2-11 俺たちの冒険はこれからだ!
予告もなく勝手に長いあいだ休止して申し訳ありませんでした。
不定期になるとは思いますが、出来るだけ早く次話投稿できるように
頑張っていきたいと思っています。
どうぞ、宜しくお願いします。
俺は今湯船に浸かりゆっくり身体を休めているところである。
あのあと公平を期すためにアルヴァの姫の泉とベアトリスの妖精の泉の探索をきっちり完了させている。
これはもう一流冒険者と言って差し支えないだろう。
しかし、俺の知的探究心はこんなものでは満足していない。
更なる高みを目指しているのだ。伝説の洞窟への侵入調査は一度試みてはいるが、時期尚早と即時撤退がなされている。世界最強の男が幾度となく挑んだと言われる聖母の迷宮への侵攻作戦も当然のことながら後継者の務めだ。神秘のベールに包まれているこの2箇所を制覇して初めて超一流の仲間入りを果たせるはずだ。
これだけ聞くと嫁たち(候補も含む)にエロいことがしたいだけの様に見えてしまうだろうが、実際は否! である。なぜならば夫が妻にエロいことをするのは、権利であり義務でもあるからだ。
「ご主人様。またいやらしいことをお考えですか?」
ベアトリスは自分の身体を洗い終わると、俺に寄り添うように湯船に浸かり、おもむろにそんなことを言ってきた。
クリスはフローラの身体を洗ってあげている最中で、エルは浮かべたお盆にキンキンに冷えたワインを載せて堪能中だ。
ちなみに、独り占めは良くないので、フローラの『毛類を洗う権利』はみんなにも分けてあげている。
アルヴァは俺の傍で船を漕ぎ始めている。冒険の旅の初日からイロイロありすぎて疲れているのだろう。
そのイロイロの大半は、俺がやらかしている気もするが…
ベアトリスがそんなことを言いだしたのにはもちろん理由がある。
先ほど盛大な花火を打ち上げたにもかかわらず、発射台が再発射準備完了状態となっているからだ。しかし、当然ここは誤魔化すところである。
「――え!? なに言ってるのかな、ベアトリスは」
「ふふ、ご主人様。ご主人様がいやらしいのも、いやらしいことしてくれるのも、嬉しいだけだからいいんですよ」
いいのかー!
薄々は分かっていたが、ここまではっきり言われれば、男冥利に尽きるってものである。
「ただ、研究、実験に加えてお風呂の中も、ベッドの中も、ちょっと頑張りすぎじゃないですか? いくらご主人様でも身体壊しますよ?」
「うん…。でも、嫌々でやってるわけじゃないからねー。全部、自分でやりたくてやってるだけだから」
「それは、分かってますけど…」
ベアトリスとしてもやめろと言ってるわけではなく、ただ無理をするなと言いたいだけなのだろうから、これ以上なんと言ったらいいのかといった様相である。
「でも、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
俺はベアトリスを抱き寄せながら謝罪する。
すると、おもむろに自分の唇を頬に接触させると微笑んだ。
「私、奴隷になって幸せになれるなんて夢にも思っていませんでした。ありがとうございます、ご主人様」
ホントに出会えて良かった。
でも、お礼を言いたいのは俺の方だよ、ベアトリス。
全員が湯船に浸かりながら想い想いの姿で寛いでいるがそろそろ出ないとのぼせてしまう。
「んじゃ、そろそろ出よっか」
姉妹にカラダを拭いてもらい下着だけ着せてもらった。
外へ出ると、何やら男湯が騒がしい。どうやらお酒も入ったせいであちらも大盛り上がりしているようだ。
嫁たち(候補も含む)と散々楽しいことをしたあとではあるが、正直、あちら側にも加わりたい。
「クリスー。俺ちょっとあっちの様子を見てくるから先に寝てていいよ」
特には何も言わずにタオルだけ渡してくれたクリスは1000人中1000人が恋に落ちてしまうような笑顔を向けてくれた。そして、他の女性たちに「私たちは私たちだけで楽しみましょう」と言ってテントが張られた方へと皆を連れて歩き出した。
その際、アルヴァだけが俺に付いていきたそうな顔を向けていたが、まさか男湯に連れて行くわけにもいかないだろう。俺の傍に控えていたいのだろうけど。
今は、夏から秋へと移り変わる季節。
夜風が気持ちいい。
男湯には【ルーム】を使っていないので湯冷めしない程度に湯船から出たり入ったりして楽しんでいたようだ。
「おお! やっと来ましたね、義弟殿」
俺に気付くとご機嫌の様相を呈しているアウルは真っ赤になっている顔を向けて声をかけてきた。
ストレージから干し肉や塩豆を出してお盆に載せながら俺はその声に応えた。
「待っててくれたんだ? じゃあ、俺も参加させてもらっていいかな?」
「お!! さすが旦那! ちょうど塩気が欲しかったところだったんだ。でも、奥様たちのほうはいいのか?」
家族風呂で散々いいことしてたのは分かっているはずなのに、エドが俺を見る目は『大変だなぁ』という労りの感情が含まれてる。
「うん。なんか女性は女性だけで楽しむって言ってたから大丈夫だよ」
エドに答えながら下着を脱いで皆のところへ行く。
そして気がついてしまった。
ナニに気がついたかと言うと、基本スペックの違いにだ!
