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2-6 意地悪はほどほどに!

 俺に鈍いと言われたエドは悔しそうにしながらも希望に満ちた表情を見せた。 


「じゃ、じゃあ、俺も魔法を覚えたり、いろんなスキルを覚えたり……ベアトリスさんぐらい強くなれるってことか?」


 得意げな表情を見せてそれを肯定しようとすると、俺より先にベアトリスが仲良しエドに答えてあげた。


「エドアルドー。魔法は自分の得意と思うもの、好きだと思える系統から練習するといいよ。どのぐらい魔法に適正があるか分からないけど、ご主人様の能力の恩恵があれば、少なくとも1つや2つは間違いなくすぐ覚えられると思うわ」


「ホントか!? ベアトリスさん……いや、ベアトリス姐さん! 時間があるときだけでいいから、教えてもらえませんか?」


 エドは目の色を変えてベアトリスに跪く勢いで懇願を始めた。

 ベアトリスは苦笑しながらもそれを快諾し、さらにアドバイスまでしてあげた。


「ベアトリスでいいよー。いつも魔法の練習やスキルの練習はみんな一緒にやってるからそのとき教えてあげる。でも、それだけ大きい身体なんだから剣術や戦斧術も鍛えないと損よ? ご主人様のために強くなりたいと言えばクリス様も教えてくれると思うし」


「ク、クリスティーネ様が!? 無理無理、嫌われてるからな。少なくとも魔獣調べを終わらせてからじゃないと……」


 突然飛び出したクリスの名前に恐怖心が蘇ったようで、顔色を変えて即座に否定をしたが、ベアトリスは確信を持ってさらに助言をしてあげた。


「クリス様は怒っているだけよ? だからクリス様が心から愛しているご主人様のために強くなりたいのなら絶対に機嫌を直して教えてくれるって。エドアルドはご主人様やアウル様と同じ『男の浪漫』にすぐ熱中するタイプでしょ? うふふ、さすがご主人様が仲間として連れて来ただけはあるわねー」


 そしてベアトリスは何の為に薬草採取をしているかを話し、これからの旅が誰もが羨む日々になると語った。エドは目を輝かせながらその話を聞き、逐一頷いている。


 もちろん、魔獣を狩って山菜摘みをしながらの会話である。

 しかし、俺も一緒にいて普通にその会話を聞いているのに、なんだろう……このアウェー感は?


 やっぱり、俺の立場ではこの中には入れないのかな、と寂しさを感じていると、それに気が付いたベアトリスは優しげな表情を浮かべ俺を話の中へ引き入れてくれた。


「ご主人様。勘違いしちゃダメですよ。ご主人様は私たち全員にとって一番大切な人で、リーダーでもあるんですから。だから、ご主人様がいないとみんな一緒は成り立ちませんからね。その恩恵があるから私とエドアルドはこんなに楽しい気持ちで会話をしてるんですよ」


「そうだぜ、旦那! なんでそんな仲間外れにされたみたいな顔してんだ? 旦那がいて俺たちがいる。つまり、どんな会話をしてても常に話題の中心は旦那なんだ。もっと、誇らしげに俺たちの会話を聞いててくれないと」


 エドも楽しげにそう言って俺の背中を勢いよく、バンバンと2回叩いた。


「そっか、俺もちゃんと仲間なんだね! よーし、もっと面白いものいっぱい開発して楽しい冒険の旅にするぞー!」


 俺はご機嫌になってそう叫ぶとエドがボソリと呟いた。


「エドー! 聞こえたぞ! 単純って言っただろー!?」


 先ほどの教訓を活かし、聞き耳スキルは絶好調でアクティベートされている。


「マジか!? それもスキルなのか!? すげーな!」


「大丈夫よ、エドアルド。エル様からそれでも聞こえなくなる方法を教えてもらってるから。さっきは使ってなかったみたいだけど」


 そんなこんなで俺たちはワイワイと笑いながら会話を楽しんだ。



 かなりの数の魔獣を狩ったが、もちろんそんなに食べきれない。

 エルに頼まれた、数が増えている魔獣の間引きを兼ねてである。


 それに魔珠の補充もしたいし、ストレージがあるのだから食料は大量にあっても困ることはない。


「このぐらいでいいか。さて、馬車に戻ろう」


 山菜は大して採れなかったが、野菜は大量に買い貯めしてあるのだからこれで十分だろう。


 馬車が停まっている場所へ転移をすると、すでに準備は整っていた。

 レジャーシート代わりにむしろを敷いて、魔導コンロの上には鉄板が載せてある。

 鍛冶屋で作ってもらった調理台とシンクもセットしてあり準備は万端のようだ。


「あなた、遅いですわよ。わたくし、とてもお腹が空いていますの!」


 ――と、帰ってくるなりクリスに怒られた。

 寝ていただけでもお腹は空くらしい。

 

 エドとベアトリスと一緒に会話に夢中になっていて遅くなってしまったのも事実なので素直に謝って、食材の下拵えを始めた。

 野菜はシンクで洗って調理台で切り、魔獣を数種類捌いて特注の特大まな板で焼肉サイズに切り分けた。


「さあ、食べよう。お肉も野菜もたくさんあるからね。山菜も茹でたから醤油をつけて食べて」


 この世界で作ったオリジナル醤油と、数種類の果物と野菜を煮詰めて醤油をブレンドした特製焼肉のタレを小皿にそれぞれ入れて全員に配った。

 醤油は本来長い熟成期間が必要だが、昔読んだラノベの知識を活かして土魔法による熟成促進法を編み出している。

 これによって豆板醤などの開発にも成功している。


 油を引いて肉と野菜を並べる。

 すぐに香ばしい匂いが漂い始めて、鉄板の上に皆の視線が集まった。


 真っ先に手を出したのはクリスで次は意外にもアウルだった。

 それを皮切りに次々と手が伸びてきて、初めて食べる肉と野菜と焼肉のタレのコラボレーションは大絶賛を受けた。


 エドも醤油ベースの未知の味を気に入ったようでバクバクと食べている。

 やはり、身体が大きいと食べる量も人一倍だ。なにせ、あのクリスより少し食べる量が多いのだ。

 

