1-6 姉妹とお風呂
ベアトリスが俺の言葉を理解したと思い、着替えに部屋へ再度向かうことにしたが、まだ終わりではなかった。
「ベアトリス…なんでついてくるの? 俺はただ着替えるだけだから、自分達の荷物を運んでおきなよ」
「そういうわけには参りません。ご主人様の身の回りのお世話をするのは奴隷の務めなのですから、私たちのことなど気になさらないで下さい」
「――と、言っても着替えるだけだけど?」
「ですから、ご主人様のお着替えをお手伝いさせて頂きます」
ベアトリスは当然のことだから絶対に譲れないという確固たる意志が見えて断りにくい。
アルヴァも同意を示すように一生懸命頷いている。
「じゃあ、手伝ってもらうよ。そのあとは自分達の荷物も片付けて食事の用意をしてね。ちゃんと3人分作るんだよ」
そして、俺は人生初、二人の女の子に着替えを手伝ってもらうこととなった。
そのあとも、まだ俺の傍から離れるのを二人とも少し渋っていたが、食事の準備のために自分たちの荷物を先に片付ることを了承して、やっと俺の部屋から出て行った。
姉妹は同じ部屋で寝る事を選んだようだったが、ベッドは運ばなかった。
俺も運ぶのを手伝うかと聞いたが、運ぶ必要はないと二人に言われた。
昨日は宿に泊まったから身体を拭くしか出来なかったので、さっそく風呂を沸かすことにした。
その為の買い物もちゃんと済ませてある。
しかし、その前に重大な問題があった。
お金を節約する為には水玉を使わずに、ストレージを使うしかない。
桶で何十往復もするなんて絶対にイヤだったし、女の子にそんな事させるのも論外だった。
「二人とも食事の準備をしながらでいいから、ちょっと聞いて欲しいことがある」
姉妹は同時に俺の方を向いた。
「俺が秘密にして欲しい事があったら、誰にも喋らず秘密に出来る?」
奴隷として主人の秘密を守るのは当然だと答えた。
この世界ですら有り得ない現象を二人はどう受け止めるか心配ではあった。
しかし、いつまでも秘密には出来ない。
思い切って目の前に先ほど収納したダモクレスを俺の手に出現させた。
その現象に二人とも目を見張って驚いたが、むしろ関心しているようだった。
「ご主人様、その剣には魔法がかかってるのですね? 初めて見ました。持ち主の所に呼び寄せるなんて」
そう言ったベアトリスの反応が普通なのだろう。
この世界には魔法があるらしいので、もしかしたら物を転移させる魔法もあるのかもしれない。
まあ、どちらにしろ俺には吃驚だが。
作戦を変えて、俺は物量で説得することにした。
お釣りで大量に増えた硬貨類、ほかにも日本から持ってきた鞄とリュック、ストレージからまだ出していない昨日買った物などをテーブルの上に一気に出した。
今度は予定通りに二人とも本当に驚いてくれた。
ベアトリスは持っていたお皿でジャグリングを突然始めていたし、アルヴァは鍋を火の上で持ったまま、焦げるのを心配した俺が声をかけるまで動けなかった。
姉妹の反応に今度こそ満足したが、そこが本題じゃないと思い出して説明を始めた。
「俺には特殊な能力があって、別の空間に、どんなものでも、何個でも、保管出来て、出し入れは自由に出来るんだ」
特殊なスキルと言おうと思ったが、もし、何かの事情で自分のスキルを見せなければならない事態が起きないとも限らない。
そのとき説明が不可能になるぐらいなら、スキルではない別の能力だと話しておいた方が良い思った。
「ご主人様……それはいったいどういう意味でしょうか?」
ベアトリスはお皿を落とさずに済んでホッとしている最中だったが、アルヴァは俺に恐る恐る尋ねてきた。
「俺にも分からないから説明は出来ない。だからそういう事が出来るということだけ覚えていてくれればいいから」
「ご主人様が聞くなというのであれば、私たちは何もお尋ね致しません。ですが、なぜ奴隷の私たちになどお話になったのですか?」
やっと落ち着いたしたベアトリスは、やはりそこが気になったようだ。
「これから一緒に生活したり冒険者としてどこかに出かけるのに、ずっと隠しておくのは無理だから。二人ともずっと誰にも話さず秘密にできる?」
風呂に入りたいからなんて理由では決してない!
「他には誰かご存知なのですか?」
「君たち二人だけ。だから約束だよ?」
「そうなのですか…。そのような大事な秘密を私たちに……」
アルヴァは嬉しそうに小さくそう呟いたが、ベアトリスは真顔で俺に要求をしてきた。
「ご主人様。それでしたら命令して下さい! そうしましたら私たちは絶対に逆らえませんし、ご主人様も安心できると思います」
それが出来るぐらいなら、絶対に今頃は二人を同時に相手して楽しんでいるからね!
