2-23 信用されないって悲しいよね!
階段を上がり案内された部屋は、なんというか、まあ豪華の一言に尽きる。
全てが一流と分かる調度品で部屋の中は整えられていて、なぜか二人でゆったり寝られる大きなベッドが二つ設置してあった。
俺の勝手な想像では、男の頑張りが足らずに女性が満足できないまま終わってしまって、機嫌を損ねた女性が一緒に寝たくないと思ったとき用の保険のベッドではないかと思う。
気まずいまま同じベッドで寝かせるなどきっと一流宿のプライドが許さないのだろう。
そこまでの気配りが出来ていることに感心してしまったが、俺には無縁の話だ。
毎日のように修練を繰り返している俺にそのような心配はない! ――はずだ…
刀を置いてベッドへとダイブ。
ゴロリと仰向けになると、ベアトリスが鞄を脇へと置いてベッドの淵に腰掛けた。
「ご主人様。緊張は取れましたか? なぜか先ほどよりは良くなってますけど」
俺がイカガワシイことを考えているのがなぜかバレているらしい。
「ま、まあ、さっきよりはいいかな。でも、緊張するよ。アウルの話から悪い印象は持たれていないのは分かってるけど、俺って佐藤さんとは大違いの体格だし。実物見て期待外れとか思われたらどうしようなんて考えちゃってるからさー」
「大丈夫ですよ、ご主人様。エル様が言われてたじゃないですか。ご主人様は最強の男に勝る才能があるって。それにクリス様は外見や才能でご主人様を好きと言ってるわけじゃないのはもう分かってますよね? 私たちだって同じですよ」
「うん、ありがと。…でもさー、もうちょっと背が高いとか体格がいいとか顔がいいとか容姿が優れてるとかイケメンだとかモテる要素があるとか頭がいいとか頭脳明晰とかだったら、自信も持てるんだけどね」
ちょっとどころではない願望が溢れる。
いくつか同じ意味のモノが混じっているが、それぐらい切実な想いなのである。
「じゃあ、仮にクリス様のお父様が結婚は許可しないと言われたら諦めるんですか?」
「そ、それはやだよ。クリスと離れるなんてもう考えられないし、どうやっても許可してもらえなかったら、クリスと逃げるよ」
「なら、いいじゃないですか。クリス様は心からご主人様を愛しているんですから、他に何の問題があるんですか?」
「……それも、そうだね。なるようにしかならないんだから、考えるだけ無駄だよね」
ベアトリスはニッコリと微笑むと優しく頭を撫ででくれた。
「でも、ベアトリスも逃がさないからね。正直不誠実極まりないけど、俺はベアトリスもエルもアルヴァもドリアーヌも誰にも渡したくないから」
「んー、それ自体は私たちは嬉しいだけですけど、世間では確実に最低の男と思われますね」
そう言ってベアトリスは笑う。
「ただ、これは予想ですけど、これからご主人様はたくさんの方から女性を押し付けられたり、愛妾でいいからと女性に迫られることになると思いますよ」
「…なんで?? クリスの実家と懇意になりたいからとか?」
「それもなくはないでしょうけど、ほどんどの方はご主人様のお子さんが欲しいからですよ。誰しも優秀な子が生まれると分かっているなら、その血を自分の一族に加えたいと思うのは当然ですから」
遺伝子、DNAなどという言葉や概念はなくとも、親が優秀であれば子も優秀であることが多いのは周知のことである。
エルも言っていたが自分の子供はかなり強いらしいと。チート的なスキルはなくとも戦闘に関しては最強の男の遺伝子を間違いなく受け継いでいるのは明白で、エルほどの人物が言うのだから余程の才能があるのだろう。
翻って、俺はと言えば戦闘のセンスはクリスの足元にも及ばないが、幸いにも物作りの才能はある。しかし、俺は手先が器用で魔道具を作る魔法の類にセンスはあっても、生み出されたモノ自体の発想は俺の頭から出たものではない。だから俺への評価は半分詐欺のようなものだ。
たとえ俺の子供が才能を受け継いだとしても、同じようにいろんな物を開発出来るとは思えない。いいとこ改良することに優れているぐらいだろう。
「それでも、同じものが作れたり改良できるだけの才能があるなら、それは凄いことだと思いますよ。エル様に渡された発明品を見たお偉いさんがご主人様とお近づきになりたいと思うのは当然有り得ることです。エル様が話される相手であれば信用出来る人物だとは思いますけど、それでも個人的に関係を持ちたいと思われる方はいると思います。そういうワケで今からご主人様の緊張を解すのを兼ねた修練を始めますね」
