2-28 才能なんかよりも大切なことがある!
いつもお読み頂きありがとうございます。
またもや長期休載して申し訳ありませんでした(>_<)
己の主人が知らない人物によって連れ去られているのに笑いながら見送る従者がいるだろうか。
否! 断じて否である!!
しかも更なる笑いを求めて隠密活動をするなど言語道断!
プロ級のベアトリスはともかく、エドなど身体がデカすぎてレーダーを使わずともあとをつけてきているのが丸分かりなのだ。そして何やら楽しそうにお喋りをしている声まで聴こえてくる。
そんな二人には、のちほど当然バツを与えるべきだろう。
この件をクリス様にご報告すればどうなるか。
その後に行われるであろうエドへのバツを想像しただけで楽しい妄想に浸れてしまう。
しかし、ベアトリスだとそうはいかない。
ベアトリスを置いて勝手な行動をしただけ、と閻魔様は判決を下すだろうから俺までエドの巻き添えを喰らう可能性が高い。
これは理不尽でもなんでもない。
俺には信用が無いので、仕方のないことなのだ。
ほかになにか良い案を考えるべきか、自爆覚悟でエドに地獄を見せるか非常に悩ましいところである。
俺を連れ出した少年はそんな考え事をしているさまを、不安を感じていると思ったらしい。
「兄ちゃん。心配しないでも報酬はちゃんと渡すからさ! それに難しい仕事じゃないからそんな顔すんなって」
このピュアさを二人も見習って欲しい。
「…もしかして、本当は迷惑だった?」
このピュアで優しい少年の爪の垢をベアトリスとエドの食事に混ぜ込んでやろうなどという仄暗い感情が表に出てしまっていたらしい。彼は立ち止まり、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「そ、そんなことないよ。誘ってくれてありがとう。こんな風に声を掛けてくれた人なんてギルドで会ったことなくてさ。ちょっと戸惑っちゃっただけ」
下心なく俺に接触してきた者など今まで皆無であったと言っても過言ではない。冒険者ギルドでは良い思い出など全くなかったのでこれは本音でもある。
「そっか、兄ちゃん苦労してんだな」
苦労はしていない。自業自得なだけである。
「…あ、自己紹介がまだだった! 俺はオスカー、15歳だ。こっちの二人はカールとキース」
三人は同い年で小さい頃からの遊び友達らしい。
三か月ほど前に冒険者登録をしたようで、やはり今はランク上げと装備を買うためにお金を貯めているとのことだった。
「へー、兄ちゃんも数か月前から冒険者やってんのかあ。初めて見たから登録したばっかだと思ったよ」
「ん? ああ、そっか。俺は王都に来たばかりなんだ。それまでは、ほかの街にいたからね」
俺も自己紹介を済ませて年齢を言うと驚かれはしたが、年上だとはっきりしたせいか、呼び方は『兄ちゃん』で定着したようだ。
もちろん俺のランクや二つ名のことは伏せている。
最近ではことさら【悪魔】であることを得意げに強調していたが、オスカー達に知られるのは正直恥ずかしい。
【悪魔】と呼ばれるのが恥ずかしいのではなく、【悪魔】と呼ばれて得意げになってる姿を見られるのが恥ずかしいのだ。
いい年して鏡の前でポーズを決めているところを年の近い弟に見られたような感覚に似ていると言えば分かって貰えるだろうか。
ただ、この依頼を受けたのが俺ではないから、身分証を出す必要はない。
だから知られることはないはずなので、安心はしている。
オスカーは一年ほど前に父親を亡くしたらしい。
その後は母親が働いて生活費を稼いでいたが、半年ほど前に身体を壊してしまった。
今は大分良くなってはいるが、無理をさせたくないと思って冒険者になったそうだ。
15歳で冒険者になるのは珍しいことではない。
ただ、即現金収入に繋がるとはいえ危険が付き物の冒険者を選ばずとも仕事ならほかにも選択があったはずである。
だから、はっきりとは言ってはいないが借金でもあるのだろう。
でなければ、病み上がりの母親に心配を掛けるような冒険者を仕事に選ぶとは思えない。
若気の至りで自己過信などよくあることだ。
装備もそこそこ獣狩りに行って、魔獣にバッタリ出会ってしまったら怪我では到底済まされない。
俺ですら何度も危ない目に合っている。
こんな言い方では語弊があるのは分かっているが、ダモクレスや金で揃えた高価な装備でなかったら、命の危険すらあったと思う。
それ以前にいきなり獣から狩り始めているのだから、無謀だったと今なら分かる。
その後はクリスが加わったおかげで実力も伸ばせているのだから、大した怪我もなく今まで来れたのは運が良かっただけだろう。
カールは商家の三男坊でキースは孤児院育ち。
三男では跡を継ぐなど期待するまでもない。カールはオスカーが冒険者となることが心配でもあったし、どのみち手に職を就けるしかないのだからと一緒に冒険者となった。
キースにしても同様である。
孤児院育ちでは良い仕事は見つけられないだろうとは思っていたので、二人が冒険者になるなら一緒にやれるので都合も良かった。それに収入があれば少ない援助金で賄われている孤児院に負担を掛けずに済むし、冒険者ならば即現金が入るのだから多少なりともお金を渡すこともできる。
俺は自らの過去を恥じる。
彼らの爪の垢をベアトリスとエドの食事に混ぜ込むなど勿体ない!
