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2-12 大人ってすごいよね!

楽しんで頂けるといいなぁ……

「まったく、あなたたちは!」


 突然男風呂へやってきたクリスの第一声がそれだった。

 あれから一時間以上も帰ってこないのだから心配して見に来るのも当然だろう。酔って風呂の中で全員溺死などしてたらシャレにもならない。


「別にお酒を飲んで騒いでいること自体は構いませんが、お風呂なのですから適度で済ませなさい! しかも、まだ初日ですわ!」


 まったくもってごもっとも。返す言葉もない。

 俺も含め全員が完全に酔っ払っているのだから。


 当然、誰得でもない男4人揃って一糸まとわぬ姿である。

 もちろん、クリスはそんなことを気にする様子は全くない。


「明日もレベル上げや魔法の練習などをするのですよ? しばらくは強くなることを優先するのを忘れていませんわね?」


「「「「……はい」」」」


「では、さっさとお風呂から上がって、しっかり寝て、明日に備えなさい」


 すでに高レベルのA級冒険者で一流の魔法使いでもあるウスターシュも素直に返事をしている。一流の策士は空気を読む技術にもけているようだ。


 全員が服を着終えたあと、ストレージにお風呂セットを仕舞い、俺は家族テントへ、やろう共は男やもめテントへと向かった。


 そして「今日はゆっくり寝なさい」と、ベッドでの修練の中止を申し渡され、久しぶりにゆっくり眠りにつくことになった。




 翌朝、目が覚めたとき、すっきりとした気分だった。

 以前、エルが言っていた通りレベルが高いと代謝も良くなり、肝機能も高スペックとなっているようで、二日酔いなどなかった。それに若さもあってか一晩ぐっすり眠ったおかげで、久しぶりに爽やかな目覚めを味わうことができた。


 うちの家族はまだ全員寝ていたので、起こさないようにそっとテントの外に出ると、空が鮮やかな紫色に染まっている。日の出前の空が一番美しい時間だ。


 このまま陽が昇れば、これも久しぶりである黄色以外の朝日が拝めそうだ。



 ふと振り返るとクリスが手を伸ばして何かを探しているようだ。

 昨夜は珍しく足元ではなく隣で寝ていたので、あの様子だと俺を探しているのだろう。見つけられないのを不思議に思ったのか、もそもそと上半身を起こし始めたクリスと目が合った。


 俺がすでに起きていると気が付いたようだ。周りを見渡し、まだほかの人は寝ていると分かり、音を立てないようそっと起き上がって俺の方へと歩いてきた。


 ちなみに寝袋などは使っていない。全員ゴロ寝だ。――――ベッドの上で。

 ちゃんとみんなが寝られる分のベッドをテントの中に並べてあるので快適な睡眠が取れているはずである。


「おはようございます、あなた。ちゃんとゆっくり眠れましたか? 疲れは取れました?」


「おはよう、クリス。うん、久しぶりにすっきりした感じだよ。ありがとう」


「それは良かったですわ。いくらわたくしたちのためとは言っても、あまり無理はなさらないでくださいね」


 そう言って微笑むクリス。


 うわー……なんて、優しくて、美しくて、出来た嫁なんだろう。俺にはもったいない……いや、それは最初から分かっていたことなのだから、この気持ちに応える努力をさらにするべきであろう。


 思えば出会った初めての日、コテツンを差し出す優しく微笑むクリスに一目惚れしたんだっけ。コロッケが食べたいと恥ずかしそうに俯く可愛い姿。翌日、いきなり一緒に住みたいと言い出した時も、驚いたけど心良く迎えてあげた。すぐに打ち解けて、時間ときを置かずしてお互いの気持ちに気付き、二人は恋に落ちたんだったな……


「ちょっと、散歩でもしよっか」


 俺はクリスの手を取ると、捏造した甘い記憶に浸りながら歩きだした。




 特に何を話しするということもなく手を繋いでしばらく歩いていると、空が白み始め、そして朝日が顔を出した。少し肌寒いくらいだった気温も陽が昇るにつれ暖かくなり始める。今日も良い天気になりそうだ。