戦闘態勢時の角度、硬度、膨張率がいかに優れていようと、クリスの話から大きさは完全に劣っているのは分かっていた。しかし、平時のことまで考えたことはなかった。膨張率が優れているということは、平時ではその差は歴然! 大人と子供、戦艦の主砲とワルサーP38ほどの差がある。
「……みんな、大きいね」
俺は泣き声になりそうなのを我慢して、そう呟く。
「なに言ってんだよ、旦那。カラダなんかデカくたって結局はレベル差があったら、なんの意味もねーぜ。むしろデカすぎるカラダなんて小回りが効かなくて戦闘では不便な時の方が多いぐらいだ」
言いたい事は分かる。
レベルなんてものがあるから、肉体の優劣にそこまで意義を見いだせないのだろう。
実際、エドとエルが戦ったら指一本でエドでも吹っ飛んでいくだろうし。
でもね、カラダはカラダでも、問題にしてるのはその一部分だけなんだよ……
すでにナニが言いたいか気が付いているウスターシュは、笑いを噛み殺しながら、どうとでも解釈できる言葉で慰めてくれた。
「男は大きさじゃありません。中身、つまり性能ですよ、ヨウスケ様」
「しかし、こんな楽しみ方があるなんて知りませんでしたよ。星空の下でお風呂。そしてお酒」
「この世界にだって温泉はあるんだから、そういうとこに行けばやってそうだけど?」
アウルはこのシチュエーションが相当気に入ったようで感嘆混じりである。
しかし温泉なんてそう珍しいものでもない。東京でも出るくらいなんだから。
「お湯が湧いてる場所があることぐらいは知ってますが、人里離れてますからね。探せばこういうことが出来る場所があるかもしれませんけど、普通は魔獣やケモノに襲われる危険がある場所で裸で酒盛りなんて出来ないですよ」
「まあ、それもそうか。なら、引っ張ってくるなり掘ればいいのに。簡単じゃないけど」
そう言って、温泉が湧く理由を簡単に説明してあげた。もちろん詳しくなんか知らないからマグマや地熱の話程度だが。
「だ、旦那…。あっさり言ってますけど、そんなもんどうやって調べて分かったんです?まさか、山や地面をそこらじゅう真っ二つにするとは思えんし」
問いかけてきたのはエドだが、アウルもウスターシュも目を丸くして驚いているので同じ疑問を持っているのだろう。
「俺の世界はこの世界とは発展の仕方が根本から違うんだよ。この世界は魔法、つまり魔力が何かをする動力、エネルギーになってるけど、俺の世界じゃ魔法なんてないから全く別のものを使ってるんだ」
「い、いや、しかしですね、ヨウスケ様。魔法もないのにそんなすごいことが出来るのですか?先ほど空を飛べる乗り物があるとか仰ってましたが…」
「んー。例えばこの前見せた『電話』なんだけど、あれ正確にはトランシーバーみたいなもんなんだ。細かい説明は飛ばすけど、お互いでしか話ができないものをトランシーバーって言うんだ。本来の『電話』なら相手が同じモノを持っていれば決められた番号を入れることで誰とでも話が出来るんだよ」
アウルとウスターシュは「どうやって!?」と、話の続きを促している。エドにはまだ見せたことはないので「え!?何の話?」といった様相だ。
「俺が作った『電話』もどきは、早い話が声を転移させてるんだ。指定した場所まで人の体すら飛ばせるんだから声ぐらい飛ばせるんじゃないかなって思って作ったんだ」
「でも、声なんて見えないし、物でもないんですから、飛ばせるとも思えないんですが…」
さすが一流の魔法使いであるウスターシュは着眼点が違うようだ。
「声っていうのは振動なんだよ。だから、モノを飛ばすほどの魔力ではなくて、何も飛ばせないくらいの微弱な転移の魔法を付与した結果出来ただけ。まあ、出来た時は驚いたけどね」
ウスターシュが「ほおー」という感嘆を漏らす。