 最初に絶対遠慮はしないようにと言い含めておいて良かった。


 ただ気になるのは、アルヴァのことだった。

 タレを配った際、目を合わせてくれなかった。

 

 人前で抱きつかれてしまったのがよほど恥ずかしかったらしく、今も俺がそちらを向くたびに赤くなって俯いてしまう。


 いつもならクリスが真っ先に事情を聞いて仲立ちを……俺を問い詰めて怒るはずなのだが、何も言ってこないのが余計に不安を煽る。


 この空気に耐え切れなくなった俺は、ナイアガラの滝に飛び込むぐらいの決死の覚悟でクリスに話しかけた。


「クリス……。アルヴァの事なんだけど……」


 食べるのに忙しいクリスに話しかけるのは猛獣の食事を邪魔するのに匹敵するほどの危険がある。


わたくしは何も申しませんわ。あなたが馬鹿であるのはすでに知っていますし、結果としては良かったぐらいですから」


 運良く返事をもらえたが、内容は意味不明なうえにまた馬鹿にされた。


「ば、馬鹿!? なんで? どういうこと?」


「アルヴァもあなたがそんなつもりで言った訳ではないのは分かっているみたいですが、どんな意味であろうと言ったからに責任を取るのが男ですわ」


 さらに説明をされたが、それでも全くクリスの意図が分からず困惑をしていると、ヒントという答えを教えてくれた。


「あなた。あなたが言った言葉はどういうときに使うのか、研究と実験と男の浪漫にしか使っていないその頭でよく考えなさい。――ヒントは求愛ですわ」


 求愛? プロポーズってことか?


 自動翻訳開始……


 ちゃんと責任を取るから(結婚して)

 いつまでも一緒にいようね(夫婦になろう)


 絶対大事にするから(幸せな結婚生活を捧げるから)

 ずっとそばにいてね(生涯を共にしよう)


 そして、抱きしめた……


 うぎゃ―――――!!!


「エ、エドー! ベアトリスー! 知ってたんでしょ!? 分かってたんでしょ!? さっきの内緒話はこれだったんでしょ!?」


 俺は恥ずかしさを誤魔化すために、エドとベアトリスに向かって叫んだ。


 すると、二人はわざとらしい驚きの表情を見せて、さも心外であるとばかりに反論してきた。


「旦那、言いがかりです。俺はただベアトリス姐さんに旦那の秘密について聞き忘れがないか、確認しただけです。あ、頑張って下さい」


「そうです、ご主人様。私がすっかり失念していたことをエドアルドに教えただけです。あ、姉を宜しくお願いします」


 ――――すっとぼけやがったー!!


 確かに聞きようによっては、間違っていないし、嘘ではない。

 しかし、この二人のニヤついた顔を見ると素直に納得は出来ない。


 間違いなく結託していると思ったそのとき、誰かが俺の着物の袖を軽く引っ張る。


「ご主人様。アルヴァお姉ちゃんが何か言いたいみたいだから聞いてあげてくれますか?」


 フローラの全く穢れのない澄んだ瞳が何かを期待してキラキラと輝いている。

 エルもアウルもウスターシュもニタつく表情を見せる中でフローラだけが純粋に祝福をしている。


 一人でアルヴァの前に行く勇気のない俺は、フローラを抱き抱えて歩き出した。


 顔を真っ赤に染めたアルヴァの前に立ち、先に言葉を発した。


「今すぐという訳にはいかないけど、将来必ずアルヴァをお嫁さんにするから。もちろん、アルヴァが望めばだけど」


「わ、私は……あの……畏れ多くて……でも、クリス様が良いと仰って下さって……だから、もしよろしければ、私、ずっと待ってますので……宜しくお願いします」


 あまりの可愛さに萌え死にしそうになった。

 顔を赤く染めた美少女がモジモジしながら上目遣いで俺を待っていると言ったのだ!


 俺は今日この日に死んでも悔いはない。


 しかしながら俺の幸せな時間を邪魔するがごとく速攻茶々が入る。


「いやあ、あたしの旦那様はまだ結婚もしてない嫁二人の前でほかの女にプロポーズかあ。これがゴンジュウロウだったら、あたしはこの場で刺し違えていたな」


 下品なニヤついた笑顔を見せながらエルがそんなことを言うと、アウルも同じ笑顔を見せて参加してきた。


「実の妹が良いと言ってはいても、家族として複雑な気分ですね。急に胸が苦しくなってきました」


 楽しそうに俺をからかう二人だが、このあとどうなるか俺には予想がつく。

 もちろん庇ってやる理由はない。


「も、申し訳ありません、エル様、アウル様! 私ごときがクリス様のご許可を頂いたとはいえ、ご主人様の……」


 アルヴァは二人の前に立ち、一転してその顔に涙を浮かべて謝罪を始めた。


 その結果、エルは大慌てになって冗談だからと必死に釈明を始め、アウルはクリスにめちゃめちゃ怒られている。


 まあ、ザマアミロとだけ言っておこう。

 フローラに聞かれないように心の中で。

 

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