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2-30 ダメなことが多すぎる気がする!

「ぐあっ!…ひどい!! 旦那、何するんですか!? 俺は何もしてないですよ!」


 地面に仰向けに横たわったエドが起き上がって発した第一声はそれだった。


 何をしたかというと、クリスを追い越しウスターシュに迫る勢いで成長した高レベルの俺が、エドの胸のど真ん中に飛び蹴りを喰らわせただけである。


「何って、鎧の耐久実験だよ! この前出来なかったから、今しておこうと思っただけ。ほら、丈夫でしょ!!」


 俺とエドではかなりのレベル差があるから衝撃で後ろに倒されるのは仕方がないにしろ、今の俺が出来る最高の強化をしているのだから、飛び蹴りくらいで怪我をするはずがない。


「――というか、護衛として何もしなかったのは問題があるんじゃないの!?」


 なにやら「なぜ今やる必要が…」とか聞こえてくるが、ここは華麗にスルー。


「あー…その護衛より遥かに強い主人がFランクの少年たちと行動したとて危険など無いと判断した次第です。それに、ええっとー…同年代の友人を作る折角のチャンスを邪魔してはいけないと愚考致しました」


 なにその口調。なにその白々しい言い訳は!

 予め考えてあった言い訳を思い出しながら言ってるだけじゃん。


「言っとくけど俺の実年齢は25歳だからね!」


「いや、中身が…」


 中身が…って、まさか精神年齢が15歳のオスカーたちと同程度と言いたいのか!? 


 ――――馬鹿にするな! 


 彼らの方がずっと上だ!!

 

 全くもって失礼にも程がある。

 そもそも、あれほど立派な少年たちを矮小なる俺と比較すること自体が烏滸がましい。


 ――と、そこへエドに援護射撃をするためか、俺に話しかけてくる人物がいた。

 

「ご主人さまー」


「…なにかな、ベアトリスくん」


 にこやかに見えるが、何やら怪しい雰囲気を漂わせるベアトリス。

 だが、なにを言おうが二人は俺を見送ってただ楽しんでいただけなのだから負けるわけにはいかない。


「ご主人様は随分と彼らと仲良くなったみたいですけど、その様子だとご自分がBランクで、さらにはBクラスパーティーのリーダーだって言ってないんですかー?」


 いきなり今後の展開に暗雲が立ち込め始めてしまう。

 なにやらマズイ事態になりそうな気配がするのだ。

 

 ここは気合を入れていかないと、いつものように一気に押し負かされてしまう。


 頑張るんだ、俺!

 正義は我に有りだ!!


「彼らとはそういうの抜きで親しくなったから言う必要はなかった。それがなにか問題なのかな?」


 主人の威厳を見せつけるが如くビシッと言ってやる。

 しかしこの強気の発言にも笑顔を崩さないベアトリス。


「私たちはそう思ったから周囲を警戒してたんですよー。ほら、どこでご主人様のことを知っている人に会うか分からないですし、ましてや凄い二つ名まであるんですから」


「そ、それを知ってる人はそうはいないと思うけど?」


「そうですかー? ご主人様と私たちの組み合わせだと気付く人もいると思いますけど?」


 ぐぬぬ…痛い所を突いてきたな。

 

 俺の装備は着物に帯と刀、それに雪駄と足袋だけだ。狩りのときは流石に小手を着けているが普段は外している。逆に言えば、普段は高価そうな物は一切身に纏っていないことになる。


 俺がFランク…正確にはなりたての冒険者であれば、ちょっと変わってはいるが、装備を揃えるお金がまだなくて、木刀を持っているだけと思えなくもない。


 しかし、俺はBランク。しかも悪目立ちしすぎてかなりの人数に顔を知られている。


 本来Bランクと言えば一流の冒険者だ。

 その依頼内容と言えば難易度の高い指名のモノや高額の報酬を出せる人物の護衛などが多いはずである。そしてそれらは長期に渡る拘束を受けることが多く、滅多にギルドに顔を見せることはないだろう。


