2-21 モテない男はイロイロ悩むのだ!
王都へ到着前に果たさねばならぬことがある。
それは結婚を間近に控えた二人の嫁を満足させるという夫の義務だ。
今までよりも過激かつ大胆に繰り広げられる一大スペクタクルとも呼べる嫁たちとの修練。
その最中、アルヴァと新しく家族となったドリアーヌを見てふと思った。
二人とも純情無垢で癒し系なのだか、決定的に違うことがあるようだ。
それは男女で行う修練に対しての認識である。
これが世間一般でどう思われているか知っているドリアーヌと、俺が身を呈して自分たちのためにしていることだと信じているアルヴァ。
アルヴァがマジメに解説している修練の内容を顔を真っ赤にして必死に学ぼうとするドリアーヌ、この二人の微笑ましい姿を見ながら、俺はマイドリルを幾度も限界突破させている。
気がつけばもう朝で、黄色い太陽が昇り始めた。
目を覚ましたフローラの太陽より眩しい笑顔で「おはようございます」と言う挨拶が修練の終わりを告げる鐘の音となった。
猛烈に襲ってくる既視感に囚われながらもフローラに挨拶を返して、皆がいそいそと服を着始めた。
朝食のあと、少し自宅で仮眠を取ってから仕事に行くと言うドリアーヌを送った。
別れ際に、修練に参加させてあげられなかったお詫びとして【唇接触】をしてあげる。
実際にはドリアーヌがあまりにも可愛いので、思わず【唇接触】をしてしまったのだが、それを驚きながらも嬉しそうに頬を赤く染めて受け入れる姿に萌え死にしそうになった。
――と、同時に黒い感情も湧き起こる。ドリアーヌを奴隷にしてしまったら問題が起こるとばかり懸念していたが、惚れられているとなれば話は別だ。
馬鹿で阿呆な奴らに見せつけたい!
これが何度もトラブルを巻き起こしている原因なのだが、長年患っていた病気はそんな簡単には治らないようだ。
テントへ戻るとまたもや何かに感づいてちょっと睨んでいるが不問としてくれたクリスに迎えられて、出発の準備に取り掛かった。
一路王都へと向かう。
俺は目的地を目前にしてそわそわと落ち着きがない。
この状態で森へ行くのは危険だからと、馬車の中で昼寝とおしゃべりに興じて到着するまで過ごすことになった。
その際ドリアーヌの村の様子についてエルから聞いたのだが、意外なことにかなりの復興を既に遂げているとのことだった。
「へー、こんな短期間ですごいね。じゃあ、追加の支援を依頼しといた方がいいのかな?」
「いや、必要ない。――と言うのもだな、お前さん、村に保存食を作る材料や道具を置いたまま帰っただろ」
あの時、宴がすぐ始まってしまったので、全部の獲物までは処理しきれなかった。
そのため、加工に必要な道具や塩や硝石などの材料をそのまま村に残して帰ったのだ。
「それに燻製小屋が作ってあったが、あれは小さいながらもよく出来てるな。元から燻製肉は干し肉よりも日持ちは落ちるが格段に美味いから人気がある。だからそのままにしておくのは惜しいと思って、村で必要な食料とは別に材料揃えてさらに干し肉や塩漬け肉、そして燻製肉を作らせたんだ。そしてそれらを、モノケロスで売らせているから金が回り始めている」
干し肉とはいわゆるジャーキーのことだが、俺たちがよく知っているような物とは大分違う。ここでは非常に固くて日持ちが優先されているものが基本的に多いのだ。だから旅の日程が短かければ、硬いだけの干し肉よりは柔らかめの干し肉や燻製肉が好まれている。もっとも、街中で燻製するのは控えられているせいか、流通量は少なめなので確実に売れていると思われる。
「それは良かった。一時的な援助よりその方がいいもんね。――あっ…エルが自分で村まで行ってくれたんだ。ありがとう」
「まあ、それぐらいはしないとな。あたしが直接受けた依頼なんだからギルド長とはいえ自分で行くことに問題はないさ。それにな…」
続くエルの言葉に俺だけではなくクリスも姉妹も驚いた。
「お前さんたちが狩ってきた大量の魔獣、あれの肉の処理を特需として村にも依頼してある。村を紹介した商人たちから既に出資も受けて道具類も増えたし燻製小屋も増設した。今後村の特産としてやっていけるようになるだろう。人も集まりだしているから以前より豊かな村になるのは間違いないし、自衛手段として冒険者を護衛として雇っているから心配はない」
村の現状も然ることながら、一同がもっとも驚いたのはエルの手腕のことだった。
俺はお金を出しただけで何も指示していなかったのだが、エルはそのお金を一時の援助だけで費やさず今後のことまで考えて手配していた。もちろん特需が重なったのはたまたまでしかないが、そこを上手く繋げて村をさらに発展させたのはエルの配慮に依るものだ。
アームストロング公爵にギルド長の職を任され、国王から信頼を得て将軍職となったのは、強さだけではなく、こういうエルの手腕の高さと、気配りができる優しさがあるからだと思った。
「そこまでしてくれていたんだ! エルってホントにすごいね」
「ふふん。どうだ、見直したか? 惚れ直してもいいぞ。まあ、礼がしたいなら婚儀のあとたっぷり頼むぞ」
