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2-3 驚き過ぎて声も出なかった!

 数ヶ月という短くない準備期間を終えて夢だった冒険の旅に出発した俺たちは、突然の非常事態に見舞われて緊急会議を開くこととなった。


 当然のことながら、俺を含めて誰もが驚きを隠せなかった。


 こんな大事件を誰が予測できたというのであろう。

 行き先をはっきり決めないで出発してしまうなんて!


 責任のありかを言及している場合ではない。

 これはもう連帯責任である。


 ここはリーダーの局長たる俺が、暗雲立ち込めるこの雰囲気をなんとかするしかない。


 まずは出発してから既に10分ほど経過しているので、みんなが馬車に疲れただろうと気遣い、冷たい飲み物を出してあげた。

 受け取った各人はあまり心の籠らないお礼をそれぞれ述べたあと、色が付いていない視線を俺に向けている。


 なぜそんな目で俺を見るのかは不明だが、気にしてはいけない。

 気にしたら恐らく負けというやつである。

 

 全員に飲み物を配り終えた俺は、会議の開始の号令を掛けた。


「さて、この非常事態の解決に向けて、第一回暁の新撰組幹部会議を開きます」


 皆の反応がなぜか薄い。もしかすると幹部としての自覚が足りないせいかも知れない。

 局長が頼れる存在なのは分かるが、もっと真剣に望む必要がある。


「これは重大な問題だから当然俺一人では決められないし、みんな自身のことでもあるので、しっかり意見を出して下さい」


 当然のことなのに誰も気が付いていないので、これはみんなの問題でもあるのだとはっきり告げて、全員を見回し誰かが意見を言うのを待った。


 しばらく誰も口を開こうとはしなかったが、最初に動きを見せたのはアウルだった。

 

 意を決して誇らしげに手を挙げるパートナーの姿を見て、きっと素晴らしい解決策を提示して、このピンチ(オレ)を救ってくれるに違いないと感じていた。


「はい、アウルくん。良い意見をお願いします」

 

 俺は期待に胸を膨らませながらアウルを指して、俺の窮地が救われる瞬間を待った。


「オホン。えー……、私は思うのですが、――このチームのリーダーはヨウスケ局長です。ですから、まず局長が既に(・・)お考えの計画から伺いたいのですが?」


 みんなから「おおー」と感嘆の声が上がり、期待に満ちた視線が俺に集まる。

 見事に他力本願な仲間たちである。少しはしっかり者の俺を見習って欲しい。

 

 しかしこれはマズイ。――非常にマズイ状況に陥ったと言えるだろう。

 まさかの裏切りである。


 いまさら何も考えていなかったなんて言えるはずがない。


 俺は考える時間を稼ぐために、思案を巡らす。

 行き着いた先の答えは、常に頼りになり、色々なことに経験のある嫁の一人に助けを求める事だった。


「そ、そうだけど、俺の立てた計画はあとでにしよう。先にエルの意見を聞きたい。――コルンバまで急いで行って欲しいだろうし、エルなら道中に面白そうな場所があるか知ってそうだからね」


 さりげなく話題を振ると全員の視線がエルに向く。

 エルは慌てる様子もなく俺からの問いに答えを示した。


「別にそこまで急がなくてもいい。元々まだ迎えに行く目処は立っていなかったし、手紙ではしばらく修行に明け暮れるとあったから、まだ時間の余裕はあるだろう。だけど面白そうな場所と言っても、整備された街道が多いから大幅に外れないと宿場街とそれなりの街が幾つかあるだけだぞ?」


 それならそれでも良い。

 これから旅を始めるのだから、先走る必要もないし、それらの街の見学をしながらコルンバへ向かうだけでも充分楽しめるだろう。


 安直にそのままその予定でいこうと思い全員を見回すと、クリスが何か言いたそうにしている。

 クリスの性格なら言いたいことがあれば、遠慮などするはずがないので非常に気になる。


「クリス、どうしたの? もしかして行きたい所があるの?」


 珍しく躊躇する仕草を見せるクリスは、なんと!見たことがないほど控えめに自分の希望を、俺を見つめながら話し始めた。


「いえ、ちょっと、遠回りになってしまうので……。しかし、エル様が良いと言って下さるのでしたら、わたくしは先に王都へ行きたいのですが……」


 王都になら俺もすごく興味がある。

 しかし、普段ならエルには気を遣うはずのクリスが、コルンバより先に王都へ行きたいと言う理由が分からない。


 ただアウルとエルには理解出来たらしく、二人とも微笑ましいという表情をしている。

 なぜかそのあと俺を見てニヤついているが。


「そうかそうか。嬢ちゃんは早く奥様になりたいんだな」


 エルの言葉に他の全員がハッとした表情になり、笑顔をクリスに向けた。

 ウスターシュがまた目の端に光るモノを見せているが、大勢の人が心に秘めていた長年の悩みだったということもあり、喜びも一塩なのだろう。


 王都にはクリスの父親が居を構えている。

 王を補佐する役目を任じられているアームストロング公爵は自分の領地ではなく、基本的には王都に下賜されている屋敷にいるのだ。

 作物の収穫など繁忙期は領地に戻ることもあるが、一年を通すと王都にいる時間が圧倒的に長く、アウルとクリスもこちらの屋敷に住んでいた。


 母親の話が一度も話題に登らないので、何か事情があるか、既に亡くなっているかだと思うので、敢えて触れたことはない。


 さすがに盛大な式を挙げるには時間がないので身内だけの小さいモノしか出来ないだろうが、少なくとも長年に渡って心配をしていた父親に、娘の晴れ着姿を見せることが出来る。