 その前にBランクにまで上り詰めた者などそうはいないのだ。

 モノケロスでは出会っていないし、Cランクのエドがそれなりに有名だったことを考えればBランクすら稀有な存在なのかもしれない。


 それらを踏まえて鑑みると、一風変わった新人装備のBランク冒険者でこの地域では珍しい黒髪の10代の少年とくれば、一度見た人は忘れないだろう。そこにベアトリスとエドが加わると、見たことがなくても噂を聞いたことがあれば気付く人もいる可能性は否定できない。


「私たちがご主人様と関係があると気付かれないように、わざわざ(・・・・)ギルドから出るとき私たちに声を掛けなかったと思ったのですけど…。あれれー、もしかして違いました?」


 王都の冒険者ギルドであればモノケロスにいた冒険者が混じっていても不思議はない。オスカーに連れられギルドから出る際にベアトリスたちと言葉を交わしていたら、誰かが俺が『悪魔』だと忠告していたかもしれない。


 実際、あの時エドは知り合いが居たと言って離れていたのだから。


 俺がBランクでBクラスパーティーのリーダー、しかもヤバげな二つ名持ちとあの場で知られていれば、オスカーたちは確実に断りを入れてきただろう。


 そして仲良くなる機会を永遠に失った…


 く――なんてあざといんだ、ベアトリス。

 ここまで考えていたのか!


 これで二人を責めたらオスカーたちと知り合えたことを自分自身で全否定することになってしまう。

 言葉だけでも彼らと知り合えなくても良かったとは俺には言えない。


「…さて、急いで宿に戻ろう。きっと、ギーゼラさんはもう起きて待ってるから」


 得意のスルースキルも今回は不調だ。

 勝ち誇った二人のにやけた顔を見て泣きそうになった。




 宿に到着すると案の定ギーゼラはすでに起きてロビーで待っていた。

 今回はちゃんとソファに座っていたので良しとしよう。


「ギーゼラさん。ごめんね、待った?」


 声を掛けると彼女はこちらを向いて、素敵な笑顔で応えてくれる。


「いいえ、ヨウスケ様。私も今降りてきたところです」


 うんうん、これが聞きたかったのだ!

 初々しいカップルのやりとりが出来そうな厳選された問いかけに対して期待通りのこの反応。


 これは彼女がいなければ出来ないという高難易度のミッションなのだ。

 例外的にキャバクラ嬢との同伴という反則技もあるが、所詮はニセモノ。俺はただの営業トークに満足するような男ではない。


 ギーゼラは彼女ではないが嫁の友人という強い繋がりがある。

 これだけの親密さがあれば彼女同然の扱いでも良いのではないだろうか。


 ――と、いうことは初のこの定番カップルトークは本物と言っても過言ではない。


 そして、こんな美人とこれから街へ繰り出してデートに……はっ!


 デート? デート!?


 あああああ……

 ひじょーにマズイ。


 よく考えたら、これから嫁となるクリスとデートなどしたことがない!!


 買い物は何度も一緒に行っているが、デートと呼ばれるようなことをした記憶が全くない。

 おまけにこのままいくと、これが人生初のデートでもある。


 嫁ともしてないデートを先に嫁の友人としてしまってもいいのだろうか。


 ――――良いわけがない!!


 この浮かれた感情は封印して今日はあくまで街の案内、買い物の付き合いと割り切ってこの事実を消失させるしかない。


 今回のように策略を持って相手にそれと意識させることなくデートに仕立て上げるという姑息な技ならともかく、面と向かって女性をデートに誘うとなると相応の覚悟が必要となる。

 しかし、いくらへたれの俺でも結婚前にデートもしたことがないなど、男としてダメだと思うし、クリスに申し訳ない。


 忙しくて時間が取れないと言われるかもしれないが、屋敷へ行ったら真っ先に誘ってみよう。



「それで屋敷へはどうやって行くの? 歩いて行けるなら商業区を見て回ったあとそのまま向かうけど?」


「ふふっ、さすがはヨウスケ様。歩くなどという発想が平然と出てくるのですね。お屋敷のある二の段は貴族の方のお住まいが(おも)ですから歩いて入る者など殆どおりませんよ」