 さほど遠くまで来たわけではないが、そろそろみんなも起きる頃だろうからテントの場所まで転移魔法で戻ることにしよう。正直な話、夜遅くまでイロイロ(エロい事を含む)していたことが多く、この時間に寝ることが多々あった気もするが、この世界では夜は早く寝て、日の出と共に活動を始めるのが普通だ。光玉にしろロウソクにしろ、少なからずのお金がかかるのだから言ってみれば当たり前の話だ。


 戻ったときにはエルとフローラ以外は起きていて、誰かが魔法で出した水で顔を洗っているところだった。


「おはよう、みんな。朝食の準備しよっか。エルは今日仕事だし、フローラも疲れちゃってるだろうから準備できたら起こせばいっか」


 皆と挨拶を交わして、長テーブルと椅子を人数分ストレージから出して並べ始める。


 補足説明をすると風呂の製作を依頼したときに、ベッドと共にテーブルや椅子といった類のものも発注している。もちろん、いつ【ハー】なんとか要員が増えてもいいように多めにである。


 シンクと調理台は片付けていないのでそのままになっていた為、水魔法で洗ってから、朝食の材料を取り出した。ストレージにあるいろんなおかずでサンドイッチを作る。


 身体からだが資本のこの世界では、基本的に朝からみんなよく食べる。基本的にというのは、お金に余裕があればということである。だから、常日頃から冒険者はしっかり食べることが重要だと説き伏せているおかげで、誰も遠慮などせず好きな具を好きなだけ挟んでいくつものサンドイッチを作っていく。エルとフローラの分を姉妹が作ってあげていたので、俺とクリスはそのほかにサラダも作った。

 

 たくさん食べてはいるが、毎日魔法やスキル、剣の練習に加えて魔獣討伐もしているのだから、きっちりカロリーは消費しているようで誰も太ったということはない。身体からだを鍛えるといったことは特にしていないので、クリスも姉妹も女性的な美しさも損なわれていない。フローラだってちゃんとお子様体型を維持しているし、俺もひ弱な下僕の風体を保ったままである。


 唯一の心配としては、剣を使い、水仕事もしているので女性たちに手荒れをさせてしまうことだが、これは日本から持ち込んだハンドクリームでしっかりケアすることを義務付けさせている。


 嫁たちと嫁候補及びフローラの美貌を維持するために弛まぬ努力と惜しみない労力は常に払っている。ただ勘違いしないで欲しいのは、美を追求しているわけではなく、これは純粋に愛する家族への気遣いである。


 もし『腹筋が割れました』とか『手荒れが酷いです』などといったことが起きたら、究極美への冒涜でもあり死んで詫びるしかないだろう。


 愛する家族のこととはいえ、つい熱く語ってしまった。

 冷静クール漢らしさ(ハードボイルド)といったスキルとは永久に無縁のようだ。




 テーブルクロスを敷き、各々で作ったサンドイッチとサラダ、ボウルで作り置きしているドレッシングとマヨネーズ、そして取り皿などを置く。


 席次は決まっていて、お誕生日席に俺が。左右にクリスとエルが座り、その後ろに姉妹とフローラが分かれて座る。そして、末席とも言える場所にアウルとウスターシュ、エドとなる。


 本来であればアウルの席はクリスの隣とするべきだろう。

 しかし、俺たちは仲間であり、家族であるのだから身分などは関係ない。それに、なまじ姉妹などを末席になど座らせたら給仕ばかりしていそうで、せっかくの一緒に食べる食事を楽しませてやれないだろう。アウルのそんな発言でこういう席次となった。


 それに、もし稀少な美味しいモノが食卓に上がった際に、クリスの隣に座っているとアウルの分まで食べられてしまう危険も少なからずある。そういった意味も考えると、この判断はアウル自身を救ったということにもなるだろう。


 朝食の準備が整ったので、エルとフローラを起こしに行く。

 寝坊してしまったと、焦っているフローラも可愛い。俺に謝罪をしたあと、みんなにも順番に謝罪しているが、うちには10才児が寝坊したことに怒る奴などいない。ただ、怒る必要はないが、教育として一つ言っておかなければならないことはある。こっちへ来るようにとフローラを呼ぶとパタパタと可愛いいぬみみと尻尾を振りながらを走ってきて、また謝罪を始める。


