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2-5 内緒話はずるいと思う!

 俺とベアトリスがお互い顔を赤くしながら薬草を摘んでいると、しばらくしてアルヴァとエドがこちらへ近づいてきた。


「だ、旦那! いや、お見逸れ致しました。本当に凄いお人だったんですね! 奴隷になったことには全く不満はなかったんですが、奴隷にしないと話せない秘密がここまでとは! 今日のことだけでも充分驚いていたんですが……一緒に連れて行ってもらえたことをマジで感謝致します!」


 ベアトリスが俺の方へ来てからは盗み聞きをしていない。

 それまでの話は聞いていたが、あの時点から更にエドの様子はパワーアップしている。

 

 アルヴァがどんな教育をしたかは聞き逃してしまったが、その内容は凄かったと分かる。

 エドの目には感激のあまりに涙すら浮かんでいる。


 そのアルヴァは誇らしげな様子を見せているが、これは俺のことを誇っているだけで自分自身の功績のことではない。

 男と男の付き合いを希望している俺としては、この状況はやりすぎと思わなくもないが、アルヴァは自分が本当に思っていることを教えたに過ぎないので、エドの方に問題があるという結論になる。

 

 アルヴァに問題などあるはずがないので、当然そうに決まっている。



 ベアトリスから最近のアルヴァの話を聞いてしまったため、ついついエドよりアルヴァの方へ目が向いてしまう。――自分の服装に乱れがないかを気にしているようだ。


 うわぁー……マジで可愛い。


 俺に見られていると気付き、その頬に薄紅色が差す。

 もしかして、これが正統派美少女の真の萌え姿なのか?


 亜流とは言え特殊ギャップ萌えやエロ萌えなどを経験してきた俺だが、この威力には素直に脱帽するしかない。


 いくら進化させようと王道には敵わないということだ。

 すでにエドの感涙にむせている姿など視界にすら入っていない。


「ア、アルヴァ、エドの教育をありがとう。――いつも可愛いね」

 

 ボンッ! という音が聞こえた気がした。


 またもや言う予定のなかった心の声が飛び出してしまったのだが、それを聞いたアルヴァが頭から湯気が出るほど顔を赤く染めた。


 長風呂のあとのように茹だってしまっている。

 もしかすると俺にはモテ要素がある?


 ――ないない、それはない。 

 