素直に褒められて、少しテレも入っているようだが、こんな事でお礼が済むならいくらでもしてあげよう。――と、思ってそれを口にしようとしたその刹那に金色の女神が割って入る。
「あ、あなた! 私だってたくさんあなたにしてあげているのですから、そのお礼も忘れないで下さいね!」
クリスのこういうとこが可愛いと思う。
求めるものはいつも、妻として当然の権利である美味しい食事と、それ以外はもっと愛して欲しいということだけ。他の見返りなど求めたことはないのだ。
本来なら一途な想いで返してあげるべきなのだが、今更それを言っても始まらない。不誠実ながらも誠実な気持ちで応えてあげたい。
おかしな事を言っているのは十分に分かっている。
俺に出来ることなどたかが知れているが、幸せにしてあげたいと想う気持ちは本物だ。
それはクリスにだけではなく、エルもアルヴァもベアトリスもフローラもアウルもウスターシュも、そしてドリアーヌにもだ。それが結果としてクリスの幸せにも繋がる。
そう信じて俺はやれることを精一杯頑張ろう。
昼食を済ませて数時間後、王都が見えてきた。
近づくにつれその大きさに俺は目を見張る。
MAPで見るのと実際に自分の目で見るのとでは受ける感銘が違う。
この国アリエス最大の都市の名はフェニックス。まさに王都に相応しい名だと言える。
フェニックスは山を背にしてその麓にいくつもの塔がそびえ建つ王城が最奥部となる。その周りをぐるりと高い城壁が囲い、その前に貴族などが住む屋敷や各庁舎などの建物があり、それをさらに高い塀が囲っている。
その塀を通り抜ける為の門の周りには騎士団が駐屯する宿舎練兵場がある。
そしてその下に広がる街はモノケロスの街が数十個入るのではないと思える程の大きさであった。
街の周りにも3メートル程の石垣が築かれているが、これは人であればロープなどで侵入できてしまうので、獣や魔獣対策と思われる。
街の入口には当然ながら訪れた者への検閲がある。そこには正騎士と見られる者が数名と数十人の一般兵が順番に並ぶ人々の身分証をチェックしていた。
割り込む気などさらさらないので最後尾につけて順番を待つ。
その間に俺はある提案をした。
「クリスたちはそのまま屋敷に向かってもらえる? 俺は今日どこかの宿に泊まるから」
もちろん、クリスは猛烈に反対する。
「はい!? あなた、まさかここまで来て怖気付いたのではないでしょうね!」
「ち、違うよ」
まあ、それもちょっとはある。なにせ、クリスの親御さんに結婚の挨拶に行くのだ。ビビるのも仕方のないことではないだろうか。
「本来なら俺たちの到着は明日でしょ? だから、クリスのお父さんだって屋敷に居ないかもしれないし、突然到着されたら、屋敷で働いてる人たちも困るんじゃない? それに、結婚のご挨拶に行くのに先に屋敷に入って待たせてもらうのは、ちょっと…」
「……そんなことを気にする必要はないと思いますが、言ってることは正しいですわね」
「う、うん。こういうことは最初が肝心だからね! だから明日行く方がいいと思うんだ」
心の準備をする時間を稼ぎたいから、さらに説得を試みる。
「まったく、仕方ありませんわね。では、ベアトリス、エドアルド。ヨウスケを頼みますわね」
俺の気持ちに気付きながらも、激甘クリスはこの案を受け入れてくれた。
そうこうしているうちに俺たちの順番となった。
直前で道案内が面倒と言って馭者を代わったクリスが自分の身分証を提示する。
クリスの美貌に見惚れていた一般兵は提示された身分証の内容を確認した瞬間、クリスと身分証を何度も交互に見た挙句顔面を蒼白にしていきなり謝罪を始めた。
何事かと思ったのだが、要は貴族は特権階級。順番を守る必要がなく、それに気付かず並ばせてしまったということらしい。
しかし、クリスは特に不満を言うわけでもなく普通に並んでいたし、魔ロバが引いてるとは言え貴族が乗るような豪華な箱馬車ですらない。しかもクリスはドレスを着てはいても自ら馭者をしているのだから、それを気付けという方が無茶な話だ。
自分の首が危ないと感じて畏縮している兵士に、事態を知って慌てている近くにいた他の兵士たち。
しかし、こんな些事などいつも通り気にかけないクリスは「お役目、ご苦労様」とだけ兵士たちに声を掛けてそのまま通過していった。
貴族なのにその特権を振りかざすこともせず、この程度の事など気にしない寛大で絶世の美女クリス。――俺はピンときて振り返った。
予想通り兵士たちは、ある感情を表した様相を呈している。
――クリスに惚れたな。
つまり、惚けた顔を晒して馬車を見送っているのだ。
しかし、そんな彼らに言ってやりたいことがある。
その絶世の美女と俺は、すでに事実上夫婦関係なのだ!
残念だったな、兵士諸君。
お前たちに出来ることは金色の女神の美しい姿を心に刻むことだけ。
それだけならば、俺も常にしているから許してやろう。
心の中でそんな許可を一般兵に与えてしまう寛大な自分自身に賞賛を贈ってあげた。
前話あとがきに「次話は王都に入ります」と書きましたが
ホントに入るだけとなってしまったw
次話は金曜日辺りに投稿予定です。
いつもお読み頂きありがとうございます。
今後とも宜しくお願いします。