「フローラ。もう謝らなくていいからね。まだ10才なんだから、お寝坊しちゃうこともあるって。でも、フローラの朝ご飯を作ってくれたのは、アルヴァとベアトリスだから、ちゃんとお礼を言ってから食べるんだよ」


 ちょっと笑顔になったフローラは「はい、ご主人様!」と元気よく返事をして、姉妹の方へと走って行った。




 朝食を終えて後片付けを始める。

 俺はその間にエルを家まで送るので、あとをみんなに任せて転移をした。


「じゃあ、お昼にギルドへ迎えに行くから、また、あとでね」


 そう言って帰ろうとしたが、エルに引き止められた。


「ちょっと、ヨウスケ。夫婦の別れの挨拶はないのかい」


 これはうっかりしていた。自分から求めるのはハードルが高すぎるが、求められているのならば是非もない。無論、望むところである。顔をエルの頬に近づけていくと、エルはクルっと俺の方を向いた。


 そして、俺の頭に腕を回してグイっと引き寄せたのだ。


 突然のことに驚いた俺は気がつくとエルの口撃を自分の柔らかくて甘酸っぱいモノで受け止めていた。ここまでならさほど慌てるようなことではないのだが、事態は急変を迎える。

 

 突如、得体の知れぬ何かが妖艶な動きと共に俺の中へと侵入を始めたのだ!


 俺は目を見開き、さらに驚きの表情を見せたが、真に驚くべきことはそのあとの出来事だった。


 侵入を果たした妖艶な動きをする何かは、有ろう事か俺の口内の蹂躙を始めたのだ!!


 当然俺も口の中で唯一動かせるもので微弱ながら抵抗を試みるが、ほぼ成すすべもなくされるがまま時間ときは過ぎていく。そして時間の経過と共に思考力も低下していく。


 こ、これが大人の味……


 俺の脳内に浮かんだ言葉はこれだけだった。衝撃的すぎる甘美な未知の味に、すでに俺のカラダのもっとも繊細で敏感な部分が反応を示している。しかし、まともな思考を奪われているせいなのか、完全な臨戦態勢にまでは至っていない。


 しばらくして、一方的なこの蹂躙劇に満足したのか、エルは顔を離していく。


「ん――――、若いってこんなに美味しいのかー! 知らなかったよ。いや、知っててもチャンスなんかなかったから、言っちゃなんだが、異変様々(さまさま)ってやつだな!」


「あ…うん…それなら、良かったデス」


 俺には過激すぎたこの蹂躙劇の終わりに、少し残念な気持ちを含みながらも安堵してしまった。


「それじゃ、昼に迎えに来てくれな。ふふ、数時間でまた会えるのにこんな寂しい気持ちになるとはなー」


「あ、うん。…俺も寂しいよ。じゃあ、またあとでね」


 正直、もうパンク寸前でいっぱいいっぱいだが、なんとか間違えないように答えを返す。そして、フラつきながら転移をしてテントへと戻った。




 移動に時間はかかってないのだから、後片付けは終わっていなかった。

 手伝おうと思い近づいて行くと、いち早く俺の帰還に気がついたクリスが足早にやってきて、おかえりの挨拶もなくそのまま腕を引っ張ってテントの中へ引き込んだ。


「おかえりなさい、あなた。…それで何があったのですか?」


 顔が熱いので真っ赤になっている自覚はあったが、それにしても目聡い。

 クリスに嘘や誤魔化しが通じるはずがないし、その必要もないので、あった事を全てそのまま報告する。


「くっ……さすが、エル様。やりますわね。……しかし、ここは前向きに考えましょう」


 顎にこぶしを当てて思案顔となる。

 ――――が、それも数秒のことで、クリスは顔を上げるとビシッ俺に指を突き立てて宣われました。


「あなた! エル様にして頂いた事をわたくしに再現しなさい! ちゃんと出来る様になるまでわたくしが練習台となって差し上げますわ!!」


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