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2-7 着々と進められる俺の野望!

 アルヴァに平謝りをしているエルとクリスに怒られながら必死に謝罪をしているアウル。

 ホントに仕方の無い奴らである。


 この二人を助けてやる義理など全くないが、優しさ溢れる俺は助け舟を出してあげた。

 不本意でも、アルヴァの笑顔を取り戻すためならば是非もない。


「アルヴァ、ごめんね。この二人は俺をからかうためだけに心にもないことを言っちゃう『馬鹿』なんだ。――だから許してあげて」


 エルとアウルは、このナイスフォローに多大なる感謝の意を込めた歯ぎしりを響き渡らせた。


 その心地よいバックグラウンドミュージックを胸のすく思いで聞いていると、腕の中のフローラが心配そうにアルヴァと俺を交互に見つめていた。

 

 なんて優しい娘なのだ! 

 

 エルとアウルにフローラの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいが、残念なことに常に清潔なフローラには爪の垢など存在しない。



 俺はフローラに笑顔を向けて頷くと、アルヴァの腕の中へと移してあげた。


 そしてアルヴァに抱きかかえられたフローラは「大丈夫です。みんなアルヴァお姉ちゃんが大好きです」と慰めた。


 ――なんと美しい光景だろう。

 アルヴァは一筋の涙と共に天使の微笑み(エンジェルスマイル)を浮かべてフローラにお礼を言った。


 

 フローラの心温まる言葉に被告二人が便乗して首を縦に一生懸命振っている。

 それを見た俺たちは思わず吹き出して大笑いをしてしまった。

 

 すでに一部の人たちを除いて場は和んでいる。


 一部とはクリスとアウルのことで、実の兄に更なる反省を求めたクリスの説教がまだ続いているのだ。――残念なことにエルは今ので上手くピンチを抜け出してしまったようだ。


 新しい妹は実の兄に劣らない存在。

 さすがは愛する我が妻クリス。――なんて素晴らしい基準なのだ。


 それはクリスがみんな一緒主義の信奉者であるという証明でもある。

 皆もそれが分かるからこそ笑っていられるのだろう。


 「夫婦は似ると言いますが、まさにその典型ですね」


 当のアウルはそう言って、好意的ながら自分は怒られているので苦笑していた。




 そのあと俺はベアトリスとエドに先ほどの件について言及しながらバーベキューを続けたが、他のみんなはそれぞれ楽しみながらお腹を満たせたようだ。


 皆が満足したところで後片付けを始めた。

 みんなでやると流石にすぐに終わったので一休みしていると、次は食後の運動がしたいという要求が始まった。

 つまり、飛ぶための練習と森へ行って狩りがしたいということである。

 

 エルだけは狩りのみで、ほかのみんなは二手に分かれて入れ替わりで両方おこなった。


 とりわけ一分一秒を急ぐ旅ではないので、空き時間などはレベル上げやスキル取得に精を出して身体を鍛えておくのが基本的なスタンスとなった。


 俺はもっぱら空間魔法と周囲探索及び個体情報診断のスキルだけが鍛えられている。

 またもやみんなを連れて転移ばかりを繰り返し、その合間に薬草を採取しているだけなのだ!


 ちょいちょいと魔獣を調べたり、みんなのレベルの上がり具合を診ている事はある。

 しかし、薬草の品質を調べたりするのに鑑定眼スキルも結構使っているが、既にカンストしているので意味がない。


 かなり不公平感はあるが、これもリーダーの務めと諦めるしかない。

 どのみちポーション不足なのでガッツリ食後の運動は出来ない。


 なので、適当なところで切り上げさせて出発するつもりだ。


 エドはベアトリスに教えてもらいながら魔法の練習を始めている。

 彼が最初に選んだ魔法は土属性だった。似合いと言えば似合いではあるが、安直に攻撃重視の魔法を選ばず防御や物質を強化させることに秀でている魔法を選んだのはやはり熟練の冒険者としての経験からだろう。


 もしかすると、以前吹き飛ばされてぶち当たった土障壁で喰らったダメージが一番大きかったことがその理由に含まれるているかもしれない。

 確かに火魔法で大やけどをして、吹き飛ばされる程の衝撃を風魔法のエア弾で受けたが、硬いものに激突したのだから直接的には一番身体に響いたはず……。

 

 恐るべし、土魔法使い10歳児フローラ!




 皆の食後の運動が終わって、俺は調合実験のためにまた森へと転移をするのだが、午後のお供はアウルとエドとウスターシュ、そしてベアトリス。

 ウスターシュは誰が自分の雇い主だったか思い出したようで、アウルと、ついでにエドに魔法を教える為に一緒に来ている。


 アウルは最近から魔法の練習を始めたので、まっさら初心者のエドと、この際だから一緒に特訓をするということになった。ベアトリスがそのまま教えてあげても良かったのだが、本人は調合をやりたいと言っていたのでこういう人事になったのだ。