俺は心からそう言いたかった。
「まあ、二人を信じるよ。それでなんだけどね…」
俺はさっさとこの話題を終わらせたかった。
それは、本題の風呂の話をしたかったからだ。
ストレージのおかげで風呂を簡単に沸かせると説明した。
姉妹はそれでも手伝うと言い張ったが、俺はお腹がすいているから、二人は食事の準備を優先するようにと説得した。
昼間の内に整備してもらったポンプ式の井戸はすぐに使えたが、水を入れる物は昼間に買った桶とタライが1つずつしかない。
明日、たくさん買って増やそうと思い、今日は諦めて往復した。
大人が4人は入れるほど広い風呂を満たすには12往復もかかった。
水を入れたタライは重かったので、無駄遣いと分かってはいるが桶を大量に買うと決めた。
食事の用意が整い、俺は席についたが姉妹は立ったままだった。
「早く座ってくれないと、食べ始められないんだけど?」
二人はお互いに顔を見やり「失礼します」と言って座った。
――――その場に。
「いや、椅子に座ってくれないと食べれないでしょ?」
正座をしている二人にそう言ったが「お余りを頂けるのでしたらこのまま頂きます」と、返された。
どう言えばいいのか分からず、最初から疑問に思っていた事を聞いた。
「二人とも貴族だったのに、ずっと奴隷だったみたいに見えるんだけど……なんで?」
「お褒め頂きありがとうございます、ご主人様」
嬉しそうにしてるけど、アルヴァ……褒めてないからね。
「私たちは父親に売られ、イグナシオ様に買って頂いた時に貴族の習慣など忘れるようにしっかり教育して頂きました。奴隷とはご主人様の持ち物に過ぎず、命令は絶対で、どのように扱われても感謝してお礼を言わなくてはならない存在だと。そしてご主人様のご厚意に甘えてばかりいるのは奴隷の恥で、そのような態度を他人に見せるのはご主人様に恥をかかせる事になるので、絶対にしてはならないと繰り返し教えられて練習しました」
そして、ベアトリス。なぜそんなに誇らしげなんだ。
いろいろおかしいからね、それ。
しかも、奴隷の練習ってなに!?
「アルヴァ、ベアトリス、よく聞いて。俺は二人を買ったが、そこまで強要はしない。これからの生活には二人が必要だから普通にしてくれないと困る。分かった?」
予想はしていたが、アルヴァは全然分かっていない。
ベアトリスは何気に不満そうだ。
「もう、分かったから。じゃあ、食事は椅子に座って一緒に食べることだけは守るように。そうしたらあとは好きにしていいよ」
二人ともまだ疑問があるように見えたが、流石にそこまで言われれば椅子に座るしかないと思ったようだ。
「それと先に言っとくけど、俺が食べ終わるの待ってたらダメだからね!」
念の為に言ってはみたが、まさか本当にそうするつもりだったとは思わず、二人の顔に、なぜ!? と、書いてあることが俺には逆に驚きだった。
「好きな物を好きなだけ一緒に食べて、遠慮しないこと。俺はかわいい女の子に見られながら食べるなんて恥ずかしくて出来ないからね」
そうして、やっと俺は食べ始めることが出来た。
それでも二人は遠慮がちだったので、冒険者になって戦うためにちゃんと食べないとダメだともう一度説得した。
とても疲れた夕食が終わり後片付けを二人に任せ、俺は一日の…、特に家に帰ってからの疲れを取るために風呂へ入った。
湯船に浸かる前にカラダを洗い始めた。
売っていた石鹸は滑らかさが足りないが使えないほどではなく、いつか自分で改良出来そうな感じだったので、しばらくはこれで我慢することにした。
シャンプーは念の為に、ガラスビンに入れて多少は持参している。
今日買い物をしたときに探したが、シャンプーそのものはなかった。
ただ、石鹸を使った自作シャンプーなら作れそうな材料は売っていた。
だから時間のあるときに【秘密のメモ】を見ながら研究して作ってみる予定だ。
心身ともに汚れを洗い流してから、湯船に浸かり疲れを癒していた。
そのとき突然に光輝く2体の生物が風呂場を急襲した。
しかも恐るべき兵器をその身に備えて。
確かに、俺は言った。身の回りの世話をしろ。
そして好きにしていいと。
だから、少しはこの事態を予測していたので、その為の備えもしたが、現実になると多少の備え程度ではコトがうまく運ばなかった。
「ご主人様、おカラダを洗わせて頂きます」
ベアトリスはそれが当然だと言わんばかりの口調だったが、二人とも恥ずかしいと思っているのは丸分かりの姿で立っていた。
アルヴァは通常破壊兵器を少し手で隠してはいたが、出来るだけ見せようとしている。