 公爵家の娘としての立場や友人の手前、いずれ公式の場でもう一度やることになるとは思うけど。

 

「王都に行くならあたしも用事があるから都合がいいし。ヨウスケ、あんたはどうだ?」


 もちろん、今の俺には反対する理由はない。

 少し不安の表情を見せるクリスに言ってやりたい。

 実はクリスの方が俺を信じてないんじゃないかと。


 当たり前だが、そんなことは言わない。

 俺は嫁を安心させる為にみんなの前でハッキリと自分自身の気持ちを伝えるだけだ。


「エルがいいなら、俺も先に王都へ行きたい。実は俺が立てていた計画もそれだったんだ。クリスと早く夫婦になりたかったから」


 都合よく便乗した真っ赤な嘘も混じっているが、気持ちとしては嘘ではない。


 いきなりクリスに抱きつかれた。

 その瞳には涙が溢れている。


 こんなダメ夫のどこがそんなに良いのか分からないが、自分の気持ちをちゃんと言葉にして良かったと思った。

 考えてみれば、結婚するとは約束しても具体的なことはあれ以来話をしていなかったのだから、不安な気持ちにもなるだろう。


 ただ、クリスが感激しているのが『早く夫婦になりたい』という言葉に対してなら俺も素直に喜べるのだが、万が一『俺が立てていた計画』発言の方だったら、一生の負い目となることは間違いなさそうだ。


 その様子を見ていたエルが自分の希望を、驚くべきことに同じく控えめに述べた。


 「その……ついでにそのあと、あたしも奥様にしてくれれば嬉しい……んだけど……」


 クリスに気を遣っているのだろうが、それにしてもあのエルが……遠慮がち?

 まあ、今言うことではないと思っていても、逆に今言わないとタイミングを逃すと考えたのだろう。

 

 女性とはこれほど愛しくて可愛い存在なのだと改めて知ることができた。

 そして、一層の努力を積み重ね人間的に成長して、みんなを幸せにしようと心に誓った。

 

 俺とクリスはお互いの顔を見つめ合っていたが、意見は同じようで、エルに承諾の意を示す為に2人揃って笑顔で頷いた。




 今日はイロイロと奇跡が起こる日であった。


「エドアルド。あなたは未開の地に行きたいと言っていましたね? それがどこにあるのか知っているのですか?」


 クリスがエドに話しかけた!? ――しかも目を腫らしながら。

 エドはまさか話しかけられるとは思ってもいなかったらしく、かなり慌てながら何とか答えていたが結果は無残なモノだった。


「女神……いや、クリスティーネ様。俺は…あ、私は、詳しくは知らね…知らないです。申し訳ございません」


 緊張しすぎてギクシャクとしているエドの敬語はこの程度である。

 俺とアウルは笑ってはいけないとは思いつつも、我慢出来ずに吹き出してしまった。


 そして上機嫌のクリスもクスッと笑うと、そのあと寛大なるお言葉が飛び出して一同を仰天させた。


「エドアルド。自分の夢なのですから一ヶ所ぐらいすぐ出てくるようにちゃんと調べておきなさい。王都に行けば調べる機会はありますわ。――それと、貴方がわたくしたちと仲良くしたいという気持ちは分かりました。ですからわたくしたちの為に、どの魔獣が美味しいのかも一緒に調べることができましたら、無礼な真似をしたことを水に流して差し上げましょう」


「「「……ええ!?」」」


 これはアウルとウスターシュと……俺の口から思わず飛び出してしまった声である。

 主にクリス自身のためだろう、などと思う余裕すらないほどに驚いてしまった。


「は……はい、クリスティーネ様! 全力を尽くします!」


 エドは完全にクリスの軍門の下ったようだ。

 目の輝き方がアルヴァにそっくりである。


 あれだけ下げられたあとにこの言葉なのだから、気持ちは分かるが、男と男の付き合いも忘れないで欲しい。


「アルヴァ。エドアルドは冒険者生活が長いので敬語にも慣れていないようです。ですが、夫はエドアルドをアルヴァたちと同様に仲間として受け入れたいと思っています。だから、多少の事は目を瞑ってあげなさい」


 俺たちは驚き過ぎて「マジで!?」という言葉すら出てこない。


「はい。クリス様がそう仰るのでしたら私には何の問題もありません。ですけど、クリス様のお言葉に甘えるようなことがないように、私がしっかり教育いたします」


「任せますわ。もし己の分を超えるような行いをした際は、アルヴァが自由にバツを与えてやりなさい」


 エドもここまでクリスに許されたことに内心は仰天している様子だが、さすがに調子に乗って丸焼きにされるようなヘタは打たないだろう。

 もしかしてこれは、結果オーライというヤツではないだろうか?


 いつもなら『これを予期して』とか『期待はしていた』とか言うところだが、これは読めなかったと正直に言おう。


 

 会議が終わると寝不足の俺たちは荷台で昼寝をすることにして、馭者はエドが受け合った。

 そして隣にはフローラが座る。


 どうやら俺がそこに座っていたのが羨ましかったようで、馬車が走り出すと大はしゃぎで流れる景色を解説しながらエドに話しかけていた。


 エドも嬉しそうに相槌を打っている。


 そんな話し声を聞きながら、約5名ほどの穢れた人物たちは眠りに落ちていった。



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