラム氏を助けた女性の角はユニコーンのそれではない?」


 助手の推測に、クリストファー氏は簡単にうなずく。


「もちろんだ。そもそもユニコーンは架空の生物であり、この世に存在しない。現在確認されている有角族の角が全て実在する動物を模したものである以上、エイブラム氏を助けた女性がたまたまユニコーンの角を有していた、などという偶然は考えにくい。むしろ君はなんの角だと思っていたのかね?」


「ゆ、ユニコーンだとばかり……」


「ふふっ」


クリストファー氏が、フェアリーやブラウニーの存在を信じる純真な女学生に対してそうするように目を細めて笑う。助手は無性に顔が赤くなるのを自覚しながら、それを誤魔化すために言葉を紡いだ。


「しかし、ユニコーン以外で螺旋状の溝を持つ動物というとイッカクですが、イッカクは雄にしか角がないはず、つまりイッカクではないはずです。他にあのような真っ白で螺旋状の角を持った動物などいるのですか?」


「勉強不足だね、アシュリー君。確かにイッカクの雌は角を生やさないとされているが、まれに雄の角より短く華奢ではあるものの角を持つ個体がいるのだよ。近年になってそれが明らかになるまでは角の短い雄としか思われていなかった個体の中にも雌は混じっていたに違いなく、正確な割合は今後の研究が待たれているのだ。仮にも崇高なる人類学の研究者を目指す身ならば、これくらいは知っておきたまえ」


「ぼくは探偵助手であって、人類学の研究がしたいわけではありませんっ」


「そうなのかね? いつも研究旅行についてきてくれるから、てっきりそうだと私は思っていたよ」


「それは、先生が心配で……放っておいたら戻ってこないし……」


「ふむ。アシュリー君に心配されるとは光栄だな」


「そ、そんなことはどうでもいいんです! えっと、それで、二つ目の問いは、貴方の角はどこから生えていますか、でしたね? それなら、イッカクのように歯が変化した角を持っている女性がエイブラムさんを助けた女性なんですね?」


「そういうことになる」


「なるほど……」


 クリストファー氏の説明を受けて、頭の中を整理する。これでどうやって女性を特定したかの謎は解けたわけだが、助手の頭の中には別の疑問もあった。クリストファー氏とエイブラムが交わした最後のやり取りだ。


「しかし、まだわからないことがあります。先生がブラムフィールドさんに投げかけた問いのことです。先生は、広告をどうしたかとお尋ねになりました。あれにはどういった意図があったのでしょう。またそれを聞いたブラムフィールドさんはずいぶん慌てた様子で出ていかれました。あれは、なぜだったのでしょうか」


「ふむ。観察と推理は人類学者を目指すにせよ、探偵業を営むにせよ重要だよ、アシュリー君。今回は特別に答えを教えてしまうが……そもそも、角を大事にする有角族の、しかも女性が角を折るなどということが、そうあると思うかね?」


「え? でも、実際にエイブラム氏をかばって…………あ、えぇ……?」


 なにかが繋がりかける。だが、そのようなことがあっていいのか、という嫌悪がそれを邪魔する。そんな助手の様子を見て、しかしクリストファー氏は悲しそうに続けた。


「気付いたかね? ここからは私の想像になるが……エイブラム氏が探し出した十人もの女性の内、実際に角が折れていたのはおそらく一人か二人だ。残りの女性は、本人あるいは周囲の意志によって、報奨金を目当てにわざと折ったに違いない、と私は考えている」


「そんな、そんなことって……」


「我が大英帝国がインドでどのような統治を敷いているか、聞いたことはあるだろう? 生きるためなら、人は腕や足の一本や二本は切り落とすよ」


「けど、角なんて折ったら……」


「角が中空になっていたのはアシュリー君も見ただろう? あそこには神経の束が通っていたはずだ。折れば物凄く痛いだろうね。角を持たない私には想像することしかできないが、親知らずを麻酔もかけずに力尽くで折られるのがそれに近いかも知れないな」


 その痛みを想像して、ぞっとする。しかも、口の中とは違って角が折れれば外見も大きく変わってしまう。女性にとってはどれだけの苦痛だろうか。知らず額を押さえてうつむく助手に、クリストファー氏は静かに言い添える。


「さらに仮定を重ね、邪推するならば……暴漢に襲われている縁もゆかりもない英国人を、慎み深いことで知られる有角族の女性が助けるという状況そのものが不自然だ。全てが狂言だった、という可能性も考えられなくはない」


 そうだった、と言い切らないのがクリストファー氏のせめてもの優しさなのだと助手は思う。良くも悪くも、嘘がつけない人なのだ。


「その可能性に、彼女と結婚したエイブラム氏は気付いているのでしょうか?」


「おそらく、気付いているだろう。だからこそ、自らの軽率な行動がもたらした結果に彼なりの責任を取ろうとしているのだよ」


 孤児院の経営、そして彼女と彼女の同胞を守る、という言葉。そのようにして一人の人生が変化していくこともあるのだ、という感慨。助手の頬には、いつの間にか涙が伝っていた。


「痛むのかね、アシュリー君?」


 クリストファー氏の手のひらが、そっと助手の頭を撫でた。

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[一言] 初めまして、大本営と言います。 末席ながら灰鉄杯に参加させてもらっていますので、皆様の作品を拝見しています。 作品を興味深く拝見させて頂きました。 架空の世界ではありますが、二十世紀初頭の…
[一言] 面白かった~。架空の世界の雰囲気をここまで作り込む手腕に惚れ惚れ。 でも、実際には愛が存在しない可能性が高いのに結婚するという責任の取り方はどうなのでしょう……孤児院の設立などだけでも良か…
[良い点] 大時代的舞台背景に混ぜ込まれた空想上の人種、その存在によって生まれる事件の雰囲気の良さにくらくらします。 ややビターなテイストがいいですね。登場人物にはどうしようもない、大きな時代のうねり…
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