「は? い、今の話のどこにそんな脈絡があったの!?」
「ありますよー。むしろ密接に関係してるんです」
今後、俺と懇意にしたいと思う者が必ず出てくるだろう。
魔法の鞄だけではなく、この世界の人類の夢とも言う『電話』もどきの通信機まで作ってしまったのだから仕方がない。
エルにはそれらを活用して今後に活かして欲しいと言ったのだから、この国の高官などに見せて活用方法を考えることになる。
エルならば信用に足る人物と相談していくだろうが、秘密は守ってくれる人物でも俺と直接面識を持ちたいと考えても不思議ではない。
そしてそういった人物は時間の経過とともに増えていくだろう。
では、どうやって俺の歓心を買うのか。
実際に活用されるようになれば秘密は漏れていき、俺を権力で懐柔しようとしたり、力で取り込もうとしたり、金銭を贈ったりという三流の手段を使う奴らも出てくるだろう。
権力で懐柔しようにも俺の嫁はこの国で一位二位を争う権勢家の出で、力で来られても人類最強クラスのエルが嫁で俺自身も最強の男になれるだけのスペックを持っている。
金銭など贈られても、売れば巨万の富を得られる物を自分で作れるのだから何の意味も持たない。
こういった頭の悪い輩相手ならば、面倒ではあっても問題にすらならない。
では、ちゃんと礼儀を守って俺とお近づきになりたいと思う人物ならどうするだろうか。
公爵家の婿相手に礼節を弁えて俺と友好な関係をまずは築こうとするだろう。その間、俺が興味を持ちそうなモノを調べる。
そして全く時間を掛けずに、獣人族の美幼女、青い果実の美少女、大人の階段を上ろうとしている美少女、黄金の戦女神を連想させてしまう美女、成熟した大人の美熟女の存在を知ることになる。
種族、年齢、タイプなど全く異なる女性たち。
「つまりですねー。ご主人様は女性全般に対して弱いとすぐバレます。政略結婚とは違い、歓心を買いたいならば相手の好みに合わせた女性を探さなくちゃいけません。自分の娘にいなければ親類縁者、一族の中から。それでもいなければ養子を取ったりといろいろ画策が必要です。――でも!」
うむ、続きは聞かなくても分かる。
「ご主人様ですと、一番可愛い自分の娘、もしくは一族の中で一番の美女というだけで済みます。――そしてご主人様は簡単に落ちます」
グーの音も出ないとはこういう時に使うのだー!
「だから妙な気を起こされないように毎日しっかり搾り取っておくようにとクリス様から仰せつかってます!」
全く予期できなかった突如始まる修練は美少女との一対一である。
常に多数対一であったため一対一では物足りないのではと思われがちだが実はそうではない。
よく考えて欲しい。
一人の美少女による俺のためだけの献身的な修練がほかの何かに劣るのだろうか。
否! 断じて否! である。
一対一も100点、多数対一も100点。
これが正解であろう。
ベアトリスは俺の衣服を剥ぎ取ると即座に伸し掛ってくる。
最近は補助役が多かったが、好奇心旺盛な美少女は日々精進している事を思い知らされた。
得意の隠密活動により見取り稽古までしていたらしく、なんと未熟ながらも【大人の唇接触】をしてきたのだ。
そしてそのまま止まることのない【絶技】を駆使した修練に移る。
要所を的確に攻め続けるその攻撃に、決して同性には聞かせられない声を何度も上げさせられた。
俺の打ち上げ砲もすでに湿気まみれなのだが、なぜか元気よく発射されている。
再充填を待たずしてベアトリスは攻城戦で有効なあの二つの巨大な丸い兵器を両手で自在に操り始めた。
押し潰そうとするように二つの巨大な丸い兵器で俺の武器を封殺。
反撃したいのは山々だが、搾り取るのが目的の修練なので俺からの攻撃は禁止とされてる。
そのため俺は自動小銃のように、ただ弾丸を発射するだけの存在となっている。
そして修練の最終目的を模した脚の内側で搾り取るという強烈な絞め技で俺の弾倉はカラにされた。
まさに全身が兵器。FAベアトリスとでも言おうか。
一切の装備を着けずにしてFAとは……
恐るべしベアトリス!
