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2-24 主人の尊厳なんてあってなきが如し!

いつもお読み頂きありがとうございます。


キリが悪かったので今回は少し短めです。

 二人の目が何を物語っているかぐらい俺にだって分かる。

 どうせ可愛い女の子や美人の女性に頼まれたら断れないチョロイン顔負けのチョロスケだと言いたいのだろう。


 それを否定することが出来ない自分に泣きたくなるが、俺は仮にも二人の主人なのだ。

 それなのに自分たちの主人を泣かせるような扱いはヒドイと思う。


 待遇の改善を要求したい。



「それはそうと、エド。その呼び名やめてよー。私まだ子供なんだから大人に『姐さん』なんて呼ばれるの恥ずかしいから」


「いや、ベアトリス姐は俺より強いし旦那への貢献も高い。だから呼び捨てになんか出来ねーって。それに、今の話を聞いて俺は序列が必要なんじゃないかって思った」


「序列ー? 順番を付けるってこと? 何の為に?」


 話は進む。


「いずれは、自分の娘を奴隷にしてでも旦那に押し付けようとする連中がいると思うんだ。なにせ寵愛さえ受けられれば子供なんて出来なくても、お(こぼ)れにあやかれるかもしれないんだからな」


「あー、それもそうね。娘の立場がどうであれ寵愛さえ受けられれば、発明品の一つや二つ貰えるかもって期待するよねー」


「そうそう。だから送られた娘は寵愛を受けるのに必死になる。そしたらそればっかりにかまけて戦闘や魔法の練習して旦那の役に立とうなんて考えもしないだろう。それが旦那の迷惑になるとも思わずにな」


 どんどん話は進む。


「そういう女性だと困るわねー。クリス様が拒絶されれば問題はないでしょうけど、断れない相手がいるかもしれないしね」


「ああ。だから序列…この場合は誰が偉いとかじゃなくて誰が教育するかだな。勝手は許さない、寵愛を受けたいなら役に立て。あと、どうしたら役に立てるかとかだな」


「エド、冴えてる! ご主人様は序列を付けるなんて嫌がるから、クリス様にお願いしましょう。クリス様もみんな一緒主義だからお嫌でしょうけど、事情をお話しすればご主人様のためだから姉さんを奴隷頭とかにしてくださると思う」


 俺はこの場では空気のような存在である。


「それがいいと俺も思うな。アルヴァ姐なら適任だし、クリスティーネ様も旦那のためなら賛同して頂けるだろう」


「じゃあ、私がクリス様に話しするね。――あ、ご主人様。それでいいですか?」


 ベアトリスとエドの主人であり、今の話題の中心人物でもある俺はこの場に居ながらにして忘れられた存在だった。


 結局「わかった」の一言発言しただけでこの話は締めくくられた。


 待遇の改善を要求する!



 このあとなんだかんだとおしゃべりに興じたあと、明日に備えて早めに寝ることにした。

 朝から王都見学に行こうということになったからだ。


 何時にアウルから使いが来るか分からないのだから、宿で待っていても暇なだけである。

 それに出かけても昼には一旦戻る予定だ。


 アウルは案内を付けてくれると言っていたが、散歩がてらに街並みを見るぐらいならいいだろう。


 

 翌朝、日の出と共に目が覚める。

 もはや習慣となってしまったこの時間の目覚めに、つい自嘲めいた笑いをしてしまう。

 もうメニューの機能で目覚ましアラームをセットしなくなってから久しい。


 身体がこの世界の行動時間に順応してきたのか、この異世界が俺にとって一瞬も時間が無駄にできないほど希望に満ち溢れているからなのか。


 どちらにせよ日本にいたときの俺の生活からでは考えられないことだ。


 俺が起き出そうとしたことでベアトリスも目が覚めたようだ。

 起こす気はなかったのだが、ベアトリスは俺に抱きついていたのだからこれは仕方がない。


「おはようございます、ご主人様」


 寝ぼけまなこで挨拶をするベアトリス。

 相変わらず爆裂かわいい。


 顔を近づけて若者に相応しい恋人同士の挨拶をしたあと、言葉での挨拶もする。


「おはよう、ベアトリス。今日はいい天気みたいだよ」


 雨の降る気配などまったく感じない、眩しい綺麗な朝日が差し込んでいる。


 こんな朝早くでは店はほとんど開いていないだろうが、今の時間ならば人通りも少ないからゆっくり街並みを眺めることが出来る。

 働きに出る人のために食堂ならもう開いているだろうから、朝食も取れるだろう。


 もはや一時も時間を無駄にはできないとばかりにベッドから抜け出そうとすると、ベアトリスが腕を掴んでベッドへ引き戻そうとする。


「ご主人様ー。まだ朝の修練が終わってないから起きちゃダメですよ」


 昨日弾倉(こだねタンク)がカラになるまで撃ち尽くしたので、体感ではまだ30%程度のチャージ率と思われる。


 しかし、美少女の誘いを断るなど男として許されない。


 これから活動する体力は残さねばならないので、朝のもっとも濃厚な一番搾りのみ搾り取ってもらった。


 