「だから、今の段階で付与できた指定先がお互いの『電話』もどきだけなんだ。改良すれば10人同時会話も可能になるだろうけど、個別で選択して会話はできない。それが出来て本来の『電話』というものになるんだ。それで、なにが言いたいかというと、そうやって出来た物を改良して、さらに改良してって感じで発展していったのが俺の国なんだ」
「では、地面の中を調べる道具などはいきなり出来たわけではないと? それなら、この世界でもヨウスケさんの世界の様なモノがいずれは出てくる可能性もあると?」
「それは…ないと思う」
「なぜですか!?」
アウルは興奮気味で尋ねてきたが、この世界の人が劣ってるとかそういうことではない。もっと人としての根源の問題である。
「例えばね。誰かが1というモノを頑張って作ったとする。その1をさらに改良や他に作った1程度のモノを合わせて10のモノを開発する。その10で新しい発明などしてさらに改良。それで100を作る。これを繰り返して10万、20万、100万になるとして、この世界には最初から1000という魔法がある。それなのに誰が1を作るの?その1すら多大な努力と時間がかかるのに」
「「「あ――――……」」」
みんな瞬時に理解して納得してしまう。そこには明らかな失望の目がある。魔法世界では便利なものは発明されないと思ってしまったようだ。
「誤解しないで欲しいんだけど、魔法でもある程度までなら便利なものを開発できると思うよ」
「ど、どういうことですか!? 禁忌と言ってましたよね? そういうことならやめてください」
アウルは慌てて口止めするかのように俺に発言をやめさせようとした。
「大丈夫、そういうことじゃないよ。つまり魔法を使って魔法の道具を作る。これは1000で1000を作るってことだと思うから」
「しかし、1000で便利なものを作ったら1万とかそういうことじゃないんですか?」
「いや、魔法って個人の技量でしかないよね?スキルだってそうだし。だから、所詮は個人レベルのものでしかないし、これは単なる発想の違いでしかないと思う。レベルと技量があれば思いつけば作れる程度のものだからね」
「そういうことですか!」
「うん、だから期待してていいよ。もちろん、迂闊に世に出さないように注意するし、みんなにも出来たモノは確認してもらうからさ」
「「「おおお――――!!」」」
それから、俺たちは大はしゃぎで大宴会を始め、ちょっこり怒っているクリスが迎えに来るまで続けられた。
~おまけー~
「エル様、アルヴァ、ベアトリス。ちょっと、お話があります。よろしいですか?」
これはお風呂から上がってテントに戻ってからの女性たちの話である。
「ヨウスケは男の浪曼というものが大好きなので、今もああやって男性たちのところへ行って楽しんでると思います。しかし、研究やら実験やらとこのままではいずれ無理がたたって身体を壊してしまうかもしれません」
「あ、クリス様。先ほど私もそう言ったのですけど…」
「さすがです、ベアトリス。しかしどうせまた『大丈夫』とか言ったのでしょう」
「……」
「肉体的には18才なので本人の言うように大丈夫なのかもしれませんが、エル様に開発品を見せたいとここ数日、夜は殆ど寝てませんでしたし。私としても出来るだけやりたい様にやらせてあげたいのですが、限度があります。ですから、みなで注意して欲しいのです」
「「「はい」」」
「私たちの夫ととなる人は『バカ』なのですから」
目の端にうっすら涙を浮かべているアルヴァ。
(ご主人様……)
下を向き俯くベアトリス。
(否定できない……)
大笑いをしているエル。
(なんてかわいい奴なんだ!)
こうして一時間以上経っても戻ってこない夫を迎えに行くクリスであった。