「じゃあ、辻馬車でも拾う?」


「実はこの宿まで迎えを越させる予定でしたが、商業区に行かれるのでしたらこちらに戻るのは時間の無駄となってしまいます。ですから、途中で辻馬車を拾って二の段の入口まで行きましょう。迎えは門の中で待たせるように遣いを出しますので」


 貴族の屋敷などが多い二の段と呼ばれる場所へ入る場合は全員厳重なチェックを受けるらしい。元より二の段は中にいる人が身元を保証するか特別な許可がある者しか入れない。だから辻馬車では御者が中まで入れないので門で検査を受けてから歩きで中に入るしかない。


 二の段に居を構える貴族は身分証を提示すればの当然出入りは自由だが、それ以外は貴族であっても例外ではない。また、二の団で働く官僚などが特別な許可を持つ者である。他にはどこかの家が許可を出した御用達の商人などがいる。


 突然の訪問客などの場合は行き先を確認して、それが真実かどうかその目的の屋敷に遣いを走らせ確認した後、問題が無い場合はその家の者を伴い迎えに行く。運悪く不在の場合は、家の者が戻るまで入口で待つほかはない。


 一の段である王城へはもっと厳しいそうだ。まあ、俺が登城するようなことはないので問題はないだろう。


「じゃあ、悪いけど俺シャワーを浴びて着替えて……ああ!?」


 そのまま向かうなら汚れを落として着替えてから行く必要があると思ったのだが、とんでもないことを思い出してしまった。


「ど、どうしたんですか、ご主人様?」


 突如大声を出してしまったのでベアトリスが驚いて尋ねてくる。ギーゼラとエドも何事だろうという目を向けている。


「どうしよう…服がない」


「服ですか? …ああ、そういうことですか。んー、以前たしかご主人様の国の正式衣装を仕立ててもらってませんでした?」


 現在持っている服といえば、部屋着と着物、ダモクレス用の装備とも言えないジャケット類に街へ来たばかりの時にしか着ていない普通の服。


 そして日本の第一礼服、すなわち紋付羽織袴。


 しかし、羽織は背に『誠』が入った水色だ。しかも意味の分かる者などいないと、調子に乗って葵の御紋まで入れてしまっている。実家の家紋など覚えていなくて、咄嗟に出てきたのがそれだったのだ。

 

 百歩譲って結婚式なら着るのもありだが、挨拶に行く為に着るのは問題がある気がする。


 あれを着て屋敷へ向かうとかどこの御用改めだよ。

 討ち入りじゃないんだから気分的にも避けたいところだ。


「黒なら良かったんだけど…水色だから、さすがにご挨拶に伺う時に着るのはちょっとね…」


 娘さんを下さいと言いに行くのであって、国のお偉いさんであるお義父さんに天誅を下すわけではないのだ。


「んー…じゃあ、その着物でいいんじゃないですか?」


「ええ? これ普段着や寝巻きと同じ扱い程度のモノだよ?」


「アウル様のお父様なのですから、ご主人様の国の衣装だと知れば逆に興味津々だと思いますよ? それに価値を考えたら失礼になるような代物ではないと思いますけど」


 たしかに一理ある。

 見慣れぬ異国の衣装であれば、普段着であろうと珍しいもの好きのお義父さんならば喜ぶかも知れない。しかも魔法を付与してるのだから金額的にはかなり高価な代物でもある。


 いまさら燕尾服を仕立てる時間は無いし、似合うとも思えない。


「そだね。これを着ていくとするか」


 替えはあと2着あるが、この季節だと冷房仕様や暖房仕様を着ていくのは少し辛い。


「じゃあ、私の服と一緒に洗っちゃいますね。エドの装備は拭くだけで大丈夫そうだから、エドはシャワー浴びたら先に降りてきてて」


「あいよ、了解」


 エドは返事をするとそのまま自分の部屋に向かって行った。


 ギーゼラが不思議そうな顔でこちらを見ているので、俺はギーゼラに声を掛けるために向き直る。


「そういう訳で、もうちょっと待たせちゃうけどいいかな?」


「え? あ、はい。私はヨウスケ様のご指示に従うように仰せつかっておりますので問題はありませんが…あの、今から洗ってしまうと乾かないのではないですか?」


 この服のことを知らなければ当然の疑問である。

 ただ服の性能や俺のスキルをギーゼラに話してしまっても良いのか判断がつかない。


 エルとアウルに念を押されているので、関係者であっても軽々には教えられない。

 どう言ったものか悩んでいるとベアトリスが切り出してくれた。


「あ、ギーゼラさん。この服はご主人様の能力と関係があるんですけど、私たちはご主人様に関わることは他人には話せないんですよ。ご主人様自身もまだこの世界の常識に疎いですし。クリス様かアウル様にご許可を頂けたらお話し出来るんですけど…」