 街を見学するだけなのでいつもの装備はいらないのだが、念のために着物アーマーを着込む。ベアトリスも同様にメイド服アーマーだ。さすがに篭手や胸当ては必要ないだろう。


 エドを迎えに行くとすでに全身いつも通りの装備を纏って待機していた。

 まあ、護衛役だからこれは仕方がない。


 今日はマントまで着けているので、エドは護衛役に徹する気満々である。

 恐らく昨日の話で、威嚇を込めた要人警護をイメージしているようだ。


「おはよう、エド。なんか気を使わせちゃってごめんね。俺たちは軽装なのに」


「おはよう、旦那。何言ってんです。これが俺の役目だし、こんな立派な装備を普段から着けられることに不満がある冒険者がいるわけないって。むしろ俺は嬉しいぐらいだからな」


 ある意味エドも立派な中二病だなと思ったが、口には出さずそのまま階段を下りてフロントに向かう。


 そこには意外なことに昨日の男が立っていた。

 時間からすればとっくに交代していていいはずである。


 不思議とは思ったが勤務体制など知らないので余計な事は言わずに話しかけた。


「おはよう。俺たちちょっと出かけてくるけど、昼には戻ってくるから伝言あったら宜しくね」


「おはようございます。遣いの方でしたらすでに夜半すぎにお見えになってお待ちしております」


 後ろを見るように促され、振り向くと執事服を着た若い女性がいた。

 椅子にも座らずロビーの片隅で目立たないように立っている。


 そんな早くから来ていたのなら呼べばいいのにと思ったが、考えてもみれば遣いの者が起こして欲しいなどと言うわけがない。俺は礼を言ってそのままその女性の方へ行こうとしたが、引き止められる。


「申し訳ございません。少しよろしいでしょうか?」


 どこか不安げに話し掛けてくる様子に何事かと思った。


「どうしました?」


「あ、あの、当宿の対応などにご不満などないでしょうか? 至らない点などございましたら遠慮なく申し付けて頂けますでしょうか」 


「不満なんて全くないけど?」


 これがお客全てに言っていることなら気にする内容ではないのだが、顔色を見る限りどうやら俺に畏縮しているとしか思えない。思わず不思議そうに首をかしげてしまう。


「あちらにおられる方がアームストロング公爵様の遣いと仰られたもので。ワタクシどもの対応になにか失礼なことなどありはしなかったかと気になった次第です。申し訳ありません」


 お客と認めた相手ならば最高のもてなしをするように教育されているのだろうが、相手の素性を知ってしまうと確認せずにはいられなかったのだろう。恐らく交代もしないで待っていたに違いない。


「気にしなくていいですよ。この宿に不満なんてないし、俺はただの客人でアームストロング家の縁者じゃないから」


「ありがとうございます。そう言って頂けてホッと致しました。なにか御用の際はすぐお申し付けくださるようにお願い致します」


 安堵の表情を見せて頭を下げた。


 そして後ろからまたもやなにか聞こえてくる。


「アームストロング家のご息女と結婚する相手を縁者とは言わないのか?」


「し――! 聞こえちゃうわよ、エド。ご主人様なんだから仕方ないでしょ」


 俺は無性に腹が立ったので、後ろ足でエドの向こう脛を蹴っ飛ばしてやった。

 

 鎧靴を履いてるから、どうせ痛くも痒くもないだろうけど!


 

 改めて遣いの女性に向き直るとあちらも俺に気が付いたようだ。

 

 服装や容姿を伝えられているのだろう、着物を着た小柄な黒髪の男などほかにいるとも思えないのですぐに見分けがついたらしい。


 手を翳してその認識が間違っていないと合図を送り、ソファがある方へと進む。

 

 近づくにつれハッキリと分かる。


 ――――美人だ!


 短くさっぱりとした髪型で色は薄い緑、そして小顔で小さなお口。

 俺の表現力ではこの女性の美しさは言い表せないので、とりあえずめちゃんこ美人とだけ言っておく。


 しかし、危なかった…


 もしベアトリスから朝の搾り取り作業を受けていなかったら、今頃は鼻と口の間の面積が増えていただろう。――さすがベアトリスである。このことを予期していたに違いない。


 こんなことでは待遇の改善など永遠に要求出来ない。――と思った。

 

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