ベアトリスは巨大破壊兵器を全く隠してはいないが、両手のこぶしをしっかり握っている。
そして、二人とも湯船に浸かっている俺より真っ赤な顔をしていた。
すでに俺は身体はキレイに洗い終わっていたが、それを言うのは流石に酷だろうと思い、優しさと唯一の小型兵器を見せつけて、もう一度カラダを洗ってもらった。
事前に心身の汚れを落としてこの事態に備えていたお陰で、当初は無害な小型兵器だったが、所詮は俺もただの男である。
JOJOにだが変形を始めた。
そして最終形態の攻撃用兵器にまで変形を成し遂げてしまった。
俺は、まだ心の穢れを完全には洗い流せてなかったことを恥じて、二人に負けないほど赤面した。
アルヴァはそれでも一生懸命に平静のフリをしていたが、ベアトリスは露骨に興味津々だった。
アルヴァに、破裂しそうな勢いの最終形態になっても痛くないのかと聞かれたときは、泣きそうになったが
「それは耐えなければならない男の痛みだ!」
と、堂々と言い切って誤魔化した。
俺のカラダの全てを洗い終わると、なぜか二人とも楽しい理科の実験が終わってしまったときのような顔だった。
そんな二人にカラダを洗って湯船に浸かるように言うと、やはり女の子だったらしく、久しぶりに身体を洗えたと喜び一緒に風呂に入った。
お礼に二人のカラダも洗ってあげる! と、言えるようになるには、長い期間の精神修業が必要だと思われた。
姉妹は湯船に浸かると、さも当然のように俺の傍にくっついてきた。
「これだけ広いんだから、好きな場所でゆっくりしなよ」
「ご主人様、奴隷の私たちにはご主人様のお傍が居場所で、贅沢ですが寛ぐことができます」
これを否定できる奴がいるだろうか。
地球上どこにいても俺では絶対に聞かせてもらうことが出来ない言葉を聞いて、肉屋の佐藤様に心からの感謝をどうにか届かせる方法を考えていた。
風呂から上がり、二人に体を拭いてもらい、二人に下着を履かせてもらい、二人に服を着させてもらった。
お礼に二人の……それは、もういいや。
どうせ、俺には『まだ』出来ないと分かっているから。
リビングに設置されていたソファーに座り、湯冷ましなのかどうか分からない熱冷ましをしていると、アルヴァが俺にだけ紅茶を淹れてくれた。
これからは自分達の分も言われなくても出すように言い含めて、明日からの予定について話をしたいからソファーに座るように努力してなんとか説得した。
そして、対面に座らなかった両側の二人を相手に話し始めた。
「目的は、まず自分達のレベルをあげること。次に出来るだけ稼ぎフォルナックスに移動する。最終的にはどこかに家を買う」
俺の話を聞いた姉妹は疑問に思ったことがあるように見えたが、それを発言していいのか迷っている様子だった。
これは相談したいことでもあるからと伝えると、まずアルヴァが質問した。
「ご主人様は、なぜわざわざこの街から移動をされて、家を買われるのですか?」
「実際にはまだまだ先の話だけど……どこか便利そうな場所に拠点としての家を買って、それから面白そうな商売をしたり、すごい景色や珍しいモノがどこかにあればそれを見に旅に出たりしたい。でも、具体的なことは決めてないからフォルナックスで情報を集めたいんだ」
姉妹は俺の夢と希望を分かってくれたようで優しい笑顔を向けてくれた。
しかし、ベアトリスはもっとも現実的な問題を質問してきた。
「ですがご主人様。私と姉はそこまで稼げるほど強くありませんが、それは長期的なお考えなのですか?」
「まあ、大きさによるだろうけど、ベアトリスは家を買ったり、商売をしたりするのにいくらぐらいお金が必要か分かる?」
年上の自分が14歳の、しかも女の子にこんな質問をするのは恥ずかしかったが、この際だから自分が無知なのを知っておいてもらうことにした。
「そうですね…。あまり詳しくありませんので、大体でよろしければ?」
好奇心が旺盛で社交的なベアトリスはそんな質問にすら、ちゃんと答えを持っていた。
「小さい家なら30万円でも買えると思いますが、これくらいの家ですと300万円以上はするのではないですか?」
そして「あっ」と声を上げると、自分達二人の為に大金を支払ったせいで俺の夢の妨げたと思い落ち込んでしまった。
アルヴァは妹の様子から事態を察して、本当に申し訳なく後悔しているという顔で小さく口を動かし始めた。
「本当に申し訳ありません、ご主人様。私たちがご無理を言ったせいでお優しいご主人様の夢を遠のかせてしまいました。そのことを心にしっかり刻みお仕え致しますのでどうかお許し下さい」
アルヴァは泣きそうになりながらも、最後まで涙を流すのを堪えて謝罪の言葉を続けていた。