 容姿――人並み

 知性――人並み

 理性――猿並み


 こんな俺にそんな要素があるわけがない。

 もしあったら日本でリア充生活を送っていたはずだ。


 アルヴァを含めたウチの女性の好みが特殊なだけというのが正解だろう。


「アルヴァ。ちゃんと責任を取るからいつまでも一緒にいようね」


 俺は増長などせず真摯に自分の気持ちを打ち明けた。


 するとアルヴァは両手を頬に当てて、へなへなと姿勢を崩してペタンとその場に座った。

 慌てて姉を支えたベアトリスは俺を見ながらため息を吐く。


 そこにいるのを忘れそうになっていたエドが、真顔で有り得ないことを言い出した。


「旦那は女性を口説く才能もあるんですな! さすがですね。どうりでおモテになると思いましたよ」


「は? なに言ってんの? ウチの女性は男の好みが他の女性とはタマタマ違うだけで、俺がモテるわけないだろ!」


 からかわれたのかと思って、ちょっとムキになって反論すると、エドは不思議そうな表情を浮かべてベアトリスの方を向いた。

 そのベアトリスは先ほどのため息より大きい息を吐いている。


 エドは何かを察したらしく、ベアトリスの耳に自分の口を近づけると口元を手で隠して俺に聞かれないように何かを囁いた。


「(……?)」


 ベアトリスは大きく目を見開くと一つ頷いて今度は反対にエドに囁いた。


「(…………)」


 そして二人はそのやりとりを続けた。

 何回かそれを続けたあと、エドとベアトリスはお互いの顔を離すと目を合わせ、突然大笑いを始めた。


 朝からみんなの様子を気遣って聞き耳スキルを多用した結果、ロクな目に合っていない。

 だから、さすがに控えようと思ってスキルの使用を我慢したのだが、それがアダとなった。


 二人はこの短い時間で何か通じるモノがあったらしい。

 仲良くなること自体は大歓迎なのだが、やはり何の話をしていたのか気になる。


「エド、何を話していたの? 男と男の付き合いなんだから秘密になんてしないよね?」


「もちろんです、旦那。しかし、今のは男同士の話ではなく、奴隷同士の話ですので旦那にお話しするような事ではありません」


 エドは笑いを堪えながら誤魔化してきた。

 男の友情より仲間の方が大切ということか。


 そっちがその気ならそれでも問題はない。

 ベアトリスなら教えてくれるはずだ。


「ベアトリス……。ベアトリスなら何を話してたか教えてくれるよね?」


「もちろんです、ご主人様。先ほどご主人様に頼まれましたので、ご主人様の秘密をエドアルドに教えていました。ちょっと言い忘れたことがありましたので」


 確かに俺はそう言ったし、ベアトリスの言うことは嘘ではないと思うのだが、聞きたいのはその内容である。


「だから、その内容なんだけど……」


「え? ですからご主人様の秘密ですよ?」


 それだと『ご主人様の秘密』ではなく『ご主人様に秘密』だとしか思えないのは気のせいだろうか。


 この様子ではベアトリスから聞き出すのは無理だろう。どういう聞き方をしても上手くかわされるのがオチだ。かと言ってエドが今更言うとは思えない。


 ――イロイロと今までのことが思い浮かぶ。


 ウスターシュの口の上手さは天下一品で逆立ちしても勝てそうにない。

 クリスには逆らえないし、エルに至っては言うまでもない。

 アウルも商人だから話術は巧みで、フローラは論外。――もし何かをお願いされたら、二つ返事で命を懸けて、そのお願いを叶えようとしてしまうだろう。


 そう考えると俺はこのパーティーでは一番下位の存在……


 ――いや、まだ救いの天使がいる!

 彼女はいつも素直で優しくて絶対に意地悪などしない。


「アルヴァー! アルヴァだけだよ、俺を分かってくれるのは! 絶対大事にするからずっとそばにいてね」


 俺はアルヴァを抱きしめて唯一の味方に泣きついた。

 



 アルヴァは「はぅぅ……」という喘ぎ声とともになぜか動けなくなってしまったので、馬車に連れ帰って荷台に寝かせてあげた。全身が真っ赤になってしまっているので少し涼ませる必要がある。

 

 そろそろお昼の時間だったので、広くて平らな地面を確保できる場所を見つけたら馬車を停めてお昼の準備をしておくように指示をして、ベアトリスたちのところへ戻った。


「ただいまー。じゃあ、お昼の食材を調達して戻ろうか。バーベキューをしたいから」


 それは美味しい魔獣を狩り、食べられる旬の山菜集めをしてから馬車へ戻るということである。

 狩りの際にエドは次々と魔獣を一撃で倒していく俺とベアトリスの実力に驚きを隠せずにいた。


「俺たちがパーティーを組んで倒していた魔獣までこうもあっさり、しかも一人で……俺、よく死ななかったな」


 この場には俺の他にベアトリスしかいないので約束通りエドの口調は戻っている。


「ちゃんとみんな手加減してたよ? エドには悪いけど命を救うためじゃなくて、建物を壊さないようにだけど」


「ははっ、そのおかげで連れて来てもらえたんだから文句なんかないって」


 早くも非常識に慣れ始めているエドは少し羨むような目でベアトリスを見つめた。


「だけど、俺もこんな才能や実力があればいいんだが、これじゃあこのパーティーで俺は足を引っ張る存在でしかないな」


「ん? ベアトリス。あの能力は説明しなかったの?」


「ちゃんとしましたよー。あの能力の説明をしなかったら今後差し支えるじゃないですか。たぶん、エドアルドが編成について勘違いしてるんじゃないですか?」


 本来なら編成を組むのにはお互いの了承が必要である。それに小隊編成だと5人までしか組めない。

 恐らくエドはこの2つを知っているから、自分にはその恩恵はないと思っているのだろう。


 しかし、俺が中隊編成まで出来て、奴隷の場合は本人の承諾を必要としないということまでは知らないようだ。


「ああ、そういうことか。――エドには言ってなかったけど、とっくに俺のパーティーメンバーになってるよ。奴隷だと本人の承諾は必要ないんだ」


「マジで!? じゃあ、今旦那たちが狩っていた魔獣の経験値も10倍になって入ってたのか!?」


 目を回す勢いで驚いているエドをさらに驚かせてやった。


「気づかなかったの? すでにレベルが一つ上がっているのに? 鈍いなあ、エドは」


 エドは、ぐぬぬーと唸りながら苦虫を噛んだ様な顔を見せた。

 どこか俺には言われたくないという表情にも見える。

 

 でも、さっき内緒話を教えてくれなかったのだから、これぐらいの意地悪を言うのは許されると俺は思うよ!


~エドとベアトリスの内緒話~


「(もしかして、あれ素なのか? プロポーズにしか聞こえないぞ?)」

「(ご主人様は多才な方ですけど、その手の才能だけは全く無くて、凄く鈍いんです)」

「(普通は女が複数いればお互い嫉妬したり誰が一番寵愛されているか競うもんだが……)」

「(ええ。ご主人様は本気でみんな一緒と考えていますし、こちらがいくら嫉妬しても全く気づかないので意味がないんですよ)」

「(なるほどなー。あれでモテないなんて言うと普通はイヤミにしか聞こえないんだが、どうりでおかしいと思ったぜ)」

「(奥様たちも私たちもそんなご主人様が大好きなんですけど、なぜか自信がないようで私達に嫌われないようにいつも一生懸命なんです)」

「いやあ、さっきまで旦那を完璧な人間かと思ってたけど、なんか弟みたいで可愛く思えてきたぞ)」

「(姉に聞かれないように気を付けて下さいね。でも、私も同意見で年上だけど可愛いと思ってますよ)」


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