「なるほど…当然のご配慮だと思います。では、私はここで座ってお待ちしておりますね」


 にっこりと微笑むギーゼラ。

 余計なことは聞かないという意思表示なのだろう。それにわざわざ座ってと待っていると言ったのは、俺たちを急がせないように気を使ってくれたのだと思う。


 とはいえ、まだお昼も食べていないのだからそんなにゆっくりもしていられない。

 俺はカウンターでシャワーのお湯とギーゼラの為に飲み物を頼むと早々にベアトリスと部屋へ戻った。



「ベアトリス。先にシャワーしてきていいよ」


 先にシャワー浴びて来いよ――と、言ってみたいがさすがにまだ難易度が高い。

 それ以前にナニかをするためではなく、ただ汚れを落とすためだけにシャワーを浴びるのだから意味も全く違う。


「いえ、ご主人様。ギーゼラさんを待たせてるので一緒に入りましょう」


「え? 結構狭かったから一人ずつの方がいいんじゃない?」


 昨日この部屋へ入ってすぐに汗と何かにまみれたので一緒にシャワーを浴びたのだが、狭くて体を洗うのにも…いや、正確にはカラダを洗ってもらうのにも苦労したのだ。


「大丈夫ですよ、ご主人様」


 そう言うとベアトリスは脱がし慣れている俺の着物をササッと脱がせて、脱ぎ慣れている自分のメイド服をパパッと脱いだ。


 未だ迷っている俺の背中をベアトリスに押されながらシャワー室へと二人で入る――が、やはり狭い。


「一応お伺いしますけど、修練もしますか?」


「いやいやいや。ギーゼラさんが待ってるし、こんな狭いところでわざわざする必要ないって」


「はーい。じゃあ、おカラダを洗いますね」


 本当に一応聞いてみただけのようで、ベアトリスはカラダを洗う準備をすぐに始める。ただ俺のカラダを洗うと言ったのに、ベアトリスが【ミルキーふんわり泡立ちまろやか石鹸】を泡立てながら万遍無く自分のカラダに塗っているのが不思議ではある。


「では、いきまーす」


 !!!!

 うおおおお――――!


 それは刹那の出来事であった。

 

 驚くべきことに、ベアトリスは掛け声と共に泡に包まれた14歳とは思えない大きさで若さ故の弾力と張りのあるモノを、なんと! 二つも押し付けてきたのだ!!


 そして、その状態のまま俺に腕を回して上下左右と動き始める。


 実は勘の鋭い俺はこの可能性も考慮していたのだが、これならば狭くても…いや、狭い方が断然良い!


「こうすれば二人同時に洗えるので時間の節約にもなりますよー」


 ――――天才か!


 汚れは(こす)って洗うモノである。


 この状況は汚れ(カラダ)汚れ(カラダ)(こす)り合わせているのだから実に合理的な手法だ。

 しかも【ミルキーふんわり泡立ちまろやか石鹸】を一人分しか使っていないのだから経済的でもある。


 まさに一石二鳥!


 これは時間に余裕があるときにも推奨するべきであろう。

 いや、時間があるときだけの方が良いかもしれない。


「ご主人様ー。やっぱり修練しますか?」


 まだ半日ほどしかチャージされていないのに、ものすごく元気になっている我が分身を見つめながら問いかけるベアトリス。


「……うん、お願いします」


 俺ってホント、ダメな男だと思う。

 

いつもお読み頂きありがとうございます。


今話にもエロが入る予定はなかったのに

気が付いたら微エロが入っていましたw


今後とも宜しくお願いします。

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