二人にあげるぐらいなら、日本にいた頃の俺に飲ませるべきだろう。
そんな俺の心情など知るはずもない彼らは、何年もかかるだろうがCランクやBランクを目指したいと語った。
そして、いつかはミスリルやダマスカスの装備や魔力が付与された武器を手に入れたいと楽しそうに夢を語る三人の姿を見てさすがにへこむ。
ミスリル装備など金で買えるとはいえ高額である。
それらは、冒険者となった若者が目指す夢の装備であって、金があるからと最初から俺のような初心者が買うような装備ではなかった。
さらには、魔力の付与された武器――魔力剣など彼らのように夢を目指す純粋な少年たちから聞かされなければ、本当の意味での価値など知ることは出来なかったと思う。
いみじくもベアトリスは俺に忠告をしていたが、もし作れるからと魔力を付与した装備を簡単にあげてしまったら、それは彼らの夢を壊してしまう最低の行為となっていただろう。
オスカー達との出会いはこの世界の本来の姿を知る良い機会になったと感じて、エドとベアトリスに対してちょっぴり溜飲を下げた。――が、オシオキはする。
なぜなら、それとこれとは話が別だからだ!
俺は心の狭い小さい男なのだ!!
目的地に行く道すがら依頼内容を聞く。
ある意味予想通りであった。
それは、――THE 草むしり!
Fランクの依頼で人数が増えて早く終わる仕事など荷物運びか草むしりだろうと予想はできる。
ただ、意外だったのはこれが指名依頼であったことだ。
Fランクの仕事でも依頼主が気に入れば指名することもあるが、草むしりで指名なのは驚きである。
30分ほど歩いて到着した場所は俺が以前借りていたような広い庭のある戸建ての家だった。
待ち受けていたのは依頼主の不動産を扱う商人だった。
この家は三年ほど前から売りに出されていたそうだが、最近になってやっと売れたらしく、庭は草が生え放題となっていた。買い主は早く移り住みたいとの意向で家の中は大掃除中である。
人数が一人増えていることには何も言わず、オスカー達が来てくれたことを歓迎していた。
「オスカーくん、すぐ来てくれてありがとう。今日もよろしく頼むね」
Fランクの草むしりに来ただけの冒険者への対応にしては丁重すぎると思ったのだが、彼らの仕事ぶりを見て思わず納得してしまった。
オスカー達は自前のナイフを取り出して草の根元に差し込み抉っている。
きっちりと根っこごと草を引き抜いているのだ。
「君は新人くんかな? オスカーくん達は頼まれた仕事を手を抜かないできっちりやってくれるんだ。正直、割が合わないと思うんだけど、嫌な顔も見せずに頑張ってくれるから、わざわざ指名して来てもらってるんだよ」
俺は道具を持っていない。ストレージには何らかの刃物はあるが今更出せない。
結局、オスカーたちが抜いた雑草を集めて山にしているだけなのだ。
様子を見に来た依頼主の商人は、そんな俺に声を掛けてくれる。
「君も同い年ぐらいのようだけど、彼らを見習って頑張ればきっとすぐにランクも上がるだろうから頑張るんだよ。まあ、オスカーくんたちにはずっとうちの仕事を頼みたいぐらいだけど、彼らならいずれ信用ある優秀な冒険者になるだろうな」
俺は素直に返事をして商人の意見に同意を示した。
応援をしてくれたことにもお礼を述べて雑草運びを続ける。――二つ名持ちのBランク冒険者だと絶対に知られたくない。
俺の取り分などどうでもいいが、依頼主が割が合わないと言っていたのが気になる。
「オスカー。依頼主さんはオスカーたちの仕事ぶりをべた褒めだったけど、割が合わないんじゃないかって言ってた。それなのに俺が手伝っちゃっていいの? 全然役に立ってないのに」
「うん? ああ、いいのいいの。兄ちゃんのおかげで昼には終わるから午後から別の依頼も受けれるし。それに俺たちは焦ってランクを上げるつもりもないんだ」
Eランクになれば当然Fランクよりは報酬が多い依頼がある。しかし、ここ王都では雑用のようなEランクの依頼は少ない。と、いうのも雑用=Fランクということが多く、報酬の多寡は内容に応じてギルドでも精査しているので面倒なのにFランクだからと不当に低くなることも無いようだ。
Eランクになって討伐の依頼や迷宮に潜るなどの選択もあるが、堅実な彼らとしては装備が整うまでは、自制するためにもランクを上げずにいるらしい。
「それに、俺たちが頑張って依頼主さんから信用が得られれば、キースの孤児院にいる子供たちも仕事が貰えるようになるかもしれないし」
にかっと笑うオスカー。
眩しすぎて、俺のHPはもうゼロだ。
空は突き抜けるほど青いのに俺の心はどんよりしている。
世界最強の男になれるほどの能力やこの世界の社会や経済に混乱を招くような物を作り出せる才能があろうと、人間としてこの少年たちに劣っていることを痛感させられ泣きそうである。
しかも実年齢から10歳も年下に。
こんな気持ちにさせられるのが俺一人では切な過ぎる!
ここはベアトリスとエドも手伝わせて…いや、アウルとウスターシュにも仕事を手伝わせて彼らのピュアさを見習わせてやるべきだろう。
BクラスのパーティーメンバーにFランク冒険者の手伝いをさせるのは不自然極まりないが、言わなきゃ俺たちがBクラスパーティーだなんてバレやしない。
ここは一計を案じてあいつらも見習わせてやろうと心に決めた。
なろうコンの一次審査に通過しました。
皆様、ありがとうございます!
今後とも宜しくお願いしますヽ(;▽;)ノ