 ちなみにアルヴァは馬車を操る練習がしたいとのことで、クリスが先生役となった。

 そしてフローラはおしゃべりと景色を満喫するため馬車に残り、エルは荷台でエアコンを堪能するだけのニート予備軍と化している。



 森へ転移をした俺は、適度に開けた場所に土魔法で机と椅子を作った。

 もちろん、ちゃんとした研究用机や実験用テーブルは椅子とセットで作ってあるが、森の中なので汚れたら洗うのがメンドウなだけである。


 アウルたちにもテーブルと椅子を作ってあげた。

 しかも、MPポーションと冷たい飲み物も用意してあげたので、まさに至れり尽くせりの魔法教室だ。


 一方俺の方は、調合の準備を始めて色々な器具と薬草を机の上に並べた。

 よもやポーションを作るのに爆発の恐れなどはないだろうが、迂闊な俺なら毒ガスを発生させてしまうかもしれない。

 それは言い過ぎとしても異臭ぐらいはありえるので、ベアトリスにはうしろで換気用の風魔法をいつでも発動出来る様に待機してもらっている。



 ポーションは安いモノと中級と高級に分かれているが、厳密に言えば材料の違いでしかない。だから微妙な配合比の違いや薬草の品質、調合の技量で効果は若干異なる。

 鑑定眼を使えば品質には5段階のランクが付いているが、明確に分かるほどの違いはないので同種類のポーションは十把一絡げの扱いになっている。


 ただし錬成スキルを使って作られたハイポーションだと事情は異なる。

 調合時に魔力を使い物質自体を変質させて効果を飛躍的に上げたハイポーションは効果に明確な違いが出る。


 そのためハイポーションはランクごとに値段が異なり、もちろんそのベースは高級品である。

 

 だから一番低いランクのハイポーションでも高級品より遥かに高い。

 なら全部をハイポーションにすれば良いと思うがそれは無理なのだそうだ。


 それは錬成には失敗する可能性があるからだ。

 魔力を過剰に供給しすぎると薬草が変質しすぎて効果がなくなってしまったり、上手く融合しなくて飲めない代物になってしまうこともある。


 元手が高価な物なので練習として安いポーションの材料を使うこともあるが成功したとして効果は大抵は中級並みかそれ以下なので、商品としては誰も作らない。


 だから現存するのは普通の高級ポーションの数倍は高いハイポーションばかりであり、稀少でもある。

 ましてや最高級のAランクハイポーションなど国王や貴族が部下に褒賞として与えるような高額な代物である。


 さてここで振り返ってみよう。

 俺は調合と錬成のスキルはすぐ覚えられる。そして魔力付与と魔力譲渡のスキルはある。

 つまり、一回目の調合と一回目の錬成以外の失敗は、ほぼないと言える。


 であるから、高品質・・・安い(・・)ハイポーションの量産が可能だということだ!

 元手はタダなのだからスキルのレベル上げにも、もってこいの練習となる。


 数種類の薬草を細かく刻んですりつぶし適量を見極めるまでは調合スキル、そのあと混ぜ合わせる為には錬成、魔力付与、魔力譲渡のスキルが活躍する。

 練習を兼ねているので、いつもみたいに一気に大量には作らず一回分ずつ作る。


 ここで思いついたのは例えば鍛造の剣を同じ様にして製作すれば魔剣が作れるのではないかということだ。そして、それほどの剣なら魔力を大量にあとから付与もできるはずだ。


 こう考えると伝説級の武具の作り方は自ずと知れる。

 最低でも鍛治、武具製作、錬成、魔力付与、魔力操作、魔力譲渡の高レベルスキルが必要で、さらに属性を付けたければ付与したい魔法スキルに、魔法付与のスキル。


 これでは殆ど存在していなくて当たり前だ。

 魔法系と生産系のスキルの両方を極める為には人の生では短すぎる。


 以前、魔力の付与しているモノですら高額だとベアトリスは言っていたが、そこから一段階上がる武具の製作を出来るのは俺のようなチートか、その恩恵を受けた人物でなければ事実上無理なのだから、魔力が付与されているだけのモノでも価値が高くて当然だろう。


 そしてその製作過程で光魔法を付与すれば、まさしく聖なる武具になるのではないかいうことに思い至る。

 聖剣に憧れていた俺は、もちろんちゃんとネットでいろんな聖剣を調べて図面も描いてあるので、デザインはバッチリだ。


 右手に聖剣、左手に魔剣、そして口にはニホントーのコテツン……


 うおおお――――――! 夢の三刀流である!!

 

 ただしそのためには一つずつスキルを取得してレベルを上げていかねばならない。

 夢の実現への道のりはさすがの俺でも遠い。


 ベアトリスにはまずは調合スキルを取得するために薬草の下準備に専念してもらうつもりだが、いずれ俺とベアトリスなら伝説級の魔道具をいくつも開発できるだろう。


 クリスやアルヴァのように尋常ではないセンスで物事をこなしてしまう天才肌の人物と違って、才能はあるが、理屈や理論で物事を考えてしまうベアトリスと俺は物作りに向いていると思うからだ。


 その可能性をベアトリスに話すと俄然やる気を出して、いつか俺たち二人の名前を伝説に残そうと盛り上がった。

 そして、自分の名前ではなくコンビとしての名前を使い、謎の人物を演出するということになった。


 その名は『INVISIBLE(インビジブル) UNKNOWN(アンノウン)』略して【I.U】だ。

 透明で不明。――俺が使いたかった名前ランキング1位と2位の合体ネームである。


 意味などなくとも全く問題はない。

 ただカッコ良ければいい。――それが正義だ。

 ベアトリスもこの名に興奮を覚えている様子である。


 実は誰にも気づかれないとはいえ、一人で中二病は辛かったのだ!

 

 こうしてベアトリスを中二病に感染させて心の友を増やした。

 俺は見事に成功したこの策略にほくそ笑みながら、ポーションの実験を重ねていった。


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