二人でシャワーを浴びた。
すっかり汗と何かにまみれたカラダを洗うためだ。
この宿は頼めば配管を通して部屋に設置してあるシャワー室にお湯を流してくれる。湯殿もあるらしいが、そちらはあらかじめ予約する必要がある。
これらの注文は部屋の中から出来る。
天井から下がっているロープを引くとドア前に備え付けてあるベルが鳴り、各フロアに待機している従業員が要件を伺いに来てくれる。
すっかりいい時間になってしまっていたので、夕食を取ることにしよう。
エドが自分で注文するとは思えないので彼の部屋へ向かう。
部屋をノックして中へ入れてもらう。――なぜかエドの表情はどんよりしている。
「どうしたの、エド。なんか表情が暗いけど?」
「あ、ああ。この部屋が凄すぎて…触って壊したら大変な事になるし、身体が汚れたままベッドに入っていいのか分からないし……ちょっと呆然としてたんだ」
「ああ、ごめんね。もっと早く来てあげれば良かった。お湯を頼んであげるから先にシャワー浴びてきなよ。夕食も頼んでおくから出たら一緒に食べよう」
この部屋は少し小さくてベッドが一つしかないがそれ以外は俺の部屋と大差はない。高価な調度品に囲まれて居心地が悪かったようだ。
都合よくここにも四人掛けのテーブルがある。
わざわざ別々で食べることもないので、エドの精神安定を図るためにも一緒に食事と取ることにしよう。
「あ、ありがとう、旦那。…しかし、さっきは俺と同じように高級すぎるのを嫌がって気がするんだが、勘違いだったか?」
「あはは、違わないよ。ただ、実際には来たことはないけど、こういう部屋は何度も見たことがあるから」
言わずと知れた写真やテレビでのことである。
来たことがないのに見たことがあるなんて通じると思えないので、それらについて説明をする。
そして、とある物が写っているカラーでプリントアウトしたモノを見せた。
「ななななんじゃこりゃー。の、呪いか何かで中に閉じ込めたとしか思えねー!」
「これは写真よりは画質は落ちるけど、こういう物があるから見たことはあるんだよ。テレビは動くからいろんな角度からも見せてくれるしね」
「凄すぎて言葉もでねー。…しかし、こんなもんが普通にある世界から来たんじゃこっちは旦那には不便だろうし退屈なんじゃないのか?」
エドの懸念は中二病の患者である俺には完全な的外れである。
「ううん。元から大した生活してなかったからそんなに不便じゃないよ。それに魔法は俺の世界じゃ架空のモノでずっと憧れてたんだ。だから、退屈なんてありえない。まさに夢の世界にいるんだから」
「シャシン? と、テレビだっけ? それに風呂も家の中にあるんだろ? それで大した生活じゃないってどんだけなんだよ。魔法を使えるようになったばかりの俺が言うのもなんだが、そっちの方がよっぽど良くないか?」
「んー、それは無い物ねだりだね。手に入らないからこそ欲しいし、憧れるんだよ」
「なるほどなー。そういうもんか」
話を一旦切って、ベルを鳴らしてお湯と夕食を頼む。
メニューもあるらしいが、見ても分かる気がしなかったのでオススメを四人分でお願いした。こういうとこでは量は期待できないから三人分では足りないと思ったからだ。
届けられた食事はフレンチのコースのようなモノとパスタ類などであった。
気を利かせたのかコースは三人分でその他の料理が数品。
パスタは新鮮な魚介類がふんだんに使われている。――王都も海から離れているのでかなりの贅沢料理である。
値段を聞くのが怖い。
まあ、安い料理などないだろうから、気にせず食べることにしよう。
食事中も話を続けていたがエドがいらん質問をしてきた。
「そういや、旦那もげっそりしてますね。なんでかは想像がつきますけど、こんな時間から旦那が求めるとも思えないが…」
「ああ、エド。実はね…」
ベアトリスは語る。
エドに今後起こり得る状況を説明したのち、その対策で俺から元凶をガッツリと搾り取ったとまで語る!
「ぶっ、はははは。役得だったな、ベアトリス姐。でも、クリスティーネ様の心配はもっともだと俺も思うな。なにせ、旦那はあれだもんな」
「そうなのよ、エド。ご主人様はあれだからねー」
泣きたくなるから残念なモノを見るような目を向けないで欲しい。




